93話「第十一層の制限解除」
第十一層の追加調査が承認されてから、二日後。
俺たちは第一層から第十層までを再び攻略し、蒼銀色の転移門へ戻ってきた。
今回も、髙橋さんと護衛職員の二人が同行している。
「こちらが、探索用の通信中継器です」
髙橋さんから渡されたのは、手のひらほどの大きさをした四本の杭だった。
「前回は、転移門から四百五十メートルほど離れた地点で通信が不安定になりました。三百五十メートルごとに一台ずつ設置してください」
「設置すれば、その先でも通信できるんですね?」
「はい。ただし、中継器同士の通信が途切れた場合は、その時点で帰還してください」
中継器を魔法鞄へ収める。
俺たちの頭上には、購入したドローン型探索レコーダーが浮かんでいた。
ボディレコーダーは、協会へ提出する正式な記録。
探索レコーダーは、動画へ使用するための映像を撮影する。
第十一層の映像はまだ公開できないが、許可が下りた時に使えるよう、記録だけは残す予定だ。
「探索レコーダーの映像も受信できています」
「通信状態に異常があれば教えてください」
「分かりました」
髙橋さんと護衛職員は、第十層で待機する。
俺と美咲さん、シズク、ユキは、蒼銀色の転移門へ入った。
◇
巨大な樹木が生い茂る、第十一層。
前回確認した転移門周辺に、魔物の姿はなかった。
◇____________________
『スライム帝王の迷宮』
『現在地:第11層』
『探索目的』
・通信中継器の設置
・階層構造の調査
・階層守護個体の発見
・第11層の攻略
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「まずは、前回到達した場所まで進もう」
「はい」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも、揃って身体を伸ばす。
前回記録した経路を進み、三百五十メートル地点で最初の中継器を設置する。
杭の先端を地面へ差し込むと、青い光が灯った。
『中継器の作動を確認しました。映像と音声に問題はありません』
「設置を完了しました。先へ進みます」
『お気を付けて』
さらに百メートルほど進んだところで、複数の魔物の反応が現れた。
「前方に魔茸人が三体。後ろには穢れた水精霊がいる」
「前回見つけた組み合わせですね」
「ああ。今度は、こちらに気付いてる」
三体の魔茸人が、手にした棍棒を持ち上げる。
後方では、穢れた水精霊が水膜を作り始めていた。
「水精霊から倒す。美咲さんは魔茸人を頼む」
「分かりました!」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
魔茸人の一体が、先頭に立つ美咲さんへ襲い掛かる。
美咲さんは棍棒を盾で受け流し、続けて迫った二体目の攻撃を黄金短剣で逸らした。
三体目が身体を震わせ、周囲へ紫色の胞子を放つ。
「シズク、風弾!」
「ぷるっ!」
シズクが放った風弾によって、毒胞子が魔茸人たちの方へ押し戻される。
その隙に、羽靴で地面を蹴理、後方にいる水精霊へ接近する。
穢れた水精霊が、俺へ向かって水弾を放った。
「ぴるっ!」
ユキの白銀鎧が、水弾の進路へ割り込む。
半透明な装甲へ水弾がぶつかり、周囲へ飛び散った。
「ありがとう!」
「ぴるるっ!」
穢れた水精霊の周囲には、水膜が張られている。
白銀短剣を突き込むが、水の流れによって刃先を逸らされた。
「『腐食』を使えば……!」
刃が触れた場所から、水膜の魔力が濁り始める。
防御力が低下した場所へ、魔鋼短剣を突き込んだ。
二本の刃が、水膜を切り開く。
穢れた水精霊が、後方へ逃れようとした。
「逃がすか!」
白銀短剣の『加速』を発動させる。
急激に速度を上げた刃が、水精霊の中心にある魔核へ届いた。
魔核が砕け、水精霊の身体が光の粒子へ変わる。
同時に、魔茸人を守っていた水膜も消えた。
「ナイスです陸斗さんっ!」
美咲さんが間髪入れず、黄金短剣を振るう。
一体目の魔核を砕き、返す刃で二体目の身体を切り開いた。
「シズク、石弾!」
「ぷるっ!」
放たれた石弾が、三体目の魔茸人を吹き飛ばす。
倒れた個体へ近付き、魔鋼短剣で魔核を砕いた。
残る一体も、美咲さんが黄金短剣で仕留める。
「ふう。終わりました」
「怪我は大丈夫?」
「はい。盾も問題ありません」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキにも、怪我はない。
ドロップ品を確認する。
穢れた水精霊から出たのは、良質な魔核だけだった。
「回復結晶の欠片は出なかったな」
「五パーセントですから、簡単には手に入りませんね」
「先へ進みながら、少しずつ集めよう」
◇
七百メートル地点へ、二台目の中継器を設置する。
さらに進んだ先では、魔樹と穢れた風精霊の集団に遭遇した。
美咲さんが前衛の魔樹を引き付け、俺とシズクが後衛の風精霊を狙う。
ユキは白銀鎧を動かし、俺たちへ迫る風刃や根槍を防いだ。
前衛と後衛のコンビネーション。
役割が分かっていれば、最初の戦闘よりも対処しやすい。
それでも、魔物の数は奥へ進むほど増えていった。
魔茸人を守る穢れた風精霊。
魔樹を回復する穢れた水精霊。
中には魔樹一体につき、風と水の精霊が付き従っている場合もあった。
「同じ相手とだけ連携するわけじゃないみたいだ」
「前衛と後衛の役割さえ合えば、組み合わせを変えられるんですね」
魔物同士の連携も、徐々に複雑になっている。
一キロ地点へ、三台目の中継器を設置した。
通信状態は安定している。
その先で、五体目となる穢れた水精霊を倒した時だった。
良質な魔核の隣へ、淡い青色に輝く透明な欠片が落ちている。
「出た……!」
欠片へ『解析鑑定』を発動させた。
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『回復結晶の欠片』
『品質:B』
『希少度:B』
『推定買取価格:120,000円』
『用途』
・回復系魔導具の素材
・一定数を集めることで回復結晶へ復元可能
・適性を持つ従魔の技能習得を補助
『適性反応』
・ユキ:適性あり
『注意』
・欠片の状態で直接取り込ませることは非推奨
・安全な使用方法の確認が必要
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「ユキ。回復結晶の欠片も、適性があるみたいだぞ?」
「ぴるるっ!」
ユキが、嬉しそうに跳ねる。
「支援結晶だけでなく、回復結晶も使える可能性があるんですね」
「うん。集めることができれば、ユキが支援と回復の両方を覚えられるかもしれない」
「ぴるるっ!」
ユキが白銀鎧を揺らしながら、俺の足へ身体を寄せる。
「すぐに使えるわけじゃないからな? 少しだけ我慢しような」
「ぴるっ!」
前回と同じように、回復結晶の欠片を魔力遮断用の小箱へ収める。
支援結晶に続き、回復結晶の欠片まで手に入った。
もしかしたらだが、ユキの『スライム幸運』が成長に必要な物を引き寄せているのかもしれない。
◇
四台目の中継器を設置したのは、転移門から1.5キロ地点だった。
そこから先は、巨大な樹木の間隔が狭くなっている。
頭上から差し込んでいた光も減り、周囲は薄暗い。
「この先に、大きな空間があります」
美咲さんが、木々の隙間を指す。
「魔物の反応もある。二体だ」
巨大な樹木の間を抜ける。
その先には、円形に開けた空間が広がっていた。
奥には、樹木の幹を組み合わせたような巨大な扉がある。
扉の前には、二体の魔物が立っていた。
一体は、全身を硬い樹皮の鎧で覆った人型の魔樹。
右腕には、巨大な木剣を握っている。
その後方に浮かんでいるのは、濁った緑色と青色の魔力を纏う精霊だった。
二体へ『解析鑑定』を発動させる。
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『第11層・階層守護個体・前衛』
『魔樹騎士』
『危険度:C+』
『属性:土・木』
『役割:前衛・防御・攻撃』
『特性』
・重硬樹皮
・守護連携
・根による振動感知
『技能』
・大枝剣
・根壁
・拘束蔦
・庇護移動
『守護対象』
・穢れた森精霊
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『第11層・階層守護個体・後衛』
『穢れた森精霊』
『危険度:C+』
『属性:風・水』
『役割:後衛・強化・回復』
『特性』
・物理攻撃耐性
・穢れた魔力体
・守護連携
『技能』
・風刃
・風纏い
・治癒水
・水膜
・状態異常軽減
『支援対象』
・魔樹騎士
『階層守護個体・総合危険度:B-』
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「二体で一組の階層守護個体……」
「魔樹騎士が前衛で、森精霊が後衛ですね」
「ああ。今まで戦った組み合わせの完成形みたいだ」
魔樹騎士を先に攻撃しても、森精霊に回復される。
森精霊を狙えば、魔樹騎士が庇う。
二体の距離は、二十メートルほど。
魔樹騎士の根が、森精霊の真下まで伸びていた。
「二体は、地面の根を通じても魔力をやり取りしてる」
「根を切れば、連携を弱められますか?」
「できると思う。まずは二体の間を切り離そう」
「どうやって切り離しますか?」
「シズクの火球で根を焼く。美咲さんは、魔樹騎士を引き付けてほしい」
「分かりました」
「ユキは、シズクを守ってくれ」
「ぴるっ!」
「シズク。根を焼いたら、次は森精霊の水膜を凍らせる」
「ぷるっ!」
魔樹騎士が、大枝剣を持ち上げた。
穢れた森精霊から風が流れ込み、巨大な身体の動きが速くなる。
「来ます!」
魔樹騎士が、一気に距離を詰めた。
大枝剣が、美咲さんへ振り下ろされる。
「くっ……!」
美咲さんが盾を斜めに構え、大枝剣を横へ逸らした。
地面へ叩き付けられた一撃によって、土と木片が舞い上がる。
直後、複数の風刃が美咲さんへ迫った。
「ぴるるっ!」
ユキの白銀鎧が移動し、二枚の装甲で風刃を受け止める。
「ありがとうねっ、ユキ!」
「ぴるっ!」
「シズク、今だ!」
「ぷるるっ!」
火球が、魔樹騎士と森精霊を結ぶ根へ落ちる。
根が赤い炎に包まれた。
魔樹騎士が、炎を消そうと地面へ蔦を伸ばす。
「行かせません!」
美咲さんが踏み込み、黄金短剣で蔦を切り払う。
『火傷』が付与された刃によって、切断された蔦にも炎が燃え広がった。
魔樹騎士と森精霊を結ぶ根が、焼け落ちる。
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『守護連携:低下』
『魔力共有:中断』
『回復効率:低下』
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「連携が弱まった! 森精霊を倒す!」
羽靴へ魔力を流し、森精霊へ向かって跳ぶ。
魔樹騎士が森精霊を庇うため、俺の進路へ割り込もうとする。
「あなたの相手は私ですよっ!」
美咲さんが盾を激しく、魔樹騎士へ叩き付ける。
大きく体勢を崩し、魔樹騎士がタタラを踏む。
魔樹騎士の進路が逸れ、森精霊へ続く道が開く。
その隙を狙い、美咲さんが黄金短剣を振るい、重硬樹皮へ『裂傷』と『火傷』を付与した。
堪らず魔樹騎士の咆哮が美咲さんへ降り注ぐ。
美咲さんはその場から大きく後退すると、無数の蔦が槍のように地面から飛び出てくる。
それを見た、穢れた森精霊が周囲へ水膜を展開する。
その内側から、無数の風刃が放たれた。
「ぴるっ!」
一枚の白銀鎧が、俺の正面へ移動する。
装甲へ風刃がぶつかる。
残る攻撃を羽靴で上昇しながら避け、水膜へ白銀短剣を突き込んだ。
「『腐食』!」
白銀短剣から、水膜へ腐食の効果が広がる。
「シズク、氷槍!」
「ぷるっ!」
シズクの側に着地した美咲さんが指示を出す。
氷槍の連弾が、水膜へ突き刺さった。
腐食によって魔力を乱された水が、一気に凍結する。
森精霊を守っていた水膜が、硬い氷へ変わった。
「これなら壊せる!」
魔鋼短剣を抜き、凍り付いた水膜へ叩き込む。
氷へ亀裂が走り、細かな破片となって砕け散った。
穢れた森精霊の魔核が露出する。
白銀短剣へ魔力を流した。
「『加速』!」
振るった刃だけが、急激に速度を上げる。
穢れた森精霊の身体を切り開き、『貫通』が中心の魔核を捉えた。
魔核へ亀裂が走る。
だが、完全には砕けていない。
森精霊が、俺から離れようとする。
「ぷるるっ!」
シズクが、風弾を放った。
風弾が森精霊の背中へ命中し、逃げようとした身体を俺の方へ押し戻す。
「ありがとう、シズク!」
白銀短剣を、亀裂の入った魔核へ突き込む。
魔核が砕け、穢れた森精霊の身体が緑色と青色の粒子へ変わった。
魔樹騎士を包んでいた風が消える。
樹皮の傷を塞いでいた治癒水も、同時に失われた。
「美咲さん!」
「はい!」
魔樹騎士が、大枝剣を両手で持ち上げる。
最後の攻撃を放つつもりらしい。
俺は白銀短剣を構え、正面から走った。
振り下ろされた大枝剣を、白銀短剣で受け流す。
『反射』が発動し、魔樹騎士自身の攻撃が三割分返された。
重硬樹皮へ亀裂が走る。
その場所へ白銀短剣を突き込み、『貫通』と『腐食』を付与する。
「今だ!」
「これで終わりです!」
美咲さんの黄金短剣が、亀裂へ振り下ろされ、『粉砕』が白銀短剣の効果によって増幅される。
重硬樹皮が砕け、その内側に隠されていた魔核へ黄金短剣が届いた。
魔核が蜘蛛の巣状にひび割れ、砕け散る。
魔樹騎士の巨大な身体が光の粒子へ変わり、周囲へ広がった。
◇____________________
『第11層・階層守護群』
『討伐:完了』
『第11層踏破:完了』
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「倒せた……!」
周囲に魔物の反応がないことを確認する。
「全員、怪我はないか?」
「はい。ありません」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも無事だ。
頭上の探索レコーダーも、戦闘を最後まで撮影している。
『討伐を確認しました! 皆さん、ご無事ですか?』
髙橋さんの声が、通信機から聞こえた。
「全員無事です。それから、新しい表示が出ました」
◇____________________
『第11層・先行攻略条件達成』
『第11層の入場条件を変更します』
『スライム系従魔・同行条件』
・解除
『探索者協会登録調査隊』
・進入可能
『一般探索者』
・現在封鎖中
・探索者協会による安全性評価後に開放可能
・第10層踏破記録が必要
『次回先行攻略対象』
・第12層
『第12層入場条件』
・条件達成者
・条件達成者と同一の登録パーティー
・条件達成者を含む登録クラン
・条件達成者を含む登録共同探索隊
・利用資格を持つスライム系従魔の同行
____________________◇
「第十一層の制限が解除されました。協会の登録調査隊だけでも入れるようです」
『本当に、一階層ずつ解除されるのですね……』
「一般探索者は、まだ入れません」
『はい。安全性を確認するまでは、協会側で封鎖します。第十二層へは進まず、帰還してください』
「分かりました」
開けた空間の奥には、二つの転移門が現れていた。
一つは、第十層へ戻る青い転移門。
もう一つは、第十二層へ続く蒼銀色の転移門。
蒼銀色の揺らぎには、王冠を載せたスライムの紋章が浮かんでいる。
「次は、第十二層か」
「ですが、今日は帰りましょう」
「ああ。ドロップ品を回収したら戻ろう」
魔樹騎士と穢れた森精霊が残した素材を魔法鞄へ収める。
俺たちは第十二層へ進まず、青い帰還用転移門へ触れた。
◇
第十層へ戻ると、髙橋さんと護衛職員が駆け寄ってきた。
「全員、怪我はありませんか?」
「はい。大丈夫です」
「映像でも確認していましたが、無事な姿を見られて安心しました」
髙橋さんが、シズクとユキの状態も確認する。
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
「シズクさんとユキさんも、問題なさそうですね」
髙橋さんが、携帯端末へ視線を落とす。
「第十一層の制限解除については、調査課でも記録しました。次は、協会職員だけで進入できることを確認します」
「正式調査を行うんですね?」
「はい。一城さんたちとは別の探索隊を編成し、第十一層へ入れるか確認します」
同じ共同探索隊へ登録した場合、シズクかユキの同行によって条件を満たした可能性が残る。
そのため、次回は俺たちと調査課の職員を、別々の探索隊として登録するらしい。
「環境や魔物の危険度も、改めて計測します。ただし、調査を優先するため、護衛には一級探索者へ協力を依頼しました」
「一級探索者……」
上級探索者よりも、さらに上に位置する特別な区分。
認定されているのは、ごく限られた探索者だけだ。
「どなたが来るんですか?」
「国内探索者ランキング一位の、星川さりなさんです」
「星川さりなさんが……?」
美咲さんが、驚いたように目を見開く。
「知ってるの?」
「詳しくはありません。ただ、国内でも有名な一級探索者です」
星川さりな。
希少度Sの武器『星皇剣』を所有する、国内探索者ランキング一位。
名前と所有武器については、以前、髙橋さんから聞いたことがある。
だが、どのような人物で、どんな戦い方をするのかまでは知らない。
俺たちが発見した第十一層の正式調査へ、国内最上位の探索者が同行することになった。




