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82話「ブロックされた配信者」


 グレイが新しいアカウントを作成したのは、ブロックされてから一時間も経たないうちだった。


 以前と同じ名前は使わない。

 プロフィールにも、自分がグレイであることは書かなかった。


 新しいアカウント名は、『迷宮配信の真実』。

 最初に投稿したのは、リン&ミサキ探索記録から送られてきた管理連絡の画像だった。


 ただし、画像には一部しか映っていない。

 グレイがほかの利用者を信者と呼んだ投稿。


 同じ批判を何度も繰り返した記録。

 注意を受けたあとも、侮辱的な投稿を続けたこと。

 それらは、すべて切り取られていた。


 残されているのは、『今後も同様の行為が続いた場合は、アカウントの利用制限を行います』という一文だけだった。

 画像の下へ、グレイが文章を添える。


『人気探索者リンへ、希少区域に関する疑問を書き込んだ結果です』

『都合の悪い意見へ答えず、アカウントをブロックされました』

『探索者協会と関係が深い配信者は、批判することも許されないようです』


 投稿直後の反応は少なかった。

 だが、グレイは自分の動画チャンネルでも、同じ内容を扱うことにした。



 ◇



 ブロックを行った翌日の夜。

 俺のスマートフォンへ、美咲さんから連絡が届いた。


『陸斗さん。グレイと思われる人が、新しい動画を公開しています』


 送られてきた動画を、一二〇四号室の居間で確認する。

 動画の題名は、『人気探索者リンは、なぜ批判を削除したのか』というものだった。


「ぴる?」


 隣にいたユキが、スマートフォンを覗き込む。


「少し確認するだけだよ」

「ぴる……」


 再生ボタンへ触れる。

 映し出されたのは、俺たちが公開した古戦場の探索動画だった。


『リンは、自分にしか希少区域の入口が見えないと主張しています』

『しかし、同行した協会職員には入口が見えていません』

『つまり、希少区域が本当に存在したことを証明できるのは、リン本人と、その仲間だけです』


 公開動画の一部が、短く切り取られている。

 協会へ未編集映像を提出していることや、階層構造測定器で希少区域を確認したことには触れていない。

 続いて、傷付いたユキへ秘薬を使用した場面が映った。


『都合よく現れた白いスライム』

『都合よく用意されていた秘薬』

『そして、助けた直後に従魔契約』

『ここまで条件が揃えば、仕込みを疑うのが普通ではないでしょうか?』


「ぴる……」


 自分が傷付いていた時の映像を見て、ユキが身体を小さくする。

 俺はすぐに動画を止め、ユキを撫でた。


「もう見なくていいよ」

「ぴるっ」


 ユキを抱き上げ、そのまま佐伯親子のいる一二〇五号室へ向かう。

 美咲さんと店主さんも、居間で同じ動画を確認していた。


「ぷる……」


 シズクが、美咲さんの腕へ身体を寄せている。


「全部、公開動画を切り取った物ですね」


 美咲さんが、動画の再生位置を動かす。


「私たちが説明した部分は、ほとんど使われていません」

「料理店のことまで入ってるな」


 店主さんが、画面を指差す。

 動画の後半では、探索者食堂あかりの実証事業が取り上げられていた。


『探索者協会は、政府が運営する公的機関です』

『その公的機関が、リンのクランへ税金を使って店舗を提供しています』

『家賃、設備費、安全検査費まで公費で負担』

『これは、特定の探索者に対する優遇ではないのでしょうか』


 探索者の負傷率を下げられるか検証する実証事業であること。

 三か月間の期間が決められていること。

 料理の効果や利用者の状態が記録されていること。

 それらの説明は、意図的に省かれている。


「この人、グレイですよね?」

「投稿内容から考えれば、間違いないと思う」

「ブロックされた直後に作られたアカウントです。管理連絡の画像も、本人しか持っていないはずです」


 動画の最後には、俺たちが送った注意文が表示された。


『疑問を口にした結果、リンたちは説明ではなくブロックを選びました』

『この行為が正しいと思うか、皆さんの意見を聞かせてください』


 動画が終わる。


「反論しますか?」


 俺が尋ねると、美咲さんは少し考えてから首を横へ振った。


「今は、直接反論しない方がいいと思います」

「でも、このままにしたら、動画の内容を信じる人もいる」

「私たちが何か投稿すれば、また一部だけを切り取られる可能性があります」


 美咲さんが、動画の公開日時とアカウント名を保存する。


「まずは、証拠を残しましょう」

「そうだな。動画そのものも保存した方がいい」


 店主さんが、タブレットから動画の保存を始める。


「投稿が消されたあとに相談しても、何があったか説明できねえからな」

「コメントも保存します」


 動画には、すでに多くのコメントが寄せられていた。


『本当に批判しただけでブロックされたの?』

『最初の批判コメントは、今も残ってるけど』

『ほかの視聴者へ暴言を吐いていたからじゃないのか?』

『協会から公費で支援を受けているのは事実なんだろ』

『動画を見る限り、怪しい部分はある』


 すべての人が、グレイの主張を信じているわけではない。

 だが、俺たちと協会が癒着していると疑う人も現れ始めていた。


「明日、探索者協会へ相談しましょう」


 美咲さんが言う。


「髙橋さんにも、先に連絡しておきます」

「分かった」

「陸斗。警察へ相談する可能性も考えて、最初から時系列をまとめておけ」


 店主さんが、保存した画像を整理する。


「ブロックするまでの記録も必要だ」

「最初の投稿から、全部残ってます」

「なら、それも一緒に提出しよう」



 ◇



 翌日の午前中。

 俺たちは、探索者協会の調査課を訪れた。

 シズクとユキも一緒だ。


 個室には髙橋さんのほかに、協会の広報担当者と安全管理課の職員が同席していた。


「動画と投稿記録を確認しました」


 髙橋さんが、資料を机へ置く。


「皆さんがブロックを行うまでの対応に、問題はありません」

「批判されたことを理由に、ブロックしたわけではありません」

「分かっています。最初の批判は現在も残されており、一城さんたちは一度説明も行っています」


 髙橋さんが、時系列を確認する。


「利用制限を行ったのは、注意を受けたあとも、ほかの利用者に対する侮辱的な投稿を続けたためですね」

「はい」

「その記録も残っています。少なくとも、『疑問を書いただけでブロックされた』という主張は事実ではありません」


 広報担当者が、グレイの動画を停止させる。


「探索者協会との癒着という主張については、当協会にも関係します」


 探索者協会は、政府が運営する公的機関だ。

 公費を使った事業は、支出の理由と結果を記録し、監査を受けなければならない。


「探索者支援料理の実証事業は、医務課、探索安全課、会計監査部門の審査を通した正式な事業です。特定のクランへ利益を与えることを目的としたものではありません」

「協会から、何か発表するんですか?」

「現時点では、個別の動画へ反応する予定はありません」


 広報担当者が答える。


「反応することで、かえって動画の注目度を高める可能性があります。ただし、虚偽の情報が広く拡散した場合は、実証事業の目的と支出内容を改めて公表します」

「俺たちも、反論しない方がいいでしょうか?」

「はい。少なくとも、相手の動画へ直接反応することは避けてください」


 髙橋さんが俺を見る。


「新しい投稿や、別のアカウントから接触があった場合も、返答せず保存してください」

「分かりました」


「それから、動画共有サイトとチミったーの運営会社へ、規約違反として報告を行ってください。ブロックを回避する目的で別アカウントを作り、接触を続けている記録を添えましょう」


 美咲さんが、必要な書類を受け取る。


「クランに所属する方々の安全についても、対策を行います」


 安全管理課の職員が、公開情報を表示する。


「『蒼雪の宝珠』について、一般に公開する情報をクラン名と代表者の活動名だけに制限します」

「斉藤さんたちの名前もですか?」

「はい。斉藤ご夫妻や佐伯吾郎さんへ危害が及ぶ可能性も否定できません。氏名、役割、外部依頼の受注状況は非公開へ変更します」


 外部から斉藤さんへ調合を依頼する場合は、協会の窓口が仲介する。

 依頼を受けることが決まったあと、必要な範囲で依頼者へ情報が開示されるらしい。


「料理店の営業に必要な情報は残しますが、住所やクラン内での役割は公開しません」

「お願いします」


「警察へも相談した方がいいですか?」


 俺の問いに、安全管理課の職員が答える。


「現在は、インターネット上の行為に留まっています。ただ、今後直接接触してくる可能性もあります。現段階で相談記録だけでも残しておくことをおすすめします」

「被害が起きてからでは遅いですからね」

「はい。こちらから、協会と連携している相談窓口をご案内しますね」


 話し合いを終え、俺たちは調査課を出た。


「マンションへ戻る前に、料理店へ寄りますか?」


 美咲さんが、隣を歩きながら尋ねる。


「そうしよう。明里さんの様子も確認したい」

「ぷるっ」

「ぴるっ」


 二匹も賛成するように返事をする。

 店舗区画へ向かうと、探索者食堂あかりは午後の営業準備を進めていた。

 明里さんは調理補助員と一緒に、食材の状態を確認している。


 店内には、斉藤さんの姿もあった。


 午前の営業を終えた明里さんの体調を確認するため、調合の仕事へ向かう前に立ち寄ったらしい。


「一城。話し合いは終わったのか?」

「はい。斉藤さんたちの情報も、一般には公開しないことになりました」

「俺たちまで?」

「グレイが、クランの関係者へ接触する可能性があるそうです」


 斉藤さんが、明里さんを見る。


「分かった。協会の指示に従う」

「お店の営業は、続けても大丈夫なんでしょうか?」


 明里さんが、不安そうに尋ねる。


「営業に必要な情報は残ります。ただ、帰る時は一人にならないようにしてください」

「俺が迎えに来る」


 斉藤さんが、すぐに答える。


「調合の仕事で間に合わない時は、協会の警備職員へ相談する。明里を一人では帰らせない」

「ありがとう、涼介」


 店主さんも、明里さんへ声を掛ける。


「俺も護衛として、二人を家まで送ろう」

「店主さんが来てくれるんですか?」


「ああ。今は店主をやってるが、戦闘職の探索者ライセンスは持ってる。技能は『剛拳』だ」

「剛拳……」

「お父さんは、以前は戦闘を中心に活動する探索者だったんです」


 美咲さんが教えてくれる。


「探索者ストア佐伯は、もともとお母さん、母の真咲(まさき)が経営していたお店でした。お母さんが病気で亡くなったあと、お父さんが店を継いだんです」

「昔の話だ」


 店主さんが、右手を軽く握る。


「ダンジョンへ潜らなくなっただけで、訓練までやめたわけじゃねえ。これでも探索者ライセンスの区分は『上級』だからな。二人を守って逃がすくらいはできる」

「店主さん、上級探索者だったんですか?」

「真咲が亡くなるまでは、ダンジョンへ潜ってた。今もライセンスの更新と訓練は続けてる」


 探索者ストアの店主として、装備や道具の状態を確かめるためでもあるらしい。


「相手へ直接手を出すのは駄目だよ。お父さん?」

「分かってるよ。向こうから襲ってきた場合の話だ」


 店主さんなら、グレイを追い払うために暴力を振るうことはしない。

 目的は、あくまでも斉藤夫妻を安全に送り届けることだ。


「店主さんが店を離れられない時は、俺か美咲さんも同行します」

「はい。協会の警備職員にも相談しましょう」

「それなら安心です」


 明里さんが、僅かに表情を緩めた。


「体調はどうですか?」

「問題ありません。豹堂先生からも、無理をしなければ仕事へ戻っていいと言われています」


 顔色も悪くない。


「提供数は、まだ増やさないでくださいね」

「はい。約束どおり、五十食までにしています」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクとユキが、厨房の外から明里さんへ声を掛ける。


「二匹とも、心配してくれてありがとう」


 明里さんが笑顔を見せる。

 午後の営業を邪魔しないよう、短い会話だけで店を離れた。


 そんな風に、俺たちが正面入口へ向かったあと。

 店舗区画から少し離れた共用スペースで、一人の男がスマートフォンを下ろした。


 グレイだった。

 調査課へ入ることはできなかったが、一般利用者が出入りできる場所で、俺たちが戻るのを待っていた。


 料理店へ立ち寄った俺たち。

 そこで親しそうに話していた、見覚えのない男。

 グレイは、その姿も映像へ収めていた。


 俺たちより先に正面入口へ移動し、少し離れた場所でスマートフォンを構える。

 建物の外へ出た俺たちは、グレイの存在に気付かなかった。

 男が、スマートフォンのカメラを俺たちへ向けていたことにも。



 ◇



 その日の夕方。

 自宅へ戻った俺のスマートフォンが振動した。

 美咲さんから送られてきたのは、新しい投稿の画像だった。


『迷宮配信の真実』

『リンと思われる人物を、探索者協会本部前で確認』

『ミサキ、魔法スライム、純白スライムと行動しているため、本人である可能性は極めて高い』

『批判動画を公開した翌日に、協会へ相談へ行ったのでしょうか』

『政府機関と頻繁に連絡を取っている証拠です』


 投稿には、一枚の写真が添えられていた。

 探索者協会本部の前を歩く、俺たちの姿。


 俺と美咲さんの顔には、ぼかしが入れられている。

 だが、シズクとユキの姿は、そのまま映っていた。


「今日、撮られた写真……」

「ぴる?」


 俺の声に、ユキが近付いてくる。


 写真の背景。

 服装。

 シズクとユキの位置。


 間違いない。

 調査課へ相談し、料理店へ寄ったあとに撮影された写真だ。


 グレイは、俺たちが探索者協会へ来ることを予想して待っていた。

 そうでなければ、このタイミングで撮影できるはずがない。


 投稿には、すでに複数のコメントが付いていた。


『待ち伏せして盗撮とか、さすがに不味いだろ』

『コイツ、何考えてんだ?』

『批判動画を出した翌日に、協会の前で待ってたのか?』

『これ、取材じゃなくて付きまといだろ』

『顔へぼかしを入れれば、勝手に撮影していいわけじゃないぞ』


 グレイの行動を批判する声が多い。

 その一方で、俺の姿へ興味を持った人もいた。


『リンってミサキと同じくらいの身長……やはり女の人かな?』

『いや、俺って言ってるし、男っぽいかも』

『男の娘も捨てがたい』

『顔を隠してるから、余計に気になる』


 顔にはぼかしが入っている。

 それでも、体格や髪形までは隠されていなかった。

 以前から、中性的な顔立ちだと言われたことはある。

 だが、今は性別を間違えられたことより、俺たちの行動を近くから撮影されていたことの方が問題だった。


 すぐに美咲さんへ電話を掛ける。


『陸斗さん』

「写真を確認したよ。今日、撮られた物だよね?」

『はい。私も同じ服を着ています。今、お父さんが、髙橋さんへ連絡しています』


 電話の向こうから、店主さんの声も聞こえる。


『陸斗、その写真と投稿を保存しておけ』

「分かりました」

『今回は、直接待ち伏せされている。すぐに警察へも相談するぞ』


 インターネット上で批判されるだけなら、無視することもできる。

 だが、実際に俺たちが利用する場所へ現れ、隠れて撮影している。


 次に何をするのか分からない。


「ユキ。しばらく外へ出る時は、必ず一緒に行動しよう」

「ぴる……」


 不安が伝わったのか、ユキが俺の腕へ身体を押し付ける。


「大丈夫。ちゃんと守るからな」

「ぴるっ」



 ◇



 俺たちは再び探索者協会へ連絡し、撮影された画像と投稿を提出した。


 協会本部の防犯映像には、グレイと思われる男の行動が残されていた。

 一般利用区画で俺たちを待ち、料理店まで距離を取ってついてくる。

 その後、先回りして正面入口の外へ移動し、俺たちへスマートフォンを向けていた。


「撮影者が、グレイ本人かどうかは現時点では断定できません」


 安全管理課の職員が、防犯映像を保存する。


「ただし、投稿された時刻と撮影位置は一致しています。同一人物である可能性は高いでしょう」

「顔は確認できますか?」

「はい。警備上の注意人物として、協会本部の警備職員へ情報を共有します」


 続いて、協会から紹介された警察の相談窓口へ向かった。


 これまでの投稿。

 ブロックを行った経緯。

 別アカウントから公開された動画。

 探索者協会で待ち伏せされ、あとをつけられたこと。


 すべてを順番に説明する。


「現時点では、身体へ危害を加える内容の投稿は確認できません」


 担当した警察官が、提出した記録を見る。


「ですが、ブロック後に別のアカウントを作成し、実際の行動範囲まで調べ始めています。今後も記録を残してください」

「また近付いてきた場合は、どうすればいいですか?」

「相手へ直接抗議せず、距離を取って通報してください。自宅まで追ってきた場合は、迷わず緊急通報をお願いします」


 相談した日時と内容が、正式な記録として残された。

 すぐにグレイが処罰されるわけではない。


 それでも、何か起きた時に、これまでの経緯を証明できる。



 ◇



「マンションへ戻る時は、地下通路を使ってください」


 髙橋さんが、協会本部の地下まで同行する。


「地上の出入口には、撮影者が残っている可能性があります」

「分かりました」

「マンションの警備室にも、防犯映像から切り出した画像を共有しました。居住者からの招待がない限り、建物へ入ることはできません」


 地下通路へ続く頑丈な扉の前には、二人の警備職員が常駐していた。

 一人が通行者の登録証を確認し、もう一人は周囲と監視映像へ目を配っている。


 俺と美咲さん、店主さんが、それぞれ登録証を提示する。

 続いて、シズクとユキの従魔登録証が確認された。


「通行者三名、登録従魔二匹。確認しました」

「周辺に、あとを追っている人物はいません。どうぞ、お通りください」


 髙橋さんは、俺たちが扉を抜けるまで見送ってくれた。


 登録証を扉横の端末へ触れさせる。

 短い電子音が鳴り、地下通路の扉が開いた。

 誰かが俺たちのあとに続いて、扉へ入り込むこともできない。


 地下通路内にも、監視用の魔導具と緊急通報装置が設置されている。

 反対側へ着くと、マンションの警備区画でも登録情報を確認された。


「ここへ引っ越していなかったら、自宅まで追われていたかもしれませんね」


 美咲さんが、僅かに身体を震わせる。


「今後は、もっと気を付けよう」

「はい」


「ぷるっ」

「ぴるっ」


 シズクとユキが、俺たちの間で身体を寄せ合う。

 居住階へ上がるエレベーターも、登録された住人しか利用できない。


 十二階へ着き、それぞれの部屋の前まで戻る。


「何かあったら、すぐに連絡してください」

「美咲さんも。シズクを一人で外へ出さないようにしてな」

「はい。お父さんか私が、必ず一緒にいます」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 扉を閉める前に、二匹が声を掛け合う。

 俺はユキと一緒に自宅へ入り、鍵と警備装置を作動させた。


 探索者専用マンションへ引っ越してから、まだ日が浅い。

 それでも、この場所を選んだことが、早くも俺たちの安全を守ってくれていた。



 ◇



 同じ頃。


 グレイは、自室のパソコンで撮影した映像を確認していた。

 投稿へ付いたコメントを、面倒そうに読み流す。


『待ち伏せして盗撮とか、さすがに不味いだろ』

『コイツ、何考えてんだ?』

『リンたちが警察へ相談してもおかしくないぞ』


「顔にはぼかしを入れただろ。何が盗撮だよ」


 自分が長時間待ち伏せしていたことは、問題だと思っていない。

 コメントを下へ送ると、別の反応が目に入った。


『リンってミサキと同じくらいの身長……やはり女の人かな?』

『いや、男の娘も捨てがたい』


「女……?」


 グレイは、撮影した元の映像を再生する。

 公開した写真には、リンと思われる人物の顔へぼかしを入れていた。

 だが、元の映像には何も加工されていない。


 耳へ掛かる程度の短い髪。

 整った、中性的な顔立ち。


「確かに、女っぽい顔だな」


 映像を拡大し、陸斗の顔を確認する。


「今度は、近付いて確認してみるか」


 性別を暴いて投稿すれば、良い再生数稼ぎになるかも知れない。

 その前に、どのダンジョンを利用しているのか調べる必要があるな。

 探索中なら、探索者協会の警備職員も近くにはいない。


「次は、どこのダンジョンへ入るか調べるか……」


 グレイが呟いた時だった。


「今の映像を、もう一度見せろ」


 背後から、低い男の声が聞こえた。


「何だよ、親父。急に」

「いいから戻せ。その男の顔が見えるところだ」


 グレイが、面倒そうに映像を巻き戻す。

 ぼかしを入れる前の、一城陸斗の顔が画面へ映った。


 背後に立つ男の表情が変わる。


「こいつは……」


 男は、画面に映る陸斗の顔を知っていた。

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