63話「完成するスライムシリーズ」
俺は、岩壁に刻まれた四つの属性紋章へ順番に意識を向けた。
「まず、起動する順番を調べてみるか」
「間違えた場合の仕掛けも分かりますか?」
「一緒に確認してみる」
最初に風の紋章へ意識を集中させる。
◇____________________
『風属性紋章』
『状態:停止中』
『起動方法:風属性魔力へ接触』
『順序判定』
・最終認証を行うスライム系従魔の魔法習得履歴を参照
『認証候補』
・シズク
『習得順位:1番目』
____________________◇
「シズクが魔法を覚えた順番に起動すればいいみたいだ」
「最初は風弾ですね」
「そうだな。次が火球、氷槍、石弾の順番だ」
残る三つの紋章も調べる。
◇____________________
『属性紋章・起動順序』
1.風属性
2.火属性
3.氷属性
4.土属性
『誤った属性を使用した場合』
・起動状況を初期化
・属性魔力を使用した対象へ軽い衝撃を返す
____________________◇
「間違えても、最初からやり直しになるだけみたいだが。弱い反撃が返ってくる」
「正しい順番が分かっているなら、問題なさそうですね」
美咲さんが、肩にいるシズクを見る。
「シズク。小さな魔法で、風から順番に触れていこうね」
「ぷるっ!」
「強く撃つ必要はないよ。紋章へ属性の魔力が触れれば十分だ」
「ぷるっ」
シズクが美咲さんの肩から跳び下り、風の紋章の前へ移動する。
身体の前へ、小さな風を作り出した。
「ぷるっ!」
柔らかな風が紋章を撫でる。
渦を模した溝へ緑色の光が走り、風の紋章が淡く輝き始めた。
◇____________________
『風の紋章:起動』
『起動状況:1/4』
____________________◇
「次は火属性だよ」
「ぷるっ!」
シズクが炎の紋章へ向き直る。
今度は、身体の前へ小さな火を作った。
火球として放たず、その場へ維持したまま紋章へ近付ける。
炎が触れると、二つ目の紋章へ赤い光が灯った。
◇____________________
『炎の紋章:起動』
『起動状況:2/4』
____________________◇
「出力を上手く抑えていますね」
「魔力操作の訓練にもなってるみたいだな」
シズクは氷の紋章の前へ移動する。
青白い魔力を集め、先端が丸い小さな氷を作り出した。
氷槍として飛ばさず、紋章の表面へそっと触れさせる。
青い光が広がり、三つ目の紋章が起動した。
◇____________________
『氷の紋章:起動』
『起動状況:3/4』
____________________◇
「最後は石弾だよ」
「ぷるっ!」
シズクの前へ、茶色い魔力が集まる。
作り出されたのは、小指の先ほどの小さな石だった。
石をゆっくりと浮かせ、岩の紋章へ接触させる。
最後の溝へ茶色い光が灯った。
四つの紋章から伸びた光が、中央にあるスライムの紋章へ集まっていく。
◇____________________
『土の紋章:起動』
『起動状況:4/4』
『属性認証:完了』
『最終認証を開始します』
____________________◇
「四属性は完了だ」
「残るのは、スライム系従魔による認証ですね」
中央の紋章へ『解析鑑定』を向ける。
◇____________________
『スライム従魔認証紋章』
『認証条件』
・正式な従魔登録済み
・契約者が同行
・4つの属性紋章を起動済み
『認証対象』
・シズク
『契約者』
・佐伯美咲
『認証方法』
・対象となるスライム系従魔が紋章へ接触
____________________◇
「シズクが中央の紋章へ触れれば開く仕組みみたいだ」
「シズク。お願いできる?」
「ぷるっ!」
シズクが身体を低くする。
勢いよく跳び、壁の中央にあるスライムの紋章へ張り付いた。
丸い身体が、紋章の窪みへ綺麗に収まる。
「ぴったりですね」
「ぷるっ!」
四つの属性紋章が同時に強く輝いた。
緑、赤、青、茶色の光が中央へ流れ込み、シズクの周囲で一つに重なる。
その光が淡い虹色へ変わった。
◇____________________
『最終認証:完了』
『認証対象:シズク』
『契約者:佐伯美咲』
『第10層・隠し部屋』
『開放条件:達成』
____________________◇
岩壁へ縦の亀裂が走る。
「シズク、戻っておいで」
「ぷるっ!」
紋章から離れたシズクを、美咲さんが両手で受け止める。
直後、白い岩壁が左右へ分かれ、奥へ続く入口が現れた。
中から、淡い青色の光が漏れている。
「魔物の反応は?」
「今のところないな。仕掛けや罠も調べてから入ろう」
入口と、その先へ続く床へ意識を向ける。
◇____________________
『第10層・スライム装具庫』
『状態:開放済み』
『侵入者への罠:なし』
『魔物反応:なし』
『内部保管物』
・スライムシリーズ装備:1点
____________________◇
「罠はないみたい。入っても大丈夫だ」
「では、行きましょう」
俺たちは隠し部屋へ足を踏み入れた。
◇
隠し部屋は、十人ほどが入れる広さだった。
壁と床は淡い青色の石で造られ、天井には丸い照明石が埋め込まれている。
左右の壁には、様々な姿をしたスライムの彫刻が並んでいた。
中央に置かれているのは、一つの小さな宝箱。
全体が半透明の青い素材で作られ、蓋には笑っているようなスライムの顔が刻まれている。
「可愛い宝箱ですね」
「ぷるっ!」
シズクも気に入ったらしく、美咲さんの腕から宝箱へ向かって身体を伸ばしている。
「シズク。勝手に開けちゃ駄目だよ」
「ぷる……」
「開ける前に調べてみる」
宝箱へ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『スライム装具箱』
『状態:解錠済み』
『罠:なし』
『収納物』
・スライムシリーズ装備:1点
『開封条件』
・装具庫の最終認証を完了
『現在の達成状況:達成』
____________________◇
「開けても問題ないみたいだ」
「陸斗さんが開けてください」
「俺でいいのか?」
「スライムシリーズを使っているのは、陸斗さんですから」
「分かった」
宝箱の前へ屈み、両手で蓋を持ち上げる。
内部には、淡い青色の布が敷かれていた。
その中央に、小さな銀色の耳飾りが置かれている。
耳へ挟む部分は細い銀色。
そこから、半透明の青い宝石が下がっていた。
宝石は、小さなスライムを模した丸い形をしている。
「これが、スライムシリーズ最後の装備」
耳飾りを手に取り、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『スライムの耳飾り』
『品質:A』
『希少度:A』
『推定買取価格:300,000円』
『分類』
・装飾品
・スライムシリーズ
『効果』
・周囲の魔力変化を僅かに感知
・スライム種の感情変化を感じ取りやすくする
・装備者に合わせて形状を自動調整
『装備可能対象』
・一城陸斗
・佐伯美咲
『安全性:問題なし』
____________________◇
「スライムの感情を、感じ取りやすくする効果があるみたいだ」
「それなら、シズクの言いたいことも、今より分かるようになるのでしょうか?」
「はっきり言葉が聞こえるわけではないと思う。でも、喜んでいるのか、怖がっているのかは分かりやすくなるみたいだな」
「ぷるっ!」
シズクが、耳飾りを見つめながら身体を伸ばす。
「シズクも着けたいの?」
「ぷるっ!」
「これは陸斗さんの装備だよ」
「ぷる……」
「結晶冠があるでしょう?」
「ぷるんっ」
自分の頭上に浮かぶ小さな冠を思い出し、シズクが再び元気になる。
俺は銀色の金具を右耳へ近付ける。
耳飾りが僅かに形を変え、穴を開けることなく耳へ固定された。
重さはほとんど感じない。
青い宝石も小さいため、動いた時に僅かに揺れる程度だった。
「どうかな?」
「よく似合っていますよ。思っていたよりも目立ちませんね」
「それならよかった」
シズクが美咲さんの腕から身体を伸ばし、耳飾りを覗き込む。
「ぷるるっ!」
声を聞いた瞬間、これまでよりもはっきりとシズクの喜びが伝わってきた。
「似合ってるって言ってるのか?」
「私には、耳飾りをもっと近くで見たいと言っているように聞こえます」
「ぷるっ!」
「どちらも正解、かな」
シズクの身体を撫でる。
その瞬間、身に着けていたスライムシリーズの装備が一斉に淡い光を放った。
耳飾りから伸びた光が、残る四つの装備へ繋がっていく。
◇____________________
『スライムシリーズ』
『装備数:5/5』
『シリーズ効果:完全解放』
『完全装備効果』
・スライム種から受ける攻撃を軽減
・友好的なスライム種から敵意を向けられにくくなる
・装備者と契約中のスライム系従魔の能力値を20%上昇
『現在の発動状況』
・スライム種からの攻撃軽減:発動
・スライム種との親和性上昇:発動
・契約中のスライム系従魔との能力上昇:未発動
『未発動理由』
・装備者に契約中のスライム系従魔が存在しません
『シリーズ一式の推定買取価格:算出不能』
『売却:非推奨』
____________________◇
「シリーズ効果が完全に解放された……」
「どのような効果ですか?」
表示された内容を確認し、美咲さんへ説明する。
「スライム種から受ける攻撃を軽減して、友好的なスライムからも敵意を向けられにくくなる。それと、契約中のスライム系従魔がいれば、お互いの能力が二割上がるみたいだ」
「お互いに二割も……かなり大きな効果ですね」
「ああ。ただ、最後の効果はまだ使えない。俺はスライム系従魔と契約していないからな」
「それでも、最初の二つだけで第十層では十分に役立ちそうです」
「階層守護個体もスライムなら、攻撃を軽減できると思う」
美咲さんが、俺の身に着けているスライムシリーズへ視線を向ける。
「美咲さんが装備すれば、シズクと一緒に強くなれるみたいだけど……」
「今は、陸斗さんが使ってください」
美咲さんが、迷わず答える。
「羽靴を含めて、どれも陸斗さんの探索には必要な装備です。階層守護個体へ挑む前に外す方が危険ですよ」
「それは、そうだな」
「少し羨ましくはありますけどね」
美咲さんが、冗談めかして微笑む。
「スライムを模した装備ですし、シズクとも相性が良さそうですから」
「ぷるっ!」
「俺に別の装備が揃ったら、その時に相談しよう」
「はい。その時はお願いします」
すぐに渡すことはできない。
だが、俺が新しい装備を手に入れた時には、スライムシリーズを最も生かせるのは美咲さんとシズクだろう。
宝箱の中に、ほかの物は残っていなかった。
部屋全体を映像へ記録し、俺たちは装具庫を出ることにした。
◇
地上へ戻ったあと、隠し部屋とスライムの耳飾りについて調査課へ報告した。
協会が第十層を長く調査してきた中でも、あの装具庫は一度も発見されていなかったらしい。
四属性の魔法を使えるスライム系従魔。
その契約者。
さらに、魔法を習得した順番で紋章を起動する必要がある。
これまで開けられなかったのも無理はなかった。
シズクが四属性を習得し、スライムシリーズも五種類揃った。
残るのは、探索者協会が初心者ダンジョンの最後と認識している、第十層の階層守護個体。
俺たちは十分に準備を整えたうえで、戦いへ挑むことにした。




