表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
58/144

58話「水没遺跡と浮石回廊」


 第七層を攻略してから、三日後。

 俺たちは探索者協会から公開されている地図を確認し、第八層へ向かっていた。


 第八層は、通路の大半が水に浸かった遺跡階層らしい。

 装備には防水処理を施し、探索鞄の中身も防水袋へ分けている。


「水深が急に変わる場所もあるそうです。足元には気を付けてくださいね」

「分かった。水の中に何かいれば、『解析鑑定』にも反応すると思う」

「ぷるっ!」


 美咲さんの肩に載っているシズクも、張り切るように身体を伸ばした。


「シズクも、勝手に水へ入っちゃ駄目だよ」

「ぷる?」


「泳げるかどうかも、まだ分からないからね」

「調べてみようか?」

「お願いします」


 シズクへ意識を向ける。



 ◇____________________


 『個体名:シズク』


 『水中活動』

 ・浮遊:可能

 ・水中移動:可能

 ・呼吸:不要


 『注意』

 ・強い水流を受けた場合、自力で戻れない可能性あり

 ・装備中の結晶冠に水中活動への影響なし


 ____________________◇



「水に浮くことも、水中を動くこともできるみたい」

「本当ですか?」

「ただ、強い流れに巻き込まれると、自力では戻れなくなるかもしれない」

「それなら、流れがある場所では私の肩から離れないでね」

「ぷるっ!」


 シズクが元気よく身体を伸ばす。


「万が一、水へ落ちても慌てる必要はないけど、注意はしておこう」

「そうですね。シズク? 勝手に泳いでいっちゃ駄目だよ」

「ぷるっ!」


 第七層の階層守護部屋を通り、第八層への転移門へ触れる。

 青い光が立ち上り、周囲の景色が切り替わった。



 ◇



 足元から、水を踏む音が響いた。

 第八層は、青白い光に照らされた石造りの遺跡だった。

 床は足首より少し上まで水に沈んでいる。


 左右には崩れた石柱や像が並び、水面から僅かに頭を出していた。

 通路の奥から、絶えず水の流れる音が聞こえてくる。


「思っていたより、水が浅いですね」


 壁には、水面が現在地より遥かに高い位置まで達した跡が残っていた。


 第八層へ意識を向け、『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『第8層・水没遺跡』


 『現在地環境』

 ・現在水位:0.28メートル

 ・水質:無害

 ・水流:弱

 ・水温:18.2度


 『水位変動周期:90分』

 ・低水位:40分

 ・上昇時間:10分

 ・高水位:30分

 ・下降時間:10分


 『次回水位上昇まで:23分48秒』

 『最大水位:1.72メートル』


 『注意』

 ・水位上昇中は一部通路が水没

 ・水中に魔物反応あり

 ・強い水流が発生する区画あり


 ____________________◇



「今は低水位みたい。二十分ほどで水が上がり始めるから、気をつけて」

「最大で、どのくらいまで上がるんですか?」

「一メートル七十センチを超えるみたいだ」

「私だと、頭まで沈んじゃいます」

「そうだな。水位が上がる前に、安全な場所を見つけた方がよさそうだ」


 周囲の異常を捉えられる程度に『解析鑑定』を維持し、公開地図を確認する。


 協会の地図には、水位が上がった場合に待機できる避難場所が記されていた。

 最も近い場所までは、通常なら十五分ほど。


「先に避難場所を目指しましょう」

「了解だ」


 水を掻き分けながら、遺跡の奥へ進み始めた。



 ◇



 水中を歩くため、普段より足を取られる。

 羽靴を強く使えば跳ぶことはできるが、着地点が水の中では体勢を崩す可能性がある。


「第七層とは、違う意味で動きづらい」

「水の中にいる魔物は、この環境に慣れています。陸斗さん、無理に前へ出ないでくださいね」

「分かった」


 通路の角へ近付いた時、常時展開していた『解析鑑定』が反応した。


「美咲さん。止まって」


 美咲さんが足を止める。

 反応があるのは、前方の水中。


 一つではない。

 細長い何かが、崩れた石柱の陰を泳いでいる。


「水の中に、三体」

「姿は見えませんね」

「こっちへ近付いてるのは確かだ。注意して」


 反応へ意識を集中させる。



 ◇____________________


 『刃鰭魚(ブレードフィッシュ)


 『危険度:D+』

 『分類:水棲種』


 『特性』

 ・水中高速移動

 ・水面擬態

 ・群れ行動


 『攻撃』

 ・噛み付き

 ・刃鰭による斬撃

 ・水中からの跳躍攻撃


 『弱点』

 ・鰓

 ・水上へ飛び出した直後


 『ドロップ品』

 ・良質な魔核(100%)

 ・刃鰭(20%)


 ____________________◇



「刃鰭魚が三体! 水中から飛び掛かってくる!」

「場所を教えてください!」


 水面へ、三本の細い波が現れる。


「正面に二体! 右から一体!」


 美咲さんが剣を抜く。

 最初の刃鰭魚が、水中から勢いよく飛び出した。


 銀色の身体。

 背中と腹部には、刃物のように薄い鰭が伸びている。


 美咲さんは身体を横へずらし、すれ違いざまに剣を振った。

 刃鰭魚の鰓へ剣先が入り、そのまま青い粒子となって消えていく。


「次は右!」


 二体目が、美咲さんの背後を狙って跳び上がった。


 彼女は振り返りながら盾を構える。

 刃鰭魚が盾へぶつかり、水中へ弾き返された。


「ぷるっ!」


 シズクが美咲さんの肩から跳び下りる。

 水面へ着地した身体が僅かに沈み、そのままぷかりと浮かんだ。


「おぉ、解析どおり、ちゃんと浮いてる」

「陸斗さん、感心している場合ではありません!」


「ぷるっ!」


 シズクの前へ風の魔力が集まる。


 風弾(ウインドバレット)が水面へ命中し、水中にいた刃鰭魚を吹き飛ばした。

 魚体が水の外へ持ち上がる。


「今です!」


 美咲さんが剣を振るい、露出した鰓を切り裂いた。


 残る一体が、俺へ向かってくる。

 水面へ広がる波から軌道を読み、鋼短剣を抜いた。


「陸斗さん!」

「大丈夫。動きは見えてる!」


 刃鰭魚が足元から飛び出す。

 身体を半歩だけ横へずらし、鋼短剣を振るう。


 刃先が鰓の付け根へ入った。

 手応えが伝わった直後、刃鰭魚が粒子となって消える。


「倒せた……」


「怪我はありませんか?」

「大丈夫。どこにも当たってない」

「ぷるっ!」


 水面に浮いているシズクも、元気よく身体を伸ばす。


「シズクも怪我はないみたいだ」

「よかった。では、こっちへおいで」

「ぷるっ」


 美咲さんが両手を伸ばす。

 シズクは水面を跳ねながら移動し、その腕へ収まった。


「泳いだというより、跳ねてきましたね」

「シズクらしい移動方法だな」


 水中へ沈んだ三つの良質な魔核を回収する。

 刃鰭は落ちていなかった。


「水の中にいる魔物は、見つけるだけでも大変ですね」

「常に『解析鑑定』を発動させておいた方がよさそうだ」


 再び周囲へ意識を広げ、避難場所へ向かった。



 ◇



 地図に記された避難場所へ到着したのは、水位上昇まで残り五分ほどの時だった。


 そこは、広い円形の部屋だった。

 中央には崩れた噴水。


 周囲には、二階部分へ続いていたと思われる柱や階段の残骸が並んでいる。


 協会が設置した案内板には、壁際にある高台で水位が下がるまで待機するよう書かれていた。


「ここなら、最大水位になっても沈まないみたいだ」

「休憩しながら待ちましょうか」

「ああ。ただ、その前に部屋全体を調べてみる」


 水位が上がれば、今まで見えなかった魔物が流れ込んでくる可能性もある。


 部屋全体へ意識を向ける。


 水中。

 崩れた柱。

 床や壁に刻まれた紋章。


 解析範囲を広げると、床へ散らばっている石板の一部から反応があった。



 ◇____________________


 『水位連動式・浮石回廊』


 『分類:階層攻略ギミック』

 『状態:沈下中』


 『作動条件』

 ・水位が1.20メートル以上へ上昇


 『効果』

 ・浮石が水面へ上昇

 ・対岸の高架回廊まで通行可能

 ・高水位中の安全経路を形成


 『次回作動まで:4分21秒』


 ____________________◇



「この部屋にも、仕掛けがある」

「どのような仕掛けですか?」

「床に石板が落ちてるだろ? あれが水位と一緒に浮かぶ仕組みみたいだ。向こう側の高架回廊まで、安全な道ができる」

「ただの瓦礫にしか見えませんね」


 美咲さんが、水中へ沈んでいる石板を見る。

 どれも大きさが不揃いで、通路の一部には見えない。


「水位が一メートル二十センチを超えると作動するみたいなんだ」

「では、避難するだけでなく、先へ進めるんですね」

「ああ、高水位の間だけ使える道。って考えてもらえれば大丈夫だと思う」


 公開地図では、この部屋は避難場所としてしか記録されていない。


 水位の上昇が始まる。

 床を覆っていた水が、少しずつ深くなっていった。


「高台へ移動しよう」

「はい」


 壁際にある高台へ上がる。

 水位が膝を超え、崩れた噴水が沈んでいく。


 やがて、一メートル二十センチへ達した。

 水中から、淡い青色の光が立ち上る。


「石板が……」


 沈んでいた石板が一枚ずつ浮かび上がった。

 それぞれが決められた位置へ移動し、青い光で繋がっていく。


 部屋の中央から、対岸の高い位置にある通路まで。

 水面へ浮かぶ階段と足場が完成した。



 ◇____________________


 『浮石回廊:作動中』


 『通行可能時間:38分54秒』

 『推奨通行人数:1名ずつ』


 ____________________◇



「一人ずつ渡った方がいいみたいだ」

「私が先に行きます」

「分かった。足場が揺れるかもしれないから、気を付けて」

「はい」


 美咲さんがシズクを肩へ載せ、最初の浮石へ足を置く。

 石板は僅かに沈んだが、傾くことはなかった。

 一枚ずつ足場を渡り、対岸の高架回廊へ到着する。


「問題ありません!」

「よし。今、行く」


 俺も浮石へ足を載せる。

 下では、先ほどより深くなった水の中を、何体もの魔物が泳いでいた。


 この仕掛けを知らず、水中を進めば戦闘を避けられない。

 足元を確認しながら浮石を渡り、高架回廊へ上がった。


「水位が上がっている間は、こちらの方が安全ですね」

「協会へ報告すれば、高水位中の経路として使えると思う」

「水位が上がる正確な時間も分かれば、探索計画を立てやすくなります」

「周期は九十分だから、次からは入る時間も調整できそうだ」


 高架回廊は水面より高い位置にあり、床は完全に乾いていた。

 俺たちは浮石回廊の作動方法を記録しながら、先へ進んだ。



 ◇



 高架回廊の途中で、『解析鑑定』へ新たな反応が現れた。


 冷たく、澄んだ魔力。

 反応は、回廊の下にある水中から届いている。


「この下で、何かが反応してる」

「魔物ですか?」

「動いてないな。かなり冷たい魔力だけど……」


 反応へ意識を集中させる。



 ◇____________________


 『氷晶の泉・入口』


 『分類:隠し採取区域』

 『現在の状態:水没中』


 『出現条件』

 ・周辺水位が0.20メートル以下まで低下


 『次回出現まで:38分12秒』


 『安全待機場所:高架回廊』


 ____________________◇



「水位が下がると、この下に隠し採取区域の入口が現れる」

「あと、どのくらいですか?」

「四十分くらいかな。ここで待っていても問題ないみたいだ」

「では、水分を取りながら待ちましょう」


 高架回廊の壁際へ腰を下ろす。

 美咲さんがシズクへ従魔用ゼリーを渡した。


「さっき魔法を使ったから、ゆっくり食べようね」

「ぷるっ」


 シズクがゼリーを体内へ取り込み始める。


 その間にも、水位はゆっくりと下がっていった。

 水面へ浮かんでいた石板が、一枚ずつ元の場所へ沈んでいく。


 崩れた噴水。

 床の紋章。

 水中に隠れていた石像。


 低水位へ戻るにつれ、遺跡の形が再び現れた。


 やがて、解析表示の数字が零になる。

 高架回廊の下にある壁から、水が流れ落ちた。

 水中に隠されていた細い階段が姿を現す。



 ◇____________________


 『氷晶の泉・入口』


 『出現条件:達成』

 『現在の状態:開放中』


 『再水没まで:39分58秒』


 ____________________◇



「入口が現れた」

「時間内に戻れるよう、気を付けましょう」

「分かった。中を確認したら、長居せずに戻ろう」


 細い階段を下りる。

 先ほどまで水中にあったはずだが、階段の表面には水滴一つ残っていない。


 最下部には、青白い光を放つ小さな泉があった。

 泉の中央にある石台から、透明な結晶が伸びている。

 結晶の内部では、雪のような光が舞っていた。


「ぷる……」


 シズクが美咲さんの肩から身を乗り出す。

 炎水晶を見つけた時と同じ反応だった。


「シズク。また気になるの?」

「ぷるっ!」


 俺は透明な結晶へ意識を集中させた。



 ◇____________________


 『氷水晶(アイスクリスタル)


 『品質:A』

 『希少度:B』

 『推定買取価格:90,000円』


 『用途』

 ・氷属性魔導具の素材

 ・冷却用魔導具の魔力源

 ・氷属性魔法の習得補助


 『適合対象:シズク』


 『習得可能魔法』

 ・氷槍(アイスランス)


 ____________________◇



「シズクが使える、氷属性の水晶だ」

「次は氷の魔法ですか?」

「ああ。氷槍という魔法を覚えられるみたいだな」

「ぷるるっ!」


 シズクが美咲さんの肩で大きく跳ねる。


「まだ使っていいとは決まってないよ。持ち帰って、検査してもらってからだからね」

「ぷるっ」


 俺は採取可能な部分を確認し、小型ピッケルを取り出した。

 結晶の根元へ慎重に打ち込む。


 澄んだ音と共に、手のひらほどの氷水晶が外れた。

 触れていないのに、周囲の空気が僅かに冷たくなる。

 保護布へ包み、探索鞄へ収める。


「ぷる……」

「帰るまで我慢だよ」

「ぷるっ」


 炎の次は、氷。

 シズクが扱える魔法は、少しずつ増え始めている。

 だが、魔法を増やすだけでは足りない。


 異なる属性を安全に扱い、状況に合わせて使い分けるためには、今まで以上に魔力操作を学ぶ必要があるだろう。


「戻ろうか。入口が水没する前に出ないと」

「はい。協会へ報告することも、また増えましたね」

「そうだな。なんか探索する度、見つけてる気がするよ」

「ふふ、そうですね」


 俺たちは再び水位が上がる前に、氷晶の泉をあとにする。

 探索鞄へ収めた氷水晶へ反応するように、シズクが嬉しそうに身体を揺らしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ