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91話「コンビネーションを使ってくる魔物」


 探索者協会本部の地下にある転移門を抜ける。


 俺と美咲さん、シズク、ユキ。

 その後ろには、髙橋さんと護衛職員の二人が同行していた。


 第十一層へ向かうには、第一層から第十層までを通過しなければならない。

 既に何度も攻略した階層だ。


 『解析鑑定』で最短経路を表示し、第一層の守護部屋を目指す。



 ◇



 守護部屋では、再出現した(レッド)スライムが待っていた。

 俺たちの姿を見つけた火スライムが、赤い身体を大きく膨らませる。


 だが、火球が作られるよりも先に羽靴で床を蹴った。

 一気に距離を詰め、白銀短剣を振るう。


 『貫通』を付与された刃が赤い身体を切り開き、そのまま魔核を砕いた。

 火スライムが、無数の光へ変わる。


「一撃……」


 護衛職員の一人が、小さく呟いた。

 探索者になったばかりの頃は、何度も攻撃を避けながら倒した階層守護個体だ。

 今では、攻撃させる前に倒せる。


「先へ進みましょう」

「はい」


 第二層から第五層も、立ち止まらずに進んだ。

 遭遇した魔物だけを倒し、各階層の守護個体も短時間で討伐する。

 新しい装備の本格的な確認は、第六層で行う予定だった。



 ◇



 第六層へ到着する。

 周囲に生えている茸の中へ、一体だけ異なる反応が混ざっていた。


「前方に擬態茸がいる」


 普通の茸へ紛れている個体へ、『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『擬態茸(ミミックマッシュ)


 『状態:擬態中』


 『攻撃対象』

 ・佐伯美咲


 ____________________◇



 美咲さんが狙われている。

 そう伝えようとした時、美咲さんが身に着けている危険感知の耳飾りが、小さく震えた。

 淡い赤色の光が、耳元で明滅する。


「___っ!」


 美咲さんが、迷わず斜め後ろへ跳ぶ。

 直後、普通の茸にしか見えなかった擬態茸が大きく膨らんだ。

 擬態茸から放たれた攻撃が、直前まで美咲さんの立っていた場所を通り抜ける。


「すごい……」

「危険感知の耳飾りのおかげで反応出来ました」


 前回、美咲さんを負傷させた奇襲。

 それを今回は、余裕を持って回避できている。


「攻撃の方向まで分かった?」

「正確な方向までは分かりません。ただ、危険が迫っていることは伝わりました。擬態茸の動きを見れば、避けるには十分です」


 奇襲を避けられた擬態茸が、今度は身体を晒したまま攻撃してくる。


「次は、盾で受けます!」


 美咲さんが、複合防護の軽盾を構える。

 擬態茸の攻撃が盾へぶつかり、硬い音を響かせながら横へ逸れた。

 美咲さんの身体は、僅かに後ろへ動いただけだった。


「衝撃は?」

「問題ありません! 以前の盾より、かなり使い勝手が良いです!」


 擬態茸が、再び美咲さんへ攻撃を向ける。

 その側面へ回り込み、魔鋼短剣を振るう。

 以前使っていた鋼短剣よりも取り回しがしやすい。

 更新した軽鎧や手甲が動きを妨げることもなかった。


 魔鋼短剣の刃が、擬態茸の身体へ深く食い込む。


「美咲さん、今だ!」

「はい!」


 美咲さんが軽盾を引き、黄金短剣を構えて踏み込む。

 黄金色の刃が、俺の切り開いた場所へ突き刺さった。


 擬態茸の魔核が砕ける。

 身体が光の粒子へ変わり、その場には良質な魔核が残された。

 白銀短剣もそうだが、魔鋼短剣もかなりの性能だ。


「余裕を残して倒せたな」

「はい。前回は攻撃を受けてしまいましたが、今回は問題ありませんでした」


 美咲さんが、複合防護の軽盾を確認する。


「盾も鎧も、今のところ違和感はありません」

「俺の防具と魔鋼短剣も大丈夫そうだ」


 魔核を拾い、魔法鞄(マジックバック)へ収める。

 内部で自動的に固定され、歩いても魔核が動く感触はなかった。


「魔法鞄も問題ないようですね」

「かなり高性能な鞄みたいだし、かなり使いやすいよ」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクとユキも、装備確認が終わったことへ返事をする。

 髙橋さんは、携帯端末へ戦闘結果を記録していた。


「一城さんも佐伯さんも、以前の探索映像より動きが大きく向上していますね」

「結晶飴と装備のおかげだと思います」

「詳しい評価は、第十層の戦闘を確認してからお伝えします」

「分かりました」


 第六層で装備の使い心地を確認したあとは、第七層から第九層まで一気に駆け上がった。

 そして俺たちは、第十層の階層守護個体が待つ部屋の前へ到着した。



 ◇



 守護部屋の扉は、以前と同じように閉じていた。

 内部には、復活した虹晶王スライムの反応がある。



 ◇____________________


 『第10層・階層守護個体』


 『虹晶王(プリズムキング)スライム』


 『危険度:B-』


 『状態:再出現』


 『第10層踏破記録:確認済み』


 ____________________◇



「やはり、虹晶王スライムが復活しています」

「前回の個体とはどうですか?」

「能力に大きな違いはなさそうだ。前回の攻略方法が使えると思う」

「分かりました」


 髙橋さんたちは、守護部屋の外で待つことになっている。

 同行者を増やせば、その分だけ虹晶王スライムの攻撃対象も増える。

 未知の第十一層を調査する前に、負傷者を出すわけにはいかない。


「守護部屋へ入る前に、こちらを使用します」


 髙橋さんが、専用の収納箱から円盤状の機器を取り出した。

 四枚の薄い回転翼が展開し、淡い魔力の光を放ちながら宙へ浮かぶ。


「これは?」

「調査課で使用する、ドローン型の探索レコーダーです。指定した探索者を自動で追尾し、周囲の映像をこちらの端末へ送信できます」


 髙橋さんが携帯端末を操作する。

 探索レコーダーが俺の周囲を一周し、数メートル離れた頭上で停止した。

 髙橋さんの端末には、俺たちの姿が映っている。


「守護部屋の外からでも、映像を確認できるんですか?」

「はい。通信が途切れた場合も、映像は探索レコーダー本体へ保存されます」


「魔物に狙われる可能性はありますか?」

「自動回避機能はありますが、絶対に攻撃されないとは限りません。その場合は、探索レコーダーを庇わず、皆さんの安全を優先してください」

「分かりました」


「ボディレコーダーは、これまでどおり協会へ提出する一次記録です。探索レコーダーは、戦闘全体を確認するための補助記録として使用します」


「私と護衛職員は、こちらで映像を確認します。戦闘終了後に扉が開いたら合流します」

「それでは、行ってきます」

「お気を付けて」


 俺と美咲さん、シズク、ユキが守護部屋へ入る。

 頭上を飛ぶ探索レコーダーも、俺たちのあとに続いた。


 扉が閉じる。

 守護部屋の中央にいた虹晶王スライムが、巨大な身体を持ち上げた。



 ◇



 虹晶王スライムの攻撃方法は、前回の戦闘で分かっている。


「最初は毒霧! シズク、風弾(ウインドバレット)!」

「ぷるっ!」


 紫色の毒霧を、シズクの風弾が吹き飛ばす。

 続いて流れ出した強酸へ、氷槍(アイスランス)を撃ち込んだ。


 凍結した強酸膜が、音を立てて砕ける。

 虹晶外殻から放たれた結晶針が、シズクへ迫った。


「ぴるっ!」


 ユキの左右に浮かぶ白銀鎧が、シズクの前へ移動する。

 半透明な二枚の装甲へ結晶針がぶつかり、硬い音を響かせた。


「ぷるっ!」

「ぴるるっ!」


 シズクがお礼を伝えるように身体を伸ばす。

 ユキも嬉しそうに白銀鎧を揺らした。


「次は虹晶外殻です!」


「シズク、火球(ファイアボール)!」

「ぷるっ!」


 火球が、虹晶外殻の正面を急激に加熱する。

 最後に放たれた石弾(ストーンバレット)が、熱せられた一点へ直撃した。


 透明な外殻へ亀裂が走る。

 前回よりも、外殻が砕けるまでの時間が短い。

 四属性の防護が消え、中心にある虹色の王核が露出した。


「美咲さん!」

「はい!」


 俺は白銀短剣を抜き、羽靴で床を蹴る。

 美咲さんも軽盾を探索者ベルトへ固定し、黄金短剣を構えて走り出した。

 二本の短剣が、同時に光を放つ。



 ◇____________________


 『双短剣共鳴:発動』


 ____________________◇



 虹晶王スライムが、俺を迎え撃つように身体を伸ばす。

 迫ってきた身体を白銀短剣で受け流す。

 刃へ衝撃が伝わると同時に、『反射』が発動した。


 虹晶王スライム自身の攻撃が三割分返され、身体が僅かに揺れる。

 その隙に白銀短剣を突き込み、『貫通』と『腐食』を付与した。


「今だ!」

「終わりです!」


 俺が切り開いた場所へ、黄金短剣が振り下ろされる。

 黄金短剣の『粉砕』が、白銀短剣の『貫通』と『腐食』によって増幅された。


 王核へ大きな亀裂が走る。

 美咲さんが、もう一歩踏み込んだ。


「はあっ!」


 黄金短剣の刃が、王核を完全に砕く。

 虹晶王スライムの身体が虹色の光へ変わり、守護部屋の中へ広がった。



 ◇____________________


 『第10層・階層守護個体』


 『討伐:完了』


 ____________________◇



「前回より、かなり早く倒せたな」

「はい。融合後の動きが分かっていたこともありますが、短剣の力も大きいですね」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクとユキも、無事に戦闘を終えられたことを喜んでいる。

 頭上では、探索レコーダーが俺たちを見下ろすように停止していた。

 今回残されたのは、良質な魔核だけだった。


 虹晶石は出ていない。

 前回が希少ドロップだったことを考えれば、当然だろう。


 守護部屋の扉が開く。

 髙橋さんと護衛職員が、すぐに中へ入ってきた。


「皆さん、怪我はありませんか?」

「ありません」

「私たちも大丈夫です」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


「戦闘映像も、問題なく確認できました」


 髙橋さんが、端末から俺へ視線を移す。


「一城さん」

「はい」

「今後、一城さんを単純な生産支援職として扱うべきではないと思います」

「俺をですか?」


「はい。先ほどの戦闘では、虹晶王スライムの攻撃を正面から受け流しながら、魔核へ接近していました。身体能力だけでなく、戦闘中の判断力や武器の扱いも向上しています」


 古戦場から戻ったあと、黄金と白銀の結晶飴は、探索者協会で安全検査を受けた。

 摂取できるのは、一日一個まで。


 俺と美咲さんは十日間を掛け、分け合った黄金の結晶飴と白銀の結晶飴を、それぞれ五個ずつ摂取している。


 黄金の結晶飴によって、筋力を中心とした身体能力が上昇。

 白銀の結晶飴によって、耐久力や防御に関係する能力も上昇していた。


「これまでの訓練記録と、先ほどの戦闘を合わせて評価した場合、一城さんの戦闘能力は中級探索者に相当します」

「中級探索者……」


 探索者になったばかりの頃は、スライムの攻撃を避けるだけで精一杯だった。

 今では、危険度B-の階層守護個体へ接近し、短剣で攻撃できている。


「正式な階級は、昇級試験を受けなければ変わりません。ただ、調査計画を作成する際は、戦闘可能な複合職として扱った方が実態に合っています」

「複合職ですか?」

「解析、調査、生産支援。そして近接戦闘をこなす事が出来るマルチプレイヤーの探索者の事です」


 髙橋さんが、続いて美咲さんを見る。


「佐伯さんも、現在の能力は上級探索者に相当します」

「私もですか?」

「はい。もともと中級探索者として十分な経験をお持ちでした。結晶飴による身体能力の上昇、黄金短剣を含めた装備更新。各階層の守護個体との戦闘経験を積まれた事で、ワンランク探索者として器が上がったと推測します」


 美咲さんが、自分の手を見る。


「ただし、結晶飴に関する情報は、引き続き閲覧制限の対象なので、秘匿をお願いします」

「はい。動画では、強くなった理由を公開しません」

「お願いします。摂取数や詳しい効果が知られれば、結晶飴を狙う者が現れる可能性がありますから」


 髙橋さんの端末には、探索レコーダーが撮影した戦闘映像が残っている。

 協会内部での能力評価には使用するが、結晶飴に関する部分は機密情報として管理されることになった。



 ◇



 守護部屋の奥では、蒼銀色の転移門が静かに揺らいでいた。

 王冠を載せたスライムの紋章も、以前と変わらない。


「ここから先は、俺たちだけで行きます」

「はい」


 髙橋さんが、探索レコーダーの映像を確認する。


「探索レコーダーは、そのまま一城さんを追尾させます。第十一層でも映像を受信できるか確認します」

「通信が切れた場合は?」

「探索レコーダーとボディレコーダーの両方へ映像が保存されます。ただし、通信不能を確認した時点で帰還してください」

「分かりました」


「初回調査は、転移先から半径五百メートル以内。最大六十分です。無理に上限まで進む必要はありません」

「危険を感じたら、すぐに戻ります」


 髙橋さんと護衛職員は、第十層で待機する。

 俺と美咲さん、シズク、ユキは、蒼銀色の転移門へ近付いた。


「行こう」

「はい」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 最初に俺が転移門へ触れる。

 身体が蒼銀色の光に包まれ、周囲の景色が切り替わった。



 ◇



 最初に感じたのは、湿った土と植物の匂いだった。

 頭上を覆うのは、何十メートルもある巨大な樹木。

 太い枝と葉が空を覆い、その隙間から緑色を帯びた光が差し込んでいる。

 地面には苔が広がり、見たことのない形をした茸も生えていた。


 少し遅れて、美咲さん、シズク、ユキが転移してくる。

 最後に、ドローン型探索レコーダーが蒼銀色の揺らぎを抜けた。

 探索レコーダーは俺たちの頭上まで移動し、撮影を続けている。


『一城さん。映像と音声を確認できていますか?』


 ボディレコーダーの通信機から、髙橋さんの声が聞こえた。


「はい。聞こえています。転移門の周囲に、魔物の反応はありません」

『分かりました。調査開始時刻を記録します』



 ◇____________________


 『スライム帝王の迷宮』


 『現在地:第11層』


 『初回調査を開始』


 『経過時間:0分00秒』


 『転移門からの距離:0メートル』


 ____________________◇



「森林地帯みたいですね」

「ああ。これまでの階層とは、明らかに環境が違う」


 木々の間には、人が通れるほどの隙間がある。

 だが、地面から伸びた根が複雑に絡み合い、足場は悪い。


「最初は百メートルまで進んでみよう」

「分かりました」


 転移門の位置を記録し、俺たちは森の中へ入った。



 ◇



 百メートルほど進んだところで、地面を這っていた根が動いた。


「止まって!」


 全員が足を止める。

 一本の根が土の中へ潜り、前方にある巨大な樹木まで続いていた。

 幹に刻まれていた二つの窪みが、赤い光を放つ。


 樹木が、自らの根を引き抜きながら立ち上がった。

 その後方には、濁った緑色の風を纏う小さな人影が浮かんでいる。


 二体へ『解析鑑定』を発動させた。



 ◇____________________


 『魔樹(トレント)


 『危険度:C-』

 『属性:土・木』

 『役割:前衛・攻撃』


 『特性』

 ・硬質樹皮

 ・根による振動感知

 ・樹木擬態


 『攻撃』

 ・枝槌

 ・根槍

 ・拘束蔦


 『ドロップ』

 ・良質な魔核:100%

 ・堅木樹:25%


 ____________________


 『(けが)れた風精霊』


 『危険度:D+』

 『属性:風』

 『役割:後衛・支援』


 『特性』

 ・物理攻撃耐性

 ・穢れた魔力体


 『技能』

 ・風刃

 ・風纏い

 ・飛び道具偏向


 『連携対象』

 ・魔樹


 『ドロップ』

 ・良質な魔核:100%

 ・風精核:25%

 ・支援結晶(サポートクリスタル)の欠片:5%


 ____________________◇



「魔樹が前衛。後ろにいる風精霊が支援役だ」

「魔物同士で役割を分けているんですか?」

「そうみたいだ。風精霊が、魔樹の移動速度と攻撃速度を上げてる」


 穢れた風精霊が両腕を広げる。

 濁った風が魔樹を包み、巨大な身体が急に軽くなったように動き始めた。


「来ます!」


 魔樹の根が、地面を突き破る。


「ぴるっ!」


 ユキの白銀鎧が地面近くへ移動し、伸びてきた根槍を受け止めた。

 美咲さんも軽盾を構え、横から振るわれた太い枝を受け流す。


「後ろの風精霊から倒す!」

「分かりました!」


「シズク、氷槍(アイスランス)!」

「ぷるっ!」


 シズクが放った氷槍が、穢れた風精霊へ迫る。


 だが、風精霊の周囲を流れる風によって軌道を逸らされ、近くの樹木へ突き刺さった。


「飛び道具を逸らされました!」

「俺が近付く!」


 羽靴へ魔力を流し、地面から伸びてきた根を跳び越える。

 魔樹が進路を塞ぐように身体を動かした。


「こちらは任せてください!」


 美咲さんが軽盾を魔樹へぶつける。

 大きく体勢を崩すことはできない。


 それでも、魔樹の注意が美咲さんへ向いた。

 その横を抜け、穢れた風精霊へ近付く。

 風刃が三方向から迫った。


「ぴるるっ!」


 一枚の白銀鎧が、俺の左側へ移動する。

 風刃が装甲へぶつかり、細かな光となって弾けた。

 残る二枚を身体を捻って避ける。


「ありがとう、ユキ!」

「ぴるっ!」


 白銀短剣を抜き、『加速』を発動させる。

 俺の腕ではなく、振るった白銀短剣の刃だけが急激に速度を上げた。


 穢れた風精霊を守っていた風の膜へ、刃が突き刺さる。

 物理攻撃耐性によって、最初の一撃は浅い。

 それでも、『腐食』が風の膜へ広がった。


「今なら通る! シズク、もう一度だ!」

「ぷるるっ!」


 二本目の氷槍が放たれる。

 弱まった風の膜を突き抜け、穢れた風精霊の身体へ命中した。


 濁った緑色の身体が凍り付く。

 その中心へ、白銀短剣を突き込んだ。


 『貫通』が魔核を捉える。

 魔核が砕け、周囲を流れていた風が消えた。

 同時に、魔樹を包んでいた風纏いも解除される。


「動きが遅くなりました!」


 美咲さんが、魔樹の枝槌を軽盾で逸らす。


「シズク、幹の中央へ火球(ファイアボール)!」

「ぷるっ!」


 火球が魔樹の幹へ命中する。

 硬い樹皮が焼け落ち、その内側にある魔核が露出した。


「見えました!」


 美咲さんが踏み込む。

 黄金短剣が焼けた樹皮を切り開き、魔核を砕いた。

 魔樹の身体が傾き、地面へ倒れる前に光の粒子へ変わっていく。


「他にはいないな」


 周囲へ別の魔物がいないことを確認する。

 探索レコーダーは、俺たちの斜め上から戦闘を撮影していた。


『戦闘終了を確認しました。全員、無事ですか?』


「怪我はありません」

「私たちも大丈夫です」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


『その場でドロップ品を確認したあと、必要であれば一度帰還してください』

「分かりました」


 魔樹が消えた場所には、魔核と黒い堅樹が残されている。


 穢れた風精霊がいた場所には、魔核と小さな透明の欠片。

 小さな欠片は淡い緑色の光を放っていた。

 風精核は出ていない。


 どうやら確率の低い、五パーセントの希少ドロップが出たみたいだ。


「支援結晶の欠片……」


 透明の欠片へ、『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『支援結晶(サポートクリスタル)の欠片』


 『品質:B』

 『希少度:B』

 『推定買取価格:120,000円』


 『用途』

 ・支援系魔導具の素材

 ・一定数を集めることで支援結晶へ復元可能

 ・適性を持つ従魔の技能習得を補助


 『適性反応』

 ・ユキ:適性あり


 『注意』

 ・欠片の状態で直接取り込ませることは非推奨

 ・安全な使用方法の確認が必要


 ____________________◇



「ユキに適性のあるアイテムだ」

「ぴる?」


 ユキが、自分を指すように身体を伸ばす。


「この欠片を集めれば、ユキが支援技能を覚えられるかもしれないぞ」

「ぴるっ!」


 ユキが嬉しそうに跳ねる。

 だが、すぐに欠片へ近付こうとしたため、両手で抱き上げた。


「まだ触っちゃダメだぞユキ。協会で安全性を調べてもらってからだ」

「ぴる……」


「使えないと決まったわけじゃないからな?」

「ぴるっ!」


 支援結晶の欠片を魔力遮断用の小箱へ入れ、魔法鞄へ収める。

 五パーセントの確率でしか手に入らない物が、最初の戦闘で出た。

 もしかすると、ユキの『スライム幸運』が影響したのかもしれない。


「初回の目的は、入口周辺の魔物を確認することだ。もう少しだけ進んでみよう」

「はい。ただし、無理に戦わず、観察を優先しましょう」



 ◇



 転移門から三百メートルほど進んだところで、前方から複数の足音が聞こえた。

 太い樹木の陰へ隠れ、音の正体を確認する。

 歩いていたのは、人型に近い身体を持つ三体の茸。


 その後ろには、濁った水で作られた小さな人影が浮かんでいた。



 ◇____________________


 『魔茸人(マッシュマン)


 『危険度:D+』

 『属性:土・毒』

 『役割:前衛・攻撃・妨害』


 『技能』

 ・棍棒打撃

 ・毒胞子

 ・麻痺胞子


 『連携対象』

 ・穢れた水精霊


 『ドロップ』

 ・良質な魔核:100%

 ・珍味の茸:40%


 ____________________


 『(けが)れた水精霊』


 『危険度:D+』

 『属性:水』

 『役割:後衛・回復・支援』


 『特性』

 ・物理攻撃耐性

 ・穢れた魔力体


 『技能』

 ・水弾

 ・治癒水

 ・水膜

 ・状態異常軽減


 『連携対象』

 ・魔茸人


 『ドロップ』

 ・良質な魔核:100%

 ・水精核:25%

 ・回復結晶(ヒールクリスタル)の欠片:5%


 ____________________◇


「今度は、茸の魔物と水精霊ですか?」

「魔茸人が前衛。水精霊が回復役みたいだ」


 一体の魔茸人には、身体の一部が欠けたような痕があった。

 穢れた水精霊が、その個体へ手を向ける。

 淡い水が魔茸人の身体を包み、欠けていた部分を少しずつ塞いでいった。


「本当に回復していますね」

「魔樹と風精霊だけじゃない。第十一層の魔物は、役割を分けて行動してるのかもしれない」


 三体の魔茸人を相手にしながら、水精霊から先に倒す必要がある。

 先ほどよりも、戦闘の難易度は高い。


「今回は戦わずに戻ろう」

「私も、その方がいいと思います。魔物の種類と連携方法は確認できました」


 魔茸人たちに気付かれないよう、来た道を戻る。

 その途中で、探索レコーダーの動きが僅かに乱れた。


『……城さん……映像に……乱れが……』


 髙橋さんの声にも雑音が混ざる。

 距離を確認する。



 ◇____________________


 『転移門からの距離:458メートル』


 『通信状態:不安定』


 『推奨』

 ・即時帰還


 ____________________◇



「通信が不安定になった。ここで調査を終える」

「はい。転移門へ戻りましょう」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 帰路では魔物との戦闘を避け、表示した経路を進む。

 やがて木々の間へ、蒼銀色の転移門が見えてきた。



 ◇____________________


 『第11層・初回調査結果』


 『調査時間:47分16秒』


 『最大到達距離:458メートル』


 『確認した魔物』

 ・魔樹(トレント)

 ・穢れた風精霊(アンチシルフ)

 ・魔茸人(マッシュマン)

 ・穢れた水精霊(アンチアクア)


 『確認事項』

 ・前衛と後衛による集団行動

 ・魔物同士の強化

 ・魔物同士の回復

 ・採取可能な植物素材あり

 ・通信可能範囲に限界あり

 ・帰還経路:異常なし


 『初回調査:完了』


 ____________________◇



「最初の調査としては、十分だ」

「戻りましょう」


 俺たちは蒼銀色の転移門へ触れ、第十層へ帰還した。



 ◇



「お帰りなさい」


 転移直後、髙橋さんが駆け寄ってきた。

 護衛職員の二人も、周囲へ魔物が現れていないことを確認している。


「全員、怪我はありません」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


「映像で確認していましたが、直接お顔を見るまでは安心できませんでした」


 髙橋さんが、僅かに息を吐く。


「第十一層の魔物は、前衛と後衛へ役割を分けているのですね」

「はい。魔樹を風精霊が強化していました。魔茸人の集団には、回復を担当する水精霊が付いています」

「一体ずつの危険度だけで判断するべきではない、ということですね」

「集団として評価した方がいいと思います」


 魔法鞄から、支援結晶の欠片が入った小箱を取り出す。


「それから、穢れた風精霊から、これが出ました」

「結晶の欠片ですか?」

「支援結晶の欠片です。ユキに適性があると表示されました」

「ぴるっ!」


「従魔の支援技能を習得するための素材……」


 髙橋さんが、小箱越しに欠片を確認する。


「安全性と使用方法について、協会で検査させてください」

「お願いします。それまでは、ユキに触れさせません」

「ありがとうございます」


 支援結晶の欠片は、検査のため協会へ一時的に預けることになった。

 今回確認した穢れた水精霊からは、回復結晶の欠片が落ちる可能性もある。

 二種類の結晶が、ユキの新しい力へつながるかもしれない。



 ◇



 地上へ戻ったあと、調査課の確認室で探索レコーダーの映像を見る。

 俺や美咲さんのボディレコーダーとは、見える範囲が大きく違っていた。


 上空から撮影されているため、魔樹と穢れた風精霊の位置。

 美咲さんが前衛を引き付け、俺が後衛へ回り込んだ動き。


 シズクとユキが俺たちを援護した場面まで、全体を確認できる。


「分かりやすい映像だな……」

「ボディレコーダーだけでは、ほかの人がどのように動いているか分かりにくいですからね」


 美咲さんも、画面へ映る戦闘を見つめている。


「今回使った探索レコーダー、俺たちも購入しないか?」

「動画の撮影に使うんですか?」

「ああ。それと、これからは俺も姿を隠さず、動画へ出ようと思う」

「陸斗さん、本当にいいんですか?」


 美咲さんが、心配そうに俺を見る。


「グレイに素顔を晒されたからといって、無理に顔を出す必要はありませんよ」

「無理をしてるわけじゃない。隠し撮りされた映像だけが残るより、自分の意思で動画へ出たいんだ」

「ですが、今まで以上に注目されるかもしれません」

「それも分かってる。それでも、これからはシズクやユキ、美咲さんと一緒に戦ってる姿を、きちんと見てもらいたい」


 勝手に素顔を撮影され、本名まで広められた。

 だが、それによって、これから先の活動まで決められたくはない。

 少し迷ったあと、美咲さんが頷く。


「……陸斗さんが考えて決めたことでしたら、私は止めません」

「ありがとう。ただ、活動名は今までどおり『リン』を使うつもりだ」

「はい。その方がいいと思います。視聴者の皆さんにも、リンさんの名前で覚えられていますから」


「じゃあ、クラン用の撮影機材として購入しよう」

「映像の編集は、私も手伝います」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクとユキも、自分たちが映っている画面へ向かって身体を伸ばす。

 ボディレコーダーは、探索者協会へ提出するための正式な記録。

 ドローン型探索レコーダーは、俺たちの活動を視聴者へ伝えるための映像。


 これから公開する探索動画では、俺も『リン』として、仲間たちと同じ画面へ映ることになる。

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