67話「純白スライムのユキ」
羽靴へ魔力を流し、丘の上へ向かって駆ける。
傷付いた純白スライムへ、黄金スライムが飛び掛かろうとしていた。
「させない!」
純白スライムとの間へ滑り込み、鋼短剣を構える。
黄金スライムの体当たりを刃の腹で受け流す。
完全には逸らし切れず、肩へ黄金色の身体がぶつかった。
「ぐっ……!」
衝撃で身体を押し戻される。
それでも、スライムシリーズの効果が働いたのか、受けた衝撃は予想していたよりも小さい。
黄金スライムは着地すると、再び俺へ向かって跳び上がった。
直後、その身体へ風弾が命中する。
「ぷるっ!」
シズクの風弾によって軌道を変えられ、黄金スライムが地面へ転がった。
「陸斗さん、銀弾が来ます!」
美咲さんが俺の前へ飛び込む。
盾へ白銀色の弾がぶつかり、甲高い音が響いた。
丘の反対側では、白銀スライムが次の銀弾を作り出している。
「純白スライムをお願いします!」
「分かった!」
美咲さんが白銀スライムへ向かう。
白銀スライムは身体を三つの鏡像へ分け、一斉に滑り始めた。
「シズク、風弾で鏡像を崩すんだ!」
「ぷるっ!」
シズクが放った風弾が、三体の白銀スライムをまとめて巻き込む。
二体の鏡像が揺らぎ、銀色の粒子となって消えた。
「美咲さん! 本体は右だ!」
「はい!」
美咲さんが残った一体へ距離を詰める。
白銀スライムが正面から突進する。
美咲さんは盾を斜めに構え、身体を横へ受け流した。
体勢を崩した白銀スライムへ剣を突き立てる。
刃が銀色の身体を貫き、中心にある魔核を砕いた。
同時に、俺へ飛び掛かってきた黄金スライムの軌道を『解析鑑定』で捉える。
「食らった右肩か……っ!」
身体を左へずらす。
黄金スライムが目の前を通り過ぎる瞬間、鋼短剣を突き出した。
黄金色の身体へ刃が入り、内部の魔核へ届く。
砕けた黄金スライムが、光の粒子となって消えていった。
「陸斗さん!」
「俺は大丈夫だ。純白スライムを調べる!」
俺は丘の中央へ駆け寄った。
純白スライムは身体を動かすこともできず、地面へ横たわっていた。
雪のように白かったはずの身体には、黄金色と白銀色の傷が無数に刻まれている。
内部にある魔核にも、大きな亀裂が走っていた。
すぐに『解析鑑定』を発動させ、助けられる情報がないか確認する。
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『純白スライム』
『分類:希少個体』
『危険度:E』
『性格:温厚・臆病』
『所属:なし』
『戦闘意思:なし』
『状態:瀕死』
『生命力残量:5%』
『身体損傷率:78%』
『魔核損傷:重度』
『両軍からの排斥理由』
・いずれの軍勢にも所属していない
・戦闘への参加を拒否
『推奨治療』
・最上級回復薬:生命維持および身体損傷の一部回復
・秘薬:完全回復可能
『生命維持可能時間:2分36秒』
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「魔核まで傷付いてる……」
通常の最上級回復薬でも、身体の傷は治せる。
だが、砕けかけた魔核までは完全に修復できない。
「助けられますか?」
「『秘薬』なら、完全に治せるみたいだ」
美咲さんの探索鞄には、最後の『秘薬』が残されている。
斉藤さんが調合した、最高品質の最上級回復薬。
協会が新たな名称と、百五十万円の価値を付けた回復薬だ。
美咲さんは迷うことなく答えた。
「使ってください」
「良いのか? それは美咲さんの分だが」
「この子へ使ってください。この時の為のものです」
美咲さんが純白スライムを見る。
「目の前に、秘薬でしか助けられない命があるんです」
「そうだな。分かった」
美咲さんから『秘薬』を受け取り蓋を外す。
純白スライムの身体へ近付けると、解析表示へ使用手順が表示された。
魔核を覆うように注ぐと良いらしい。
それに倣い、白金色の薬液を傷付いた身体へ少しずつ注いでいく。
純白スライムの身体が、薬液をゆっくりと取り込んだ。
「ぴ……る……」
「大丈夫だ。すぐに傷が治るからな」
残りの薬液も、魔核へ注ぐ。
すると、白金色の光が純白スライムの身体を包み込んだ。
傷付いた身体が、内側から作り直されていく。
亀裂の入った魔核へ白金色の光が集まり、欠けた部分を埋め始めた。
やがて亀裂が完全に閉じる。
身体に残っていた無数の傷も消え、雪のように滑らかな白へ戻っていった。
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『秘薬の使用を確認』
『魔核修復:完了』
『身体損傷:完治』
『生命力残量:100%』
『状態:良好』
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「良かった。治った……」
純白スライムが、ゆっくりと身体を起こす。
「ぴる?」
自分の身体を確認するように、何度も伸び縮みする。
「もう痛くないみたいだな」
「よかった……」
美咲さんが安堵したように息を吐く。
シズクも純白スライムの前へ移動した。
「ぷるっ」
「ぴる……」
シズクが身体の一部を伸ばす。
純白スライムも恐る恐る身体を伸ばし、シズクへ触れた。
「仲良くできそうですね」
「そうだな」
純白スライムがシズクから離れ、今度は俺の足元へ近付いてくる。
「ぴるっ」
柔らかな身体が、俺の靴へ押し付けられた。
耳に着けたスライムの耳飾りを通じて、純白スライムの感情が伝わってくる。
助けてもらったことへの感謝。
置いていかれることへの不安。
そして、俺と一緒に行きたいという強い意思。
「俺と一緒に来たいのか?」
「ぴるっ!」
純白スライムが、強く身体を伸ばす。
その魔核から白い光が放たれた。
光は俺へ向かって伸びてくるものの、身体へ触れる直前で止まっている。
純白スライムへ『解析鑑定』を発動させた。
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『純白スライムから従魔契約を求められています』
『契約希望対象』
・一城陸斗
『契約方式』
・従魔側申請型
『契約条件』
・双方の意思で『従魔契約証』へ触れる
『契約後』
・契約者との同行が可能
・希少区域外への移動が可能
・探索者協会での従魔登録が必要
『現在の達成状況:未達成』
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「この子から、俺へ従魔契約を求めてるみたいだ」
「純白スライムの方からですか?」
「ああ。だけど、俺は従魔契約証を持っていない」
「それなら、私が予備を持っていますよ」
美咲さんが探索鞄を開き、保護ケースを取り出す。
中には、何も登録されていない銀色のカードが数枚入っていた。
「シズクと契約してから、何があるか分からないので予備を用意していたんです」
「使わせてもらっていいか?」
「もちろんです」
美咲さんが、銀色の従魔契約証を差し出す。
「白いスライムさんは、陸斗さんと一緒に行きたいんですよね?」
「ぴるっ!」
純白スライムが迷うことなく答えた。
俺は美咲さんから従魔契約証を受け取る。
表面には、人間と従魔が触れるための二つの紋章が刻まれていた。
「俺も、お前と一緒に行きたい」
「ぴるるっ!」
片方の紋章へ、俺が指を触れる。
純白スライムが身体を伸ばし、もう片方の紋章へ触れた。
二つの紋章から白い光が立ち上る。
純白スライムの魔核と俺の身体を結ぶように、細い光が伸びた。
温かな魔力が胸元へ流れ込んでくる。
従魔契約証の表面へ、新しい情報が刻まれていった。
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『従魔契約:成立』
『契約者』
・一城陸斗
『契約従魔』
・純白スライム
『個体名:未登録』
『探索者協会への従魔登録:未登録』
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「契約できたみたいだ」
「ぴるるっ!」
純白スライムが嬉しそうに跳ね、俺の胸元へ飛び込んでくる。
両手で受け止めると、柔らかな身体を何度も押し付けてきた。
「名前も決めないとな」
「真っ白で、雪みたいな子ですね」
「そうだな……」
腕の中にいる純白スライムを見る。
「雪みたいに白いから、ユキという名前はどうだ?」
「ぴるっ!」
気に入ってくれたらしい。
従魔契約証へ、ユキの名前が刻まれる。
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『個体名:ユキ』
『種族:純白スライム』
『契約者:一城陸斗』
『状態:良好』
『従魔登録:未登録』
『固定スキル』
・スライム幸運
『スライム幸運』
・契約者または同一パーティーがスライム種を討伐した場合、ドロップ判定へ幸運補正
・スライム種からの希少ドロップ率を上昇
・補正量は対象の希少度により変動
『魔法適性』
・防御:高
・回復:高
・支援:高
・攻撃:低
『習得魔法:なし』
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「ユキは、防御や回復の魔法に適性があるみたいだ」
「シズクとは、反対ですね」
「そうだな。攻撃魔法の適性は低いが、守るための魔法を覚えられると思う」
「ぴる?」
ユキは自分のことだと分かっていないのか、腕の中で身体を傾けている。
「今すぐ戦わなくてもいい。少しずつ覚えていこう」
「ぴるっ!」
「ぷるっ!」
シズクも先輩らしく励ましているようだった。
その時、俺が身に着けているスライムシリーズが淡い光を放った。
五つの装備から伸びた光が俺の身体へ集まり、さらに契約したばかりのユキへ流れ込んでいく。
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『スライムシリーズ』
『完全装備効果』
・装備者と契約中のスライム系従魔の能力値を20%上昇
『契約中のスライム系従魔との能力上昇:発動』
『対象』
・一城陸斗
・ユキ
『能力値補正:20%』
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「スライムシリーズの最後の効果も発動した」
「ユキと契約したからですね」
「ああ。俺とユキの能力が、二割上がってるみたいだ」
身体が先ほどまでよりも軽い。
腕の中にいるユキの魔力も僅かに増え、白い身体が淡く輝いていた。
「ぴるるっ!」
ユキにも変化が分かるらしく、嬉しそうに跳ねる。
だが、直後。
「ぴる……!」
ユキの身体が硬くなった。
俺の腕へ隠れるように小さく縮む。
スライムの耳飾りを通じて、強い恐怖が伝わってきた。
「どうした?」
ユキが震えながら、丘の下へ身体を向ける。
黄金と白銀の軍勢が、左右へ大きく分かれていた。
黄金軍の奥から、一際大きな黄金色のスライムが進み出る。
通常の黄金スライムよりも遥かに大きい。
頭上には、半透明の黄金色をした兜が浮かんでいる。
その反対側。
白銀軍からも、全身へ銀色の光を纏ったスライムが姿を現した。
身体の左右には、鎧のような白銀色の装甲板が浮かんでいる。
「二体とも、軍勢を指揮している個体みたいだ」
最初に、黄金色の個体へ『解析鑑定』を発動させる。
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『黄金将軍スライム』
『上位希少個体』
『所属:黄金軍』
『役割:軍勢指揮個体』
『性格:支配的・好戦的』
『危険度:C+』
『特性』
・黄金号令
・金光増幅
・黄金障壁
・巨大化
『攻撃』
・黄金光弾
・金光砲
・号令突撃
・圧砕体当たり
『ドロップ品』
・金魔核(100%)
・金魔石(25%)
・力の結晶飴(0.5%)
・黄金兜(5%)
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「黄金軍を率いているのは、黄金将軍スライム。危険度はCプラスだ」
続いて、白銀色の個体を調べる。
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『白銀騎士スライム』
『上位希少個体』
『所属:白銀軍』
『役割:軍勢指揮個体』
『性格:冷静・忠誠心が強い』
『危険度:B-』
『特性』
・白銀陣形
・鏡像投影
・騎士外殻
・高速滑走
『攻撃』
・銀槍突撃
・銀弾
・鏡像連続突き
・白銀盾撃
『ドロップ品』
・白銀魔核(100%)
・白銀魔石(25%)
・銀光液(1%)
・守りの結晶飴(0.5%)
・白銀鎧(5%)
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「白銀軍の指揮個体は、白銀騎士スライム。こちらは危険度Bマイナスだ」
「第五層や第九層の階層守護個体に近い強さですね」
「それだけじゃない。二体とも、周囲の軍勢を強化する能力を持ってる」
黄金将軍スライムが、大きく身体を震わせた。
頭上の黄金兜から光が広がり、黄金軍の全体を覆っていく。
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『黄金号令:発動』
『効果』
・黄金軍所属個体へ戦闘を強制
・撤退および命令拒否を封印
・攻撃力を上昇
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黄金軍の中には、明らかに身体を震わせている個体がいた。
それでも、黄金将軍の号令へ逆らうことができず、強制的に俺たちへ身体を向けていく。
「戦いたくない黄金スライムまで、無理やり動かされてるみたいだ」
「それでしたら、先に黄金将軍を倒すことが出来れば……」
「ああ、号令を止められると思う」
反対側では、白銀騎士スライムが身体の一部を細長い槍の形へ変えた。
白銀軍のスライムたちが規則正しく並び、互いの身体を銀色の光で繋いでいく。
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『白銀陣形:展開』
『効果』
・白銀軍所属個体の動きを同期
・鏡像および魔力反応を共有
・防御力と移動速度を上昇
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「白銀軍も動きます!」
美咲さんが、剣と盾を構える。
シズクが彼女の肩から跳び下り、俺とユキを守るように前へ出た。
「ぷるっ!」
「ぴる……」
ユキは、まだ戦える状態ではない。
怪我は治っていても、両軍から攻撃され続けた恐怖までは消えていなかった。
俺はユキを抱え直す。
「ユキは、俺の近くにいればいい。無理に戦わなくて大丈夫だ」
「ぴる……」
「もう一人にはしない」
「ぴるっ」
ユキの震えが、僅かに収まる。
「陸斗さん。希少区域の残り時間は?」
「四十七分ほどだ」
時間内に二体の指揮個体を倒し、黄金と白銀の軍勢を突破しなければならない。
「まずは、あの二体の指揮を止めよう」
「分かりました」
「ぷるっ!」
黄金将軍が号令を下す。
白銀騎士も銀色の槍を前へ向けた。
次の瞬間。
黄金と白銀、二つのスライム軍が同時に俺たちへ向かって動き始めた。




