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第9章 解体現場の試練

第9章 解体現場の試練

工事開始から二週間後。

順調に見えたプロジェクトに最初の異変が起きた。

最上階の解体作業中、現場監督から緊急連絡が入った。

「社長、大変です。」

美咲はすぐに現場へ向かった。

作業員たちが一か所に集まっている。

問題の場所へ案内された美咲は、図面と現場を見比べて驚いた。

「図面と違う……。」

設計図には存在しない鉄骨梁が発見されたのだ。

しかも複数箇所に存在していた。

五十年以上前の建築工事では、施工途中で現場判断による変更が行われることも珍しくなかった。

しかし記録が残っていない。

AIシステムも当然認識していない構造物だった。

もし解体していたら荷重バランスが崩れていた可能性もある。

美咲は直ちに作業停止を命じた。

AIチームは建物全体を再スキャンする。

すると次々に問題が見つかった。


第一の問題

図面に存在しない構造物

・追加された鉄骨梁

・補強柱

・閉鎖された配管経路

・改修履歴のない設備室

建物完成後の改修工事で追加されたものも含まれていた。

対策

AIによる全館三次元再計測。

デジタルツインを再構築。

現況図面をゼロから作成。


第二の問題

一部鋼材の品質不足

検査の結果、一部の鉄骨に想定以下の強度しかない箇所が発見された。

当時の品質管理基準では問題がなくても、現代基準では不足していた。

現場には緊張が走る。

対策

・超音波探傷検査

・全数品質調査

・鋼板補強

・炭素繊維補強

・交換可能部分の更新

AIは全ての部材に強度ランクを付与した。


第三の問題

過去の施工不良

壁内部を解体すると、数か所で施工不良が見つかった。

コンクリート充填不足。

鉄筋位置のずれ。

補修跡。

過去五十年間、誰にも気付かれなかった問題だった。

対策

構造設計チームが再計算。

補強計画を全面見直し。

安全率を大幅に引き上げた。


第四の問題

高所解体の危険性

当初計画では上層階から順次解体を進める予定だった。

しかし予想以上に構造が複雑だった。

一部を撤去すると荷重伝達経路が変化する。

AIシミュレーションの結果、

従来工法では危険箇所が発生することが判明した。

対策

・解体順序の再設計

・仮設補強材設置

・荷重監視センサー設置

・24時間AI監視

安全性を確認しながら少しずつ進める方式へ変更した。


第五の問題

作業スペース不足

建物を残しながら再生するため、現場は極端に狭かった。

解体班。

補強班。

設備班。

内装班。

それぞれが同時に作業できない。

工期遅延の恐れが出てきた。

対策

AI施工管理システムを導入。

一日の作業を時間単位で最適化する。

まるで空港の管制塔のように人員と資材を管理した。

その結果、作業効率は二十五%向上した。


第六の問題

想定外のアスベスト

天井裏から当時使用されていた断熱材が発見された。

法令に基づく特殊除去作業が必要になる。

工事は再び停止した。

報道陣も騒ぎ始める。

「再生計画に暗雲」

「工期延期か」

ニュースが流れるたび住民の不安も高まった。


その夜。

現場事務所で美咲はAIアークと対話していた。

『現状分析を開始します。』

スクリーンには膨大なデータが表示される。

『課題発生件数は予測値の三・八倍。』

『ただし解決可能率九二%。』

美咲は苦笑した。

「現実はいつもAIの予測を超えてくるわね。」

『しかし全ての問題が今発見されたことは幸運です。』

美咲は頷いた。

確かにその通りだった。

完成後では遅い。

今だから修正できる。

危機は同時に改善の機会でもある。

翌朝。

全施工会社を集めた緊急会議が開かれた。

美咲は全員を見回した。

「問題はたくさんあります。」

現場は静まり返る。

「でも、この建物は五十二年間立ち続けました。」

「ならば私たちは、あと五十年支えられる建物に再生できます。」

職人たちの表情が変わった。

誰かが頷いた。

そして拍手が起きる。

こうしてプロジェクトは危機を乗り越え、新たな段階へ進む。

だがその頃、全国のマンション管理組合や建設会社が、この工事の進捗を固唾を飲んで見守っていた。

この成功が、日本の都市再生の未来を決めることになるからだった。


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