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パン

パンの原価は安い。

材料である小麦粉やイースト菌は簡単に手に入るし日持ちもする。

だが、それでも殆どの人が自分で焼かずに店で買う。

何故か?

理由は明白。

焼き上がるのに時間が掛かるからだ。


俺の所持しているホームベーカリー。

自転車同様にパナソニック製。

モノはかなり良いのだが、それでも早焼きモードで、パンを焼くのに2時間掛かる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「圭ちゃん♥

一口あげる♪

はい、あ~ん♥」



『…。』



「圭介さん♥

ワタクシからもどうぞ♪

召し上がれ、あ~ん♥」



『…。』



「自分で言うのもアレやけど、両手に花やな♪」



「ワタクシの心はいつだって満開です♪」



『…。』



「「あっはっはっは♪」」



あまりにも正確に予想が当たったので驚いている。

コイツらの到着に合わせて焼いていた2斤のパン。

(…朝っぱらから来やがった。)

2人は申し訳程度の一口を俺に恩着せがましく食わせると、手元に残った一斤ずつを即座に平らげてしまった。

自分には未来予知能力があるのではないかと錯覚する程にコイツらの行動は何もかもが想定通りだった。

無論、実物のネキは圧巻。

その巨大な口と咀嚼力の前に、一斤はあまりに小さ過ぎた。



「それにしても、パンまで自分で焼くなんて!

ウチ、圭ちゃんには驚かされっ放しや!」



『あ、うん。

俺もネキにはいつも驚かされている。』



「(キュンッ!)

も、もー、圭ちゃんったら〜♥」



ネキは身体をクネクネさせると抱きついてくる。

振り払おうとしたが、1ミリたりとも身を動かす事が出来なかったので断念し、飽きてくれるのを待つ。



「圭ちゃん、いつもありがとうな♥

チュッ♪」



「じゃあワタクシも♪

チュッ♥」



2つの唇が俺の両頬に温かく重なる。

無論、ネキの巨大な掌に鷲掴みにされている俺の頭部は手術台で固定されたかの様に微動だに出来なかった。



「圭ちゃん!

キスシーンやで!

キスシーン!

もうこれラブコメやん!」



うむ、こっちは愛も笑いも感じないがな。



「わ、ワタクシ。

こんなの生まれて初めてです!」



奇遇だな、流石の俺もこんな仕打ちは生まれて初めて受けた。



「え?

ドカちゃん、ファーストキスやったん?」



「はい!

好きな人とキスをするのが夢だったんです!」



「うわー、感動やわー♪

夢が叶って良かったやーん♥」



「ネキお姉様のおかげです!

ワタクシ、圭介さんに初めてを奪われてしまいました!」



あ、うん。

奪われてるのは俺だから。



「「キャー♥ キャー♥」」



2人はしばらくピョンピョン跳ねていたが、数分も経つと飽きて来たのか、とってつけた様に俺のパンを褒め始めた。

まぁ、単に一斤では足りなかっただけだろうな。


さて、本題に移ろうか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



パンは白米に比べて腹持ちが悪い。

しかも白米から炊飯する場合に比較して、小麦粉からパンを焼成するのはあまりに手間。

なので、俺の優先順位は、コメ>(越えられない壁)>パン、である。


なので、「パンを自宅で焼いてやろう。」という気持ちは微塵も無かったし、今でもそこまでパンを好きな訳ではない。


俺がパンを焼こうと決意したのは、ネット上であまりにホームベーカリーに使用に挫折する声が多かったからだ。



「買ったはいいが面倒で1度しか使ってない。」


と言うコメントが散見された。

その時の俺が感じた事はシンプル。

皆が挫折しているのなら、安価に入手出来るのではないか?

本当にただそれだけ。


取得価格は11,000円。

出品者曰く、一度しか使用していないとのことだった。

パンに関心が薄い俺にとって1万円越えはあまりに高額だったが、公式サイトでの価格が46,300円だったので購入に踏み切った。

我ながらチョロイ男である。


一般的にパン1斤を焼くには強力粉250グラムが必要とされる。

俺は2斤ずつ焼くので1回500グラムだ。

キロ200円で仕入れているので、2斤を100円で焼いている計算になる。



「なるほど!

スーパーの片親パンは100円超えるもんなー。

高い奴は200円くらいするやんなー。」



『うん、ネキの言う通りなんだ。

ホームベーカリーを入手してからは、パン売り場に行っても自作が比較対象になった。』



「そらあ、量で考えたら2斤には勝てんで。

しかも圭ちゃんは調味料いっぱい持っとるしな。」



そうなのだ。

我が家には無数の調味料が常備されている。

なので、こまめな味変が可能なので2斤のパンを食べる時も飽きがない。


マヨネーズ、醤油、食べるラー油、ニンニク味噌、燻製塩。


余った調味料を使い切るのに非常に便利なのだ。

配信受けもするしな。

焼成が終わったホームベーカーリーの蓋を開けるだけで反応があり、それをちぎって食べてるだけでも反響が好意的なのだ。


どうやら世の中には他人が白米を食っている動画を楽しいと感じて視聴する人種が居て、それとは別に他人がパンを食っている絵面が好きな人種もいるらしかった。




『2人とも、もう少し食べたい?』



「「食べたーい♥」」



まあ、折角1万1000円で買った機械だしな。

有効活用するべきだろう。

俺は再度、小麦粉、砂糖、塩、バター、水を投入してセット。



「「パン♥ パン♥ パン♥」」



『焼き上がるのは2時間後だぞ?』



「「…。」」



揃って唇を尖らせる様子に思わず吹き出してしまう。

絶対コイツら、俺の居ないところでリアクション練習してるだろW



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【南森町】



『と言うわけで。

趣向を変えて天神橋商店街のお膝元。

南森町にやって来ました。』



「おー、昔この辺で飲み歩いたわ♪」



『ネキはどこでも飲むよなー。

久井さんはこの辺初めて?』



「昔、何かの用事で大阪天満宮にお参りに来たような…」



ふむ、デカい神社だからな。

何らかの上流イベントがあったのだろう。



『ここから5分歩くとさー。』



「「ふむふむ。」」



俺とネキは兎も角、久井も異常に歩速が早かったので2分くらいで到着してしまう。



『パン工場があるんだよ。

エーワンベーカリーさんって言って、大阪駅にも支店出してるから有名。』



阪神高速沿いの目立たない側道。

ここにパン工場がある。



『で、あんまり知られて欲しくないんだけど。

工場の正門前に、ほら。』



「「わー♥」」



そう。

知る人ぞ知るなのだが、エーワンベーカリーの本社工場前には、「訳ありパンセット」の自動販売機が存在する。

コインロッカーのようなガラス棚に焼き立てのパン詰め合わせが200円で売られているのだ。

安さの秘訣は規格外・型崩れ。予約キャンセルなどなど。



『俺は配達で通る時に…』



言い終わる前にネキが購入してしまう。



「ドカちゃん奢ったるわ♪」



「ありがとうございますお姉様♥」



「圭ちゃんにも世話になっとるからな。

一口あ~ん♪」



『ん。』



世話になっておいて一口かよとも思うが悪い気はしない。



「ウチは単価の安いモンには気前ええでー♪」



3人で両手にパン袋を抱えて近くの西天満公園で全て貪った。

公園内に激安自動販売機があり、ネキはそこでもジュースを買ってくれた。

(俺の耳元で「ジョジョエン」と連呼してたのはスルー。)



「ワタクシ、こんな体験は初めてです!!」



だろうな。

久井がここまで喜ぶとは意外だったが…

冷静に考えれば、金持ちが娘にこんな食事をさせる訳も許す訳もないだろうからな。

聞けば自動販売機で飲料を買う事が禁止されている訳ではないのだが、家風的にアウトだと思い見るのも憚っていたとのこと。

…まあ、あの規模の資産家なら。

俺が親でも禁ずるだろうなあ。



『俺が人並みの胃袋だったら、ここのパンと自動販売機で満足出来てたんだがな。』



「うふふ。

やはり圭介さんも足りませんか?」



『こんなモン食ったうちに入らないよw』



3人で笑い合う。



『どうする?

天満宮でお参りしていく?』



「「パーン♪」」



だよな。

俺達は立ち上がるとのんびり中津に戻る。

帰宅して数分するとパンが焼けたので、残り物の岩海苔やナンプラーを付けて食べ切った。



パンなんぞで腹が膨れる訳が無かったので、口直しに3人でカツ丼を食いに行った。

いやあ、やっぱりカツ丼は最高だわ。



to be next dish ⇒

【名前】


円蹴圭介



【所持品】


ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)


丸型七輪           (富士見産業)

業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)

業務用寸胴8.3リットル    (赤川器物製作所)

1升炊き炊飯器        (象印マホービン)

ドカベン           (ドカベンより寄贈)

2斤ホームベーカリーSD-BMT2000(Panasonic)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【あとがき】


本作を見つけて下さり感謝しております。

読了後、空腹を感じられた方はページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。

次のメニューに取り掛かる励みと致します。




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