98話「砂漠平野の精霊火」
第十二層を突破してから、二日後。
修理へ出していた美咲さんの軽盾と、ユキの白銀鎧が戻ってきた。
軽盾には、湿原王鰐の牙によって付けられた傷が僅かに残っている。
白銀鎧も表面を磨かれ、二枚の半透明な装甲が以前と同じ輝きを取り戻していた。
「ぴるるっ!」
ユキが白銀鎧を左右へ広げ、その場で嬉しそうに回転する。
「動かしても問題なさそうだね」
「ぴるっ!」
「軽盾も大丈夫です」
美咲さんが軽盾を構え、留め具の位置を確かめる。
「ただし、前と同じ場所へ強い衝撃を受けると、破損する可能性があると言われました」
「それなら、無理に受け止めない方がよさそうだね」
「はい。正面から受けず、できるだけ逸らすようにします」
「ぷるっ!」
美咲さんの肩では、シズクも元気よく身体を伸ばしていた。
装備の確認を終え、俺たちは髙橋さんたちと共に第十二層へ向かった。
◇
第十一層を抜け、第十二層の湿地帯を進んでいる途中。
葦の向こうから、低い羽音が聞こえてきた。
現れたのは、黒銀色をしたドローン型探索レコーダーだった。
俺たちが購入した物より一回り小さい。
それでも複数の撮影器と測定器を備え、機体の周囲には薄い魔力障壁が展開されていた。
多少の攻撃なら、防護術式によって弾ける高性能機らしい。
そのあとから、星川さんが姿を見せる。
「お。リンくんたち。十三層に行くところ?」
「はい。星川さんは、第十二層の調査ですか?」
「十一層の残りを見終わったから、今は十二層の地図を埋めてるとこ。まだ調べてない水路があるんだよね」
星川さんが片手を上げると、黒銀色の探索レコーダーが頭上へ移動した。
単独探索の多い星川さんに合わせ、追従性能や防御性能も高められているようだ。
「星川さん。単独調査中ですので、予定範囲から外れないようにしてください」
髙橋さんが声を掛ける。
「分かってるよ〜。危なくなったら、ちゃんと戻るから」
「星川さんが言う『危ない』の基準が心配なのですが……」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
星川さんが、眠そうな笑みを浮かべる。
「リンくんたちも、気を付けてね」
「ありがとうございます。星川さんも、お気を付けて」
星川さんは黒銀色の探索レコーダーを連れ、別の水路へ進んでいった。
俺たちも第十二層の守護区域を目指し、そのまま先へ進む。
◇
髙橋さんと護衛職員は、第十三層への転移門前で待機する。
クラン用と調査課用。
二機のドローン型探索レコーダーが、俺たちの頭上へ浮かんでいた。
「第十三層でも通信を確認できましたら、最初の調査範囲は転移門から半径500メートル以内とします」
髙橋さんが、携帯端末で調査課用の探索レコーダーを確認する。
「環境に問題がなくても、調査時間は最大60分です。階層守護個体の捜索は行わないでください」
「分かりました」
「未知の環境です。危険を感じた場合は、調査時間に関係なく帰還してください」
「はい」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも、髙橋さんの言葉へ返事をする。
蒼銀色の転移門には、王冠を載せたスライムの紋章が浮かんでいた。
「行こう」
「はい」
俺と美咲さん、シズク、ユキ。
そのあとを、二機の探索レコーダーが追う。
蒼銀色の転移門へ触れると、周囲の景色が光に包まれた。
◇
最初に感じたのは、強い熱気だった。
「暑い……」
第十三層に水はなく、目の前には乾いた砂地が広がっている。
上空には雲一つない青空。
地下にあるはずなのに、天井は見えない。
強い日差しが砂を照らし、遠くの景色を揺らしていた。
「第十二層とは、全く違う環境ですね」
「足元にも気を付けた方がよさそうだね」
一歩進むたびに、探索靴が柔らかな砂へ沈む。
スライムの羽靴で身体を軽くしても、硬い地面の上と同じようには動けない。
「ぷる……」
「ぴる……」
シズクとユキも、初めて見る砂漠を警戒するように身体を低くしている。
遠方には、巨大な岩山が一つだけ立っていた。
周囲に比較できる物がないため距離は分からないが、砂漠のどこからでも見えそうな大きさだ。
頭上では、クラン用の探索レコーダーが岩山へ撮影方向を変える。
調査課用の探索レコーダーは高度を下げ、転移門周辺の砂や気温を測定していた。
『映像と音声を確認しました』
通信機から、髙橋さんの声が聞こえる。
『気温は38度を超えています。体調に異変を感じた場合は、すぐに帰還してください』
「分かりました。転移門周辺に、魔物の姿はありません」
第十三層へ意識を向け、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『スライム帝王の迷宮』
『現在地:第13層』
『階層環境』
・砂漠平野
『現在気温』
・38.4度
『環境上の注意』
・高温
・乾燥
・足場の沈下
・砂中に魔物反応あり
・蜃気楼による視界不良
『階層守護個体』
・活動中
____________________◇
「砂の中に魔物がいるみたいだ」
「姿が見えなくても、油断できませんね」
美咲さんが軽盾を構える。
俺も白銀短剣を抜き、砂の動きを確認しながら歩き始めた。
二機の探索レコーダーが、俺たちの左右へ分かれる。
足跡のほかに、目印となる地形はない。
帰還用の転移門を見失わないよう、調査課用の探索レコーダーが移動経路を記録していた。
◇
転移門から100メートルほど進んだ時だった。
美咲さんの耳飾りが、淡い赤色に光る。
「足元です!」
俺たちは左右へ分かれた。
直前まで立っていた砂地から、黒褐色の尾が飛び出す。
尾の先端には、紫色の毒液を滴らせる針が付いていた。
続いて、巨大な鋏と硬い甲殻が砂の中から現れる。
「蠍型の魔物!」
反対側の砂も大きく盛り上がった。
細長い身体を持つ巨大な魔物が、口を開きながら飛び出してくる。
「ぴるっ!」
ユキの白銀鎧が、俺の正面へ移動する。
砂蟲の頭部が半透明な装甲へ衝突し、硬い音を響かせた。
「ありがとう、ユキ!」
「ぴるるっ!」
現れた魔物へ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『砂蠍』
『危険度:C』
『特性』
・砂中潜伏
・硬質甲殻
・毒耐性
『攻撃』
・毒針
・双鋏
・砂中奇襲
『弱点』
・関節部
・氷属性
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『砂蟲』
『危険度:C』
『特性』
・砂中移動
・振動感知
・熱耐性
『攻撃』
・噛み付き
・巻き付き
・砂中引き込み
『弱点』
・氷属性
・土属性
____________________◇
「どちらも氷が弱点だ!」
「シズク、砂蠍をお願いします!」
「ぷるっ!」
シズクの前へ、青白い魔力が集まる。
砂蠍が美咲さんへ毒針を突き出した。
美咲さんは軽盾を斜めに構え、針の軌道を逸らす。
続けて踏み込み、黄金短剣を甲殻の隙間へ振るった。
同時に、シズクの氷槍が砂蠍の側面へ突き刺さる。
黒褐色の甲殻が凍り付き、動きが鈍った。
俺の正面では、砂蟲が再び砂へ潜ろうとしている。
「逃がさない!」
白銀短剣を構え、羽靴で地面を蹴る。
だが、柔らかな砂へ足を取られ、いつもほど速度が出ない。
砂蟲の半身が地面へ沈む。
「シズク、砂蟲の周囲も凍らせて!」
「ぷるっ!」
シズクが小さな氷槍を砂蟲の周囲へ続けて放つ。
高温だった砂へ霜が広がり、砂粒同士が硬く結び付いた。
潜ろうとしていた砂蟲の動きが止まる。
「今だ!」
白銀短剣を砂蟲の身体へ突き立て、『貫通』を発動させる。
刃が厚い表皮を貫き、内部の魔核へ亀裂を入れた。
砂蟲が身体を大きく振る。
「ぴるっ!」
ユキの白銀鎧が横から押さえ込み、砂蟲の動きを止める。
亀裂へ魔鋼短剣を突き込み、魔核を砕いた。
砂蟲が光の粒子となって消えていく。
「陸斗さん、上です!」
美咲さんの声に反応し、顔を上げる。
砂蠍の後方。
地面から3メートルほどの高さに、淡い黄緑色の炎が浮かんでいた。
炎の中には、小さな魔核のような光が見える。
黄緑色の火の粉が砂蠍へ降り注いだ。
シズクの氷槍によって凍っていた甲殻が、少しずつ元の状態へ戻っていく。
「回復されてる……?」
精霊のような魔物へ『解析鑑定』を向けた。
◇____________________
『精霊の鬼火』
『危険度:C』
『種別』
・精霊系魔物
・後衛支援個体
『攻撃性』
・なし
『特性』
・精霊魔力体
・物理攻撃無効
・魔法攻撃無効
・魔法吸収
・魔力核隠蔽
・精霊離脱
『技能』
・治癒火
・加護火
・状態異常軽減
『弱点』
・魔力構造へ干渉するデバフスキル
『有効なデバフ』
・腐食
・切断
・粉砕
『精霊離脱』
・支援対象が存在しない場合に発動
・戦闘区域から離脱
・離脱時、ドロップ品は発生しない
____________________◇
「攻撃はしてこない。でも、砂蠍を回復してる!」
「先に倒しますか?」
「普通の攻撃と魔法は効かないみたいだ!」
精霊の鬼火へ向かって走る。
白銀短剣を横薙ぎに振るった。
刃は黄緑色の炎を通り抜け、何の手応えも返ってこない。
「ぷるっ!」
シズクが風弾を放つ。
圧縮された風が精霊の鬼火へ命中した。
だが、風の魔力は黄緑色の炎へ吸い込まれ、精霊の鬼火の輝きが強くなる。
「魔法まで吸収された……!」
「陸斗さん!」
美咲さんが、砂蠍の鋏を軽盾で受け流す。
治癒火によって凍結から回復した砂蠍が、再び毒針を持ち上げていた。
精霊の鬼火を攻撃している間も、前衛の魔物は待ってくれない。
「先に砂蠍を倒そう!」
「分かりました!」
美咲さんが砂蠍の注意を引き付ける。
シズクが氷槍を放ち、右側の脚を凍結させた。
「今です!」
美咲さんが黄金短剣を甲殻の隙間へ突き込み、『粉砕』を発動させる。
硬質甲殻へ亀裂が広がった。
その内側にあった魔核まで刃を押し込み、一気に砕く。
砂蠍が黒褐色の粒子となって消えた。
直後、精霊の鬼火が大きく揺れる。
◇____________________
『支援対象:0』
『精霊離脱:発動』
____________________◇
「消える!」
黄緑色の炎が急速に小さくなる。
俺が白銀短剣を構え直すよりも早く、精霊の鬼火は光の粒となって消えてしまった。
あとには、何も残されていない。
「逃げられた……」
「前衛の魔物がいなくなると、消えてしまうんですね」
「うん。無理に倒さなくても、砂蠍や砂蟲を倒せば戦闘は終わるみたいだ」
『こちらでも消失を確認しました』
髙橋さんの声が、通信機から聞こえる。
『精霊の鬼火から、攻撃を受けることはありませんでしたか?』
「はい。一度も攻撃されませんでした。前衛の魔物を回復し、強化するだけです」
『一般探索者は、無理に精霊の鬼火を狙わない方が安全かもしれませんね』
「そう思います。ただ、倒した場合のドロップ品を確認します」
精霊の鬼火が消える前に得た解析結果を、さらに深く確認する。
◇____________________
『精霊の鬼火』
『ドロップ品』
・良質な魔核:100%
・上質な魔石:50%
・精霊火粉:25%
・精霊の結晶核:5%
____________________◇
「精霊の結晶核という物を、5%で落とすみたいです」
『どのような素材ですか?』
「第十一層と第十二層で見つかった、支援結晶と回復結晶の欠片を復元するための中核素材です」
解析結果を、さらに詳しく確認する。
支援結晶と回復結晶。
どちらも、同じ種類の欠片を7個集めるだけでは完成しない。
集めた欠片を一つの結晶へ戻すために、精霊の結晶核が1個必要になる。
「欠片が揃っても、精霊の結晶核がなければ復元できません」
『つまり、第十一層と第十二層だけを探索していても、完成品は得られないのですね』
「はい。精霊の鬼火まで倒す必要があります」
「ぴる……」
自分の成長に関わる素材だと分かったのか、ユキが精霊の鬼火の消えた場所を見つめる。
「次に見つけたら、倒す方法を試してみよう」
「ぴるっ!」
精霊の鬼火の弱点には、『腐食』と『粉砕』が表示されていた。
俺の白銀短剣。
美咲さんの黄金短剣。
二本の武器に付与された技能なら、物理攻撃も魔法攻撃も効かない精霊の鬼火を倒せる可能性がある。
◇
最初の戦闘地点から、さらに200メートルほど進む。
二機の探索レコーダーが、砂漠の地形と移動経路を記録し続けていた。
周囲に植物は見当たらない。
時折、風に吹かれた砂が地面を薄く流れていく。
「前方に、また魔物の反応がある」
砂の下に、二つ。
その後方には、地面から離れた魔力反応が一つ浮かんでいる。
「砂蠍と、精霊の鬼火だと思う」
「今度は、精霊の鬼火から倒しますか?」
「うん。ただ、美咲さんには砂蠍を引き付けてもらうことになる」
「任せてください」
「シズクは、美咲さんの援護をお願い」
「ぷるっ!」
「ユキは、俺を守ってくれる?」
「ぴるるっ!」
ユキが白銀鎧を大きく広げる。
その直後、二体の砂蠍が左右の砂から飛び出した。
後方には、先ほどと同じ黄緑色の炎が浮かんでいる。
「行きます!」
美咲さんが前へ出る。
一体目の鋏を軽盾で受け流し、二体目の毒針を黄金短剣で逸らした。
「シズク、氷槍!」
「ぷるっ!」
シズクが放った氷槍が、砂蠍の脚へ突き刺さる。
黄緑色の火の粉が降り注ぎ、傷付いた脚の回復が始まった。
「陸斗さん、今のうちに!」
「分かった!」
羽靴へ魔力を流し、精霊の鬼火へ向かって跳ぶ。
白銀短剣の刃へ、黒銀色の光が集まった。
「『腐食』!」
白銀短剣を、精霊の鬼火へ突き込む。
刃そのものは黄緑色の炎を通過した。
だが、白銀短剣から放たれた黒銀色の光が、精霊魔力体へ残る。
精霊の鬼火の表面に、黒い染みが広がった。
◇____________________
『精霊の鬼火』
『腐食:有効』
『精霊魔力体:劣化』
『物理攻撃無効:低下』
『魔法攻撃無効:低下』
『魔力核隠蔽:解除』
『効果時間:8.41秒』
____________________◇
「効いた! 今なら攻撃が通る!」
「陸斗さん、こちらは任せてください!」
美咲さんは二体の砂蠍を引き付けたまま動けない。
精霊の鬼火の中心には、淡い緑色の魔核が露出していた。
「シズク、精霊の鬼火へ石弾!」
「ぷるっ!」
シズクが美咲さんの背後から身体を伸ばす。
拳ほどの石弾が、真っ直ぐ精霊の鬼火へ飛んだ。
先ほどの風弾とは違い、石弾は吸収されない。
黄緑色の炎を突き抜け、露出した魔核へ命中した。
魔核へ亀裂が走る。
精霊の鬼火は反撃しない。
傷付いた魔核を隠そうと、炎を中心へ集めている。
「逃がさない!」
白銀短剣へ魔力を流し、『貫通』を発動させる。
腐食によって弱まった精霊魔力体を刃が貫き、亀裂の入った魔核へ届いた。
硬い物が砕ける音が響く。
精霊の鬼火が大きく揺れ、黄緑色の粒子となって消えていった。
支援を失った二体の砂蠍から、淡い光が消える。
「回復が止まりました!」
美咲さんが、一体目の毒針を避ける。
黄金短剣を甲殻の隙間へ振り下ろし、『粉砕』を発動させた。
甲殻ごと魔核が砕ける。
もう一体へ、シズクの氷槍が命中した。
凍結した砂蠍へ近付き、白銀短剣で魔核を突き刺す。
二体の砂蠍も光の粒子となって消えていった。
「全員、怪我はない?」
「ありません」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも無事だ。
『精霊の鬼火の討伐を確認しました』
髙橋さんの声にも、僅かな驚きが混ざっている。
『通常攻撃や魔法が無効となる魔物を、本当に倒せたのですね』
「白銀短剣の『腐食』で、無効化能力を低下させることができました」
『貴重な攻略情報です。ドロップ品も確認してください』
精霊の鬼火が消えた場所を見る。
良質な魔核。
その隣には、透き通った小さな結晶が落ちていた。
結晶の中心では、淡い黄緑色の炎が消えることなく揺れている。
「これは……」
結晶へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『精霊の結晶核』
『品質:A』
『希少度:A』
『推定買取価格:2,000,000円』
『用途』
・砕けた精霊系結晶の復元中核
・複数の欠片を一つの結晶へ結合
・復元時に消費
『復元可能アイテム』
・支援結晶
・回復結晶
『支援結晶・復元条件』
・支援結晶の欠片×7
・精霊の結晶核×1
『回復結晶・復元条件』
・回復結晶の欠片×7
・精霊の結晶核×1
『注意』
・精霊の結晶核だけでは技能習得不可
・復元する結晶に対応した欠片が必要
____________________◇
「精霊の結晶核だ。推定買取価格は二百万円」
「最初に倒した個体から、5%の素材が出たんですね」
「うん。支援結晶か回復結晶を復元する時に、一つ必要になるみたいだ」
「ぴるっ!」
ユキが嬉しそうに身体を伸ばす。
だが、精霊の結晶核だけでは、技能を習得できない。
「今度は、第十一層と第十二層で欠片を集めないといけないね」
「ぴるるっ!」
「どちらの欠片を先に7個集められるかで、最初に復元する結晶も決まりそうですね」
「うん。必要な数が揃ってから考えよう」
精霊の結晶核を、魔力遮断機能の付いた小箱へ収める。
上質な魔石は出なかった。
それでも、ユキが新しい技能を身に付けるために欠かせない素材を、一つ確保できた。
◇
転移門から、およそ450メートル。
初回調査範囲の端へ到達する。
正面に見える巨大な岩山は、まだ遥か先にあった。
調査課用の探索レコーダーが高度を上げ、岩山の方向へ映像を拡大する。
『今回の調査は、ここまでにしましょう』
髙橋さんの声が聞こえる。
『気温も高く、砂中に潜む魔物の数も分かっていません。周囲を記録したあと、帰還してください』
「分かりました」
二機の探索レコーダーが、周辺の砂漠を撮影する。
岩山の方角へ『解析鑑定』を広げると、遠くから大きな魔力反応が返ってきた。
◇____________________
『第13層』
『階層守護個体反応』
・活動中
『推定位置』
・砂漠中央部
・巨大岩山周辺
『現在地からの推定距離』
・約2.8キロメートル
____________________◇
「階層守護個体は、あの岩山の近くにいるみたいだ」
「次の目標が決まりましたね」
「うん。でも、今日は戻ろう」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
砂蠍。
砂蟲。
そして、物理攻撃も魔法攻撃も無効にする精霊の鬼火。
第十三層には、今までとは異なる魔物が生息していた。
精霊の鬼火を無視して、前衛だけを倒すこともできる。
だが、ユキが支援と回復の技能を身に付けるには、第十一層と第十二層で結晶の欠片を集めるだけでは足りない。
物理攻撃も魔法攻撃も無効にする精霊の鬼火を倒し、復元の中核となる精霊の結晶核も手に入れる必要がある。
今回、その一つ目を確保することができた。
俺たちは遠方に聳える巨大な岩山をもう一度記録し、帰還用の転移門へ向かって歩き始めた。




