68話「黄金将軍と白銀騎士」
黄金と白銀、二つの軍勢が同時に動き始める。
黄金軍は数で押し潰すように、一斉に地面を跳ねた。
対する白銀軍は、互いの動きを合わせながら高速で滑ってくる。
「美咲さん、最初に黄金将軍の号令を止めよう」
「戦いたくない黄金スライムを、解放するんですね」
「そうだ。号令を解除できれば、すべてを相手にする必要はなくなる」
俺はユキを左肩へ載せる。
「俺から離れないでくれ」
「ぴるっ」
ユキが落ちないように身体を伸ばし、肩へ密着した。
美咲さんが俺たちの前へ立つ。
「シズク。まずは陸斗さんとユキを守りながら戦うよ」
「ぷるっ!」
黄金軍の先頭から、無数の黄金光弾が放たれた。
「来ます!」
美咲さんが盾を構える。
黄金光弾が次々と盾へぶつかり、激しい音を響かせた。
盾で防ぎ切れなかった光弾が、左右から俺たちへ迫る。
「シズク、風で逸らして!」
「ぷるっ!」
広がった風が黄金光弾の軌道を変える。
光弾は俺たちの左右を通り過ぎ、地面へぶつかって弾けた。
「ぴる……!」
肩にいるユキから、恐怖が伝わってくる。
「大丈夫だ。俺たちが守る」
「ぴるっ」
そうユキに伝えると、安心したような感情が伝わってきた。
黄金将軍スライムは軍勢の後方にいる。
周囲には黄金色の障壁が展開され、通常の黄金スライムが何重にも取り囲んでいた。
正面から近付こうとすれば、号令を受けた軍勢に阻まれる。
「号令の解除方法は___」
黄金将軍スライムの頭上にある兜と、全身を覆う黄金色の光へ意識を集中させた。
◇____________________
『黄金号令』
『効果』
・黄金軍所属個体へ戦闘を強制
・命令拒否および戦線離脱を封印
・対象の攻撃力を上昇
『制御部』
・黄金将軍スライムの額にある指揮結晶
『指揮結晶の露出条件』
・新たな号令を発動
・金光砲の魔力充填
『推定露出時間:2.1秒』
『解除方法』
・指揮結晶へ高密度の衝撃を与える
『解除後』
・黄金号令を使用不能
・黄金将軍スライムを3秒間行動不能
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「号令を出す瞬間に、額の指揮結晶が露出する。そこへ強い衝撃を当てれば解除できる」
「石弾が使えそうですね」
「俺もそう思う」
シズクが、すぐに土属性の魔力を集めようとする。
「シズク、まだ撃たなくていい。結晶が見えた時に一度で壊そう」
「ぷるっ!」
黄金将軍スライムが大きく身体を膨らませる。
頭上の黄金兜から光が広がり、正面へ集まり始めた。
「金光砲が来る! 指揮結晶も露出する!」
黄金将軍スライムの額へ、小さな六角形の結晶が浮かび上がる。
同時に、強烈な黄金色の光が一直線に放たれた。
「陸斗さん、右へ!」
美咲さんの指示に従い、羽靴で右へ跳ぶ。
美咲さんも反対方向へ回避した。
俺たちがいた場所を金光砲が通過し、地面を大きく抉っていく。
「シズク、今だ!」
「ぷるっ!」
シズクの前へ、茶色い魔力が集まる。
作り出された石弾は小さいが、その分内部へ魔力が圧縮されている。
石弾が黄金軍の間を抜け、黄金将軍スライムの額へ向かう。
周囲にいる黄金スライムが、指揮結晶を守ろうと一斉に跳び上がった。
「美咲さん!」
「任せてください!」
美咲さんが黄金スライムの間へ踏み込む。
一体目を盾で弾き、続く二体目を剣の腹で受け流した。
石弾の軌道が開き、高密度の魔力を纏った石の弾丸が、露出した指揮結晶へ正面から命中した。
硬い音と共に、黄金色の結晶が砕け散る。
◇____________________
『指揮結晶:破壊』
『黄金号令:解除』
『戦闘強制:解除』
『命令拒否の封印:解除』
『戦線離脱の封印:解除』
『黄金将軍スライム』
『行動不能時間:3秒』
____________________◇
黄金軍全体を覆っていた光が消えた。
前方にいた黄金スライムたちが、戸惑うように動きを止める。
身体を震わせていた個体は、戦場の外へ向かって逃げ始めた。
だが、すべてではない。
号令が解除されても、好戦的な黄金スライムは俺たちへ敵意を向けたままだった。
「強制されていた個体は逃げ始めてる!」
「黄金将軍は私が倒します!」
美咲さんが動けない黄金将軍スライムへ駆ける。
黄金色の障壁は消えている。
美咲さんが剣を振り下ろし、巨大な身体へ深い傷を刻んだ。
魔核へ届く前に、行動不能の残り時間が一秒を切る。
「魔核は中央より少し下です!」
「分かりました!」
黄金将軍スライムの身体が動き始める。
巨大な身体で、美咲さんを押し潰そうとする。
美咲さんは一歩だけ踏み込み、剣を真っ直ぐ突き出した。
刃が黄金色の身体を貫く。
その奥にあった大きな金魔核へ届き、中心を正確に砕いた。
黄金将軍スライムの身体から、無数の亀裂が広がる。
最後に大きく膨らんだあと、黄金色の粒子となって崩れ落ちた。
◇____________________
『黄金将軍スライム』
『討伐:完了』
『黄金号令:完全停止』
____________________◇
「一体目です!」
黄金将軍スライムが消えた場所へ、複数の素材が落ちる。
確認したいが、まだ白銀騎士スライムが残っている。
「美咲さん、後ろから来る!」
白銀色の槍が、美咲さんへ向かって伸びる。
彼女は振り返りながら盾を構えた。
槍と盾が衝突し、美咲さんの身体が大きく押し戻される。
「重い……!」
白銀騎士スライムは攻撃を止めない。
左右に浮かぶ白銀色の装甲板が分裂し、三体の鏡像を作り出した。
周囲の白銀スライムも同じ姿を投影する。
数十体の白銀騎士スライムが、俺たちを取り囲んだ。
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『白銀陣形』
『展開状況:継続』
『効果』
・白銀軍所属個体の動きを同期
・鏡像および魔力反応を共有
・指揮個体の魔力反応を全個体へ複製
『解析上の本体判別:困難』
『陣形の弱点』
・広範囲の風属性攻撃
・空気の流れによる鏡像同期の阻害
『同期阻害後』
・鏡像投影を5秒間停止
・白銀騎士スライムの位置を特定可能
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「全員に、白銀騎士の魔力反応が複製されてる。今のままでは本体を見分けられない」
「風属性で陣形を崩せますか?」
「ああ。広い範囲へ風を起こせば、鏡像の同期を止められる」
美咲さんがシズクを見る。
「シズク。威力は必要ないから、できるだけ広く風を広げて」
「ぷるっ!」
シズクが身体を大きく伸ばす。
周囲へ風属性の魔力が広がり、地面に積もった砂を巻き上げていく。
白銀騎士スライムの鏡像が、一斉に揺らいだ。
白銀軍を繋いでいた光も途切れる。
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『白銀陣形:同期阻害』
『鏡像投影:停止』
『効果時間:5秒』
『白銀騎士スライムの位置を特定』
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「本体は左奥だ!」
鏡像が消え、白銀騎士スライムの姿が一体だけ残る。
白銀騎士スライムは細長い槍を作り出し、身体へ強い魔力を纏った。
「突進が来ます!」
狙われているのは、美咲さんではない。
白銀騎士スライムから放たれる敵意が、耳飾りを通して俺へ伝わってくる。
正確には、俺の肩にいるユキへ向けられていた。
「ユキを狙ってる!」
白銀騎士スライムが地面を滑る。
銀色の軌跡を残しながら、一気に距離を詰めてきた。
「陸斗さん、動かないでください!」
美咲さんが俺たちの前へ入る。
盾を正面ではなく、僅かに斜めへ構えた。
白銀の槍が盾へ触れた瞬間、美咲さんが身体を横へ回す。
白銀騎士スライムの突進が逸れ、俺たちのすぐ横を通り過ぎた。
「陸斗さん!」
「分かってる!」
すれ違う白銀騎士スライムへ『解析鑑定』を集中させる。
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『銀槍突撃後』
『騎士外殻・右側接合部:露出』
『露出時間:1.8秒』
『有効攻撃』
・高密度の打撃
・土属性攻撃
・盾による打撃
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「右側の装甲板の付け根が弱点だ!」
「叩きます!」
美咲さんが盾を両手で握る。
白銀騎士スライムが向きを変えるよりも早く、右側の装甲板へ盾を叩き付けた。
激しい衝突音が響く。
白銀色の接合部へ、細い亀裂が走った。
だが、完全には砕けていない。
「シズク、接合部へ石弾!」
「ぷるっ!」
シズクの前へ作り出された石弾が放たれる。
美咲さんが作った亀裂へ、正確に命中した。
右側の装甲板が砕け、白銀騎士スライムの身体から外れる。
◇____________________
『騎士外殻:一部破壊』
『右側防御:解除』
『魔核防護率:低下』
____________________◇
「魔核を守る外殻が弱くなった!」
「右側から斬り込みます!」
美咲さんが距離を詰める。
白銀騎士スライムは残った装甲板を右側へ移動させ、防御しようとした。
だが、その分だけ左側が完全に開く。
「反対側へ移動した! 左から攻撃できます!」
「はい!」
美咲さんが急停止し、白銀騎士スライムの背後へ回り込む。
銀色の身体へ剣を突き立てた。
刃は硬質な身体へ阻まれながらも、少しずつ奥へ進んでいく。
白銀騎士スライムが身体を捻り、美咲さんを振り払おうとする。
「ぷるっ!」
シズクの風弾が側面へ当たり、その動きを僅かに止めた。
「今です!」
美咲さんが剣へ力を込める。
刃先が白銀魔核へ届いた。
澄んだ音と共に、魔核が真っ二つに割れる。
白銀騎士スライムの身体から銀色の光が溢れ出した。
周囲に残っていた鏡像が消滅する。
白銀軍を繋いでいた魔力も完全に途切れた。
◇____________________
『白銀騎士スライム』
『討伐:完了』
『白銀陣形:完全停止』
____________________◇
「倒しました!」
「ぷるるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキが同時に身体を伸ばす。
黄金将軍と白銀騎士。
二体の指揮個体を倒したことで、戦場を覆っていた黄金色と白銀色の光が消えていった。
◇
両軍が動きを止めている間に、落ちた素材を回収する。
黄金将軍スライムが消えた場所には、金魔核と金魔石。
その隣に、半透明の黄金色をした小さな兜が残されていた。
白銀騎士スライムが消えた場所にも、白銀魔核と白銀魔石が落ちている。
さらに、左右へ分かれた二枚の白銀色の装甲板が並んでいた。
俺が素材へ意識を向けた瞬間、新しい解析表示が現れる。
◇____________________
『固定スキル:スライム幸運』
『発動対象:ユキ』
『スライム種の討伐を確認』
『希少ドロップ補正:発動』
『獲得した条件付き希少ドロップ』
・黄金兜
・白銀鎧
____________________◇
「ユキのスライム幸運が発動したみたいだ」
「では、この二つが希少ドロップなんですね」
「ああ。どちらも通常なら五パーセントの装備だ」
「ぴる?」
ユキは自分の力が働いたと分かっていないらしい。
「ユキのおかげで、二つとも手に入った」
「ぴるっ!」
褒められたことだけは伝わり、肩の上で嬉しそうに揺れる。
最初に、黄金色の兜へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『黄金兜』
『品質:S』
『希少度:A』
『推定買取価格:800,000円』
『分類』
・スライム系従魔専用装備
・上部浮遊装備
『効果』
・攻撃魔法の威力を僅かに上昇
・属性切り替えを補助
・魔力集中時の安定性を上昇
・装備者に合わせて大きさを自動調整
『装備可能対象』
・シズク
・ユキ
『推奨装備対象:シズク』
『結晶冠との同時装備:可能』
『安全性:問題なし』
____________________◇
「これは、シズクと相性が良い装備みたいだ」
「結晶冠と一緒に着けられますか?」
「ああ。問題ない」
「ぷるっ!」
シズクが待ち切れないように跳ねる。
美咲さんが黄金兜を近付けると、半透明の装備がふわりと浮かび上がった。
シズクの頭上へ移動し、結晶冠の少し下で静止する。
黄金兜は、細い三日月を横にしたような形だった。
上には青い結晶冠。
その下には、半透明の黄金兜。
二つの装備は重なることなく、シズクの動きに合わせて浮かんでいる。
「ぷるるっ!」
「よく似合ってるよ」
「ぷるっ!」
続いて、二枚に分かれた白銀鎧を調べる。
◇____________________
『白銀鎧』
『品質:S』
『希少度:A』
『推定買取価格:1,000,000円』
『分類』
・スライム系従魔専用装備
・側面浮遊装備
『効果』
・物理攻撃と魔法攻撃による損傷を僅かに軽減
・攻撃を受ける方向へ自動移動
・防御魔法の効果を上昇
・回復魔法と支援魔法の消費魔力を僅かに軽減
・装備者に合わせて大きさを自動調整
『装備可能対象』
・シズク
・ユキ
『推奨装備対象:ユキ』
『安全性:問題なし』
____________________◇
「白銀鎧は、ユキの防御や回復の適性を伸ばせるみたいだ」
「すぐに装備させますか?」
「そうだな。まだ戦闘は終わっていない。少しでも守りを固めておきたい」
ユキを地面へ下ろし、白銀鎧を近付ける。
「ユキ。身体の横へ浮かぶ装備だ。嫌なら無理に着けなくてもいい」
「ぴる?」
二枚の装甲板が浮かび上がり、ユキの左右へ移動する。
白い身体を隠さない大きさまで縮むと、僅かに間を空けて静止した。
ユキが身体を傾けると、白銀鎧も同じ方向へ動いた。
「ぴるっ!」
「気に入ったみたいですね」
「そうみたいだな」
ユキが小さく跳ねるたび、左右の白銀鎧も遅れることなく付いていく。
先ほどまで震えていたユキから、僅かな安心が伝わってきた。
◇
黄金号令から解放されたスライムの多くは、戦場の端へ逃げ始めていた。
耳飾りを通じて伝わってくるのは、戦いから解放された安堵と、黄金将軍に対する恐怖。
戦う意思は残っていない。
だが、好戦的な黄金スライムたちは、その場に残っている。
白銀軍も陣形を失ったものの、すべてが撤退したわけではない。
白銀騎士を倒された怒りと敵意が、俺たちへ向けられていた。
「戦う意思のない個体は、攻撃しないようにしよう」
「はい。向かってくる個体だけを相手にします」
「ぷるっ!」
「ユキは、まだ俺の近くにいてくれ」
「ぴるっ」
希少区域の残り時間を確認する。
◇____________________
『スライム達の古戦場』
『残り時間:38分41秒』
『軍勢指揮個体』
・黄金将軍スライム:討伐済み
・白銀騎士スライム:討伐済み
『残存戦力』
・黄金軍:一部が敵対継続
・白銀軍:敵対継続
____________________◇
「残りは四十分を切ってる」
「それでも、指揮個体を倒したことで数は減りました」
「ああ。ここからは、向かってくる相手だけを倒そう」
黄金スライムが身体を低くする。
白銀スライムも銀弾を作り始めた。
黄金兜を身に着けたシズクが、美咲さんの前へ出る。
左右へ白銀鎧を浮かべたユキも、俺の足元で小さく身体を伸ばした。
「ぴるっ!」
「無理はしなくていい」
「ぴるるっ」
怖がりながらも、今度は逃げようとしていない。
二つの軍勢が、再び俺たちへ向かって動き始めた。




