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69話「スライム幸運」


 最初に飛び出したのは、好戦的な黄金スライムたちだった。

 黄金将軍の号令は解除されているが、それでも自らの意思で戦場へ残り、次々と俺たちへ向かってくる。


 その後方では、白銀スライムたちが横一列に広がっていた。

 白銀陣形は失われているが、一体ずつの危険度は黄金スライムよりも高い。


「一体、何体いるんだ」


 俺は戦場全体へ『解析鑑定』を広げ、敵対している個体数の確認を行なった。



 ◇____________________


 『スライム達の古戦場』


 『敵対継続個体』

 ・黄金スライム:62体

 ・白銀スライム:54体


 『戦闘意思を喪失した個体』

 ・黄金スライム:戦場外縁へ退避中


 『推奨』

 ・戦闘意思を喪失した個体への攻撃を禁止

 ・丘の斜面を利用し、同時交戦数を制限


 ____________________◇



「敵対しているのは、黄金が六十二体。白銀が五十四体だ」

「百体以上……」

「まともに囲まれたら危険だ。丘の上で迎え撃とう」


 俺たちがいる丘は、左右の斜面が急になっている。

 正面の緩やかな道を使わなければ、一度に登ってこられる数は限られるはずだ。


「私が正面を守ります」

「頼むよ! シズクは白銀スライムの鏡像を風で崩してくれ。そのあとは、状況に合わせて属性を切り替えよう」

「ぷるっ!」


「俺は左右から回り込む個体を確認する。ユキは絶対に俺から離れないでくれ」

「ぴるっ!」


 ユキが俺の足元へ寄り添う。

 左右に浮かぶ白銀鎧も、守るように位置を変えた。


「来ましたっ!」


 黄金スライムの先頭が、丘の斜面を跳ね上がってくる。


 一体目を、美咲さんが盾で弾く。

 続く二体目へ剣を振り下ろし、黄金色の身体ごと金魔核を断ち切った。

 三体目が横から飛び掛かる。


「美咲さん、右!」

「はい!」


 盾を返し、黄金スライムの軌道を逸らす。


「シズク!」

「ぷるっ!」


 風弾が命中し、黄金スライムを丘の下へ押し戻した。

 だが、後方から新たな黄金スライムが登ってくる。


「数が多いです……!」

「全員を相手にする必要はない! 一体ずつ倒すため、斜面へまとめて押し戻そう! 頼めるかシズク」

「ぷるるっ!」


 俺の言葉にシズクが身体を伸ばし、前方へ風属性の魔力を集める。

 黄金兜が淡く輝き、半透明の兜から流れた光が、シズクの魔力へ重なっていく。



 ◇____________________


 『黄金兜』


 『魔力集中補助:発動』

 『攻撃魔法補助:発動』


 ____________________◇


「ぷるぅっ!」


 普段よりも広い風弾が放たれた。

 斜面を登っていた黄金スライムたちがまとめて巻き込まれ、丘の下へ転がり落ちる。


 完全に倒せたわけではない。

 それでも、次の攻撃までの時間は作れた。


「後ろから銀弾が来る!」


 丘の下に並んだ白銀スライムが、一斉に銀弾を放つ。

 それに対応するように、美咲さんが盾を構えた。


 俺もユキを庇うように身体を低くする。

 銀弾の多くは斜面へぶつかったが、数発が丘の上まで飛んでくる。


「___っ!」


 一発が俺の足元へ迫った。

 だがその直前、ユキの左側に浮かんでいた白銀鎧が瞬時に移動する。

 白銀色の装甲板が銀弾を受け止め、硬い音と共に弾き飛ばした。


「ぴるっ!?」


 俺も驚いたが、ユキ自身が一番驚いている。


「白銀鎧が守ってくれたみたいだ」

「ぴる……?」


 ユキが白銀鎧へ身体を伸ばす。

 装甲板は再び左右へ戻り、次の攻撃へ備えるように浮かんだ。


「ユキ、右からも来る!」

「ぴるっ!」


 右側の斜面を、一体の黄金スライムが登っていた。


 俺は羽靴で地面を蹴り、黄金スライムへと迫る。

 それに気付いた黄金スライムが飛び掛かってくるが、左に避け、すれ違い様に鋼短剣を突き刺した。

 黄金色の身体へ刃が入り、内部の金魔核を貫く。


 黄金スライムが粒子となって消えた。

 着地すると、ユキが急いで俺の足元へ戻ってくる。


「ぴるっ」

「大丈夫だ。次も一緒に動こう」


 白銀鎧があるとはいえ、攻撃を受け続ければ安全ではない。

 俺は再びユキを左肩へ載せた。



 ◇



 白銀スライムたちが、鏡像投影を始める。

 五十四体だった魔力反応が、一気に百体を超えた。


「シズク、風属性だ!」

「ぷるっ!」


 シズクが風弾を横へ広げる。

 斜面を吹き抜けた風によって、白銀スライムの鏡像が次々と消えていった。


「本体だけになりました!」

「次は氷属性で足元を凍らせよう」


「ぷるっ!」


 黄金兜が緑色から青白い光へ切り替わる。

 シズクの前へ、複数の小さな氷槍が作り出された。

 一本ずつの威力を抑え、白銀スライムたちの足元へ向かって放つ。


 氷槍が地面へ突き刺さり、斜面を薄い氷で覆った。

 高速で滑っていた白銀スライムたちが、次々と体勢を崩し転倒していく。


「今なら近付けます!」


 美咲さんが凍った斜面を駆け下りる。

 起き上がろうとする白銀スライムへ剣を振るい、一体ずつ白銀魔核を砕いていった。

 別の白銀スライムが、美咲さんの背後から飛び掛かる。


「美咲さん、後ろ!」


 美咲さんは振り返らない。

 身体を低くしながら、背後へ盾を突き出した。

 白銀スライムが盾へぶつかり、空中へ浮き上がる。


「シズク!」

「ぷるっ!」


 俺の合図にシズクが石弾を放つ。

 高速で発射された石弾は、白銀スライムの鏡面膜へ突き刺さり貫通した。

 鏡面膜(きょうめんまく)に穴が開き、亀裂と共に内部の魔核が砕け散った。


「シズク。属性の切り替えが、かなり速くなっていますね」

「そうだな。黄金兜の補助も機能してるみたいだ」


 風属性で鏡像を消し、氷属性で動きを止める。

 硬い鏡面膜には、土属性の石弾。

 黄金スライムが密集した場合は、火球の爆風でまとめて押し戻す。

 シズクは四つの属性を、ほとんど止まることなく切り替えていた。



 ◇



 戦闘開始から十分ほどが経過した。

 敵対している個体の数は、半分近くまで減っている。


 だが、こちらも無傷ではない。

 美咲さんの盾には、銀弾を受けた跡が増えていた。

 シズクも、連続して魔法を使っている。


「一度、魔力を確認した方がいいな。シズクこちらへ」

「ぷる!」


 シズクへ『解析鑑定』を向ける。



 ◇____________________


 『個体名:シズク』


 『状態:良好』

 『魔力残量:63%』


 『装備効果』

 ・結晶冠:発動中

 ・黄金兜:発動中


 『魔力操作:安定』

 『属性切り替え:良好』


 ____________________◇



「魔力は六割以上残ってる。ただ、無理に強い魔法を使う必要はない」

「ぷるっ!」


「残りは、私が前へ出ます」

「俺も黄金スライムなら相手にできる。白銀スライムを美咲さんとシズクに任せたい」

「分かりました。ただし、無理はしないでください」

「そうする」


 斜面の左側から、黄金スライムが三体同時に跳び上がる。


 一体目の軌道を避け、二体目へ鋼短剣を振るう。

 身体を浅く切っただけで、魔核までは届かない。


 三体目が背後へ回る。


「ぴるっ!」


 ユキの声と同時に、頭上から強い敵意が伝わってきた。

 振り返るよりも先に身体を沈める。

 頭上を黄金スライムが通り過ぎた。


 羽靴で地面を蹴り、着地する前へ回り込む。

 黄金スライムの中心へ鋼短剣を突き立て、金魔核を砕いた。


「教えてくれて助かったよ」

「ぴるっ!」


 最初に傷を付けた黄金スライムが、再び飛び掛かる。

 白銀鎧の片側が俺の前へ移動し、その体当たりを受け流した。

 体勢を崩したところへ短剣を突き刺す。


 ユキ自身は攻撃していない。

 それでも、敵意を伝え、白銀鎧を通じて俺を守ってくれている。


「ユキも、十分に戦えてるぞ」

「ぴる……?」


「俺を守ってくれているだろう」

「ぴるっ!」


 ユキの身体から、先ほどまでよりも強い喜びが伝わってきた。



 ◇



 さらに戦闘を続ける。

 黄金スライムが減るにつれ、白銀スライムは数体ずつ固まって襲ってくるようになった。


「左から四体!」

「足止めします!」


 美咲さんが正面の一体を盾で押さえる。

 残る三体が、左右へ分かれた。


「シズク、火球で中央を分断して!」

「ぷるっ!」


 蒼い火球が地面へ着弾する。

 爆風が広がり、白銀スライムたちを左右へ押し分けた。


「右側は俺が誘導する!」


 羽靴で斜面を駆け上がる。

 二体の白銀スライムが、俺を追って向きを変えた。

 正面から戦えば、鋼短剣では鏡面膜に阻まれる。


「シズク、俺の後ろへ石弾!」

「ぷるっ!」


 俺は石弾の軌道から離れるように、横へ跳んだ。

 追ってきた白銀スライムへ、石弾が命中する。


 一体目の鏡面膜が砕け、その後ろにいた二体目へ衝突した。


「美咲さん!」

「はい!」


 美咲さんが斜面を駆け上がる。

 倒れた二体の白銀スライムへ剣を突き立て、白銀魔核を続けて砕いた。



 ◇



 最後に残ったのは、三体の白銀スライムだった。

 黄金スライムの敵対個体は、すべて倒している。

 三体の白銀スライムは互いの身体を重ね、一つの大きな鏡像を作り出した。


「まだ、鏡像を使えるみたいだ」

「本体の位置は分かりますか?」

「三体とも、鏡像の内側に重なってる」


 大きな白銀スライムが、丘の斜面を滑り始める。

 正面から受ければ、美咲さんでも押し切られる可能性がある。


「シズク。威力を抑えた風で、三体を離せるか?」

「ぷるっ!」


 シズクが地面すれすれへ風弾を放つ。

 正面からではなく、白銀スライムたちの間へ入り込むように風が広がった。

 重なっていた三体の身体が、左右へ引き離される。

 巨大な鏡像が消滅した。


「今です!」


 美咲さんが正面の一体へ接近する。

 盾で身体を持ち上げ、露出した下側から魔核を貫いた。


「シズク、左へ氷槍!」

「ぷるっ!」


 二体目へ氷槍が突き刺さる。

 白銀色の身体が地面へ縫い止められた。

 残る一体が、俺とユキへ銀弾を放つ。


 白銀鎧が二枚とも正面へ移動した。

 最初の銀弾を右側の装甲板が弾く。


 二発目は左側。

 三発目が、二枚の隙間を抜けてくる。


「ぴるっ!」


 ユキが身体を伸ばし、俺の首へ強くしがみ付いた。

 俺は羽靴で地面を蹴る。


 銀弾が足元を通過し、背後の地面へぶつかった。

 そのまま白銀スライムとの距離を詰める。


 羽靴の勢いを利用し、鋼短剣を両手で突き出した。

 刃が鏡面膜へ食い込む。

 硬い抵抗を感じながらも、体重を掛けて押し込んだ。


 鋼短剣の先端が白銀魔核へ届く。

 亀裂が走り、白銀スライムが銀色の粒子となって消えた。


「ラストです!」


 美咲さんが掛け声とともに、氷槍で動きを封じられた白銀スライムへ剣を振り下ろす。

 最後の白銀魔核が砕け散った。



 ◇____________________


 『スライム達の古戦場』

 『敵対個体:討伐完了』

 『戦闘意思を喪失した個体:敵対反応なし』


 『希少区域の残り時間:19分22秒』


 ____________________◇



「終わった……」


 俺は鋼短剣を下ろし、その場へ膝を突く。


「陸斗さん、怪我は?」

「大丈夫だ。体当たりを何度か受けたけど、スライムシリーズのおかげでかすり傷で済んだ」

「ユキも問題なさそうですか?」


「ちょっと待ってな」

「ぴるっ?」


 肩にいるユキを手のひらに乗せ、『解析鑑定』を向ける。



 ◇____________________


 『個体名:ユキ』


 『状態:良好』

 『魔力残量:100%』


 『白銀鎧』

 ・損傷:なし

 ・防御補助:正常作動


 『固定スキル:スライム幸運』

 ・発動中

 ・スライム種への希少ドロップ補正を確認


 ____________________◇



「良かった。ユキも白銀鎧も問題ない」

「ぴるっ!」


「シズクはどうですか?」

「魔力が三割ってところかな。怪我もないから大丈夫だ」

「良かった……」

「ぷるるっ!」


 黄金兜を載せたシズクが、誇らしそうに身体を伸ばした。


「二人とも、よく頑張ったね」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 美咲さんが二匹を順番に撫でる。


「ぴるるぅ」


 ユキは最初こそ身体を硬くしたが、美咲さんが敵ではないと思い出したのか、気持ち良さそうに撫でられていた。



 ◇



「急いで回収しよう」

「はいっ」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 希少区域が消えるまで、残り二十分もない。

 俺たちは手分けして、戦場に残された素材を回収した。

 シズクとユキも手伝ってくれている。


 金色と白銀色の魔核。

 大きさの異なる魔石。

 銀色の光を宿した液体。

 そして、力と守りの結晶飴。


 銀光液は用意していた密閉容器へ入れ、魔核と魔石は種類ごとに素材袋へ分ける。

 探索鞄一つでは収まり切らず、美咲さんの鞄にも分けて収納した。

 二人とも、鞄がパンパンである。


「これで、全部だと思います」

「念のため、解析してみる」


 回収した素材が全部あるか、探索鞄へ向けて『解析鑑定』を発動させた。



 ◇____________________


 『陸斗と美咲、両名の探索鞄内部のドロップ素材』


 『スライム達の古戦場・戦利品』


 『黄金軍』

 ・金魔核×64

  推定買取価格:320,000円


 ・金魔石×45

  推定買取価格:2,250,000円


 ・力の結晶飴×10

  推定買取価格:算出不能


 『白銀軍』

 ・白銀魔核×56

  推定買取価格:840,000円


 ・白銀魔石×36

  推定買取価格:5,400,000円


 ・銀光液×20

  推定買取価格:5,000,000円


 ・守りの結晶飴×10

  推定買取価格:算出不能


 『推定買取価格合計』 13,810,000円


 『価格計算対象外』

 ・力の結晶飴

 ・守りの結晶飴

 ・装備中の従魔専用装備


 ____________________◇



「千三百八十一万円……」


 表示された金額を見て、思わず声が漏れる。


「そんなにするんですか?」

「装備と結晶飴を除いても、千三百万円を超えてる」

「金魔石と白銀魔石が、ほとんどの個体から出たということですか?」

「そうみたいだ。銀光液も二十個ある」


 銀光液の通常ドロップ率は1%。

 五十体以上の白銀スライムを倒しても、一つ出れば良い方だ。

 それが、今回は二十個も残されていた。


「ぴる?」


 ユキが、自分の周囲に並べられた素材を不思議そうに見ている。


「間違いなく、ユキのスライム幸運が働いてる」

「ぴるっ!」


「力の結晶飴と守りの結晶飴も、十個ずつですね」

「安全性を確認したら、五個ずつ分けよう」

「私も受け取っていいんですか?」

「二人で戦って手に入れた物だ。それに、美咲さんが強くなればパーティー全体の安全にもつながる」

「……分かりました。ありがとうございます」


 結晶飴は売却せず、俺と美咲さんで半分ずつ使用することにした。



 ◇



 素材の回収を終えた時点で、希少区域の残り時間は十二分を切っていた。


「そろそろ入口へ戻った方がよさそうですね」

「そうだな。時間に余裕を持って___」


「ぴるっ」


 ユキが、俺の探索鞄を身体で引っ張った。


「どうした?」

「ぴるっ、ぴるっ!」


 ユキが丘の反対側へ向かって跳ねていく。

 少し進んでは振り返り、俺たちが付いてきているかを確認していた。


 耳飾りを通じて、ユキの強い意思が伝わってくる。


「向こうに、俺たちへ見せたい物があるみたいだ」

「残り時間は大丈夫ですか?」

「十一分四十八秒だ。場所が遠ければ、途中で引き返そう」

「分かりました」


「ユキ。案内してくれるか?」

「ぴるっ!」


 ユキが嬉しそうに身体を伸ばす。

 俺たちはユキのあとを追い、戦場の奥へ向かった。

 やがて、大きく崩れた石造りの建物が見えてくる。


 黄金色と白銀色。

 二色の扉が、瓦礫の奥へ隠れるように残されていた。

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