スイパラ
【食べ放題】
この文字列に抗うのは極めて困難である。
視界に飛び込んで来ただけで、俺達の肉体は硬直し、足が勝手に誘い出されてしまう。
例えそれが、甘ったるい甘味店だったとしても。
「「『…。』」」
ここは【スイーツパラダイス梅田店】の前。
繁華街だけあって人通りは途切れない。
『「「(チラッチラッ)」」』
半笑いで互いの顔色を確認し合う。
いや、分かっているのだ。
ケーキなんぞを腹に入れる暇があれば、1ミリでも肉を放り込みたい。
幸い駅も近いので、このまま京橋か心斎橋の【しゃぶ葉】に直行すべきなのである。
いや、そもそもさっきまで焼肉力丸の話題で盛り上がっていたではないか。
幾ら無限とは言え、俺達の貴重な胃袋を砂糖なんぞで浪費するべきではなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃませー。
スイーツパラダイスにようこそ♪
何名様でご来店ですか?」
『あ、3人です。』
仕方ないじゃないか。
【食べ放題】の4文字が視界に入っちゃったんだから。
「コースはお決まりですか♪」
『え?
コース?』
参ったな、しゃぶ葉ならコース内容と料金含めて全て暗記しているのだが。
店員曰く、オプション料金を足せばメロンやらモンブランも食べれるようになるそうだ。
振り返っても、2人は生温かい笑顔のままだったので、通常コースを選択。
4人席に案内される。
「「…キャー。」」
『2人共、なんかゴメンな。
本当は肉が食いたかっただろ?
シュラスコの話とかしてたし。』
「い、いやいや!
かまへんかまへん、今日は結構歩いたし。」
「そ、そうですよ!
明るい雰囲気で素敵なお店じゃないですか!」
「「『…。』」」
奇妙な間が空く。
そりゃあそうだろう。
外で食べること自体は昨日から決めていたのだ。
暗黙の了解として、しゃぶ葉か焼肉の食べ放題。
この2択のどちらにするかを駅前を散歩しながら決める流れだったのだ。
それが… ケーキかぁ…
うーん、落とし穴にでも落っこちた気分だなぁ。
『…じゃあ、適当に取って行こうか。』
「…せやな。」
「…はい。」
テンション低いなぁ。
周りが盛り上がってるだけに、余計に困る。
女向けの漫画かアニメとのコラボ期間(?)中らしく、店中にペタペタとキャラクターのイラストが貼られていた。
中学生くらいの女子軍団がキャーキャー言ってるので、愛好者にとっては楽しい空間なのだろう。
何気なく振り返るが、久井もネキもそういう文化に疎いようだった。
①明太風クリームパスタ&ペペロンチーノ
『どう?
2人共、食べられそうなものはあった?』
「ははは、気ィ遣わんでええで。
ウチらも結構楽しんでるし。」
「そうですよ。
女子でも入れそうな雰囲気じゃないですか。」
で、でたー。
女から見て褒める点が見つからない時に、無理やりねじ込む褒め言葉。
②塩むすび×3
「お?
おにぎりやん。
どこにあった?」
『え? カレーの横のトコ。』
「へー、見逃しとったわ。」
「じゃあワタクシ取って来ますね。
お姉様何個食べます?」
「うーん。
取り過ぎたら周りの迷惑やしな。
10個でええわ。」
「流石お姉様です!」
「えへへ♪
照れるやーんw」
③ナポリタン→④ポップコーン
「お!
圭ちゃんポップコーンやん!」
『食べ物少なかったから。
ネキも食べる?』
「あーーん♥」
『あ、どぞ。』
「もぐもぐ♪」
「圭介さん、ワタクシもあーん♥」
『あ、どぞ。』
「かむかむ♪」
きっと親鳥って大変なんだろうなぁ。
⑤ペペロンチーノ→⑥サラダ(枝豆&コーン&トマト)→⑦カレーライス
「カレーは嫌いやないねんけどなあ。」
『うん、わかる。』
甘味屋ということもあり、カレーにはサツマイモが豚汁にはカボチャが入っている。
うーーーん。
いや、出されれば食べるんだけどね。
カレーも豚汁も好物ではあるんだけどね。
そっかぁ、豚汁にカボチャを入れるかぁ…
そうですかぁ…
そうきましたかぁ…
⑧塩むすび×3→⑨カレーライス→⑩サラダ(枝豆×オニオン)→⑪冷やしうどん→⑫塩むすび×4→⑬小松菜と塩豚の混ぜご飯→⑭しめじと大根のコンソメスープ→
『どう?
久井さんは足りそう?』
「え?
大丈夫ですよ、とても楽しんでます。」
頑張って笑顔を作っているが、どこか弱弱しい。
あの表情は【思ってたんと違う】の表情である。
とは言え、執拗に塩むすびを食べているので今晩までは持ちそうである。
⑮ペペロンチーノ→⑯豚汁→⑰ペペロンチーノ→⑱塩むすび×5
米が胃に届く快感に酔いしれながら、塩むすびのお代わりに向かった時である。
店長らしき人物が申し訳なさそうに、塩むすびの前に立っていた。
『えっと。』
「お客様…」
店長(?)は何かを言い掛けて、迷ったような表情になる。
「大変申し上げにくいのですが…」
そこまで言ってからチラチラと俺の目を覗き込んで来る。
えっと、何だろう?
真意を測ろうとして何気なく辺りを見渡すと、さっきの女子中学生軍団が遠くからこちらの様子を窺っている
『…えっと?』
「…いえ、お客様。」
『あ。
ひょっとしておむすびの個数制限的な?』
「いえ!
決して上限がある訳では御座いません。」
鈍感な俺はそこまで話が進んでようやく理解出来た。
要するに俺達がおむすびを食べ過ぎたのだ。
数えた訳ではないが、ネキだけで30個は食べていると思う。
久井も似たようなペースだ。
それで、女子中学生軍団の食べる分が無くなって店長にクレームが入ったのだろう。
なんかそんな感じ。
『えっと、もう退店した方がいいですか?』
「ああ、いえいえ!
そういう訳では!」
『あ、じゃあ。
おむすびはストップと連れに伝えておきますので。』
「ご迷惑をお掛け致します。」
『いえいえ!』
接客業って糞だよな。
求人に苦しむ理由がよく分かったわ。
だって俺達みたいな客が来るんだぜ?
⑲ペペロンチーノ→⑳サラダ(枝豆&トマト)→㉑ペペロンチーノ
塩むすびの終了を伝えると久井はいつもの笑顔を崩さずに5秒程落ち込んでいたが、何事もなかったようにポップコーンにカレーを掛けて食べ始めた。
「世紀の大発明や♪」
ネキは絶賛しながら真似をして、味も気に入ったのか久井の頭を撫でる。
「流石はドカちゃんやでぇ♪」
「えへへ、お姉様に褒められちゃいました♪」
「「キャー♥」」
まあ、楽しそうで何よりだ。
俺はそんな気持ちの悪い食べ方は出来ないけどな。
㉒ペペロンチーノ→㉓サラダ(トマト&オニオン)→㉔豚汁→㉕カレー掛け枝豆
「「『御馳走様でしたー♪』」」
どうやら片付けもセルフサービスだったらしく、テーブルに皿を積み上げていた俺達は帰る時に手間取った。
俺達が出口に向かうのを見た女子中学生軍団が心底嬉しそうな表情をしていたので、やはりこっちが邪魔者だったのかも知れないな。
自宅に帰った俺達は冷凍シシャモとスイーツ店への悪口を肴にハイボールを啜った。
to be next dish ⇒
【名前】
円蹴圭介
【所持品】
ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)
丸型七輪 (富士見産業)
業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)
業務用寸胴8.3リットル (赤川器物製作所)
1升炊き炊飯器 (象印マホービン)
ドカベン (ドカベンより寄贈)
2斤ホームベーカリーSD-BMT2000 (Panasonic)
足付きスモーカーグリル (SUNLIFER)
5段型プランターセット×2 (GARDENA)
ノンフライオーブン14リットル (EPEIOS)




