↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
92/153

92話「顔出し」


 第十一層の初回調査を終えてから、三日後。

 クラン拠点の机には、新しく購入したドローン型探索レコーダーが置かれていた。


「これが、陸斗たちの撮影用の機体か」


 店主さんが、探索レコーダーの登録情報を確認する。


「はい。先日の調査で使った物と同じ型です」

「安い買い物じゃねえが、動画へ使うならクランの活動用機材で問題ねえな」

「ありがとうございます」


 購入費は、クランの共同口座から支払っている。

 俺や美咲さんの個人装備ではなく、動画を通じて収益を得るための撮影機材だからだ。


 円盤状の本体へ触れる。

 四枚の薄い回転翼が展開し、探索レコーダーが静かに宙へ浮かんだ。



 ◇____________________


 『ドローン型探索レコーダー』


 『所有クラン』

 ・蒼雪(そうせつ)宝珠(ほうじゅ)


 『登録管理者』

 ・一城陸斗

 ・佐伯美咲

 ・佐伯吾郎


 『機能』

 ・登録対象の自動追尾

 ・周辺映像の自動撮影

 ・障害物回避

 ・攻撃感知時の自動退避

 ・映像の本体保存

 ・登録端末への映像送信


 『登録:完了』


 ____________________◇



「ぷるっ?」

「ぴるっ?」


 シズクとユキが、浮かび上がった探索レコーダーを見上げる。

 探索レコーダーが俺の周囲を一周すると、シズクとユキも追い掛けるように身体を回した。


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


「遊ぶ物じゃないよ」

「ぷる?」

「ぴる?」


「これから、シズクとユキが戦っているところも撮影するんだ」

「ぷるるっ!」

「ぴるるっ!」


 意味が伝わったのか、シズクとユキが並んで身体を伸ばす。

 探索レコーダーは、その姿を正面から撮影していた。


「画質も問題なさそうですね」


 美咲さんが、動画編集用の端末を確認する。


「音声も、きちんと入っています」

「これなら、戦闘中も全体を撮影できそうだな」


 これまで動画へ使用していたのは、俺と美咲さんのボディレコーダーで撮影した映像だ。

 ボディレコーダーは、探索者協会へ提出する正式な記録でもある。

 未編集の映像を保存し、探索経路や魔物との戦闘、回収した素材を確認できる状態にしなければならない。


 一方、ドローン型探索レコーダーは動画撮影用だ。


 俺たちの周囲を移動しながら撮影できるため、戦闘全体を視聴者へ見せられる。


「今回の映像は、どこまで使えるんですか?」


 美咲さんの問いに、俺は髙橋さんから届いた連絡を確認する。


「第十層までなら公開してもいいみたいだ。ただ、第十一層の映像は、正式な調査が終わるまで非公開にしてほしいって書いてある」

「支援結晶の欠片も、まだ公開できませんね」

「ああ。ユキに適性があることも伏せよう」

「ぴる?」


 自分の名前が聞こえたユキが、俺の足元へ近付いてくる。


「ユキが新しい力を覚えられるかもしれないことは、まだ内緒だ」

「ぴるっ!」


 分かっているのかは不明だが、ユキが小さく身体を縮めた。


「シズクも内緒だからね」

「ぷるっ!」


 シズクまで、ユキの隣で小さくなる。


「二人とも、隠れているつもりでしょうか?」

「たぶん……」


 探索レコーダーは、並んで縮んでいるシズクとユキの姿まで撮影していた。



 ◇



 今回公開する動画は、第一層から第十層までの再攻略を中心に編集する。

 低層の移動場面は短くまとめる。


 第六層で、擬態茸を相手に新しい装備を確認した場面。

 虹晶王スライムとの再戦。


 黄金白銀双短剣を使用した部分も公開するが、詳しい能力は伏せることになった。


 結晶飴についても同じだ。

 映像を見れば、以前より俺たちの動きが速くなっていることは分かる。

 だが、強くなった正確な理由や結晶飴の摂取数は公開しない。


「問題は、最初の場面ですね」


 美咲さんが、編集画面から俺へ視線を向ける。


「顔出しの説明か」

「はい。何も言わずに陸斗さんが映ったら、皆さんも驚くと思います」


 今までの動画では、俺の顔が映った部分を編集で隠していた。

 声と活動名だけを公開し、『リン』として動画へ参加している。


 だが、グレイによって素顔と本名を晒された。

 既に俺が一城陸斗だと知っている視聴者も多い。


「最初に、俺から説明するよ」

「本当に大丈夫ですか?」

「ああ。自分で決めたことだから」


 クラン拠点に用意されている撮影用の壁を背にして、椅子へ座る。

 美咲さんが、探索レコーダーの位置を調整した。


「陸斗さんの胸元から上が映っています」

「音声は?」

「問題ありません」


 端末の画面には、耳に掛かる程度の黒髪と、中性的な顔立ちをしていると言われた自分の姿が映っている。

 自分の顔を見ながら話すのは、少し落ち着かない。


「シズクとユキにも、隣にいてもらうか」

「その方が、陸斗さんも話しやすいと思います」

「ぷるっ」

「ぴるっ」


 シズクが右側。

 ユキが左側へ移動する。


「それでは、撮影を始めます」


 美咲さんが、録画開始の表示へ触れた。

 探索レコーダーの正面へ、赤い光が灯る。


「こんにちは。リンです」


 いつもなら、ここで映るのはシズクや探索中の景色だけだ。

 今回は、俺自身が画面の中央にいる。


「これまでの動画では、顔を出さずに活動してきました。ですが、今後は俺も映像へ出ることにしました」


 一度、言葉を切る。


「先日の件で、俺の素顔や本名を知った方もいると思います。ただ、誰かに勝手に撮影された姿だけが残るのではなく、自分の意思で活動している姿を見てもらいたいと考えました」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクとユキが、俺の言葉へ同意するように身体を伸ばす。

 思わず笑みが漏れた。


「活動名は、これからもリンのままです。美咲さん、シズク、ユキと一緒に探索している姿を動画へ載せていきます。改めて、よろしくお願いします」

「ぷるるっ!」

「ぴるるっ!」


 シズクとユキが、今度は揃って跳ねる。

 美咲さんが録画を停止した。


「どうだったかな?」

「良かったと思います。もう少し堅い内容になるかと思っていましたが、シズクとユキのおかげで自然な雰囲気になりました」

「二人がいてくれて助かったよ」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


「それでは、私の挨拶も続けて撮影します」


 美咲さんが俺の隣へ座る。

 探索レコーダーの位置が自動的に変わり、俺と美咲さん、シズク、ユキが一つの画面へ収まった。


「これが、今後の基本的な撮影位置になりそうだな」

「はい。探索中は、もっと離れた場所から撮影することになりますけどね」



 ◇



 編集を終えた動画は、翌日の午後に公開した。


 動画の題名は、


『リン、顔出しします。新装備で虹晶王スライムへ再挑戦』


 公開してから一分も経たないうちに、再生数とコメントが増え始める。


『リン、本当に顔出ししたの!?』


『男性だったのか!』

『いや、顔が綺麗すぎるだろ』

『ミサキと同じくらいの身長……最初、女の人かと思った』

『中性的なイケメンってやつか』

『いや、男の娘も捨てがたい』

『本人が男だって言ってるんだから、そこは尊重しろよ』

『グレイの盗撮で見るのと、自分で出した動画では全然印象が違うな』

『無理やり晒されたのに、自分から出ると決めたのは応援したい』

『シズクとユキに挟まれてるの可愛すぎる』

『リンまでスライムに見えてきた』


「俺はスライムじゃないんだけど……」

「雰囲気のことではないでしょうか?」


 隣でコメントを確認していた美咲さんが、小さく笑う。


『リンとミサキが並ぶと、俳優と女優みたい』

『この二人、本当に付き合ってないの?』

『距離が近いんだよなあ』


「……探索パーティーなのですから、このくらい普通ですよね?」


 美咲さんが、僅かに顔を赤くしながら尋ねる。


「えっと、そうだな」

「そ、そうですよね」


 俺も少し頬が熱い。

 美咲さんが、赤い顔のまま画面へ視線を戻した。


「ぷる?」

「ぴる?」


 シズクとユキが、俺たちを交互に見る。


「どうした?」

「ぷるっ」

「ぴるっ」


 何か分かっているような反応をされた。


 コメントは、虹晶王スライムとの戦闘が始まると、さらに増えていく。


『前より動き速くなってない?』

『白銀短剣と黄金短剣、絶対に普通の武器じゃないだろ』

『ミサキの盾さばきが上級者みたいになってる』

『リン、解析担当なのに前衛までできるのか』

『シズクの四属性、やっぱり強い』

『ユキの浮いてる盾みたいな装備も格好いいな』


 詳しい能力を伏せても、以前より強くなっていることは伝わったらしい。

 動画の最後には、第十層の奥に何かがあるとは説明せず、


『新しい調査依頼の準備中』


 とだけ表示している。

 その一文へ反応する視聴者も多かった。


『次はどこへ行くんだ?』

『まさか新しい希少区域?』

『またリンにしか見えない場所を見つけたのか』

『公開できるようになったら教えてほしい』


 現時点では、答えられない。

 第十一層の存在や、先行調査の結果を公表する時期は、探索者協会が決めることになっている。


「再生数、かなり増えていますね」

「ああ。顔を出しただけで、ここまで変わるとは思わなかった」

「これからは、陸斗さん自身へ向けた感想も増えると思います」

「慣れるまで時間が掛かりそうだな……」


「大丈夫です。困るようなコメントがあれば、私とお父さんで確認します」

「ありがとう」


 グレイの時のように、批判的な意見を全て消すつもりはない。

 だが、繰り返し他人へ絡む者や、個人情報を書き込む者は放置しない。


 美咲さんと店主さんが管理へ加わってくれているため、俺一人で判断する必要もなかった。



 ◇



 動画を公開した翌日。

 クラン拠点へ、髙橋さんが訪れた。


「第十一層で回収された、支援結晶の欠片についてご報告します」


 髙橋さんが、密封された小箱を机へ置く。

 中には、淡い緑色に輝く支援結晶の欠片が収められていた。


「外部へ有害な魔力を放出していないことを確認しました。通常の保管状態であれば、触れても問題ありません」

「俺の『解析鑑定』で表示された内容とも、食い違いはなかったんですね」

「はい。さらに、ユキさんの登録された魔力情報と照合したところ、弱い共鳴反応も確認されました。一城さんの解析どおり、支援系技能への適性があると考えられます」


「ぴるっ!」


 自分のことだと分かったようで、ユキが嬉しそうに身体を伸ばす。


「ただし、解析結果にもあったとおり、欠片のままでは効果を発揮できません」

「一定数を集めて、完全な支援結晶に復元してからですね」


 シズクの場合は欠片でも良かったが、今回は違うらしい。

 攻撃系の結晶と、支援系の結晶では扱いが違うのかも知れなかった。


「はい。ですが、必要な欠片の数と復元方法までは判明していません」

「俺の解析でも、『一定数』としか表示されませんでした。もしかしたら、欠片が増えれば追加情報が表示されるかも知れません」

「協会でも、追加の欠片を入手できれば、結晶の構造を比較する予定です」


「ぴる……」


 すぐには使えないと分かり、ユキが、小箱を見ながら身体を縮める。


「今は一つしかないけど、これから集めていけばいこうな」

「ぴるっ!」


 俺がそう伝えると、ユキは元気よく返事をし、肩へと移動してきた。


「回復結晶の欠片についても、同じ仕組みである可能性があります」


 穢れた水精霊から、五パーセントの確率で落ちる素材。

 支援結晶と回復結晶。


 二つを集められれば、ユキが支援と回復の両方を覚えられるかもしれない。


「それから、第十一層の追加調査計画が承認されました」


 髙橋さんが、携帯端末へ森林地帯の地図を表示する。


「初回調査で通信が不安定になった地点へ、探索用の中継器を設置します。以降は中継器を増やしながら、階層守護個体のいる場所を探していただきます」

「階層守護個体を倒せば、第十一層の制限が解除されるんですよね?」

「はい。迷宮入口の転移門に表示された情報が正しければ、第十一層へ調査隊だけで進入できるようになります」


 そうなれば、俺たちが毎回案内しなくても、探索者協会による本格的な調査が可能になる。


「制限解除後の調査には、護衛を兼ねた上位探索者も同行する予定です」

「もう決まっているんですか?」

「現在、協会から正式に依頼を出しています」


 髙橋さんは、まだ探索者の名前を口にしなかった。


「まずは、一城さんたちに第十一層を攻略していただく必要があります」

「分かりました」


 第十一層に現れる、コンビネーションを使ってくる魔物。


 その魔物が落とす、支援結晶と回復結晶。

 まだ見たことのない階層守護個体。

 俺たちの次の目的は、第十一層を攻略し、最初の制限を解除することだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。