2.安い命
とある北国で起こった領土問題。勢力は北と南に分かれ、戦争をおっぱじめた。
毎日、毎日、銃を乱射し、大砲の音が絶えず、ミサイルが飛び交う。そんな中、ある存在が南の軍から現れた。
そいつらは、銃で頭を撃ち抜いても、地雷で吹き飛ばしても、爆撃を行っても死ななかった。
『不死者』
迷信や、二次創作に出て来るような“死なない兵士”によって、戦況は南の軍に傾いて行った。そんな中、北の軍は不死者を《《殺して》》回っている存在と接触し、彼らに協力を依頼する。
「おじさんじゃねぇって、ったく……」
ダクトの中をほふく前進で進むユキミは厨房の上を通り過ぎると、悪態を突きながら出口を目指していた。
少女の部屋で、ちらりとカレンダーを確認して一ヶ月も時間が経っている事を知る。加えて仲間の安否も気になったが、とりあえず脱出して髭を剃った後で他の三人は助ける事にしていた。
「……っと、脱出~」
ユキミは外に面したダクトの通気部分を発見。すぐに飛び出すのではなく、人気が無い事を確認すると、蹴破ってモグラのように顔を出す。ふぃー、と外の空気を吸った。
「ひと月の間で世間はどうなった? とりあえず、オレらは死亡扱いか」
まぁ、“不死者”になってる時点で意識の無い間に、実験された感は否めないが。
「……車が通らない場所かよ……ついてねー」
まるで世紀末の様な荒野に、地平線の先まで伸びる道路は、延々と民家が無い事をハッキリと認識させてくれた。しかも、太陽がオレンジ色に輝いており、陽が昇っている内に文明圏には戻れそうにない。
「お、この場所は――」
いくつかある隠れ家が少し歩けばある場所だ。ラッキー、とユキミは徒歩で隠れ家を目指して歩く。
特効薬『ライフ』。
その薬は治らないと言われていた病の多くを世界から駆逐した。
末期患者でも健康体の様に回復させ、多くの人類がその良薬の出現に感謝する。少女の意志は見事に尊重されて、今では彼女の血液が無くとも各国で『ライフ』の生産体制は出来上がっていた。
しかし、『ライフ』を造っていた大元は、各国が独自に作れるようになったことで、利益が上がらなくなったらしい。
病が『ライフ』によって完全に完治する原理は、人体の持つ免疫力の上昇にある。故に、どんな病に対しても有効に作用したのだ。
世界で『ライフ』による経済競争が続く中、『ライフ』の原薬である、少女の“血”の効果をあの研究所は別方向へ追及していた。
そして、作られたのが“不死薬”と呼ばれる投与薬である。
体内に投与する事で普通の人間を副作用無しに強力な再生能力を与える。今は、試作段階で運用していると見られ、ソレの根絶を目的としてユキミと仲間達は活動していた。
「よしよし、無事だな」
目的としたアジトは屋根さえも吹き飛んだ建物だった。数年前から続く戦争によって踏みつぶされた郊外の民家である。別荘として使われていたのか、破壊された時には住民は居らず、代わりにユキミたちのアジトとして使われている。
「よいしょっと」
ユキミは床を触って分かれ目を確認すると、取っ手を出現させ重々しく持ち上げた。梯子が地下室へ続く闇へと延びていた。
「髭剃はあったな。確か……」
『麒麟』の仮面を腰に引っかけて、梯子を滑り降りる。
弾丸でも、爆弾でも、身体を貫いた傍から即座に再生が始まり、脳でさえ損傷しても記憶を引き継いで立ち上がる。それが“不死者”であり、戦場では恐ろしい存在として畏怖されたのだ。
しかし、その“不死者”を殺す術はハッキリ言って存在する。
不死じゃねーじゃん。そう思うかもしれない。まぁ、正確に言うなら“殺す術”ではなく“行動不能”にする術だ。
一番良いのは手足を切り落とす事だが、正直言って戦いの最中に人体を切り落とすのは相当苦労する。相手も抵抗するし、敵がチームで活動していたら手間がかかる。そこで、オレは一つの結論に至った。
それは、人体を構成する骨組みの中で最も重要な部位――背骨を狙うと言う事だ。
だが、ただ損傷を与えても瞬時に再生する。だから、それを人体から引き放す結論に至った。
豪快かつ、スプラッターな対処法でも“不死者”は生きているが、奴らの弱点は体内に入っている“不死の血”なので、数分と経たずに使い切って息絶える。背骨を抜く事で動けなくなるからね。
不死者は少女の血によって造られた“不死薬”を定期的に投与し続け、その体内に不死の血を維持する事で“不死”として成り立つのだ。
その為、汗を掻いたり、小便をしたり、血を流したり、体液を外に排出する事で少しずつ“不死”が薄れ、一定の投与をやめれば最終的には普通の人間に戻る。
だから、身体の体液を生成する脊髄を引きずり出すことが“不死者”には効果的なのだ。
「…………」
地下アジトで髭を剃り終わったユキミは最優先の目的を終えて次の目的へ向かう事にした。その際に、妻と娘のことを思い出し、左手の薬指についている指輪を見た。
「……やれやれ、最近の子供は――」
研究所、所長室。
「契約したい」
研究所の所長は、高そうな革製のソファーに座って、目の前に座る男と交渉していた。
「……選択肢は無いんだろ?」
「君たちに施したのは、“不死”としての回復力だけではない。その先……手に入れた遺体を蘇生させつつ、更に洗脳する術式だ」
不死者は誰でもなれる。“不死薬”を投与し、約三日間は脳や心臓を撃たれても、瞬時に再生し何事もなく活動できる。だが、
「【麒麟】と【鬼人】は、我々の“不死者”を無力にする術を持っていた」
二人の戦い方を聞いた時は驚いた。
まさか、戦いの中で、背骨を引きずり出される事など誰が想像できようか。不死薬を体液に混ぜて、全身に運ぶ役割を持つ背骨を失っては流石に“不死”は維持できない。
「手に入れたと言うよりは、ただの力技だろう。はっきり言って非効率な戦いだ」
それが普通の人間との戦闘ならオーバーキルも良い所だ。しかし、それほどの戦い方でなければ“不死者”を倒せないと認識している。つまり、
「奴らは油断していない。確実に“不死者”を《《殺す》》為に試行錯誤したに過ぎない」
「そこで、【麒麟】と【鬼人】を我々の側に引き込もうとしたのだが……」
「洗脳は失敗。【麒麟】は逃亡……か?」
眼を覚ますと同時に【麒麟】は逃亡した。緊急事態として出来る限りの戦力で確保しようと動いたが『白の部屋』のダクトから逃げ、その後の消息は不明である。
「だから、君と契約をしたい。【麒麟】と互角の君にだ、フェンチャン君」
フェンチャンと呼ばれた中国系の男は、鋭い目つきで所長を見る。ソレは戦士が敵を見据える目であった。
「ち、ちゃんと報酬は払う! 今まで君が受け取っていた契約金の倍――いや! 五倍は出そう!」
「わかった。そう言う事なら【麒麟】から、そちらに契約を乗り換えよう。“不死”には興味ないが、金を貰えるのなら問題ない」
おお! と所長は頼もしいと言わんばかりに握手を交わした。
「改めて見ると、結構でかいな」
ユキミは研究所に戻っていた。しかし、ダクトから内部に戻るのではなく、林の中にある車両用の道を歩きながら研究所の正門へ向かう。周囲はすっかり日が落ち、空には星が輝いている。
一年の間、戦場を点々として探し続けた、“不死薬”の大元。死にかけただけであっさり見つけたのは、少々不本意だったが、本来の目的を果たすとしよう。
「少しは我儘言っても良いと思うぞ?」
誰に向けてその言葉を呟いたのか。ユキミは、『麒麟の仮面』を着けて殲滅モードに入ると、こんばんわー、と警備している兵士たち(不死者)に話しかけた。




