3.不死と身内
「う、うわぁぁぁ!! 化け物め!!」
「身体半分で銃を撃ってくるお前らに言われたくないわ」
蹴りで敵の身体を両断する。何を言っているのか分からないと思うが、それほど鋭い蹴打であると思ってくれていい。
上半身と下半身を分断したのに普通に生きて撃ってくるこいつらと、背骨を引きずり出して不死者を無力化するオレのどっちがバケモノかなぁ。
「まぁ、人としての生を全うしなさい。長生きすると神様に嫌われちゃうぞ☆」
にしても、不死者ってずりー。今、オレ自身が不死者なので、銃で頭や胸を撃たれても死なない。頭に関しては特殊な素材で作られた『麒麟』の仮面を着けているので、弾丸はキンキン、と弾かれているが。
「お前ら、痛いだけで死なないってチートだろ。そろそろ、戦死で良いと思う」
「くっそ! 死ねぇ!」
ナイフを持って、オレの心臓と首と脇腹を狙って来る三人へ、逆に心臓と、首と、脇腹を、手刀で丁寧に貫く。そして、倒れた所で大根を収穫する様に背骨を引き抜いた。
「やれやれ。疲れる」
収穫しても美味しく食べられるわけでもない。本当に無駄な労働だ。さっさと目的を果たそう。
不死の軍隊。
そう触れ回っていた南の軍は、国外の集落を襲って軍資金を集めていた。
当時は、背骨を引っこ抜くなどといった対応をとる人間は当然おらず、ただ蹂躙され対峙した者達は皆殺しにされるだけだった。
一方的な虐殺は由々しき事態として周辺諸国には認識されたのである。
だが……その中には、一人の“神獣”を“人”に変えた母親と娘が混ざっていた。
その場に居なかった“神獣”が、妻と娘の元に戻った時にはもう二人は息をしておらず、弄ばれた死体との邂逅が家族の再会だった。
悲しみと怒りの混じった叫びを放つ彼は、死んだ妻と娘を抱えながら“不死者”を皆殺しにすると誓い、再び“人”から“神獣”へ戻る。
その後、不死者の居る場所へ神出鬼没に現れ、一人で戦場を荒らしていると同郷の戦友が訪れた。戦友は自国の組織より“不死者”の殲滅という任務を引っさげて彼と合流する。その後たった一年で二人はこう呼ばれるまでに至る。
不死者の処刑人【麒麟】。
不死者の死神【鬼人】。
と――
ユキミは複雑なパネルと大きなモニターを前に首をかしげていた。
「とりあえず、色々といじっておくか」
目につく“不死者”の背骨を全て引っこ抜き終わると、研究所全体のエネルギー制御室の前に辿り着いたのだ。この部屋で、研究所全体へ流しているエネルギーの循環性を操作できると踏んでいる。
研究所を、ちまちま壊すと時間がかかりすぎるので、一気に研究所を花火にしようという環境保護を重視した考えである。
「! おいおい――」
適当に全ての出力をMAXにしていくと、ユキミは背後に鬼の仮面をつけた一人の不死者の気配を感じ取った。
それは、和風の着物に袴と草鞋を履いた小太刀と刀の二本の武器を持つ剣士である。
「ばっちり洗脳されてんな……【鬼人】!」
そんな苦笑いを浮かべた瞬間、眼にも止まらぬ踏込みと同時に麒麟の仮面が刀の突きで貫かれた。
「こらっ! オレのイケメンに穴が開いたらどうする!?」
ユキミ本人は横に躱したが、仮面だけはその場に残り貫かれている。ライフルの弾丸をも通さない合金製なのに……腕上げたな。
「――うひゃあ!?」
次に残った片手の刀で横薙ぎ。屈んで躱すが、僅かに剣線に残った髪の毛が散る。後方へステップし部屋から出る。部屋中を刻まれて、操作できなくなったら本末転倒だ。
「…………」
【鬼人】は更に踏み込んでくる。完全に斬られる間合い。後ろに下がっても刀の範囲から逃げられない。
「なら、前だな」
ユキミは接近してくる【鬼人】に更に距離を詰める。ソレに合わせて刀はクワガタの様に左右から刃を向けて閉じてくる。ユキミはその場を跳び上がって回避。天井に手を着けると、腕の力で身体を押し、【鬼人】に蹴撃を見舞った。
「ふっ、お主……まだまだ修行が足り――」
着地した所で、ガクンッと足を取られた様に態勢を崩す。見ると、左脚のふくらはぎの部分から下を斬り飛ばされている。
「げぇ!?」
【鬼人】が上段に振り上げて、ユキミを縦に割るべく刀を振り下ろす。残った片足に全身の力を入れユキミは跳び離れて直撃を躱す。が、二の太刀で動いた小太刀によって右足も斬り飛ばされた。
「やば――」
後ろに跳び離れたユキミに【鬼人】は追いすがって来る。そして、その胴に強力な蹴打を叩き込むと、ユキミはせんべいでも潰したような音と共に骨が砕け、空箱の様に転がってく。
……やべぇな。【鬼人】は洗脳されている為、気兼ねなく刀を向けて来るが、こちらは味方に本気が出せない。どうやれば洗脳が解ける……?
それに両足を失った。出せる技は極端に限られてしまった。だが、
「心当たりは有るんだけどなぁ。試してみるか!!」
向かって来る【鬼人】。ユキミは腕の力だけで跳び上がる。しかし、矢の様に突き出て来た刀に、心臓を貫かれた。
研究所で眼を覚ます前は、奴らを殺して回っていた。
ソレが依頼だったし、オレ自身も妻と娘の借りがあったから、そこに何のためらいもなかった。
全て殺して終わらせるのだ。そんな中、風の噂である情報を入手した。
“不死薬”生成の媒体となるモノがある。
ソレを破壊すれば簡単に“不死者”を殲滅できる。だから、こうして敵の研究所に居る事は絶好の好機だと思った。
なるべくカメラに映らないように、ダクトの中を通り、一つの真っ白い部屋に降りた。なんとなく、その部屋が重要な場所だと思ったからだ。
“ヒゲ?”
けど、本心は……発育の良い一人のクソガキが落ち込んでいたからだった。
「阿呆。そろそろ夢から覚めとけ」
ユキミは貫かれるほど接近した事で【鬼人】の鬼の面に手が届いていた。心臓を貫かれ、力が入らなくなる前に何とかそれだけは外す事が出来たのである。
「…………なにやってんの? ユキミ」
仮面が外れた。その奥にあったのは端整な女の顔。彼女は怪訝そうにユキミと貫いている刀を見て、
「なにやってんの? ユキミ」
「大事な事なので二度言いましたか? それはこっちの台詞なんですけどね! とりあえず、串刺しから解放してくれませんか? ノハさん」
【鬼人】――ノハと呼ばれた女は刀を引く。支えを失ったユキミは、どさっと地面に落ちた。
「足とって」
再生まで少しかかりそうだったので、少し離れた所に落ちてる両足の回収を頼む。
「色々と説明してほしんだけど、ここはどこよ?」
ノハは刀を鞘に納刀すると、辺りを見回した。
「取りあえず、お前の切り落としたオレの足を拾って来てくれ。くっ付けば元通りに再生するから」
ちらっと足を見ると、ノハはスタスタと歩いて斬り落とした足を拾う。そして、靴でも投げる様にユキミに放った。
「センキュー」
「それで、何で“不死者”になってるのよ?」
「オマエモナー」
「色々あってさ。あの爆発でお前も死んだろ? 奴らは、その仮面を使ってオレらを洗脳しようとしてたんだよ」
ユキミは受け取った足を断面に引っ付けながら説明する。足は数秒と経たずに何事も無かったように元通りになった。
「便利だな」
立ち上がると、斬られたとは思えぬほど違和感なく再生している。神経や血管までつながったと感じ取れ、違和感なく足の指まで動く。恐らく、ノハの斬った断面が凄まじく滑らかだったのが幸いしたのだろう。
「ふーん。なるほど、この仮面からの電気信号で、網膜から脳を流れる不死の血に書き込まれたプログラムを起動させて操る、か。凝ってるな」
壁に背を預けて、仮面の内側を見ていたノハは、そのまま仮面を宙に放ると、刀を振って八等分に両断した。
「でも、それって仮面を取られたら意味なくね?」
「試作なんでしょ。それに、私とお前だけに洗脳実験がされてたって事は、仮面が取られる可能性が皆無だったって事もある」
「光栄だねぇ。まぁ、都合よく洗脳なんて出来るわけない。それに研究結果は出なくても、もう問題ないしな」
「そうね」
二人の処刑人の目的である“不死者”の殲滅。ソレは今現在が一番近い場所に居ると互いに自覚していた。故に、これから“不死”のデータは地上から完全に消え去ることを意味している。
「とりま、別れるか。オレはちょっと野暮用があるんで、そっちは倉庫をよろしく」
立ち上がれるようになったユキミは、微妙に斬れてしまったズボンの下部分を捨てる。
「倉庫?」
「本国から資金援助も無いし、ある程度は稼いどこうぜ。貯蓄してる“不死薬”もあるだろうし、それも潰しときたい。追って連絡するよ」
ニッと笑ってユキミは親指を立てると、この戦いの始まった元凶へ会いに行くことにした。




