89話「第十一層に向けての装備更新」
第十一層への転移門が発見されてから、三か月余り。
探索者協会による検証が進み、ようやく入口周辺の先行調査を行うことになった。
その調査を前に、俺たちは探索者ストア佐伯を訪れている。
「陸斗。まずは、今使ってる装備を全部確認するぞ」
「お願いします」
店主さんに言われ、装備を身に着けた状態で『解析鑑定』を発動させる。
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『一城陸斗・探索装備』
『主武器/副武器』
・白銀短剣
・鋼短剣
『防具』
・革の胸当て
・腕装備:なし
・安物のズボン
・スライムの羽靴
『アクセサリー』
・スライムの指輪
・スライムの腕輪
・スライムの首飾り
・スライムの耳飾り(一対)
『副装備』
・アンダーウェア
・ボディレコーダー
・初心者探索者ベルト
・探索鞄
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改めて確認すると、武器以外は初心者の頃からほとんど変わっていない。
白銀短剣は希少度S。
それに対して、防具は初心者向けの革の胸当てだった。
「白銀短剣以外は、第一層へ通い始めた頃とほとんど同じだな」
「スライムシリーズと羽靴は、途中で手に入れました」
「そこじゃねえ。S級の短剣を持ってるのに、腕は何も着けてねえだろ」
店主さんが、呆れたように俺の腕を見る。
「革の胸当ても、低層で角兎の攻撃を防ぐ程度なら使える。だが、第十一層で同じように役立つ保証はねえ」
「やはり、買い替えた方がいいですか?」
「当たり前だ。命を守る物まで節約するな」
分かってはいた。
だが、値札を見ると、まだ購入を躊躇してしまう。
「陸斗さんは、ユキの物なら迷わず購入するのに、ご自分の物になると急に悩みますよね」
「そうかな?」
「はい」
「ぴるっ!」
ユキまで、美咲さんへ同意するように身体を伸ばした。
首元には、青い従魔登録証。
左右には、白銀鎧の半透明な装甲が浮かんでいる。
探索鞄にはユキ用の回復ゼリーが大量に入っている。
「ユキのアイテムは必要な物だからな」
「陸斗さんの防具も必要な物です」
「ぷるっ!」
今度はシズクまで加わった。
美咲さんの肩に乗り、黄金兜と結晶冠を揺らしている。
「陸斗以外はみんな同じ意見みたいだな」
店主さんが笑いながら、用意していた防具を取り出す。
「第十一層で何が出るか分からねえ以上、特定の属性だけに耐性を寄せるのは危険だ。物理攻撃と環境変化へ対応できる物を選んである」
最初に渡されたのは、黒に近い濃紺の軽鎧だった。
複数種類の魔獣革を重ね、胸や脇腹へ薄い金属板が仕込まれている。
見た目ほど重くない。
「『多層魔獣革の軽鎧』だ。金属鎧ほどの防御力はねえが、動きやすさを損なわずに打撃と斬撃を軽減できる」
「短剣を使う俺には、こちらの方が合いそうですね」
「ああ。お前は羽靴で跳ぶからな。重い鎧を着けたら、空中で姿勢を崩す」
軽鎧を試着し、腕を動かす。
肩や脇が柔らかく、短剣を振る動きにも支障はなかった。
続いて、同じ魔獣革で作られた手甲を着ける。
「手首から肘までを守る。白銀短剣の『反射』があるからといって、何でも刃で受けるなよ」
「分かっています」
「受け流せないと判断した時は、手甲で急所を守れ」
耐環境探索ズボンも、熱気や冷気に加え、弱い酸性液へ耐性を持っている。
第六層以降では、魔物だけでなく階層の環境そのものが危険だった。
第十一層以降でも、同じことが起きる可能性は高い。
「副武器の鋼短剣も更新しろ」
店主さんが、灰色の鞘へ入った短剣を差し出す。
引き抜くと、刃の内側を淡い青色の光が走った。
「魔鋼短剣ですか?」
「ああ。白銀短剣ほどじゃねえが、普通の鋼短剣より魔力を流しやすい。白銀短剣を使えなくなった時の予備だ」
白銀短剣は強力だ。
だが、探索は何が起きるかわからない。何らかの理由で使えなくなった場合も考えておく必要がある。
「こちらも購入します」
「そうしろ。それから、探索者ベルトも初心者用から替えろ。回復薬を取り出すのに手間取ったら、防具を買った意味がねえ」
多機能探索者ベルトには、回復薬や投擲道具を固定する場所が増えている。
留め具には脱落防止の機能があり、羽靴で跳んでも中身が落ちない。
最後に、店主さんが棚の奥から一つの鞄を取り出した。
外見は、黒い革で作られた小さな肩掛け鞄だ。
俺が使っている探索鞄よりも、むしろ小さい。
「これが、話していた魔法鞄だ」
「随分と小さいんですね」
「見た目だけはな」
鞄へ『解析鑑定』を発動させる。
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『魔法鞄』
『品質:A』
『希少度:B』
『販売価格:5,800,000円』
『効果』
・空間拡張
・収納物重量九十%軽減
・内部温度安定
・液体素材固定
・魔力遮断
『収納容量』
・探索鞄約二十個分
『制限』
・生物の収納不可
・所有者登録が必要
『補足』
・銀光液を使用した修理および機能拡張が可能
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「五百八十万円……」
分かっていたが、実際に表示されると簡単には決断できない金額だった。
会社員だった頃なら、購入を考えることすらなかっただろう。
「保管している銀光液で、将来の修理や拡張もできるんですね」
「ああ。古戦場で銀光液を残しておいた判断が、ここで役に立つ」
店主さんが魔法鞄を開く。
内部を覗いても、暗い空間が広がっているだけだった。
「素材だけじゃねえ。回復薬、予備の武器、採掘用のピッケル、食料、従魔用ゼリーも余裕を持って運べる。高価だが、これから先も長く使えるぞ」
「もし陸斗さんと離れた場合に備えて、私の探索鞄にも最低限の回復薬と食料を入れておきます」
「それがいいな。一つの鞄へ全部まとめるのも危険だ」
美咲さんの言うとおりだった。
俺が魔法鞄を持つ。
美咲さんは探索鞄へ、非常用の物資を残す。
二人が別々になっても、すぐに行動不能にはならない。
「購入します」
「本当にいいんですか?」
美咲さんが念のため確認する。
「必要な物だからね。それに、今度は自分の装備を後回しにしないって決めたよ」
「その通りです。良い心がけです」
美咲さんが嬉しそうに微笑む。
「ぴるっ!」
ユキも、褒めるように俺の足へ身体を押し付けた。
◇
俺の装備を選び終え、次は美咲さんの番になった。
「美咲は前衛だ。陸斗以上に、防具を妥協するなよ」
「分かってるよ、お父さん」
「特に盾だ。第十一層でも、シズクを庇いながら戦うことになる」
「ぷるっ」
シズクが美咲さんの肩で、小さく身体を縮める。
「シズクが気にすることじゃありませんよ。私が守りたいから、守るんです」
「ぷる……」
美咲さんが身体を撫でると、シズクが頬へ寄り添った。
店主さんが用意したのは、金属と魔獣素材を組み合わせた軽盾だった。
虹晶王スライムとの戦闘で使っていた盾よりも少しだけ小さい。
その分、短剣と併用しやすく作られている。
「『複合防護の軽盾』だ。物理攻撃だけじゃなく、魔法の衝撃も軽減する。真正面から全部受ける盾じゃねえ。軌道を逸らすために使え」
「こちらの方が、黄金短剣と同時に扱いやすそうですね」
美咲さんが左腕へ盾を固定し、右手に黄金短剣を持つ。
盾を構えた状態から、素早く短剣を突き出した。
動きに引っ掛かりはない。
「軽鎧も同じ素材で揃えてある。盾と同時に使えば、衝撃軽減の効果が高くなる」
「今までの装備より軽いです」
「軽いからって、防御力が低いわけじゃねえぞ。魔力を流してみろ」
美咲さんが軽鎧へ魔力を流す。
表面へ薄い光の膜が広がり、軽盾へつながった。
「鎧と盾の防護が連動しているんですね」
「盾で受けた衝撃を、鎧へ分散させる。手袋にも同じ効果がある」
美咲さんは、その場で身体を回転させる。
盾を前へ。
続いて横へ流し、黄金短剣を振る。
「問題ありません。これなら、シズクを肩へ乗せたままでも戦えます」
「ぷるっ!」
シズクが嬉しそうに身体を伸ばす。
アクセサリーも、未知の階層へ対応できるよう種類を分けた。
耐魔法軽減の首飾り。
毒耐性の指輪。
体力補助の腕輪。
危険感知の耳飾り。
どれか一つの能力を大幅に上げるのではなく、幅広い危険へ備える構成だ。
「黄金短剣と白銀短剣も確認しておくか」
美咲さんが黄金短剣。
俺が白銀短剣を抜く。
二本の刃へ同時に淡い光が走った。
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『黄金白銀双短剣』
『装備者』
・黄金短剣:佐伯美咲
・白銀短剣:一城陸斗
『同一登録パーティーを確認』
『金銀共鳴:発動可能』
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「共鳴も問題ないね」
「実戦では、私が黄金短剣へ切り替えたことを、陸斗さんも感知できるんですよね」
「うん。白銀短剣から伝わってくる」
「なら、声を掛けられない状況でも連携できそうです」
詳しい実戦訓練は、協会の訓練場で行う予定だ。
今日は装備した状態で動けることを確認するだけに留める。
店内で付与スキルを発動させるわけにはいかない。
「二人とも、装備を外す前に最終確認をしておけ」
「分かりました」
改めて、自分と美咲さんの装備へ『解析鑑定』を発動させた。
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『一城陸斗・探索装備』
『主武器/副武器』
・白銀短剣
・魔鋼短剣
『防具』
・多層魔獣革の軽鎧
・魔獣革の手甲
・耐環境探索ズボン
・スライムの羽靴
『アクセサリー』
・スライムの指輪
・スライムの腕輪
・スライムの首飾り
・スライムの耳飾り(一対)
『副装備』
・魔力繊維アンダーウェア
・ボディレコーダー
・多機能探索者ベルト
・魔法鞄
『装備状態:良好』
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続いて、美咲さんの装備を確認する。
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『佐伯美咲・探索装備』
『主武器/副武器』
・スライムの短剣
・黄金短剣
『盾』
・複合防護の軽盾
『防具』
・複合防護の軽鎧
・衝撃分散の防護手袋
・耐環境探索ズボン
・衝撃吸収の魔法靴
『アクセサリー』
・耐魔法軽減の首飾り
・毒耐性の指輪
・体力補助の腕輪
・危険感知の耳飾り(一対)
『副装備』
・魔力繊維アンダーウェア
・ボディレコーダー
・多機能探索者ベルト
・探索鞄
『装備状態:良好』
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「装備に問題はありません」
「これなら、第十一層へ進んでも大丈夫そうですね」
「装備だけで油断するなよ」
店主さんが、俺たちを順番に見る。
「道具が良くなっても、未知の階層で何が起きるかは分からねえ。危険だと思ったら、依頼の途中でも戻ってこい」
「はい」
「分かりました」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも、一緒に返事をする。
その時、店舗の扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、調査課の髙橋さんだった。
手には協会の紋章が入った携帯端末を持っている。
「髙橋さん。お待ちしていました」
「お待たせしました。装備の更新は終わりましたか?」
「はい。今、確認を終えたところです」
髙橋さんが、俺と美咲さんの装備を見る。
「第十一層は危険度も環境も分かっていません。十分な装備を用意していただけたようで安心しました」
「今日は、最終確認でしたよね?」
「はい。第十一層の先行調査依頼と、希少区域に関する契約内容をご説明します」
髙橋さんが携帯端末を開く。
「その後、第十層に出現した転移門を、もう一度確認していただきたいと思っています」
「これから向かうんですか?」
「可能であれば、お願いできますか?」
美咲さんと顔を見合わせる頷く。
装備は整った。
シズクとユキの体調にも問題はない。
「分かりました。お願いします」
「では、こちらで説明を終えたあと、地下の入場転移門へ向かいましょう」
髙橋さんが携帯端末を操作する。
画面には、探索者協会とクラン『蒼雪の宝珠』の名前が記された二つの契約書が表示された。
第十一層へ進むための、最後の打ち合わせが始まった。




