↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
67/153

67話「純白スライムのユキ」


 羽靴へ魔力を流し、丘の上へ向かって駆ける。

 傷付いた純白スライムへ、黄金スライムが飛び掛かろうとしていた。


「させない!」


 純白スライムとの間へ滑り込み、鋼短剣を構える。

 黄金スライムの体当たりを刃の腹で受け流す。

 完全には逸らし切れず、肩へ黄金色の身体がぶつかった。


「ぐっ……!」


 衝撃で身体を押し戻される。

 それでも、スライムシリーズの効果が働いたのか、受けた衝撃は予想していたよりも小さい。


 黄金スライムは着地すると、再び俺へ向かって跳び上がった。

 直後、その身体へ風弾が命中する。


「ぷるっ!」


 シズクの風弾によって軌道を変えられ、黄金スライムが地面へ転がった。


「陸斗さん、銀弾が来ます!」


 美咲さんが俺の前へ飛び込む。

 盾へ白銀色の弾がぶつかり、甲高い音が響いた。

 丘の反対側では、白銀スライムが次の銀弾を作り出している。


「純白スライムをお願いします!」

「分かった!」


 美咲さんが白銀スライムへ向かう。

 白銀スライムは身体を三つの鏡像へ分け、一斉に滑り始めた。


「シズク、風弾で鏡像を崩すんだ!」

「ぷるっ!」


 シズクが放った風弾が、三体の白銀スライムをまとめて巻き込む。

 二体の鏡像が揺らぎ、銀色の粒子となって消えた。


「美咲さん! 本体は右だ!」

「はい!」


 美咲さんが残った一体へ距離を詰める。

 白銀スライムが正面から突進する。


 美咲さんは盾を斜めに構え、身体を横へ受け流した。

 体勢を崩した白銀スライムへ剣を突き立てる。


 刃が銀色の身体を貫き、中心にある魔核を砕いた。

 同時に、俺へ飛び掛かってきた黄金スライムの軌道を『解析鑑定』で捉える。


「食らった右肩か……っ!」


 身体を左へずらす。

 黄金スライムが目の前を通り過ぎる瞬間、鋼短剣を突き出した。


 黄金色の身体へ刃が入り、内部の魔核へ届く。

 砕けた黄金スライムが、光の粒子となって消えていった。


「陸斗さん!」

「俺は大丈夫だ。純白スライムを調べる!」


 俺は丘の中央へ駆け寄った。

 純白スライムは身体を動かすこともできず、地面へ横たわっていた。

 雪のように白かったはずの身体には、黄金色と白銀色の傷が無数に刻まれている。

 内部にある魔核にも、大きな亀裂が走っていた。


 すぐに『解析鑑定』を発動させ、助けられる情報がないか確認する。



 ◇____________________


 『純白(ホワイト)スライム』


 『分類:希少個体』

 『危険度:E』

 『性格:温厚・臆病』


 『所属:なし』

 『戦闘意思:なし』


 『状態:瀕死』

 『生命力残量:5%』

 『身体損傷率:78%』

 『魔核損傷:重度』


 『両軍からの排斥理由』

 ・いずれの軍勢にも所属していない

 ・戦闘への参加を拒否


 『推奨治療』

 ・最上級回復薬:生命維持および身体損傷の一部回復

 ・秘薬:完全回復可能


 『生命維持可能時間:2分36秒』


 ____________________◇



「魔核まで傷付いてる……」


 通常の最上級回復薬でも、身体の傷は治せる。

 だが、砕けかけた魔核までは完全に修復できない。


「助けられますか?」

「『秘薬』なら、完全に治せるみたいだ」


 美咲さんの探索鞄には、最後の『秘薬』が残されている。

 斉藤さんが調合した、最高品質の最上級回復薬。

 協会が新たな名称と、百五十万円の価値を付けた回復薬だ。

 美咲さんは迷うことなく答えた。


「使ってください」

「良いのか? それは美咲さんの分だが」

「この子へ使ってください。この時の為のものです」


 美咲さんが純白スライムを見る。


「目の前に、秘薬でしか助けられない命があるんです」

「そうだな。分かった」


 美咲さんから『秘薬』を受け取り蓋を外す。

 純白スライムの身体へ近付けると、解析表示へ使用手順が表示された。

 魔核を覆うように注ぐと良いらしい。

 それに倣い、白金色の薬液を傷付いた身体へ少しずつ注いでいく。

 純白スライムの身体が、薬液をゆっくりと取り込んだ。


「ぴ……る……」

「大丈夫だ。すぐに傷が治るからな」


 残りの薬液も、魔核へ注ぐ。

 すると、白金色の光が純白スライムの身体を包み込んだ。


 傷付いた身体が、内側から作り直されていく。

 亀裂の入った魔核へ白金色の光が集まり、欠けた部分を埋め始めた。

 やがて亀裂が完全に閉じる。


 身体に残っていた無数の傷も消え、雪のように滑らかな白へ戻っていった。



 ◇____________________


 『秘薬の使用を確認』


 『魔核修復:完了』

 『身体損傷:完治』

 『生命力残量:100%』


 『状態:良好』


 ____________________◇



「良かった。治った……」


 純白スライムが、ゆっくりと身体を起こす。


「ぴる?」


 自分の身体を確認するように、何度も伸び縮みする。


「もう痛くないみたいだな」

「よかった……」


 美咲さんが安堵したように息を吐く。

 シズクも純白スライムの前へ移動した。


「ぷるっ」

「ぴる……」


 シズクが身体の一部を伸ばす。

 純白スライムも恐る恐る身体を伸ばし、シズクへ触れた。


「仲良くできそうですね」

「そうだな」


 純白スライムがシズクから離れ、今度は俺の足元へ近付いてくる。


「ぴるっ」


 柔らかな身体が、俺の靴へ押し付けられた。

 耳に着けたスライムの耳飾りを通じて、純白スライムの感情が伝わってくる。


 助けてもらったことへの感謝。

 置いていかれることへの不安。

 そして、俺と一緒に行きたいという強い意思。


「俺と一緒に来たいのか?」

「ぴるっ!」


 純白スライムが、強く身体を伸ばす。

 その魔核から白い光が放たれた。

 光は俺へ向かって伸びてくるものの、身体へ触れる直前で止まっている。


 純白スライムへ『解析鑑定』を発動させた。



 ◇____________________


 『純白スライムから従魔契約を求められています』


 『契約希望対象』

 ・一城陸斗


 『契約方式』

 ・従魔側申請型


 『契約条件』

 ・双方の意思で『従魔契約証』へ触れる


 『契約後』

 ・契約者との同行が可能

 ・希少区域外への移動が可能

 ・探索者協会での従魔登録が必要


 『現在の達成状況:未達成』


 ____________________◇



「この子から、俺へ従魔契約を求めてるみたいだ」

「純白スライムの方からですか?」

「ああ。だけど、俺は従魔契約証を持っていない」

「それなら、私が予備を持っていますよ」


 美咲さんが探索鞄を開き、保護ケースを取り出す。

 中には、何も登録されていない銀色のカードが数枚入っていた。


「シズクと契約してから、何があるか分からないので予備を用意していたんです」

「使わせてもらっていいか?」

「もちろんです」


 美咲さんが、銀色の従魔契約証を差し出す。


「白いスライムさんは、陸斗さんと一緒に行きたいんですよね?」

「ぴるっ!」


 純白スライムが迷うことなく答えた。

 俺は美咲さんから従魔契約証を受け取る。

 表面には、人間と従魔が触れるための二つの紋章が刻まれていた。


「俺も、お前と一緒に行きたい」

「ぴるるっ!」


 片方の紋章へ、俺が指を触れる。

 純白スライムが身体を伸ばし、もう片方の紋章へ触れた。


 二つの紋章から白い光が立ち上る。

 純白スライムの魔核と俺の身体を結ぶように、細い光が伸びた。


 温かな魔力が胸元へ流れ込んでくる。

 従魔契約証の表面へ、新しい情報が刻まれていった。



 ◇____________________


 『従魔契約:成立』


 『契約者』

 ・一城陸斗


 『契約従魔』

 ・純白スライム


 『個体名:未登録』

 『探索者協会への従魔登録:未登録』


 ____________________◇



「契約できたみたいだ」

「ぴるるっ!」


 純白スライムが嬉しそうに跳ね、俺の胸元へ飛び込んでくる。

 両手で受け止めると、柔らかな身体を何度も押し付けてきた。


「名前も決めないとな」

「真っ白で、雪みたいな子ですね」

「そうだな……」


 腕の中にいる純白スライムを見る。


「雪みたいに白いから、ユキという名前はどうだ?」

「ぴるっ!」


 気に入ってくれたらしい。

 従魔契約証へ、ユキの名前が刻まれる。


 ◇____________________


 『個体名:ユキ』

 『種族:純白(ホワイト)スライム』

 『契約者:一城陸斗』


 『状態:良好』

 『従魔登録:未登録』


 『固定スキル』

 ・スライム幸運


 『スライム幸運』

 ・契約者または同一パーティーがスライム種を討伐した場合、ドロップ判定へ幸運補正

 ・スライム種からの希少ドロップ率を上昇

 ・補正量は対象の希少度により変動


 『魔法適性』

 ・防御:高

 ・回復:高

 ・支援:高

 ・攻撃:低


 『習得魔法:なし』


 ____________________◇



「ユキは、防御や回復の魔法に適性があるみたいだ」

「シズクとは、反対ですね」

「そうだな。攻撃魔法の適性は低いが、守るための魔法を覚えられると思う」

「ぴる?」


 ユキは自分のことだと分かっていないのか、腕の中で身体を傾けている。


「今すぐ戦わなくてもいい。少しずつ覚えていこう」

「ぴるっ!」

「ぷるっ!」


 シズクも先輩らしく励ましているようだった。

 その時、俺が身に着けているスライムシリーズが淡い光を放った。

 五つの装備から伸びた光が俺の身体へ集まり、さらに契約したばかりのユキへ流れ込んでいく。



 ◇____________________


 『スライムシリーズ』


 『完全装備効果』

 ・装備者と契約中のスライム系従魔の能力値を20%上昇


 『契約中のスライム系従魔との能力上昇:発動』


 『対象』

 ・一城陸斗

 ・ユキ


 『能力値補正:20%』


 ____________________◇



「スライムシリーズの最後の効果も発動した」

「ユキと契約したからですね」

「ああ。俺とユキの能力が、二割上がってるみたいだ」


 身体が先ほどまでよりも軽い。

 腕の中にいるユキの魔力も僅かに増え、白い身体が淡く輝いていた。


「ぴるるっ!」


 ユキにも変化が分かるらしく、嬉しそうに跳ねる。

 だが、直後。


「ぴる……!」


 ユキの身体が硬くなった。

 俺の腕へ隠れるように小さく縮む。

 スライムの耳飾りを通じて、強い恐怖が伝わってきた。


「どうした?」


 ユキが震えながら、丘の下へ身体を向ける。

 黄金と白銀の軍勢が、左右へ大きく分かれていた。

 黄金軍の奥から、一際大きな黄金色のスライムが進み出る。

 通常の黄金スライムよりも遥かに大きい。

 頭上には、半透明の黄金色をした兜が浮かんでいる。


 その反対側。


 白銀軍からも、全身へ銀色の光を纏ったスライムが姿を現した。

 身体の左右には、鎧のような白銀色の装甲板が浮かんでいる。


「二体とも、軍勢を指揮している個体みたいだ」


 最初に、黄金色の個体へ『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『黄金将軍(ゴールデンジェネラル)スライム』


 『上位希少個体』

 『所属:黄金軍』

 『役割:軍勢指揮個体』

 『性格:支配的・好戦的』

 『危険度:C+』


 『特性』

 ・黄金号令

 ・金光増幅

 ・黄金障壁

 ・巨大化


 『攻撃』

 ・黄金光弾

 ・金光砲

 ・号令突撃

 ・圧砕体当たり


 『ドロップ品』

 ・金魔核(100%)

 ・金魔石(25%)

 ・力の結晶飴(0.5%)

 ・黄金兜(ゴールデンヘルム)(5%)


 ____________________◇



「黄金軍を率いているのは、黄金将軍スライム。危険度はCプラスだ」


 続いて、白銀色の個体を調べる。



 ◇____________________


 『白銀騎士(シルバーナイト)スライム』


 『上位希少個体』

 『所属:白銀軍』

 『役割:軍勢指揮個体』

 『性格:冷静・忠誠心が強い』

 『危険度:B-』


 『特性』

 ・白銀陣形

 ・鏡像投影

 ・騎士外殻

 ・高速滑走


 『攻撃』

 ・銀槍突撃

 ・銀弾

 ・鏡像連続突き

 ・白銀盾撃


 『ドロップ品』

 ・白銀魔核(100%)

 ・白銀魔石(25%)

 ・銀光液(1%)

 ・守りの結晶飴(0.5%)

 ・白銀鎧(シルバーアーマー)(5%)


 ____________________◇



「白銀軍の指揮個体は、白銀騎士スライム。こちらは危険度Bマイナスだ」

「第五層や第九層の階層守護個体に近い強さですね」

「それだけじゃない。二体とも、周囲の軍勢を強化する能力を持ってる」


 黄金将軍スライムが、大きく身体を震わせた。

 頭上の黄金兜から光が広がり、黄金軍の全体を覆っていく。



 ◇____________________


 『黄金号令:発動』


 『効果』

 ・黄金軍所属個体へ戦闘を強制

 ・撤退および命令拒否を封印

 ・攻撃力を上昇


 ____________________◇



 黄金軍の中には、明らかに身体を震わせている個体がいた。

 それでも、黄金将軍の号令へ逆らうことができず、強制的に俺たちへ身体を向けていく。


「戦いたくない黄金スライムまで、無理やり動かされてるみたいだ」

「それでしたら、先に黄金将軍を倒すことが出来れば……」

「ああ、号令を止められると思う」


 反対側では、白銀騎士スライムが身体の一部を細長い槍の形へ変えた。

 白銀軍のスライムたちが規則正しく並び、互いの身体を銀色の光で繋いでいく。



 ◇____________________


 『白銀陣形:展開』


 『効果』

 ・白銀軍所属個体の動きを同期

 ・鏡像および魔力反応を共有

 ・防御力と移動速度を上昇


 ____________________◇



「白銀軍も動きます!」


 美咲さんが、剣と盾を構える。

 シズクが彼女の肩から跳び下り、俺とユキを守るように前へ出た。


「ぷるっ!」

「ぴる……」


 ユキは、まだ戦える状態ではない。

 怪我は治っていても、両軍から攻撃され続けた恐怖までは消えていなかった。


 俺はユキを抱え直す。


「ユキは、俺の近くにいればいい。無理に戦わなくて大丈夫だ」

「ぴる……」


「もう一人にはしない」

「ぴるっ」


 ユキの震えが、僅かに収まる。


「陸斗さん。希少区域の残り時間は?」

「四十七分ほどだ」


 時間内に二体の指揮個体を倒し、黄金と白銀の軍勢を突破しなければならない。


「まずは、あの二体の指揮を止めよう」

「分かりました」

「ぷるっ!」


 黄金将軍が号令を下す。

 白銀騎士も銀色の槍を前へ向けた。


 次の瞬間。

 黄金と白銀、二つのスライム軍が同時に俺たちへ向かって動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。