9話「動画の視聴者は店主の娘でした」
翌朝、目を覚まして最初に動画アプリを確認する。
「増えてる……」
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再生回数:117回
登録者数:19人
コメント:11件
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眠っている間にも、動画を見てくれた人がいたらしい。
新しいコメントへ目を通す。
『初心者向けなのに、ちゃんと注意点まで説明していて助かる』
『鉄鉱石って一層にもあるんですね』
『声がかわいい。女性探索者さん?』
『身元保護の音声変換だと思う』
『でも元の声も高そう』
『結局、男性と女性のどっちなんだろう?』
素材や探索方法より、声について話している人のほうが多くなっていた。
「そこまで女性っぽいかな……」
身元を隠すという目的は果たせている。
性別まで勘違いされるとは思わなかったが、動画内で個人情報を明かす必要もないだろう。
少し考え、コメント欄へ短く返信する。
『ご想像にお任せします』
「これなら、嘘は言ってないよな」
男だと明かせば、それだけで身元が特定される可能性を少し上げてしまう。
視聴者が楽しんでくれているなら、このままでもいい気がした。
身支度を整え、新しいボディレコーダーとピッケルを持って探索者協会へ向かった。
◇
「おはようございます」
「おう、兄ちゃん。昨日の動画はどうだった?」
探索者ストアへ入ると、店主がすぐに尋ねてきた。
「再生回数が百回を超えていました。登録者も十九人です」
「初投稿なら上出来じゃねえか」
「ただ、声のせいで女性だと思われているみたいです」
「ははっ! 確かに加工後の声は高かったからな」
スマートフォンを取り出し、返信したコメントを見せる。
「それで、『ご想像にお任せします』と返しておきました」
「兄ちゃん、分かってるじゃねえか」
「何がですか?」
「分からない部分があったほうが視聴者は気になる。配信者に向いてるかもな」
「そうなんでしょうか……」
苦笑していると、店の入口が勢いよく開いた。
「お父さーん!」
明るい声と共に、若い女性が店内へ入ってくる。
肩まで伸びた栗色の髪を、後ろで一つに束ねている。
腰には、半透明の青い刃を持つ短剣。
「あっ……」
昨日、レッドスライムを倒していた女性探索者だ。
戦闘中の鋭い表情と、短剣を手に入れて飛び跳ねていた姿を覚えている。
女性はスマートフォンを片手に、店主のところまで駆け寄った。
「お父さん、昨日すごく分かりやすい動画を見つけたの!」
「朝から元気だな」
「初心者ダンジョンの新着動画を見てたら、おすすめに出てきたんだよ」
女性がスマートフォンの画面を店主へ向ける。
そこに映っていたのは、昨日投稿した俺の動画だった。
「……え?」
思わず声が漏れそうになる。
店主は画面と俺の顔を交互に見ると、意味ありげに口元を緩めた。
その笑い方はやめてください。
視線で訴えるが、店主は何も言わない。
「この人、素材をスマホで画像検索してるんだよ。初心者でも真似できるように説明してて、すごく丁寧なの」
「へえ、そいつは参考になりそうだな」
「でしょ? お父さんも見てみてよ」
店主は昨日、編集を手伝っている。
それでも初めて見たような顔で、娘の話へ頷いていた。
「そういや、紹介してなかったな」
店主が俺へ顔を向ける。
「こいつは娘の美咲だ。同じく探索者をやってる」
「初めまして。佐伯美咲です!」
女性___美咲さんが、明るい笑顔で頭を下げる。
「一城陸斗です。よろしくお願いします」
「一城さんも探索者なんですね」
「はい。始めたばかりです」
「それなら、この動画がおすすめですよ!」
美咲さんは俺へスマートフォンを差し出した。
自分で投稿した動画を、本人だと知らない相手から勧められている。
「そ、そうなんですね……」
「第一層で採れる素材を分かりやすく説明してくれるんです。声もかわいいし」
「声も……」
「女性なのか男性なのか、コメント欄で話題になってて。本人は『ご想像にお任せします』だって!」
美咲さんは楽しそうに笑っている。
隣では、店主が肩を震わせながら笑いを堪えていた。
「ちなみに私、『探索者ミサキ』って名前でコメントしました」
「あのコメントは、美咲さんだったんですね」
「え?」
「あ……」
口に出してから、自分の失言に気付く。
美咲さんが不思議そうに首を傾げた。
「もう動画を見たんですか?」
「さ、先ほど検索した時に、コメント欄で見掛けまして」
「そうだったんですね!」
どうにか誤魔化せたらしい。
店主は顔を背け、声を出さないよう必死に笑いを堪えている。
「私も動画を投稿してるので、初心者向けの説明は勉強になります。一城さんも、ぜひ見てみてください」
「はい。参考にします」
「それじゃあ、お父さん。私は探索へ行ってくるね」
「おう、気をつけろよ」
「はーい!」
美咲さんは俺にも頭を下げ、店を出ていった。
姿が見えなくなった途端、店主が噴き出す。
「はははっ! 自分の動画を勧められるって、どんな気分だ?」
「物凄く恥ずかしかったです……」
「悪い悪い。兄ちゃんが正体を隠してるから、俺からは言わないでおいた」
「ありがとうございます。そのまま黙っていてください」
「ああ。本人が話すまでは秘密にしといてやる」
店主はひとしきり笑ったあと、俺のショルダーバッグへ目を向けた。
「そうだ。採掘するなら、そろそろ探索者ベルトを使ったほうがいいぞ」
「探索者ベルト?」
「ピッケルや素材鞄を身体へ固定できる。肩掛け鞄より動きやすい」
勧められた初心者用ベルトと、小型の素材鞄を購入する。
鉄ナイフは腰。
ピッケルは背中。
素材鞄は手の届きやすい位置へ固定された。
「お、少しは探索者らしくなったな」
「動きやすいです」
「装備に慣れるまでは無茶するなよ」
「分かりました」
店主へ頭を下げ、ダンジョンへ向かった。
◇
第一層へ入り、昨日と同じように『解析鑑定』を使いながら探索する。
希少区域は、出現までまだ十時間以上ある。
今日は薬花草と鉱脈を探しながら、二本目の動画に使える場面を撮るつもりだった。
スライムを数体倒し、通路の奥へ進む。
その途中、何となく右側の岩壁が気になった。
「……ん?」
揺らいでいるわけではない。
鉱石が露出しているわけでもない。
見た目は、周囲と変わらない普通の岩壁だ。
それでも、そのまま通り過ぎる気にはなれなかった。
壁へ近付き、『解析鑑定』を発動する。
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『隠し通路』
『現在の状態:封鎖』
『開放条件:壁の左側にある窪みへ接触』
『内部危険度:低』
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「隠し通路……?」
壁の左側へ手を伸ばす。
指先が、僅かにへこんだ場所へ触れた。
その瞬間、地面の奥から低い音が響く。
目の前の岩壁がゆっくりと横へ動き始め、その奥に人一人が通れるほどの暗い通路が現れた。
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