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ドカベン

デリバリードライバーの利点は自由度の大きさに尽きる。

電動自転車のバッテリーが残っている限りどこにでも足を伸ばせるし、仕事を始めたり打ち切ったりするタイミングを自分で決める事が出来る。

俺はこの特性を大阪市内の名店巡りに活用している。


大阪市の最東は鶴見区・茨田大宮。

最西は此花区・夢洲。

最南は住吉区・杉本町。

最北は東淀川区・井高野。


いずれも1時間圏内なので、俺はその気になれば、大阪市内のどこでも食べに行く事が可能だ。

無論、食事の為だけに向かうのは経済合理性を著しく欠いた行為なので、行きも帰りも配達と風景撮影をしながらの小旅行だ。


ネットでチェックした食べ放題やドカ盛りの店を小銭を稼ぎながら来訪。

それが俺にとっての休暇。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



十三大橋の袂に住んでいる俺だが、普段は淀川を渡らない。

梅田でピックした商品を十三方面に届ける案件も勿論アプリには数多く届くのだが、余程の事がない限り請けない。

どう計算しても割に合わないからだ。


ただ、最近は心境が少し変わった。

東淀川区にお気に入りの店が出来たからだ。



【ドカベン】



そのストレートな店名に惹かれた。

弁当箱のドカベンをオンラインショップで探していた時に検索表示された事で知った。

期待していたドカベン(箱)にせいぜい1合から1合半の容量しかなく大いに失望していた所、ドカベン(店)は2合飯を食わせてくれるとのこと。

迂闊にも知らなかったが、ドカ盛りの聖地として有名ならしい。


俺は知った瞬間に自転車で飛び出した。

配達バッグを背負う事すら忘れていたので、相当心惹かれたのだろう。



結論。

大当たり。

店舗を見つけるのは簡単だった。

行列の巨漢率!

満面の笑みで整列しているラグビー部員や相撲部員達。

作業服のオッサン達、薄汚いスウェットのデブな人。



『すみません、行列の最後ってここですか?』



声を掛けた瞬間、皆が笑顔で一斉に振り向く。

「ようこそ!」とでも言いたげな表情だった。

俺はこの空間が大好きになった。

以降、週に一度は顔を出せるよう時間を工面している。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おーう!

ウーバーの兄ちゃんやないか!

またきてくれたんか?」



『ついつい足が伸びてしまうんですよ。

ドカベン定食お願いします。』



「あいよー!

ドカベン一丁ォ!!」



客に劣らず店主も大柄である。

聞けば若い頃はラグビー選手だったらしい。

俺同様に空腹に苦しみ続け、悩んだ果てにこの道に進んだとのこと。



「食堂開いたらな?

好きなだけ食えると思ったんやw」



『これだけ食材があれば食べ放題でしょう?』



「オマエらが食いまくるから、俺の分が残らへんねんw」



店内が爆笑に包まれる。

この一体感、最高だろ?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ドカベンは大阪屈指の学生街である阪急上新庄駅に位置する。

店舗兼自宅。

周辺の家賃相場を鑑みるに、この間取りなら10万以内で賃貸可能であろう。


食材の原価は当然安い。

安いコメ、ブラジル産であろう冷凍鶏肉。

基本的には唐揚げ定食である。

ストロングポイントは皿に添える野菜。

キャベツ、モヤシ、枝豆、ニンジン、ドバッと味覇。

それらを特濃の味噌ダレに絡めて大火力で炒める。

これを2合の白飯にぶっかけてガツガツかき込むのだ。

無論、自宅でも作れなくはない。

だが、味を再現する事は出来ても、この情熱は唯一無二!

それが、俺達がこのドカベンを愛する理由なのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




①茶屋町 (バーキンWピック)→②豊崎に配達→③本庄西に配達→④天六 (王将Wピック)→【この時点でドカベン行きを決意】→⑤長柄西に配達→⑥柴島に配達→⑦東中島 (ローソンピック)→⑧西中島に配達→⑨西中島 (マクドWピック)→⑩西宮原に配達→⑪宮原 (スタバピック)→⑫西淡路に配達→⑬西淡路に配達→⑭西淡路 (ピザピック)→⑮下新庄に配達→⑯休暇開始・上新庄へ。




真っすぐ来れば良かったのだが、配達を挟み過ぎた。

なので、この日ドカベンに到着したのは昼の部のラストオーダー間際だった。

なので、食い終わった時には既に他の客の姿はなかった。

当然、店主も暖簾をひっくり返している。



『変な時間に申し訳ありません。』



「いやいや、こちらこそ食べてるのに片付けしちゃってゴメンな。」



財布を取り出し代金を払おうとすると、店主がやや考え込むような表情になる。



「なぁ、兄ちゃん。

仕事中、申し訳ないんだけど…

少し時間いいか?」



『あ、はい。

私で良ければ、幾らでもどうぞ。』



《今日は俺にとっての休日であり、配達もこの店に来るついでに過ぎない》



そう伝えたのが逆効果になり、余計に恐縮させてしまう。

そりゃそうか。

普通はデカ盛り定食の為にスケジューリングしないもんな。



「ウチも宅配対応しようか悩んどってな…」



『え?

そうなんですか?』



「Rocketとかの営業も頻繁に来るねん。

どこの宅配業者も加盟店増やす為に必死や。」



だろうな。

Amazonがオンライン物流を制覇する為に本屋を端緒にしたように、各デリバリー業者も糸口としての食事配達の拡大に血眼になっている。

最終的にラストワンマイル事業を独占したいのは明白なのだが…

その為には、全ての食事店が当たり前の様に宅配対応している状態を社会通念化する必要が生じるよな。

うん、俺が資本家サイドでも、こういう市井の名店を敢えて取り込むわ。



『確かにデリバリーを検討されておられる店舗は多いですが、それを何故私に?』



「ん?

俺の知っとる中で1番分かってそうやし。」



『私は単なる配達員ですよ?』



「アホなコンサルを山程見てきて、心底ウンザリしとるんや。

せやから、真逆の人材を探しとってん。」



なるほど、暴論だが理屈にはなっている。

妙に納得してしまったので、この店主の相談に乗ることにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『え?

そんなに御飯が余るんですか?』



「無論、品切れになる日も多いで?

ただ、1人2合出してる関係上、ちょっとした誤差がデカいねん。

5人見込みが外れたら1升やで?

あ、ゴメン。

1升って…」



『10合ですよね?

自宅に2升炊き炊飯器があるので分かります。

話の腰を折ってすみません、続けて下さい。』



「え!?

ちょっと待って!?

キミの実家も飲食なんか!?」



『あ、いえ。

用途は焼き芋とか色々です。

本筋から外れると思うので、まずは御飯の話をしましょう。』



「これやねん!

現場がコンサルティングに求めとるんは、これなんや!

体験に根ざした引き出しの多さやねん!

AIやらGoogleから捏造した空論はいらんねん!

キミに声掛けて正解やったわ!」



『恐縮です。』



脱線しがちな店主の話を整理し、御飯残量の平均値を聞き出す。

要はデリバリーの活用でフードロスを軽減したいという趣旨だな。



「ちょっと待って!

何でキミ、ウチの原価知ってるねん!」



『え?

業務用鶏肉ならケース仕入れになるでしょうし、最低ロットは2キロ×6になりますよね?

ムネ冷凍なら、タイかブラジル…

ああ、今の為替ならブラジル産1択かな。

じゃあ最安でもキロ800をした回る事はない筈です。

コメは外食用業務米を30キロ×2で1俵。

あれ?

この辺はバラでも仕入れてるんですかね?

最低ランクでも30キロ1万円弱くらいじゃないですか?』



「だから!

何でそれが分かるねん?」



『ご存知の通り、私はかなり食べる方なんですよ。

コメと肉の仕入れ先はかなり本気で調べました。』



「お、おう。

まぁ、明らかにキミは胃袋に余力あるよな。

相撲部でも残すアホがおるのに、涼しい顔で2合完食や。」



『毎食2合食べてるんです。』



「マジかー!?

俺と一緒やん!?

めっちゃカネ掛かるやろ?」



『ええ、それで飢えを凌ぐ為に、日々安い食材の供給元を探してるんです。』



「なるほど、それで詳しいねんな。」



『命が懸かってますから。』



冗談のつもりで言った訳ではないのだが、店主は俺の肩を抱き大笑する。

…まあ、別に悪い気はしない。


その後、店主は堰を切った様に手の内を曝け出す。

家賃に始まり、光熱費と原価、娘さんの学費に至るまで、ほぼ全てである。


店主曰く、娘さんを良い大学に行かせてやりたいらしい。

まだ高校生だというのに、いつも店の手伝いをしている孝行な娘さんだ。

確かに、何とかしてやりたいなあ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『結論から申し上げます。』



「え?

もう?」



『御飯が余る時のみデリバリー対応。』



「それやと冗談抜きに日の丸弁当くらいしか出来へんで?

いや、頑張れば唐揚げも作れるけど…」



『いいじゃないですか。

日の丸弁当を売りましょう。』



「え!?

日の丸弁当!?

いやいや、他の店は小洒落たアサイーやらラテやらを売っとるのに、今時日の丸弁当はないで。」



『でも店主はアサイーとか嫌いでしょ?』



「うん、大嫌い(笑)

男であんなん喜んどる奴は心の底から軽蔑しとる。」



『これ、無責任な提案なんですけど。

アルマイトの2合弁当箱で日の丸弁当を売ってみませんか?』



「アルマイト!?

30年ぶりに聞いたわ、その単語。

ちな、俺ですら実物は見たことがない。」



『あれって、通販で買えるんですよ。』



「え!?

そうなの!?

まだ、実在するんや!?

あんなん昭和の遺物や思うとったわ。」



『中国とかインドじゃ現役ですからね。

ちなみにバラ売りなら2500円から3000円が相場です。』



「何でそんなん知っとるねん?

あ、自分用か。」



『ええ、通販で買おうと思ってかなり真剣に探したのですけど、1合しか入らないものが大半だったので断念しました。』



「1合なんて女でも足りんわww」



『今もアリペイで売ってると助かるんですが…

ああ、思い出した、こんな画面だった…

ええ、まだありますね。

バラなら1個900円弱。

箱買いならなら1箱20個入りで8500円ですから単価400円強になります。』



「結構高いやん。

こんなん採算取れへんで。

箱だけで400円とか…」



『勿論、デリバリーサービスへの支払いも計算に入れる必要があります。

配達サービス手数料は売上の3割が相場です。』



「うーん、1500円で売っても赤字やん。

他の店みたいにビニールパックでええんちゃう?

あー、それでもプラスは難しいか。」



『じゃあ、3000円で売りましょう。』



「え!?

さ、さんぜんっ!?

海老フライでも入れるんか!?」



『いえ、日の丸弁当を3000円で売るんです。』



「梅干し乗っけただけで3000円!?

ボッタクリやん!?」



『うーん、そうでしょうか。

でも、アルマイトの弁当箱が付くんですよ?

私なら逆に得した気分になると思います。』



「い、いや、しかしやで?

こんなモン、デカいだけの箱やん?

欲しい奴は買ったらええだけやん?」



『でも現に売ってないでしょ?

必死に探した私でも中国ルートしか見つからなかったんです。

まぁ、おかげで店主と出逢えた訳ですけど。』



「た、確かに。

で、でもな?

弁当箱なんて、一度買ったら半永久的に使える訳やん?

リピーターになってくれへんで。」



『はい、確かにリピートは難しいと思いますが。』



「思いますが?」



『日の丸弁当を3000円で買ってくれるような人は、この店に絶対に興味を持つ筈なんです。』



「…うん。」



『それに、ぶっちゃけ店主はデリバリーサービス嫌いでしょ?』



「うん、外資が大嫌い。

ちな国内資本が好きな訳でもない。」



『あはは、奇遇ですね。

だからいいんですよ。

3000円なら殆ど売れないでしょうから、初期準備に殆どおカネが掛からない。』



「ふむ、売れへんやろうな。

助かるわ。

たまに売れたら得した気になるし。」



『ビニールパックなんて導入して、良心的価格にしちゃったら大変ですよ?

誇張抜きで朝から晩までデリバリー漬けです。』



「わはははww

100万貰ってもお断りやww」



『店名=商品名の1品売り。

これなら手間が増えません。

ドカベン3000円!

このSNS社会で興味を惹かない訳がないです!

それこそ極端な話、1年に1個しか売れなくても構わない。

買った人は絶対に面白半分でSNSに上げるから。

だって今時ドカベンですよ?

他人に言いたくなるに決まってるじゃないですか。』



「おおおおお!」



『コメの余ってる日限定で、店内でドカベン持ち帰りのオプションを付ければ、捌ける確率も上がります。』



「うおおおおお!!」



話は決まった。

俺と店主は連絡先を交換して別れる。

コンサル代のつもりなのか、帰り際に娘さんが握り飯を作ってくれた。




⑰小松 (ローソンピック)→⑱瑞光に配達→⑲大隅 (ビッドンピック)→⑳大隅 (ココイチピック)→㉑南江口に配達→㉒北江口 (ガストピック)→㉓北江口に配達→㉔瑞光に配達→㉕大隅 (ビッドンピック)→㉖上新庄に配達→㉗豊新 (マクドWピック)→㉘豊里に配達→㉙豊里に配達→㉚菅原 (ココスWピック)→㉛菅原に配達→㉜東淡路に配達→㉝淡路 (マクドWピック)→㉞柴島に配達→㉟東中島に配達→㊱西中島 (ラーメンピック)→㊲木川東に配達→㊳木川東 (スシローピック)→㊴木川東 (カレーピック)→㊵十三東に配達→㊶新北野に配達




走り回った所為か、淀川を渡るの手前でバッテリーが尽きてしまう。

こうなれば電動自転車の名機であるJETTERも、重りのついた自転車に成り下がる。


俺は欄干にもたれかかると、梅田の夜景を背に握り飯を広げた。

眼前に煙突のシルエットが薄っすらと広がっていた。

絶景を愛でながら握り飯を食べ終わった俺は、重いペダルを踏み締めて帰路についた。



to be next dish ⇒

【名前】


円蹴圭介



【所持品】


ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)


丸型七輪           (富士見産業)

業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)

業務用寸胴8.3リットル    (赤川器物製作所)

1升炊き炊飯器        (象印マホービン)

ドカベン           (ドカベンより寄贈)

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