ドカタ飯
ネキはマンションと呼んでいたが、その実態は商店街にあるテナント兼住居だった。
一階はシャッター。
一族で大工仕事をやっていた名残とのこと。
2階と3階が住居になっており、昔は従業員寮として用いられていたそうだ。
ここがネキの住処。
「うっうー。
ネキお姉様。
何から何まで申し訳御座いません(泣)」
泣き真似に本腰を入れるつもりがないのか、久井の口元はずっとヘラヘラ笑っている。
相当楽しいのだろうなぁ。
いや、この女の心境などは関係ない。
問題はこの建物の裏側が飛田新地であることなのだ。
一応、商店街と新地は区切られてはいるが、Googleマップ上では区別されない。
実態はどうあれ、久井長閑は飛田新地に宿泊した事となる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝。
自分が高温に包まれている違和感に驚き跳ね起きる。
脳のチャンネルを必死に切り替えながら、ネキの部屋に泊まった事を思い出し、そして川の字の体勢にあると理解した。
勿論真ん中はしゃぶネキ。
その巨体で遮られているものの、反対側には久井が居るのだろう。
やるべき事柄は無限にあったが、心身が疲れ切っていたのでネキの腕枕に自らを委ね続けた。
途中笑い声が聞こえ、多分2人が俺を笑っているんだろうな、と見当を付けた所で再び記憶が飛ぶ。
二度寝など怠け者の所業であると軽蔑していたのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようさん♪」
俺が目を覚ました気配に気付いたのか、ネキが声を掛けて来た。
『あ、ネキ?
え? 朝?』
「もう昼やけどな(笑)」
『あ、ゴメン。』
「ふふふ、謝ることあらへん。
それだけ普段頑張っとる証拠や。」
『えっと、今の状況を教えて欲しい。』
「んー?
圭ちゃんがウチに甘えん坊さんしとるから、起き上がれずに困っとったトコや(笑)」
指摘されて、自分がネキの太い腕に縋り付いている事に気付く。
『あ! ゴメン!』
「ははは、かまへんかまへん。
圭ちゃんやったらナンボでも抱いたるわ(笑)」
急いで身を起こして左右を振り返る。
DQNっぽさと女の子っぽさが半々の部屋。
妙な生々しさがある。
「コラコラ、乙女の部屋をジロジロ見たらアカンぞ♪」
『あ、ゴメン。』
謝りながら、再度布団に倒れ込む。
あー、駄目だ。
身体が悲鳴を上げている。
「朝メシなんにするー?」
『え?』
「ああ、ゴメンw
もうランチタイムが始まる頃や。」
『えっと…
うーん、頭が回らない。』
「まぁ、ええ。
ドカちゃんが買い出しに行ったから。
それ食べながら考えよ。」
『あ、うん。』
回らない頭で、1人で外に行かせて良かったのかを考える。
多分良くないのだか、ネキが行かせたと言う事は、それはきっと久井の為になるのだろう。
「さっきドカちゃんのお父さんと通話しててんけどな?」
『え!?
あ、うん。』
久井公正とネキが話す光景は想像が付かなかったが、冷静に考えれば不自然ではない。
俺以上に最近の久井と一緒に居るのがネキなのだから。
「圭ちゃんに謝っとったで?」
『謝る?
公正さんが俺に?
どうして?』
「ははは、あの苦しそうな寝顔画像見たら、誰でも申し訳なくなるやろ(笑)
余っ程怖い夢でも見とったんやろな♪」
プライバシーぇ…
昭和のTVでもあるまいし、勝手に人の寝顔撮るなよ。
『…苦しいなら久井さんの夢。
幸せそうな顔ならネキの夢だよ、きっと。』
「ウチのターン殆ど無いやんけ(笑)
ほな、9割方ドカちゃんやな。」
マジかー?
あの女、俺を苦しめ過ぎだろ。
「お、脱水詰まったかな?
ちょっと見てくるわ。」
ネキが洗濯機を回す音を聞いて、自分が完全な全裸であるとようやく気付く。
「新しい肌着はドカちゃんが買ってくるから。」
『マジかー。』
「男用のエロ下着はあんまり売ってないって教えたら残念がっとったわ。」
『あ、うん。
お手柔らかに…』
なーんで、コイツらの会話って容易に想像出来ちゃうのかね?
全ての気力を削がれた俺だったが、枕元の充電器に繋がれている自分のスマホを見つけると残りのエネルギーを振り絞って久井公正にメールを送る。
【力及ばず申し訳ありませんでした。】
俺はあの人の部下でも家族でも何でもないのだが、自然にこういう文章になった。
あーあ、何やってんだろうな俺。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ただいま帰りました♥」
「おーう、おかえりー♥
圭ちゃん、今起きたとこや。
勿論、全裸(笑)」
「キャー♥」
アホらしいので布団を被って壁を向く。
そんな俺を見ながら2人はケタケタ笑う。
歪ではあるが、これも団欒の1つの形なのかもな。
「圭介さんが、お疲れのようですので。
大きなお弁当を買って来ました♪
ヤングマガジンで勉強したドカタ飯です!」
ツッコミどころが多過ぎて言葉を失う。
後で文科省の有害図書連絡フォームに通報しておかなきゃ。
『あまりスラングは使わないようにね。』
「でも、女性も【膣ドカタ】とか普通に使ってますよ?」
『!?』
驚く俺を見て心底嬉しそうな久井。
あー、俺コイツの邪悪さは結構好きだわ。
『頼むから、お父さんの前でそう言う言葉遣いは止めてくれ。』
「!?
…うふふ♪」
『何?』
「お父さん♪」
『?』
「あはは♪
はい、分かりました。
お父さんの前では気を付けます♥」
言いながら久井は俺の肌着をビニールから出す。
パンツは星条旗っぽい配色にデカいハート柄。
絶対コイツ、俺の嫌がるデザインをワザと選んでるよな…
「布団畳むでー。
ドカちゃん、そっちのコタツ持って来て。」
「はい、お姉様♥」
俺がボーッとしている間にネキ家の食卓が完成。
数個のドカ盛り弁当とハイボール缶が並ぶ。
「圭介さん、きっとお腹が空いておられると思うです。
昨夜は走り回っておられましたから。」
『あ、うん。
仕事以外で走らないようにはしているんだけどな。』
眼前の弁当はどれも肉体労働者仕様。
ギチギチに盛られたコメ、トンカツ、白身フライ、ハンバーグ、シャケ、海苔、カツオ、梅干し、底敷きナポリタン。
取り敢えず1人3つずつ食べる事になった。
昼間っから飲酒は不健全と抗議したので、ハイボールはチェリオで薄められる事となった。
『モグモグ、ムシャムシャ!』
「しゃぶしゃぶ♥ネキネキ♥」
「ぐちゃぐちゃ♥がつがつ♥」
久井の奴が故意に下品な食べ方をしている。
楽しそうにチラチラと俺の様子を窺っているが、そのツッコミ待ちはスルー。
腹が減ってるんだ。
補給に専念させてくれ。
『ふー、ご馳走様。』
「圭ちゃん、そんなんで足りるか?
うどん茹でたるで?」
『いや、不思議と満腹だ。』
「おやおや、珍しいこともあるモンや(笑)
明日は槍でも降るんちゃうか(笑)」
思ったより食べれないのは、最近仕事量を減らした所為だろうな。
加えて、この弁当の油が安っぽい。
「でも、圭介さんの食べっぷりは相変わらず豪快で素敵でした♥
男の人の食事だなーっと、見惚れちゃいましたもの♥」
『あ、うん。
いや、昨日散々振り回された俺が豪快に食べるのは不可抗力なんだけどさ。
久井さんも、同じ量を同じペースで食べれて凄いね。』
案の定、精一杯の皮肉は通じない。
それどころかネキと顔を合わせてニヤニヤ笑っている。
「だって圭介さんに相応しい女になる為に花嫁修業中ですもの♥」
『え!?』
「圭ちゃん、褒めたってや。
最近のドカちゃん、毎日ヤンマガ読んで勉強してんねんで。
食事も圭ちゃん好みを追求してるしな。」
「圭介さんには、炭水化物ドカーン!
塩分ドバー!
ソースべちょー♪
油ギトギトー♥」
『あ、うん。
働いてると嫌でも身体が求めるよね。』
「そうなんですよ!
ワタクシやお姉様と味覚が合います!」
『あ、うん。
俺やネキは仕事で身体動かすけど、君は…』
言いかけて黙る。
これ以上コイツに動かれたら俺の心身が保たない。
「如何ですか、お姉様!
ワタクシかなり圭介さんに近づけたと思うんです!」
「うむ、ドカちゃんは頑張っとる。
肉体労働者の妻となるには、まずはその生態を理解し共有する必要があるからな。
ドカちゃんは大きく一歩進んだ!」
「やったー♥
お姉様のお陰ですぅ♥」
「「あっはっは♥」」
俺は溜息を吐き終わってから、久井公正に報告メール。
特に娘の言動は詳細に記述し警戒と対策を促す。
「ドカちゃん!
これで恋愛フラグ完璧やで!」
「ありがとうございます!
これからも精進します!」
「「キャー♥」」
久井長閑。
親を欺き悪所で夜遊び、言語道断。
減点100ポイントっと。
to be next dish ⇒
【名前】
円蹴圭介
【所持品】
ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)
丸型七輪 (富士見産業)
業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)
業務用寸胴8.3リットル (赤川器物製作所)
1升炊き炊飯器 (象印マホービン)
ドカベン (ドカベンより寄贈)
2斤ホームベーカリーSD-BMT2000 (Panasonic)
足付きスモーカーグリル (SUNLIFER)
5段型プランターセット×2 (GARDENA)
ノンフライオーブン14リットル (EPEIOS)
【贔屓力士】
阿倍野嵐 笑太郎




