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6話「俺にしかできない探索」


「一時間十二分か……」


 希少区域が出現するまでの時間は、今も一秒ずつ減り続けている。

 一度地上へ戻るには短い。

 だが、この場で何もせずに待つには長すぎる。


「時間まで、第一層を探索してみよう」


 昨日は魔物ばかり警戒し、周囲の素材まで確認する余裕がなかった。

 魔物にも、希少区域にも使えた『解析鑑定』。

 それなら、ダンジョン内に生えている植物や、壁の中に埋まっている鉱石も調べられるかもしれない。

 俺は出現場所を離れ、通路の奥へ向かった。



 ◇



 現れたスライムを一体ずつ倒しながら、通路の壁や足元へ意識を向ける。

 ずっと発動したままでは疲れるため、数分使用したら休む。

 そんなふうに『解析鑑定』を断続的に使いながら歩いていると、通路脇の草へ反応があった。


「ん?」


 足を止め、しゃがみ込む。


 青い小さな花を付けた草だ。

 見た目は地上にも生えていそうな雑草で、知らなければ気に留めず通り過ぎていただろう。

 意識を集中させる。



 ◇____________________


 『薬花草(ヒーリングリーフ)

 『品質:B』

 『用途:回復薬の原料』

 『推定買取価格:800円』

 『採取方法:根を残し、茎の中央から切断』


 ____________________◇



「八百円……スライムの魔核八十個分か」


 会社では、採取後に束ねられた薬花草を何度も査定している。

 だが、ダンジョン内で生えている姿を見るのは初めてだった。


 普通の草花にしか見えないため、多くの探索者が気付かず通り過ぎているのかもしれない。

 解析結果に表示された方法に従い、鉄ナイフで茎の中央を切る。

 根を残しておけば、再び成長する可能性がある。


 採取した薬花草をショルダーバッグへ入れ、さらに奥へ進んだ。

 その後も同じような場所を探し、二本の薬花草を発見する。


「戦わなくても、二千四百円か」


 スライムを二百四十体倒すのと同じ金額だ。

 俺のように戦闘系スキルを持たない人間には、魔物を倒し続けるよりも、こちらのほうが合っているのかもしれない。


「探索者の仕事って、戦うだけじゃないんだな」


 少しだけ楽しくなってきた。

 再び『解析鑑定』を発動し、通路を歩く。

 すると今度は、右側の岩壁へ意識を向けた瞬間、視界に新しい情報が浮かび上がった。



 ◇____________________


 『鉄鉱脈』

 『品質:A』

 『推定採掘量:25キログラム』

 『推定買取単価:1キログラム当たり60円』

 『推定総額:1,500円』


 ____________________◇



「鉱脈まで分かるのか……」


 目の前にあるのは、何の変哲もない岩壁だ。

 黒い鉱石が露出しているわけでもなく、見た目だけで鉄鉱脈だと判断するのは難しい。

 試しに鉄ナイフの柄で叩いてみるが、岩はびくともしなかった。


「さすがに、ナイフじゃ掘れないよな」


 採掘用のピッケルが必要だ。

 今から地上へ戻って購入することも考えたが、希少区域の出現まで四十分ほどしかない。

 一度ダンジョンを出ても、残り時間が表示され続ける保証はない。


「今日は場所だけ覚えておこう」


 通路の特徴を確認し、スマートフォンのメモへ記録する。

 次に来る時は、忘れずにピッケルを用意しよう。


 魔物の性格とドロップ率。

 薬草の種類と採取方法。

 壁の奥にある鉱脈。


 今まで素材の値段を調べるだけだと思っていた『解析鑑定』は、ダンジョンへ入ってから次々と新しい情報を見せてくれる。


「このスキルがあれば、戦闘が苦手でも探索者を続けられるかもしれない」


 会社を追われた時には、これからどうやって生きていけばいいのか分からなかった。

 だが今は、僅かながら先の道が見え始めている気がした。



 ◇



 スライムを倒しながら探索を続け、希少区域の出現場所へ戻る。

 解析結果を確認すると、残り時間は二分を切っていた。



 ◇____________________


 『希少区域(エリア)

 『名称:スライムの黄金郷』

 『現在の状態:未出現』

 『出現まで:1分42秒』


 ____________________◇



「予定どおり現れるのか……?」


 胸元のボディレコーダーが記録を続けていることを確認する。

 今回は高橋さんから、映像の提供も頼まれている。

 数字が一秒ずつ減り、やがて十秒を切った。


「十、九、八……」


 声に出して数える。

 そして表示がゼロになった瞬間、何もなかった岩壁が水面のように揺らいだ。


「本当に現れた……!」


 解析結果は間違っていなかった。

 希少区域は偶然一度だけ現れたのではなく、消失と出現を繰り返している。


「これなら、また入れる」


 鉄ナイフを握り、揺らぎへ足を踏み入れた。



 ◇



 白い光が収まると、昨日と同じ黄金色の草原が広がっていた。

 ゴールデンスライムも変わらず、草原のあちこちを跳ね回っている。

 身体が軽くなった影響もあり、昨日より走りやすい。

 岩場へ追い込む方法も分かっている。

 俺は残り時間を確認しながら、ゴールデンスライムを一体ずつ仕留めていった。


 得られた金魔核は八個。

 金魔石と力の結晶飴は、一つも出なかった。


「昨日は、相当運が良かったんだな」


 金魔石のドロップ率は5%。

 力の結晶飴は0.5%。

 希少区域へ入れたからといって、毎回手に入るわけではない。


 それでも、金魔核だけで四万円になる。

 時間切れと同時に通常の通路へ戻され、俺はそのまま今日の探索を終えた。



 ◇



 探索者協会へ戻り、レンタルしたボディレコーダーを店主へ返却する。


「映像は、今日も協会へ提出してください」

「了解。調査課へ回しておく」


 続いて換金カウンターへ向かい、今日得た素材を並べた。



 ◇____________________


  『査定結果』


  スライムの魔核×12    120円

  薬花草×3       2,400円

  金魔核×8      40,000円


          合計 42,520円


 ____________________◇



 二日続けて、会社員時代の日給を大きく超えた。

 希少区域が毎日現れる保証はない。

 それでも『解析鑑定』を使えば、通常の第一層でも薬草や鉱脈を探して稼ぐことができる。

 報酬を受け取った俺は、再び探索者ストアへ立ち寄った。


「兄ちゃん、今後も探索を続けるつもりか?」

「はい。そのつもりです」

「なら、そろそろ自分のレコーダーを買ってもいいかもな。毎回借りるより、映像も手元に残る」

「映像を残して、どうするんですか?」

「攻略記録として売ったり、動画サイトへ投稿したりできる。今は探索動画を見る奴も多いからな」


 店主はショーケースから、手のひらほどの黒いボディレコーダーを取り出した。


「スマホと連動できる新品で三万円だ」

「三万円……」


 以前なら、絶対に買えない金額だった。

 だが、これからも探索を続けるなら必要な投資だ。


「それと、採掘用のピッケルもお願いします」

「お、鉱脈でも見つけたか?」

「はい。でも、道具がなくて掘れませんでした」

「だったら、初心者用の小型で十分だ」


 俺は新品のボディレコーダーと、小型のピッケルを購入した。

 手元のお金は減った。

 それでも、不思議と後悔はない。

 会社員だった頃は、働くために自分の時間と身体を削っていた。

 今は、自分で見つけたものを、自分のために使っている。


 店主から受け取ったレコーダーを手に取る。

 誰にも見えない素材。

 誰にも知られていない希少区域。

 俺が見つけたものを映像として残せば、それも新しい価値になるのかもしれなかった。


読んでいただきありがとうございます。

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