94話「ランキング1位、星川さりな」
翌日。
俺と美咲さんは、シズクとユキを連れて探索者協会の調査課を訪れた。
会議室へ入ると、髙橋さんのほかに、一人の女性が待っている。
腰まで届く長い黒髪。
整った顔立ちをしているが、瞼は少し重そうに見えた。
壁際の椅子へ浅く腰掛け、眠そうな表情で俺たちを見ている。
傍らには、星空を閉じ込めたような鞘に収められた長剣が立て掛けられていた。
見覚えのある武器名が、頭に浮かぶ。
『星皇剣』
国内探索者ランキング一位が所有する、希少度Sの武器。
「ご紹介します」
髙橋さんが、女性へ視線を向ける。
「第十一層の正式調査で、護衛を担当していただく一級探索者です」
女性が椅子から立ち上がる。
眠そうな表情のまま、軽く片手を上げた。
「星川さりな。今回の調査隊護衛を任されたよ」
「一城陸斗です。よろしくお願いします」
「佐伯美咲です。よろしくお願いします」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
美咲さんの腕にいるシズクと、俺の腕にいるユキも、挨拶するように身体を伸ばした。
「シズクちゃんとユキちゃんも、よろしくね〜」
「ぷるっ!」
「ぴるるっ!」
星川さんが、シズクとユキへ手を振る。
「父様から聞いてるよ。リンくん、ユーメー人だからね」
「父様……?」
「うん。うち、星川」
「あ、もしかして星川部長の娘さんですか!?」
「そだよ〜」
星川さんが、楽しそうに目を細める。
眠そうに見える外見とは違い、話し方は随分と軽い。
「父様、リンくんに酷いことをしたって、ずっと気にしてる」
「星川部長は、俺と斉藤さんを守ろうとしてくれました」
「うん。でも、リンくんの仕事や給料のことに気付けなかったって、反省してたよ」
星川さんが、腰へ手を当てる。
「今回の調査へリンくんが参加するって話したら、絶対に守ってこいって言われた」
「ありがとうございます」
「父様に言われなくても、護衛の仕事はちゃんとするけどねっ」
星川さんが、俺の顔をじっと見つめる。
「動画より、実物の方がかわいいね」
「え?」
「リンくんのこと。彼ピにも見せたいかも」
「彼ピ……?」
聞き慣れない言葉に、思わず聞き返す。
「うちの恋人。リンくんの動画を見てるから、本人に会ったって自慢する」
「恋人がいるんですね」
隣にいた美咲さんの表情が、僅かに和らいだ。
星川さんが、美咲さんへ眠そうな目を向ける。
「ミサキちゃん、もしかして警戒してた?」
「していません」
「そっかな〜」
「……少しだけ驚いただけです」
美咲さんが、視線を逸らす。
「大丈夫だよ。うち、彼ピ一筋だから」
「そういう心配をしていたわけではありません」
「ふーん?」
星川さんが、楽しそうに美咲さんの顔を覗き込む。
「星川さん」
髙橋さんが、二人の間へ入るように声を掛けた。
「調査内容の説明を始めてもよろしいでしょうか?」
「あ、そだった。どーぞ」
星川さんが、自分の席へ戻る。
俺たちもテーブルを挟んだ向かい側へ座った。
「美咲さん。星川さんって、どのくらい強いの?」
小声で尋ねる。
「私も詳しくはありません。ただ、危険度A+の黒鬼王を単独で討伐したことがある方だったと思います」
「え、A+を、一人で……?」
「その時の討伐映像は、私も見たことがあります。確か、星皇剣で一刀両断していました」
小声で話していたはずだが、星川さんには聞こえていたらしい。
「ブラックオーガって、せんこーいっせーんで倒したやつ?」
「おそらく、その戦闘だと思います」
「あれ、思ったより簡単に切れたんだよね〜」
「危険度A+の魔物を、簡単に切れたとか言わないでください」
髙橋さんが、僅かに眉を寄せる。
「映像では、技の名前を口にした直後、黒鬼王が棍棒ごと両断されていました」
「うん。『せんこー、いっせーん』ってやった」
星川さんが、右手を軽く横へ振る。
危険度A+を単独で倒した本人とは思えないほど、気の抜けた動きだった。
「一級探索者って、上級探索者よりも強いんですよね?」
「はい」
髙橋さんが答える。
「一級探索者は、上級探索者よりも上へ設けられた特別区分です。認定には、戦闘能力だけでなく、危険度の高い迷宮や魔物の討伐実績が必要になります」
「星川さんは、その中でも国内ランキング一位……」
「そゆこと〜」
本人だけが、まったく気負っていなかった。
◇
今回の調査目的は、第十一層の制限が本当に解除されたのか確認すること。
俺たちとは別の探索隊として登録された調査課の職員が、第十一層へ入れるかを試す。
参加者は、俺、美咲さん、シズク、ユキ。
そして、髙橋さん、星川さん、二人の護衛職員。
ただし、登録上は二つの探索隊へ分けられていた。
◇____________________
『第11層・正式調査』
『先行攻略隊』
・一城陸斗
・佐伯美咲
・シズク
・ユキ
『独立調査隊』
・髙橋和人
・星川さりな
・調査課護衛職員二名
『確認項目』
・スライム系従魔を伴わない探索隊の進入
・第11層の環境
・出現魔物
・通信状態
・階層守護個体までの経路
・第12層への制限継続
____________________◇
「別々の探索隊として登録する必要があるんですか?」
美咲さんが尋ねる。
「同じ共同探索隊へ登録した場合、シズクさんとユキさんの同行によって条件を満たした可能性が残ります」
髙橋さんが、携帯端末を閉じる。
「今回は、制限解除後の第十一層へ、条件を満たしていない探索隊だけでも入れることを確認します」
「私たちは先に入り、皆さんが続けるか確かめるんですね」
「はい」
「もし、入れなかったら帰っていーの?」
「第十一層の入口で、調査が終わるまで待機してください」
「はーい」
星川さんの扱いに、髙橋さんは慣れているようだった。
説明を終えたあと、俺たちは探索者協会の地下へ移動した。
◇
第一層から第九層までは、調査済みの最短経路を進んだ。
現れた階層守護個体も、短い時間で倒していく。
第十層の虹晶王スライムは、まだ再出現していなかった。
守護部屋には、第十一層へ続く蒼銀色の転移門が残されている。
「見えます」
髙橋さんが、転移門を見上げる。
星川さんと護衛職員の二人も、王冠を載せたスライムの紋章を確認できていた。
「それでは、俺たちから入りますね」
「お願いします」
俺、美咲さん、シズク、ユキの順番で転移門を抜ける。
第十一層の森林へ到着したあと、すぐに後ろを振り返った。
蒼銀色の転移門が揺れる。
最初に現れたのは、星川さんだった。
「おお〜はじめて見る景色だ〜」
続いて、髙橋さんと護衛職員が姿を現す。
◇____________________
『第11層への進入を確認』
『独立調査隊』
・スライム系従魔:同行なし
・条件達成者:同行なし
・進入:成功
『第11層』
・スライム系従魔による進入制限:解除済み
____________________◇
「制限は解除されています」
「これで、協会の調査隊も入れますね」
「はい。ただし、一般探索者へ開放するには、環境と魔物の危険度を確認する必要があります」
髙橋さんが、持参した魔力中継器を転移門の近くへ設置する。
地上の調査課へ映像が送信され、通信状態も記録された。
「通信は正常です。正式調査を開始します」
俺たちは、前回記録した経路を進む。
上空には、協会が用意したドローン型探索レコーダーが浮かんでいた。
調査隊全体の動きと、魔物の戦い方を記録するための物だ。
森へ入ってから、およそ十分。
前方に四つの魔力反応が現れた。
「魔樹が二体。その後ろに、穢れた風精霊と水精霊がいます」
『解析鑑定』で、魔物の配置を確認する。
「前衛が二体。後衛が二体です」
「連携を記録したいので、すぐには倒さないでください」
髙橋さんが、星川さんへ伝える。
「分かったよ〜」
星川さんが、星皇剣を抜く。
白銀色の刀身へ、星のような光が流れた。
「攻撃を待ってくださいね」
「ほーい」
二体の魔樹が、こちらへ根を伸ばす。
穢れた風精霊の魔力が、魔樹の周囲へ集まり始めた。
「風精霊が、魔樹を加速させます!」
「じゃ、そろそろいい?」
「あ、もう少し待って___」
「ていっ」
気の抜けた声と共に、星皇剣が横へ振られる。
白銀色の光が、一瞬だけ森の中を走った。
直後、二体の魔樹が幹の中央から両断される。
その背後にいた穢れた風精霊と水精霊にも、同時に亀裂が入った。
四体の魔物が、ほとんど同時に光の粒子へ変わる。
「……」
髙橋さんが、計測端末を見る。
魔樹が攻撃を開始したことは記録されている。
だが、穢れた水精霊は支援技能を使う前に消滅していた。
「星川さん。もう少し加減してください。記録が取れません……」
「え〜? 手加減してるよぉ?」
星川さんが、不思議そうに首を傾げる。
「星皇剣の性能が高過ぎます」
「うーん。この星皇剣じゃ、強過ぎるかな……ちと待ってね〜」
星皇剣を鞘へ収める。
腰に着けた魔法鞄から、鞘に収められた直剣を一本取り出した。
と思ったら、さらに、もう一本取り出した。
さらに続く。
最終的に、六本の直剣が倒木の上へ並べられた。
「ねえねえ、リンくん」
「はい?」
「この中で、一番弱い剣を選んでくれる?」
「一番弱い剣ですか?」
「うん。細かい強さまでは覚えてないんだよね」
「なるほど」
並べられた直剣は、どれも普通の武器ではない。
「調べてもいいんですか?」
「いーよ」
六本の直剣へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『星川さりなの所有武器』
・魔鋼剣
希少度:B
・精霊剣
希少度:A
・竜鉄剣
希少度:A+
・雷鳴剣
希少度:A
・火焔剣
希少度:A
・氷結剣
希少度:A
『比較結果』
・最も威力が低い武器:魔鋼剣
・調査戦闘への推奨武器:魔鋼剣
____________________◇
「あの、全部強い剣なんですが……その中でも一番弱いのは、魔鋼剣ですかね」
俺が使っている『魔鋼短剣』と同質の存在である。
「どれ?」
「左端に置いた剣です」
「ああ、リンくんと同じ系統の子だねっ」
星川さんが魔鋼剣を手に取る。
「久しぶりに使うな〜」
「星川さん」
髙橋さんが、倒木へ並んだ残りの武器を見る。
「魔鋼剣も、魔鉱石を使っているので、一般的には希少な武器です」
「でも、この中では一番弱いよ?」
「そうではなく。武器を替えるだけではなく、ご自身の力も抑えてください」
「あ、そゆこと? 分かったよ〜」
残った五本の直剣が、魔法鞄へ戻される。
希少度A以上の武器が、何本も同じ鞄へ収まっていく。
「星川さんの魔法鞄だけで、武器店を開けそうですね」
「使わなくなった剣も、入れたままだからね」
美咲さんの言葉に、星川さんが魔法鞄を軽く叩く。
「どれも簡単に手に入る武器ではありませんよ……」
「そなの?」
「上級の迷宮でも『A』や『B』に分類される迷宮から見つかる武器ですから……」
「そっか〜、でもたくさんボスさんを倒せば出るから簡単だよ〜」
「それは星川さんだけにしか当てはまりません」
「う〜ん。彼ぴにも言われたよ〜」
そう言って苦笑を浮かべる星川さん。
美咲さんもあっけにとられた表情で、星川さんを見ている。
でも、本人にとっては、珍しい物ではないみたいで飄々としている。
さすがトップ探索者である。
さらに先へ進むと、一体の魔樹と穢れた風精霊が現れた。
「今度こそ、攻撃を記録します」
「は〜い」
星川さんが、魔鋼剣を構える。
魔樹の根が、地面を這うように伸びてきた。
星川さんは、攻撃が目の前まで迫るのを待つ。
「そろそろ反撃してもいい?」
「はい。ただし、弱くお願いします」
「ほいっ」
魔鋼剣が、軽く振られる。
伸びていた根だけを切るはずだった刃が、そのまま魔樹の幹を通り抜けた。
魔樹の上半分が、斜めにずれる。
続いて、背後にいた穢れた風精霊まで両断された。
「あれ?」
「星川さん……」
髙橋さんが、再び計測端末を見下ろす。
「今度は攻撃が届くまで待っていただけました。しかし、耐久力の測定ができていません」
「かなり弱く振ったよ?」
魔鋼剣へ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『魔鋼剣』
『使用者:星川さりな』
『現在の状態』
・魔力伝導率:上昇
・切断力:大幅上昇
『原因』
・使用者の魔力量が、武器の想定基準を大幅に超過
____________________◇
「星川さんの魔力量によって、魔鋼剣の切断力が上がっています」
「あー。そっか」
「別の剣を使った方がいいですか?」
「残りは全部、魔鋼剣より強いです」
「そだよね」
星川さんが、魔鋼剣を鞘へ収める。
「普通の鋼剣は持っていないんですか?」
「持ってない。強く振ると、一回で折れちゃうんだよ〜」
「では、どうしましょうか……」
髙橋さんが考え込む。
星川さんは魔鋼剣を魔法鞄へ戻し、両手を軽く開いた。
「もう、素手でいっか」
「え、素手で戦うんですか?」
「これなら、たぶん倒さずに済むと思うからね〜」
一級探索者が、魔物に攻撃を耐えてもらうために、全ての武器を封印することになった。
◇
次に現れたのは、魔茸人と穢れた水精霊だった。
「最初は回避だけでお願いします」
「はーい」
魔茸人が、傘の裏側から毒胞子を放つ。
同時に、穢れた水精霊が足元へ水を広げた。
泥濘へ変わった地面が、星川さんの足を捕らえようとする。
「ほいっと」
だがその前に、星川さんは泥へ沈む前に地面を蹴っていた。
毒胞子の隙間を抜け、魔茸人の正面へ移動する。
「毒胞子と泥濘化を確認しました!」
髙橋さんが、計測端末へ情報を記録する。
「次に、水精霊の回復技能を確認します。魔茸人へ軽い損傷を与えてください」
「軽くだね〜」
星川さんが、魔茸人の腹部へ掌を当てる。
「ていっ」
鈍い音が響く。
遅れて衝撃が発生し、魔茸人が地面を何度も跳ねながら吹き飛び、太い樹木へ背中から衝突した。
幹が大きく揺れ、何枚もの葉が落ちてくる。
「星川さん、凄すぎます……」
「うん。俺たちとは別次元の強さだ……」
「にひひ〜、一位の名は伊達じゃないんだよ〜ん」
俺たちの呟きに、嬉しそうに返す星川さん。
因みに、魔茸人は粒子へ変わらなかった。
「おお〜、耐えたっ!」
「ようやく耐久力を測定できます」
髙橋さんが、安堵したように息を吐く。
穢れた水精霊が、倒れた魔茸人へ治癒水を放つ。
傷付いた身体が水へ包まれ、少しずつ回復していった。
「回復技能を確認。回復量を測定します」
「次は?」
「もう一度、先ほどより弱く攻撃してください」
「これ以上?」
「お願いします」
「加減って、むずかしーね」
星川さんが、今度は指先で魔茸人の額を弾く。
「ほいっ」
魔茸人の身体が、再び数メートル先まで吹き飛んだ。
「……先ほどよりは弱くなっています」
「よかった〜」
危険度Cの魔物を相手に、ここまで慎重な戦闘が必要になるとは思わなかった。
ただし、苦戦しているのは魔物を倒せないからではない。
星川さんが強過ぎて、倒さずに調査する方が難しいからだ。
必要な記録を集めたあと、髙橋さんから討伐許可が出る。
「今度は倒して構いません」
「! はーいっ」
星川さんが、魔茸人と穢れた水精霊の間へ移動する。
左右の掌を、同時に突き出した。
「ていっ」
魔茸人と穢れた水精霊の身体が弾け、光の粒子へ変わった。
「素手でも、同時に倒せるんですね……」
「星川さんが特別なので、真似しないでくださいね」
「真似したくても真似できませんて……」
「そうですね」
美咲さんが、呆れたように答える。
星川さんは、手に付いた泥を払うように両手を叩いた。
「これで記録、取れた〜?」
「はい。ご協力ありがとうございました」
「次からも素手?」
「調査中は、その方がよさそうです」
「剣士なんだけどな〜」
不満そうに言いながらも、星川さんは楽しそうだった。
◇
魔力中継器を確認しながら、階層守護個体までの経路を進む。
出現する魔物の種類。
前衛と後衛による連携。
地形や採取可能な素材。
通信が途切れる場所も記録していく。
やがて、魔樹騎士と穢れた森精霊を倒した場所へ到着した。
二体の階層守護個体は、まだ再出現していない。
奥には、第十二層へ続く蒼銀色の転移門が残っている。
「第十二層の転移門も、消えていません」
「どこ〜?」
星川さんが、周囲を見回す。
「正面にあります」
「うちには、普通の壁しか見えないよ〜」
髙橋さんと護衛職員も、同じだった。
俺、美咲さん、シズク、ユキには、蒼銀色の揺らぎが見えている。
だが、独立調査隊には何も見えていない。
◇____________________
『第12層への転移門』
『先行攻略隊』
・転移門の認識:可能
『独立調査隊』
・転移門の認識:不可
『確認結果』
・第11層の進入制限:解除済み
・第12層の進入制限:継続中
____________________◇
「やはり、攻略した階層だけが解除されるみたいです」
「第十二層へ入れるのは、今までどおり一城さんたちだけですね」
「一級探索者でも見えないんだね〜」
星川さんが、俺の指差した場所へ手を伸ばす。
だが、その手は蒼銀色の揺らぎへ触れず、奥の壁へ届いたように見えた。
「強さは関係ないみたいですね」
「面白いね〜。リンくんたちが先へ進まないと、うちは入れないんだ〜」
「俺たちが第十二層を攻略すれば、制限が解除される可能性があります」
「次の階層気になるね〜」
簡単に言われたが、内部の危険度は分からない。
「そうですね。でも無理はしません」
「うん。それがいーよ。死んだら、続きが開かなくなるし」
「言い方は軽いですが、そのとおりです」
髙橋さんが、調査結果を保存する。
◇____________________
『第11層・暫定管理情報』
『暫定危険度:B-』
『一般開放条件案』
・第10層の踏破記録
・四人以上の登録パーティー
・中級以上の探索者を一名以上含む
・単独進入禁止
・ボディレコーダーの装着
・調査済み経路からの逸脱禁止
『追加対応』
・魔力中継器の増設
・帰還経路の標識設置
・第10層守護部屋への警備職員配置
____________________◇
「追加設備を設置したあと、政府の最終承認を受けます」
「第十一層の動画も、それまでは公開できませんか?」
「正式発表と同時であれば、公開可能です。映像の確認はこちらで行います」
「分かりました」
公開できない箇所を確認し、動画を編集することになる。
「うちが映ってるところ、使っていーよ」
「よろしいんですか?」
「うん。彼ピに、ちゃんと仕事してるところを見せたいから」
「素手で魔物を吹き飛ばしている場面ですが……」
「仕事してることに変わりないからね〜」
星川さんが、気にした様子もなく答える。
「それから、ミサキちゃん」
「はい」
「連絡先、交換しよ」
「私とですか?」
「うん。彼ピと行けそうなお店、教えてほしい」
「私でよければ」
二人が携帯端末を取り出し、連絡先を交換する。
「今度、ご飯も行こ」
「はい。ぜひお願いします」
「さりなでいーよ」
「では……さりなさんと呼ばせていただきます」
「うん。よろしくね、ミサキちゃん」
美咲さんとさりなさんが、揃って微笑む。
最初に抱いていた警戒は、すっかり消えているようだった。
「最後に、調査参加者の記録写真を撮影します」
髙橋さんが、ドローン型探索レコーダーを写真撮影へ切り替える。
「リンくん、こっち」
「はい」
俺の左側に美咲さん。
右側に星川さん。
シズクは美咲さんの腕へ収まり、ユキは俺の肩へ乗る。
「もう少し近付かないと、全員入りません」
髙橋さんに言われ、星川さんが美咲さんの腕へ自分の腕を絡めた。
「さりなさん?」
「友達っぽいしょ?」
「先ほど連絡先を交換したばかりです」
「もう友達じゃないの〜?」
「……友達です」
「えへへ〜よかったっ」
星川さんが、眠そうな目のまま笑う。
「撮影しますね」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキが、同時に身体を伸ばした。
撮影された写真には、国内探索者ランキング一位の星川さりなと、俺たちの新しい繋がりが記録された。




