第三十四話:灰燼に帰す黒歴史と、深まる絆
学園の平和と生徒たちの尊厳は守られた。
しかし、セリア先輩の本当の戦いはここからだった――!?
容赦のないポエム公開処刑、兄様のシュールな乱入、そして分子レベルでの完全焼却の儀。
騒がしくも温かい夕暮れの帰り道と、アイラの手元に届く新たな予兆とは?
ドタバタと絆が詰まったエピローグをお楽しみください!
オレンジ色の夕日が差し込む学園。スプリンクラーの虹色ミストも止まり、穏やかな涼風が吹き抜ける。
中央時計塔から学園祭終了を告げる鐘が鳴り響き、校内放送から「本日の学園祭はこれにて全日程を終了いたします」とアナウンスが流れる。
中庭や模擬店エリアの来場者、一般生徒たちが口々に大興奮の感想を語り合っている。
「今年の生徒会のゲリライベント、演出もアクションもガチすぎて最高だった!」
「壁登るギミックとか、最後の一斉散水ミストの演出が綺麗すぎて鳥肌立ったよ!」
生徒会の偽装工作が完璧に功を奏し、大惨事どころか「歴代最高の学園祭アトラクション」として大成功を収める。
そんな中、中和剤を浴びて正気に戻った被害者生徒たちが集まっている。
「……あれ? なんか喉がガラガラで、全身がものすごい筋肉痛なんだけど……」
「私も……中庭で何か叫んでたような気がするけど、夢だったのかな……? でもアトラクションめっちゃ楽しかったし、まあいっか!」
セリアの調合した中和剤に含まれる「軽度の記憶沈静化成分」のおかげで、奇行の細かいディテールは曖昧なまま。
あ〜〜〜よかった、と影で見ていた私は胸を撫で下ろす。
散乱した中庭の片付けを風紀委員やボランティア生徒に引き継ぎ、生徒会メンバーは泥のような疲労感と共に生徒会室へ引き上げていく。
夕日の差し込む生徒会室。散々動き回ったせいでソファにぐったりと倒れ込む私、セナ、タクト。
ノアが冷えたジュースを配り、全員で紙コップを合わせて小さく乾杯する。
セリアが両手でコップを握りしめ、顔をほんのり赤く染めながら深々と頭を下げる。
「皆、本当にありがとう……。わたくしの至らぬ過去のせいで、こんな大騒動に巻き込んでしまって……。みんなが機転を利かせてくれなければ、わたくしの学園生活は本当に終わっていましたわ」
「いいんですよ先輩! 誰にだって消したい過去の1つや2つありますって!」
まぁ私にだってあるしね、それくらい。そう言って部屋の中に温かく平和な空気が流れ、一件落着ムードが漂う。
そこへ、押収した『漆黒の禁忌調合法』のノートを恭しく両手に持ったリサが執務机から歩み寄る。
「事後処理の一環として、押収資料の危険度評価を行っていたのですが……このノートの冒頭に、極めて難解かつ情緒的な『序文』が認められました」
セリアの表情が一瞬で凍りつき、コップを取り落としそうになる。
「……えっ? ちょ、ちょっと待ちなさいリサ、それは……」
リサは眼鏡をクイッと押し上げ、演劇部顔負けの澄み渡る美声と抑揚のない完璧な発音で、ページを開いて読み上げ始める。
「――『第零章:目覚めし黒龍の啼哭。我が右腕に宿りし深淵の焔よ、今こそ戒めの鎖を喰いちぎり、紅き満月の夜に真の獣となりて世界を統べる……ニャン』」
「ぶっ……!」
私とセナが同時に吹き出す。
タクトは真顔で天井を仰ぎ、必死に口元を引き締める。
ノアはお腹を抱えて声にならない笑いで震え始める。
「ぎゃああああああああああっっっ!!! やめてえええええええええっっっ!!!」
セリアが悲鳴を上げながらソファのクッションを抱え込み、顔を埋めて足をバタバタと悶絶する。
リサは涼しい顔でページをめくり、容赦無く続きを読み上げる。
「続きまして、『第二節:宵闇の調べに濡れる孤独の爪痕』――」
「読まないでえええ! 頼むからその口を閉じてちょうだいリサああああっっ!!」
涙目でクッションを投げつけ、床に転がって耳を塞ぐセリアの完全崩壊した姿に、生徒会室中が大爆笑に包まれる。
床を転がっていたセリアが、顔を真っ赤にして涙目でガバッと跳ね起きる。
「もう嫌あああああ! 灰よ! 塵よ! 存在した痕跡ごと宇宙の彼方へ消え去りなさいまし――ッ!!」
恥ずかしさと憤怒で、セリアの全身からかつてないほど濃密な紅蓮の魔力オーラがブワッと吹き荒れる。
生徒会室の書類が一斉にバタバタと舞い上がる。
うわっ!セリア先輩本気だ!!
一同は慌てて後ずさる。
リサがスッと手を離し、ノートが宙に放り出された瞬間。
セリアが両手から特級術式並みの超高密度・超高熱の火炎をノートめがけて放射。
ゴオオオオオッッ!! という凄まじい轟音と共に、ノートは一瞬で青白い業火に包まれる。
燃えかすどころか、紙の繊維一本、インクの分子一つ残さず、光の粒子となって完全に完全消滅する。
暖炉の上にあった煤さえ綺麗に吹き飛ぶほどの圧倒的火力だ。
炎がおさまり、静まり返った生徒会室。
カタカタと開いた窓の外、中庭の木の上に腰掛けて焼き鳥を食べていたギルバートが、真顔で生徒会室の暖炉とセリアを見つめている。
「……ほう。無詠唱にして純度の高い見事な火炎放射だ。我が領地の炭焼き窯にも来てほしい腕前だな」
「お兄様、変なとこから覗かないで! あと先輩を炭焼き職人にスカウトしないで!!」
ギルバートが「……そうか。火の元には気をつけるのだぞ」とだけ言い残し、木から音もなく飛び降りて立ち去る。
今日のお兄様なんかポンコツじゃない!?学園祭の空気に当てられたのかな……
お兄様が去り、ノートの消滅を見届けたセリアが、プシューと湯気を立てるように力を失ってソファへへたり込む。
セリアは真っ白な灰になったような顔になってる。
「……終わった……。わたくしの過去も、今度こそ完全に死にましたわ……」
放心状態のお姉様を見て、私たちは苦笑しつつ優しく毛布を肩にかけてあげる。
茜色から深い紫へとグラデーションを描く夕暮れの空。
後片付けを終えた生徒たちが三々五々、笑い合いながら帰路につく中、生徒会メンバーも揃って正門をくぐる。
すっかり魂が抜けて足取りのおぼつかないセリアを、私とセナが両脇から優しく支えて歩く。
「先輩、もう元気出してください! これで世界中探しても、あのノートはどこにも存在しないんですから!」
セリアは虚ろな目で遠くを見つめながら言う。
「……ええ、物質としては消滅しましたわ……。けれど、リサとノアの脳内メモリには永久保存されてしまいましたのよ……」
「ご安心くださいセリア様。私の記憶領域は厳重に暗号化されておりますので、口外することはございません――要請がない限りは」
「僕も『ニャン』の部分だけは墓場まで持っていきますね」
「今すぐ忘れてえええええっ!」
再びギャーギャーと叫ぶセリアに、タクトが思わず吹き出し、みんなの笑い声が夕暮れの並木道に響き渡る。
なんだかんだあったけど……生徒会の絆もこれで深まった……のかな?
賑やかなみんなの横顔を見て、私やっぱりこの学園に来てよかったな、と再認識して微笑むのであった。
いつも後方支援のセリアですが、超火力も出せます、この女怒らせると怖いぞ。
と言うわけで四章完結です!ありがとうございました!
四章は短くドタバタ(とセリアの黒歴史)を描きたかったのでやりたいことができて満足です!
五章からはまた何か起こる予感……?




