69話「スライム幸運」
最初に飛び出したのは、好戦的な黄金スライムたちだった。
黄金将軍の号令は解除されているが、それでも自らの意思で戦場へ残り、次々と俺たちへ向かってくる。
その後方では、白銀スライムたちが横一列に広がっていた。
白銀陣形は失われているが、一体ずつの危険度は黄金スライムよりも高い。
「一体、何体いるんだ」
俺は戦場全体へ『解析鑑定』を広げ、敵対している個体数の確認を行なった。
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『スライム達の古戦場』
『敵対継続個体』
・黄金スライム:62体
・白銀スライム:54体
『戦闘意思を喪失した個体』
・黄金スライム:戦場外縁へ退避中
『推奨』
・戦闘意思を喪失した個体への攻撃を禁止
・丘の斜面を利用し、同時交戦数を制限
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「敵対しているのは、黄金が六十二体。白銀が五十四体だ」
「百体以上……」
「まともに囲まれたら危険だ。丘の上で迎え撃とう」
俺たちがいる丘は、左右の斜面が急になっている。
正面の緩やかな道を使わなければ、一度に登ってこられる数は限られるはずだ。
「私が正面を守ります」
「頼むよ! シズクは白銀スライムの鏡像を風で崩してくれ。そのあとは、状況に合わせて属性を切り替えよう」
「ぷるっ!」
「俺は左右から回り込む個体を確認する。ユキは絶対に俺から離れないでくれ」
「ぴるっ!」
ユキが俺の足元へ寄り添う。
左右に浮かぶ白銀鎧も、守るように位置を変えた。
「来ましたっ!」
黄金スライムの先頭が、丘の斜面を跳ね上がってくる。
一体目を、美咲さんが盾で弾く。
続く二体目へ剣を振り下ろし、黄金色の身体ごと金魔核を断ち切った。
三体目が横から飛び掛かる。
「美咲さん、右!」
「はい!」
盾を返し、黄金スライムの軌道を逸らす。
「シズク!」
「ぷるっ!」
風弾が命中し、黄金スライムを丘の下へ押し戻した。
だが、後方から新たな黄金スライムが登ってくる。
「数が多いです……!」
「全員を相手にする必要はない! 一体ずつ倒すため、斜面へまとめて押し戻そう! 頼めるかシズク」
「ぷるるっ!」
俺の言葉にシズクが身体を伸ばし、前方へ風属性の魔力を集める。
黄金兜が淡く輝き、半透明の兜から流れた光が、シズクの魔力へ重なっていく。
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『黄金兜』
『魔力集中補助:発動』
『攻撃魔法補助:発動』
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「ぷるぅっ!」
普段よりも広い風弾が放たれた。
斜面を登っていた黄金スライムたちがまとめて巻き込まれ、丘の下へ転がり落ちる。
完全に倒せたわけではない。
それでも、次の攻撃までの時間は作れた。
「後ろから銀弾が来る!」
丘の下に並んだ白銀スライムが、一斉に銀弾を放つ。
それに対応するように、美咲さんが盾を構えた。
俺もユキを庇うように身体を低くする。
銀弾の多くは斜面へぶつかったが、数発が丘の上まで飛んでくる。
「___っ!」
一発が俺の足元へ迫った。
だがその直前、ユキの左側に浮かんでいた白銀鎧が瞬時に移動する。
白銀色の装甲板が銀弾を受け止め、硬い音と共に弾き飛ばした。
「ぴるっ!?」
俺も驚いたが、ユキ自身が一番驚いている。
「白銀鎧が守ってくれたみたいだ」
「ぴる……?」
ユキが白銀鎧へ身体を伸ばす。
装甲板は再び左右へ戻り、次の攻撃へ備えるように浮かんだ。
「ユキ、右からも来る!」
「ぴるっ!」
右側の斜面を、一体の黄金スライムが登っていた。
俺は羽靴で地面を蹴り、黄金スライムへと迫る。
それに気付いた黄金スライムが飛び掛かってくるが、左に避け、すれ違い様に鋼短剣を突き刺した。
黄金色の身体へ刃が入り、内部の金魔核を貫く。
黄金スライムが粒子となって消えた。
着地すると、ユキが急いで俺の足元へ戻ってくる。
「ぴるっ」
「大丈夫だ。次も一緒に動こう」
白銀鎧があるとはいえ、攻撃を受け続ければ安全ではない。
俺は再びユキを左肩へ載せた。
◇
白銀スライムたちが、鏡像投影を始める。
五十四体だった魔力反応が、一気に百体を超えた。
「シズク、風属性だ!」
「ぷるっ!」
シズクが風弾を横へ広げる。
斜面を吹き抜けた風によって、白銀スライムの鏡像が次々と消えていった。
「本体だけになりました!」
「次は氷属性で足元を凍らせよう」
「ぷるっ!」
黄金兜が緑色から青白い光へ切り替わる。
シズクの前へ、複数の小さな氷槍が作り出された。
一本ずつの威力を抑え、白銀スライムたちの足元へ向かって放つ。
氷槍が地面へ突き刺さり、斜面を薄い氷で覆った。
高速で滑っていた白銀スライムたちが、次々と体勢を崩し転倒していく。
「今なら近付けます!」
美咲さんが凍った斜面を駆け下りる。
起き上がろうとする白銀スライムへ剣を振るい、一体ずつ白銀魔核を砕いていった。
別の白銀スライムが、美咲さんの背後から飛び掛かる。
「美咲さん、後ろ!」
美咲さんは振り返らない。
身体を低くしながら、背後へ盾を突き出した。
白銀スライムが盾へぶつかり、空中へ浮き上がる。
「シズク!」
「ぷるっ!」
俺の合図にシズクが石弾を放つ。
高速で発射された石弾は、白銀スライムの鏡面膜へ突き刺さり貫通した。
鏡面膜に穴が開き、亀裂と共に内部の魔核が砕け散った。
「シズク。属性の切り替えが、かなり速くなっていますね」
「そうだな。黄金兜の補助も機能してるみたいだ」
風属性で鏡像を消し、氷属性で動きを止める。
硬い鏡面膜には、土属性の石弾。
黄金スライムが密集した場合は、火球の爆風でまとめて押し戻す。
シズクは四つの属性を、ほとんど止まることなく切り替えていた。
◇
戦闘開始から十分ほどが経過した。
敵対している個体の数は、半分近くまで減っている。
だが、こちらも無傷ではない。
美咲さんの盾には、銀弾を受けた跡が増えていた。
シズクも、連続して魔法を使っている。
「一度、魔力を確認した方がいいな。シズクこちらへ」
「ぷる!」
シズクへ『解析鑑定』を向ける。
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『個体名:シズク』
『状態:良好』
『魔力残量:63%』
『装備効果』
・結晶冠:発動中
・黄金兜:発動中
『魔力操作:安定』
『属性切り替え:良好』
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「魔力は六割以上残ってる。ただ、無理に強い魔法を使う必要はない」
「ぷるっ!」
「残りは、私が前へ出ます」
「俺も黄金スライムなら相手にできる。白銀スライムを美咲さんとシズクに任せたい」
「分かりました。ただし、無理はしないでください」
「そうする」
斜面の左側から、黄金スライムが三体同時に跳び上がる。
一体目の軌道を避け、二体目へ鋼短剣を振るう。
身体を浅く切っただけで、魔核までは届かない。
三体目が背後へ回る。
「ぴるっ!」
ユキの声と同時に、頭上から強い敵意が伝わってきた。
振り返るよりも先に身体を沈める。
頭上を黄金スライムが通り過ぎた。
羽靴で地面を蹴り、着地する前へ回り込む。
黄金スライムの中心へ鋼短剣を突き立て、金魔核を砕いた。
「教えてくれて助かったよ」
「ぴるっ!」
最初に傷を付けた黄金スライムが、再び飛び掛かる。
白銀鎧の片側が俺の前へ移動し、その体当たりを受け流した。
体勢を崩したところへ短剣を突き刺す。
ユキ自身は攻撃していない。
それでも、敵意を伝え、白銀鎧を通じて俺を守ってくれている。
「ユキも、十分に戦えてるぞ」
「ぴる……?」
「俺を守ってくれているだろう」
「ぴるっ!」
ユキの身体から、先ほどまでよりも強い喜びが伝わってきた。
◇
さらに戦闘を続ける。
黄金スライムが減るにつれ、白銀スライムは数体ずつ固まって襲ってくるようになった。
「左から四体!」
「足止めします!」
美咲さんが正面の一体を盾で押さえる。
残る三体が、左右へ分かれた。
「シズク、火球で中央を分断して!」
「ぷるっ!」
蒼い火球が地面へ着弾する。
爆風が広がり、白銀スライムたちを左右へ押し分けた。
「右側は俺が誘導する!」
羽靴で斜面を駆け上がる。
二体の白銀スライムが、俺を追って向きを変えた。
正面から戦えば、鋼短剣では鏡面膜に阻まれる。
「シズク、俺の後ろへ石弾!」
「ぷるっ!」
俺は石弾の軌道から離れるように、横へ跳んだ。
追ってきた白銀スライムへ、石弾が命中する。
一体目の鏡面膜が砕け、その後ろにいた二体目へ衝突した。
「美咲さん!」
「はい!」
美咲さんが斜面を駆け上がる。
倒れた二体の白銀スライムへ剣を突き立て、白銀魔核を続けて砕いた。
◇
最後に残ったのは、三体の白銀スライムだった。
黄金スライムの敵対個体は、すべて倒している。
三体の白銀スライムは互いの身体を重ね、一つの大きな鏡像を作り出した。
「まだ、鏡像を使えるみたいだ」
「本体の位置は分かりますか?」
「三体とも、鏡像の内側に重なってる」
大きな白銀スライムが、丘の斜面を滑り始める。
正面から受ければ、美咲さんでも押し切られる可能性がある。
「シズク。威力を抑えた風で、三体を離せるか?」
「ぷるっ!」
シズクが地面すれすれへ風弾を放つ。
正面からではなく、白銀スライムたちの間へ入り込むように風が広がった。
重なっていた三体の身体が、左右へ引き離される。
巨大な鏡像が消滅した。
「今です!」
美咲さんが正面の一体へ接近する。
盾で身体を持ち上げ、露出した下側から魔核を貫いた。
「シズク、左へ氷槍!」
「ぷるっ!」
二体目へ氷槍が突き刺さる。
白銀色の身体が地面へ縫い止められた。
残る一体が、俺とユキへ銀弾を放つ。
白銀鎧が二枚とも正面へ移動した。
最初の銀弾を右側の装甲板が弾く。
二発目は左側。
三発目が、二枚の隙間を抜けてくる。
「ぴるっ!」
ユキが身体を伸ばし、俺の首へ強くしがみ付いた。
俺は羽靴で地面を蹴る。
銀弾が足元を通過し、背後の地面へぶつかった。
そのまま白銀スライムとの距離を詰める。
羽靴の勢いを利用し、鋼短剣を両手で突き出した。
刃が鏡面膜へ食い込む。
硬い抵抗を感じながらも、体重を掛けて押し込んだ。
鋼短剣の先端が白銀魔核へ届く。
亀裂が走り、白銀スライムが銀色の粒子となって消えた。
「ラストです!」
美咲さんが掛け声とともに、氷槍で動きを封じられた白銀スライムへ剣を振り下ろす。
最後の白銀魔核が砕け散った。
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『スライム達の古戦場』
『敵対個体:討伐完了』
『戦闘意思を喪失した個体:敵対反応なし』
『希少区域の残り時間:19分22秒』
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「終わった……」
俺は鋼短剣を下ろし、その場へ膝を突く。
「陸斗さん、怪我は?」
「大丈夫だ。体当たりを何度か受けたけど、スライムシリーズのおかげでかすり傷で済んだ」
「ユキも問題なさそうですか?」
「ちょっと待ってな」
「ぴるっ?」
肩にいるユキを手のひらに乗せ、『解析鑑定』を向ける。
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『個体名:ユキ』
『状態:良好』
『魔力残量:100%』
『白銀鎧』
・損傷:なし
・防御補助:正常作動
『固定スキル:スライム幸運』
・発動中
・スライム種への希少ドロップ補正を確認
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「良かった。ユキも白銀鎧も問題ない」
「ぴるっ!」
「シズクはどうですか?」
「魔力が三割ってところかな。怪我もないから大丈夫だ」
「良かった……」
「ぷるるっ!」
黄金兜を載せたシズクが、誇らしそうに身体を伸ばした。
「二人とも、よく頑張ったね」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
美咲さんが二匹を順番に撫でる。
「ぴるるぅ」
ユキは最初こそ身体を硬くしたが、美咲さんが敵ではないと思い出したのか、気持ち良さそうに撫でられていた。
◇
「急いで回収しよう」
「はいっ」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
希少区域が消えるまで、残り二十分もない。
俺たちは手分けして、戦場に残された素材を回収した。
シズクとユキも手伝ってくれている。
金色と白銀色の魔核。
大きさの異なる魔石。
銀色の光を宿した液体。
そして、力と守りの結晶飴。
銀光液は用意していた密閉容器へ入れ、魔核と魔石は種類ごとに素材袋へ分ける。
探索鞄一つでは収まり切らず、美咲さんの鞄にも分けて収納した。
二人とも、鞄がパンパンである。
「これで、全部だと思います」
「念のため、解析してみる」
回収した素材が全部あるか、探索鞄へ向けて『解析鑑定』を発動させた。
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『陸斗と美咲、両名の探索鞄内部のドロップ素材』
『スライム達の古戦場・戦利品』
『黄金軍』
・金魔核×64
推定買取価格:320,000円
・金魔石×45
推定買取価格:2,250,000円
・力の結晶飴×10
推定買取価格:算出不能
『白銀軍』
・白銀魔核×56
推定買取価格:840,000円
・白銀魔石×36
推定買取価格:5,400,000円
・銀光液×20
推定買取価格:5,000,000円
・守りの結晶飴×10
推定買取価格:算出不能
『推定買取価格合計』 13,810,000円
『価格計算対象外』
・力の結晶飴
・守りの結晶飴
・装備中の従魔専用装備
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「千三百八十一万円……」
表示された金額を見て、思わず声が漏れる。
「そんなにするんですか?」
「装備と結晶飴を除いても、千三百万円を超えてる」
「金魔石と白銀魔石が、ほとんどの個体から出たということですか?」
「そうみたいだ。銀光液も二十個ある」
銀光液の通常ドロップ率は1%。
五十体以上の白銀スライムを倒しても、一つ出れば良い方だ。
それが、今回は二十個も残されていた。
「ぴる?」
ユキが、自分の周囲に並べられた素材を不思議そうに見ている。
「間違いなく、ユキのスライム幸運が働いてる」
「ぴるっ!」
「力の結晶飴と守りの結晶飴も、十個ずつですね」
「安全性を確認したら、五個ずつ分けよう」
「私も受け取っていいんですか?」
「二人で戦って手に入れた物だ。それに、美咲さんが強くなればパーティー全体の安全にもつながる」
「……分かりました。ありがとうございます」
結晶飴は売却せず、俺と美咲さんで半分ずつ使用することにした。
◇
素材の回収を終えた時点で、希少区域の残り時間は十二分を切っていた。
「そろそろ入口へ戻った方がよさそうですね」
「そうだな。時間に余裕を持って___」
「ぴるっ」
ユキが、俺の探索鞄を身体で引っ張った。
「どうした?」
「ぴるっ、ぴるっ!」
ユキが丘の反対側へ向かって跳ねていく。
少し進んでは振り返り、俺たちが付いてきているかを確認していた。
耳飾りを通じて、ユキの強い意思が伝わってくる。
「向こうに、俺たちへ見せたい物があるみたいだ」
「残り時間は大丈夫ですか?」
「十一分四十八秒だ。場所が遠ければ、途中で引き返そう」
「分かりました」
「ユキ。案内してくれるか?」
「ぴるっ!」
ユキが嬉しそうに身体を伸ばす。
俺たちはユキのあとを追い、戦場の奥へ向かった。
やがて、大きく崩れた石造りの建物が見えてくる。
黄金色と白銀色。
二色の扉が、瓦礫の奥へ隠れるように残されていた。




