61話「四つ目の魔法と妖精スライムへの道」
第九層から戻った翌日の午後。
俺たちは探索者協会の従魔訓練室を訪れていた。
「土水晶の安全性に問題はありませんでした」
高橋さんが、検査を終えた土水晶を机へ置く。
「魔導具の素材として利用できる点は、一般的な土水晶と変わりません。ただし、スライム系従魔の魔法習得を補助する効果については、今回も通常の『鑑定』では確認できませんでした」
「地脈の祠については、何か分かりましたか?」
「第九層の記録には存在しない場所でした。入口を覆っていた蔓も、周囲の景色へ溶け込む性質を持っています。映像がなければ、調査員も通り過ぎていたでしょう」
風の流れへ気付いた美咲さんと、蔓を動かしたシズクがいなければ、俺も入口まで辿り着けなかったかもしれない。
「祠は協会で保護し、内部の調査を進めます。採取場所の公開については、調査が終わるまでお待ちください」
「分かりました」
「土水晶は、予定どおりシズクの訓練へ使用して構いません」
高橋さんから土水晶を受け取る。
隣にいたシズクが、三つ目となる魔法習得用の水晶を見上げた。
「ぷるっ!」
「今回は土属性だよ」
美咲さんがシズクを訓練室の中央へ下ろす。
正面には、従魔の魔法訓練に使う強化標的が設置されていた。
「シズク。最初から強く撃とうとしなくていいからね」
「ぷるっ」
「まずは、習得条件を調べてみるよ」
シズクと土水晶へ意識を向け、『解析鑑定』を発動させた。
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『土属性魔法・習得訓練』
『対象:シズク』
『使用素材:土水晶』
『習得可能魔法』
・石弾
『習得条件』
・土水晶を体内へ取り込む
・土属性魔力を体内へ循環
・石弾の魔力構築を3回成功させる
『現在の達成状況:0/3』
『推奨』
・初回出力:10%以下
・標的までの距離:5メートル
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「今までと同じように、土水晶を身体の中へ入れるみたい」
「シズク、いい?」
「ぷるっ!」
美咲さんが、土水晶をシズクの身体へ近付ける。
シズクが身体を伸ばして触れると、土水晶が柔らかな身体の中へゆっくりと沈んでいった。
体内へ収まった瞬間、水晶から茶色い光が流れ出す。
透明感のある青い身体の中へ、土属性の魔力が少しずつ広がっていった。
「急がなくていいよ。身体の中で動いている魔力を感じて」
「ぷる……」
シズクが集中するように身体を低くする。
しばらくすると、正面へ淡い茶色の光が集まり始めた。
小さな石の形になりかけたものの、輪郭が崩れる。細かな砂となって、シズクの前へ落ちてしまった。
「ぷる……」
「最初から成功しなくても大丈夫だよ」
美咲さんが、落ち込んだように潰れたシズクを撫でる。
「魔力の形は作れていたよ。次は、飛ばす前にもう少し固めてみようか」
「ぷるっ」
シズクが再び土属性の魔力を集める。
今度は砂にならず、小指の先ほどの石が作り出された。
「そのまま、標的へ向けて」
「ぷるっ!」
石が勢いよく飛び、強化標的へ当たる。
乾いた音が訓練室へ響いた。
◇____________________
『石弾の魔力構築:成功』
『習得進行度:1/3』
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「成功したよ」
「ぷるるっ!」
「あと二回だね。でも、少し休んでからにしよう」
「ぷるっ!」
すぐに続けようとするシズクを、美咲さんが抱き上げる。
「休憩も訓練のうちだよ」
「ぷる……」
魔力を補給するための従魔用ゼリーを渡されると、シズクは大人しく食べ始めた。
◇
休憩を挟みながら訓練を続ける。
二回目の石弾は、親指ほどの大きさになった。
三回目。
シズクの前へ、拳ほどの石が作り出される。
表面には土属性の魔力が渦を巻き、最初の石弾とは比べものにならないほど密度が高い。
「シズク。標的の中央を狙って」
「ぷるっ!」
石弾が放たれた。
低い音を響かせながら真っ直ぐ飛び、強化標的の中央へ激突する。
標的が大きく揺れ、表面へ細い亀裂が走った。
◇____________________
『習得条件:達成』
『石弾の魔力構築:3/3』
『新規魔法を習得しました』
『石弾』
『属性:土』
『効果』
・土属性魔力によって石弾を生成
・対象へ重量を伴う衝撃を与える
・硬質な外殻や装甲の破壊に有効
・魔力出力に応じて大きさと重量が変化
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「石弾を覚えたよ」
「ぷるるっ!」
シズクが嬉しそうに跳ねる。
体内に入っていた土水晶が、柔らかな身体の表面へ浮かび上がった。
シズクが身体を伸ばすと、土水晶が外へゆっくりと押し出される。
美咲さんが落ちる前に受け止め、用意していた布で丁寧に包んだ。
土水晶は形を保っているものの、先ほどまでより光が弱くなっていた。
「これで、四種類ですね」
「うん。風、火、氷、土だね」
速さと押し戻す力を持つ風弾。
爆発と熱を与える火球。
対象を貫き、凍結させる氷槍。
重い衝撃で硬い物を砕く石弾。
それぞれ、得意とする相手が違う。
「覚えるだけではなく、状況に合わせて使い分けられるようにならないとね」
「ぷるっ!」
訓練室へ、用途の異なる四つの標的を並べる。
軽い標的には風弾。
耐熱標的には火球。
水を入れた訓練袋には氷槍。
硬質標的には石弾。
最初は属性を切り替えるたびに少し時間が掛かっていた。
だが、何度か弱い出力で繰り返すうち、シズクは迷うことなく四種類の魔力を作れるようになった。
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『属性切替訓練』
・風属性:成功
・火属性:成功
・氷属性:成功
・土属性:成功
『達成状況:4/4』
『魔力操作:安定』
『推奨』
・本日の魔法訓練を終了
・次回訓練まで十分な休息を取る
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「今日はここまでだよ」
「ぷる……」
まだ続けたそうにしているが、四種類の魔法を使ったばかりだ。
「次は実戦だねっ」
「ぷるっ!」
「新しい魔法を使いたいみたいです」
「使う必要がないくらい安全に終わるのが一番なんだけどね」
「そうですねっ」
「ぷる?」
シズクは、納得できていないように身体を傾けていた。
◇
二日後。
俺たちは第九層の階層守護部屋へ続く扉の前に立っていた。
シズクの魔力は完全に回復している。
四属性の切り替えにも問題はない。
「この先が、第九層の階層守護個体ですね」
「うん。反応は一体だけみたい」
扉へ『解析鑑定』を発動させる。
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『第9層・階層守護部屋』
『階層守護個体:活動中』
『挑戦可能人数:6名』
『第10層転移門:封鎖中』
『解放条件:階層守護個体の討伐』
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「シズク。戦う時は、私たちの指示を待ってね」
「ぷるっ!」
「最初は俺が能力を調べるよ。無理に攻撃しないで、相手の動きを見よう」
「分かりました」
美咲さんが剣を抜く。
俺も鋼短剣を構え、扉の開閉石へ触れた。
重い音を響かせながら、扉が左右へ開いていく。
◇
扉の先には、薄暗い森が広がっていた。
円形の広場を囲むように木々が並び、頭上を覆う枝葉の隙間から青白い光が差し込んでいる。
広場の中央には、巨大な鹿が立っていた。
体高は三メートル近い。
黒に近い深緑色の身体を持ち、頭から伸びた大きな角には紫色の光が流れている。
俺たちが広場へ入ると、背後の扉が閉まった。
巨大な鹿がゆっくりと顔を上げる。
紫色の瞳が、俺たちを捉えた。
すぐに『解析鑑定』を発動させる。
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『幻角鹿王』
『階層守護個体』
『危険度:C+』
『特性』
・幻角投影
・森林同化
・群像突進
『攻撃』
・角突き
・蹄撃
・幻像突進
『ドロップ品』
・良質な魔核(100%)
・幻角鹿王の角(30%)
・幻惑皮(10%)
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「角で幻影を作るみたいです!」
「来ます!」
幻角鹿王が頭を振るう。
大きな角から紫色の光が広がり、周囲の木々へ流れ込んだ。
一体だった幻角鹿王の姿が、二体へ増える。
さらに四体。
最後には、八体の幻角鹿王が俺たちを囲んでいた。
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『幻角投影』
『本体:1体』
『幻像:7体』
『注意』
・幻像に攻撃能力なし
・本体との交差時に位置を入れ替える
・幻角が存在する限り再生成可能
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「本物は一体だけ! 残りは幻影だ!」
「本体の位置は分かりますか?」
「今は、右から二番目!」
美咲さんが右へ身体を向ける。
直後、八体の幻角鹿王が一斉に駆け出した。
互いに交差し、木々の間を走り抜ける。
「本体が中央へ移動! いや、左に移動した!」
解析表示は本体だけを追い続けている。
だが、八体が何度も交差するため、位置が目まぐるしく変わっていた。
「左から来るよ!」
美咲さんが剣を振るう。
刃は幻角鹿王の身体を抵抗なく通り抜けた。
「くっ、解析鑑定が追いつけない!」
紫色の光となって消えた直後、背後から本体が飛び掛かる。
「美咲さん、後ろ!」
美咲さんが振り返り、盾を構えた。
巨大な角と盾がぶつかる。
美咲さんの身体が、地面を滑りながら大きく押し戻された。
「美咲さん!」
「大丈夫です!」
すぐに立ち上がる。
幻角鹿王は再び幻影の中へ紛れ、八体へ戻っていた。
「ごめん。位置を追えていたのに、攻撃の瞬間まで伝えられなかった」
「陸斗さんが謝ることではありません」
美咲さんは、周囲を走る幻角鹿王たちから目を離さない。
「全部を一人で見ようとしないでください」
「でも、本体を見失ったら……」
「本体のいる方向だけ教えてください。攻撃の瞬間は、私が判断します」
「分かるの?」
「幻影には、足音がありません」
耳を澄ませる。
何体もの幻角鹿王が走っているように見える。
だが、地面を叩く蹄の音は一つ分しか聞こえない。
「それに、本体が通った場所だけ草が倒れています」
「本当だ……」
解析表示ばかり追っていて、周囲の変化に気付けていなかった。
「陸斗さんには、私に見えない本体の位置が分かります。私には、本体が攻撃へ移る瞬間が分かります」
「二人で見ればいいんだね」
「はい。いつもどおりです」
美咲さんが僅かに笑う。
「シズクもいるよ」
「ぷるっ!」
シズクが美咲さんの肩で身体を伸ばした。
八体の幻角鹿王が、再び速度を上げる。
「本体は左奥!」
「分かりました!」
美咲さんが左へ向く。
幻影には反応せず、草が踏み倒される位置と蹄の音だけを追っている。
幻角鹿王の本体が、正面から突進してくる。
美咲さんは直前まで動かなかった。
角が届く寸前、身体を横へ回す。
巨大な身体が目の前を通り過ぎる。
すれ違いざまに剣を振り、幻角鹿王の脇腹へ浅い傷を刻んだ。
「当たりました!」
「ぷるっ!」
幻角鹿王が怒ったように鳴く。
周囲の幻影が一斉に消え、別の場所へ八体の姿が作り直された。
「幻影を消し続けても、すぐに戻るみたい」
「やはり、あの角をどうにかする必要がありますね」
俺は本体の角へ意識を集中させる。
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『幻角』
『役割』
・幻像の生成
・幻像への魔力供給
・本体の魔力反応を幻像へ複製
『防御特性』
・斬撃耐性
・刺突耐性
『弱点』
・高密度の打撃
・土属性攻撃
『破壊時』
・全ての幻像を解除
・幻角投影を使用不能
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「角の弱点は、土属性です!」
「石弾なら壊せますか?」
「付け根へ当てれば、いけると思う!」
美咲さんが、肩にいるシズクを見る。
「シズク。石弾で角の付け根を狙える?」
「ぷるっ!」
「陸斗さん。シズクへ本体の位置を教えてください。私が角を向けさせます」
「分かった」
幻角鹿王が動き始める。
「本体は右奥。木の横を回ってくる!」
美咲さんが広場の中央へ駆ける。
幻角鹿王は狙いを彼女へ定め、頭を低くした。
「来るよ!」
八体が、異なる方向から同時に美咲さんへ迫る。
美咲さんは目を閉じることなく、蹄の音を聞き分けていた。
「右後ろ!」
身体を反転させる。
幻角鹿王の本体が、木々の間から飛び出した。
美咲さんは盾を斜めに構え、角の先端を受け流す。
幻角鹿王の頭が僅かに持ち上がった。
「シズク、左の角の付け根!」
「ぷるっ!」
シズクの身体の前へ、茶色い魔力が集まる。
訓練で作ったものよりも小さい。
その分、魔力を強く圧縮した石弾だった。
幻角鹿王が美咲さんを振り払おうとする。
「今です!」
「ぷるっ!」
石弾が放たれた。
重い音を響かせながら幻影の間を抜け、本体の角へ命中する。
硬い物が砕ける音が、森へ響き渡った。
幻角鹿王の左角が、付け根から折れる。
周囲にいた七体の幻影へ亀裂が走り、紫色の粒子となって一斉に消滅した。
「幻影が消えました!」
「これなら、もう惑わされません!」
幻角鹿王が激しく頭を振るう。
魔力の流れを失った残りの角からも、紫色の光が消えていた。
美咲さんが正面へ回る。
幻角鹿王は片方だけになった角を向け、そのまま突進した。
「美咲さん、正面から来る!」
「見えています!」
美咲さんは横へ避けながら、剣を振り下ろす。
刃が前脚の付け根へ食い込み、幻角鹿王の巨体が傾いた。
それでも倒れず、後ろ脚で地面を蹴ろうとする。
「シズク、前脚へ氷槍!」
「ぷるっ!」
青白い魔力が集まり、細長い氷の槍が放たれる。
傷付いた前脚へ突き刺さり、周囲の草ごと凍り付かせた。
幻角鹿王が体勢を崩し、地面へ倒れる。
「美咲さん、胸の中央に魔核がある!」
「りょうかい!」
美咲さんが踏み込む。
一撃目で胸元を覆う毛皮を切り開き、続く二撃目で露出した魔核を貫いた。
幻角鹿王の身体へ紫色の亀裂が走る。
最後に大きく震えたあと、無数の粒子となって崩れていった。
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『第9層・階層守護個体』
『討伐:完了』
『第10層転移門:解放』
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「倒せた……」
俺は息を吐き、短剣を下ろす。
「陸斗さん、怪我はありませんか?」
「俺は大丈夫。美咲さんは?」
「盾で受けた時に腕が痺れましたが、怪我はありません」
「念のため、あとで確認するよ」
シズクが美咲さんの肩から跳び下りる。
「ぷるるっ!」
「石弾、ちゃんと当たったね」
「ぷるっ!」
シズクが誇らしそうに身体を伸ばす。
「氷槍も、いいタイミングだったよ」
「ぷるるっ!」
「褒められすぎて、いつもより伸びていますね」
「それくらい活躍してくれたからね」
幻角鹿王が消えた場所には、良質な魔核と折れた角が残されていた。
角へ『解析鑑定』を向ける。
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『幻角鹿王の角』
『品質:A』
『希少度:B』
『推定買取価格:120,000円』
『用途』
・幻影系魔導具の素材
・魔力投影装置の中核素材
・幻惑耐性装備の加工素材
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「角もドロップしています。十二万円の素材です」
「三十パーセントを引いたんですね」
「うん。使い道も多いみたいだから、需要がありそうかな」
良質な魔核と角を探索鞄へ収める。
守護部屋の奥では、新たに解放された転移門が青白い光を放っていた。
その周囲には、いくつもの丸い模様が刻まれている。
「次が、探索者協会で最後の階層とされている第十層ですね」
「うん。でも、今日は戻ろう。シズクも新しい魔法を使ったからね」
「ぷる……」
「第十層は逃げないから、しっかり休んでからにしよう」
「ぷるっ」
俺たちは転移門の開放を記録し、地上へ戻ることにした。
立ち去る前に、もう一度だけ転移門へ刻まれた模様を見る。
第一層と第五層で、何度も目にしてきた丸い身体。
それは、何体ものスライムを模した紋章だった。
◇
地上へ帰還したあと。
探索者ストアの休憩スペースで撮影した映像を確認していると、美咲さんが小さな声を上げた。
「陸斗さん。シズクの身体が……」
隣を見る。
美咲さんの膝に載っていたシズクの身体から、淡い光が漏れていた。
「ぷる?」
シズク自身も気付いていないらしく、不思議そうに身体を傾ける。
透明感のある身体の中央。
そこにある従魔核が、赤、青、緑、茶色の光を順番に放っている。
やがて四つの光が重なり、淡い虹色へ変化した。
「新しい魔法を覚えた影響かな?」
「痛がってはいません。でも、念のため調べてください」
「分かった」
シズクの従魔核へ意識を集中させ、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『個体名:シズク』
『現在種族:魔法スライム』
『進化条件解放を確認』
『進化候補』
・妖精スライム
『進化条件』
・四属性魔法を習得:4/4 達成
風属性:習得済み
火属性:習得済み
氷属性:習得済み
土属性:習得済み
・魔石結晶による強化:1/3
・魔力操作:中級
現在段階:初級
『進化可能:いいえ』
『備考』
・魔石結晶による基礎魔力量の強化は、進化後も継承される
____________________◇
「妖精スライム……」
表示された進化先を見て、思わず呟く。
「シズクが、また進化できるんですか?」
「うん。ただ、すぐに進化できるわけではないみたい」
解析結果を、美咲さんへ説明する。
「四属性の習得は達成してる。あとは魔石結晶をあと二個使って、魔力操作を中級まで上げる必要があるよ」
「魔石スライムから手に入れた結晶ですね」
「うん。でも、滅多に現れない魔物だから、焦らずに探そう」
「そうですね。魔力操作なら、今からでも訓練できます」
妖精スライムという言葉が気になったのか、店主さんもカウンターの奥からやってきた。
「妖精スライムだと?」
「シズクの新しい進化先みたいです」
「俺も名前くらいしか聞いたことがねえ。確認例がほとんどない、希少進化種だったはずだぞ」
「そんなに珍しいスライムなんですね……」
美咲さんが、膝の上にいるシズクを見る。
「シズク。妖精スライムへ進化したい?」
「ぷる?」
シズクには、まだよく分かっていないらしい。
それでも、強くなれるという意味は伝わったのか、元気よく身体を伸ばした。
「ぷるっ!」
「それなら、少しずつ頑張ろうね」
「ぷるるっ!」
シズクの周囲へ、風、火、氷、土の魔力が順番に浮かぶ。
すぐに光は消えたものの、先ほどより切り替えが滑らかになっていた。
「もう訓練を始めてる……」
「今日は階層守護個体とも戦ったんだから、もう休もうね」
「ぷる……」
美咲さんに止められ、シズクが残念そうに小さく縮む。
第九層を突破し、第十層への転移門を開いた。
さらに、四つ目の魔法を習得したことで、シズクの新たな進化条件まで解放された。
妖精スライム。
その進化へ辿り着くために何が必要なのか、俺たちにはもう見えていた。




