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19/21

すき焼き

「ワタクシ!

生きていて良かった♥

人生がこんなに歓びに満ちたものになるなんて思ってもおりませんでした♥」



久井は感涙に咽びながら、肉をペタペタと勢い良く鉄板に乗せていく。

涙は大粒だが、箸の動きは精密極まりない。



「圭介さんと出会ってから、毎日が薔薇色です!」



『あ、うん。

俺は兎も角、久井さんはそうだろうね。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【和食さと赤川店】 

※さとしゃぶ牛&豚プレミアムコース3590円×3人



俺達はネキのハイエースで都島区の【さと】に遊びに来ていた。

先日3人で「焼肉としゃぶしゃぶ、どっちが旨い?」という話題で盛り上がっていたのだが、このチェーンでは両方同時に食べれると聞いた久井が異常な関心を示したからである。



このチェーンの売り物は【さと式焼肉】

中央部に鉄板が合体した鍋で焼肉としゃぶしゃぶ(orすき焼き)が楽しめる。

俺達はすき焼きにも少し惹かれたのだが、無難にしゃぶしゃぶを選んだ。



「幸せですぅ♥」



焼肉としゃぶしゃぶを同時に口内に入れる食べ方が余程気に入ったらしい。

久井は器用に鉄板と鍋から1枚ずつ肉を取り出して頬張る。



「圭介さん、どうぞ!

日頃の感謝の気持ち✕2です!」



俺は別々に食べたいのだが、親切心からか煮た肉と焼いた肉を同時に差し出して来る。



『あ、うん。

もぐもぐ。

俺は別々に食べたいかな。』



サイドメニューも充実しており、寿司や揚げ物も頼める。

なので俺達3人は左手で寿司を持ち、右手のみで肉を煮焼きしながら腹を満たし続けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ワタクシ!

画期的な発明をしました!」



突如、久井が可愛いポーズを取る。



「ん?

何や?

ドカちゃんはいつでも画期的やで?」



「じゃーん!

焼き寿司です!」



久井は高速で箸を動かし寿司の六方を鉄板部分で押し焼く。

冷静に考えれば食べ物を玩具にした品性下劣な行為なのだが、あまりに久井が器用なので、そういう類いの創作料理に見えてしまう不思議。



「さあ!

お姉様どうぞ!」



「モグっ。

ゴクン。

ありがとう、ドカちゃん。

やっぱり寿司は生が1番やな。」



「圭介さん!

ワタクシの新発明です!」



多分、中学生団体が100億回以上通った道だよなぁ。



『もぐもぐ。

うん、ちゃんと火が通ってる。

胃腸が弱い人には良いかも。』



「きゃは♥

褒められちゃいました♪

人生初の快挙です♥」



『…これからも、色々快挙していこうな。』



「…はい!!」



ざっとWikipediaを確認しただけでも、久井家が全てを持っている家系であることは明白である。

位階も勲章も議席も財産も名声も、本当に全てなのだ。

だが、久井長閑個人にはそれらにアクセス権限は微塵も無い。

それどころか、保護という名目で特殊なエスカレーター式女子学園に入れられ、あらゆる情報から遮断されて生きてきた。

身に着けさせられた優美なヴァイオリンや繊細な和歌は見事なまでに障壁として機能した。

侵入を許さない代わりに、離脱も許されなかった。


1人で生きる為の全ての術を奪われて久井長閑は適齢期を迎えた。

暗黙の了解として同階級同士での見合いが始まった。

相手の貴公子達は全てを兼ね備えていたが、もっと巨大なそれらを父・公正と兄・孝行は保有していた。


きっと久井は自らの血にまだ流れていない何かを密かに渇望し続けていたのだろう。

あの異常な食欲こそが、そのシグナルなのだ。



『俺もさあ。』



「はい?」



『色々な食べ方を考えるのが好きなんだ。』



「うふふ。

圭介さんは食いしん坊ですものね♪」



『うん。

いつか、満足できる日がくればいいよな。』



真逆のベクトルながら、俺も飢え続けているのでよく分かる。

もしも心が満たされる日が来れば、この強烈な飢餓は失せてくれるのだろうか?

満たされてしまった俺は、その先も円蹴圭介であり続ける事が出来るのだろうか?



『久井さんは満足した?』



「うふふ、もう一声♪」



『そっか。

じゃあ、〆のすき焼きを食べようか?』



「?

鍋を交換するのですか?」



『じゃーん。

これを入れるのさ。』



俺はドリンクバーから持って来たコーラとシュガースティックを軽く掲げる。

そして煮だって湯が減っていた鍋部分にドバー。

趣旨を悟ったネキもニッコリ笑ってコーラをドバー。



「???」



そしてスティックの砂糖もズサー。



「あ!」



牛肉をコーラ砂糖の中でグツグツ。

久井の皿に移す前に、空中でひらひら肉を振って火傷しないようにする。



「…最初逢った時も、圭介さんはこうやって冷ましてくれましたね。」



『折角なら、安全に食べて欲しいじゃない。』



「あの時からずっと子供扱いされてます。」



『…いや、子供っていうか、女の子だしさ。』



「…。」



『…。』



「それなら許してあげます♪」



『そっか。』



俺達3人は〆のすき焼きを存分に楽しむと、近くのローソンでオニギリとヤンマガを買って家路に着いた。



to be next dish ⇒

【名前】


円蹴圭介



【所持品】


ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)


丸型七輪           (富士見産業)

業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)

業務用寸胴8.3リットル    (赤川器物製作所)

1升炊き炊飯器        (象印マホービン)

ドカベン           (ドカベンより寄贈)

2斤ホームベーカリーSD-BMT2000 (Panasonic)

足付きスモーカーグリル     (SUNLIFER)

5段型プランターセット×2    (GARDENA)

ノンフライオーブン14リットル  (EPEIOS)



【贔屓力士】


阿倍野嵐 笑太郎

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