第三十三話:降り注ぐ恵みの雨と、救われた尊厳
猫語で壁を登る生徒たち vs 生徒会執行部!
「ゲリラアトラクション」の偽装を貫き通すため、アイラたちは学園の平和と先輩の尊厳を懸けて中庭を駆け抜けます。
そして舞台は本校舎の屋上へ――。
過去の黒歴史を浄化するため、セリア先輩が開け放つ「奇跡のバルブ」の行方は!?
学園祭編・解決の第33話、開幕です!
本校舎前の中庭。壁を素手でスイスイ登る陸上部員や、「愛してるニャー!」と叫びながら看板を振り回す男子生徒が入り乱れる地獄絵図だ。
しかし、ノアの偽装アナウンスのおかげで、一般来場者や保護者たちは「うわっ、すごい演出!」「本格的なアクション劇じゃないか!」と大盛り上がりで手拍子を送っている。
迫り来る暴走生徒たちに対し、アイラが身体強化の魔力を脚部に集中させて跳躍。
「怪我させないように、急所を一撃で眠らせるわよ!」
私は突進してくる怪力生徒の懐へ滑り込み、寸止めの当身で意識を刈り取る。
セナも身軽な体術で背後へ回り込み、流れるような関節技と首筋へのチョップで次々と生徒を無力化していく。
気絶して倒れかける生徒たちを、タクトが背後から目にも留まらぬ速さでキャッチする。
手際よく魔導ロープで手足を軽く拘束し、旧校舎の武道場……リサの隔離結界エリアへ向かって放物線を描くようにポンポンと正確に放り投げる。
「リサ先輩、3名送ります。受け取りを」
武道場の窓からリサが風の魔術クッションを展開し、投げ込まれた生徒たちをフワリと着地させて回収・収容していく。
完璧な連携で十数名を瞬く間に無力化したものの、校舎の窓や通路からはまだ何十人もの猫語生徒が飛び出してくる。
私は額の汗を拭いながら言う。
「くっ、数が多すぎるわ……! セリア先輩、解毒薬はまだなの!?」
中庭の混戦の隙を突き、怪力と跳躍力が増大した男子生徒が「愛の逃避行ニャーーッ!」と叫びながら学園の外壁へ向かって猛ダッシュしていく。
外壁のフェンスを蹴り、校外の一般道へ飛び出そうと宙へ跳び上がる。
「まずい、外に出られたらアトラクションの言い訳が通じない――!」
私やセナの位置からは距離があり、追いつけない。
外壁のすぐ下、日陰のベンチでパック入りの学園祭焼きそばをモグモグと食べていたギルバート。
頭上を飛び越えようとした生徒の影を一瞥もせず、空いている左手を無造作にスッと真上へ伸ばす。
バシィッ! と鈍い音が響き、生徒の首根っこを片手だけで完全に掴み取って空中で急停止させる。
跳躍の運動エネルギーを一切感じさせない、圧倒的な体幹と握力だ。
ギルバートは口をもぐもぐ動かしたまま、捕まえた生徒を真顔で見上げる。
「……? 貴殿、どこへ行く気だ。アイラたちが主催する催しはあちらだぞ」
「ニャッ……!? 離すニャ――ッ!」
ギルバートが「うむ、元の位置へ戻しておこう」と呟き、腕のスナップだけで生徒を中庭のタクトめがけてポイと放り投げる。
飛んできた生徒を、タクトが冷静に空中でキャッチ&即座にロープで拘束する。
「……ナイスパスです、ギルバート様」
「気にするな。ここの焼きそばはキャベツの火の通りが良いな」
私は遠くから(お兄様グッジョブだけどマイペースすぎるわよ!)と心の中でツッコミを入れつつ、ギルバートは再び平然と紅生姜をつつき始める。
本校舎の屋上。秋晴れの風が吹き抜ける中、巨大な屋外実験用調合鍋の前に立つセリア。
腕まくりをし、普段の優雅さを完全にかなぐり捨てた鬼気迫るスピードで薬草を刻み、魔導触媒を鍋へ次々と投入していく。
「銀月草を三束、乾燥マンドラゴラの粉末を二匙……わたくしの黒歴史を完全に浄化する中和ポーションよ、早く煮立ちなさいまし……!」
鍋から立ち上る淡い銀色の蒸気と、セリアの手元から注がれる高密度の魔力光。
ついに大鍋の中の液体が澄んだ虹色へと変わり、完璧な『広域中和ポーション』が完成した。
セリアは額の汗を拭う。
「完成しましたわ! これを飲ませれば、中枢神経の暴走も猫語化も一瞬で沈静化します!」
しかし、手元にあるのは大鍋いっぱいの液体。
ノアは端末で中庭の戦況カメラを見ながら言う。
「中庭と校舎内で暴走してる生徒は残り80名以上……! これを小瓶に小分けして一人ずつ口に流し込んで回る時間は残されていません。あと数分でアイラ先輩たちのスタミナも限界です」
屋上を見渡したノアが、給水塔の横に設置された「学園全域・非常時消火用スプリンクラー」の主管パイプに目を留める。
「先輩、飲ませる必要はありません。この中和剤、気化吸入や皮膚接触でも効果は発揮しますよね?」
「ええ、魔導浸透性を極限まで高めてありますから、霧状にして浴びせるだけでも十分効きますわ!」
「なら話は早いです。この大鍋の排出口を、学園のスプリンクラー主給水管にバイパス接続します!」
ノアが魔導レンチを取り出し、屋上の配管バルブを高速で組み替えていく。
巨大鍋の底と給水メインパイプが耐圧ホースで直結され、学園全域へ一斉噴射する準備が整う。
「接続完了! あとは中央バルブを開くだけです、セリア先輩!」
セリアはバルブのハンドルに両手をかける。
「よくやりましたわ、ノア! わたくしの過去よ、綺麗な思い出として降り注ぎなさい――!」
屋上のフェンス際、セリアが「解き放たれよ、我が青春の浄化の雫――ッ!」と魂を込めて中央バルブを一気に全開まで回し切る。
ゴゴゴと配管が激しく鳴動し、大鍋の虹色の液体が高圧ポンプで学園中の配管へ吸い上げられていく。
プシューーーッ!!
校舎の軒先、中庭の外灯、スプリンクラーのノズルというノズルから、淡い虹色に輝くミストが一斉に大空へ噴射される。
晴天の秋空に降り注ぐ、きらきらと光る霧の雨。
中庭の観客たちから「うわあ……!」「綺麗!」「これがクライマックスの演出か!」と割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。
暴れ回っていた生徒たちがミストを浴びた瞬間、ビクンと体を震わせてその場にへたり込む。
「……あれ? 俺、なんで中庭の木の枝にぶら下がって愛を叫んでるんだ……?」
「……ニャ? ……じゃなくて、えっ!? なんで私、看板抱きしめて泣いてるの!?」
びしょ濡れになりながらも生徒たちを無力化し終えた私とセナ、タクトが、肩で息をしながら顔を見合わせてフッと笑い合う。
「……ふう。なんとか、学園祭も先輩の尊厳も守り切れたみたいね」
屋上から下を見下ろすセリア。風に髪をなびかせ、やりきったような清々しい笑顔を浮かべるが、足元にはまだ「黒歴史ノート」が転がっている――。
これ後片付け大変じゃない?(素直な感想)
まぁセリアお姉様の尊厳のが大事か(開き直る)
ノアって本当に優秀でえ……結構私の中ではイチオシです。




