43話「白銀王スライム」
鏡から現れた六体の白銀王スライムが、俺たちを取り囲む。
どれも同じ大きさ。
身体の周囲には、銀色の結晶板が一枚ずつ浮かんでいた。
「また鏡像でしょうか?」
「調べます!」
六体の白銀王スライムへ意識を集中させる。
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『白銀分裂』
『本体:1体』
『分身体:5体』
『分身体の特性』
・物理干渉:可能
・攻撃能力:本体の40%
・破壊後の再生成時間:5秒
『生成源』
・白銀王の結晶板
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「先ほどの鏡像とは違います! 五体の分身体にも実体があります!」
「全部、攻撃してくるということですね!」
六体の白銀王スライムが、同時に身体を変形させた。
丸かった身体の一部が細長く伸び、白銀色の槍へ変わる。
「美咲さん、左から来ます!」
美咲さんが盾を構える。
三本の槍が、ほぼ同時に盾へ突き刺さった。
衝撃を受けた美咲さんの身体が後方へ押される。
「っ……分身体でも、かなり重いです!」
残る三体が、俺とシズクへ狙いを定めた。
「シズク、下がるぞ!」
「ぷるっ!」
シズクと一緒に横へ走る。
背後から迫った白銀色の槍が、直前まで立っていた床を貫いた。
さらに別の分身体が進路を塞ぐ。
羽靴で床を蹴り、その頭上を跳び越えた。
着地した場所へ、別方向から槍が迫る。
鋼短剣で受け流そうとするが、短剣一本で防げる太さではない。
「一城さん!」
美咲さんが割って入り、槍を剣で弾いた。
「ありがとうございます!」
「私から離れ過ぎないでください!」
「はい!」
白銀王スライムたちが一度距離を取る。
直後、傷付いた分身体の姿が鏡の中へ消えた。
五秒後。
傷一つない状態で、再び鏡から現れる。
「普通に倒しても、すぐに復活するのは痛いな」
「原因は結晶板ですか?」
「はい。五枚が分身体を作り、残る一枚が本体を守っています」
分身体を消すには、結晶板をどうにかしなければならない。
だが、六枚の結晶板は白銀王スライムと共に動き続けている。
美咲さんが一枚へ剣を振るう。
刃が触れた瞬間、結晶板の表面が鏡のように輝いた。
剣を振るった力がそのまま跳ね返され、美咲さんの腕が大きく弾かれる。
「攻撃が返ってきました!」
「反射障壁です!」
俺は結晶板へ『解析鑑定』を発動させる。
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『反射障壁』
『効果』
・物理攻撃を80%反射
・魔法攻撃を100%反射
『結晶板:6枚』
『障壁接続:正常』
『一時停止条件』
・全ての結晶板へ3秒以内に同一の魔法を接触させる
『停止時間:30秒』
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「止める方法はあります! 六枚全てへ、三秒以内に同じ魔法を当てれば障壁が止まります!」
「六枚を三秒で……」
美咲さんがシズクを見る。
シズクが使える攻撃魔法は、風弾だけだ。
しかも、魔力残量を考えれば使えるのは一回。
「一発で六枚へ当てる方法を探します!」
結晶板へ風弾を直接当てれば、そのまま反射される。
ならば、反射された風弾を別の結晶板へ当てられないだろうか。
六枚の位置と角度へ意識を集中させる。
だが、結晶板は白銀王スライムと一緒に動き続けていた。
今のままでは、反射先が定まらない。
「一城さん、来ます!」
六体の白銀王スライムが身体を低く沈める。
今度は槍ではない。
身体全体を円盤のように薄く広げ、高速で回転し始めた。
「回転斬撃です! 柱の陰へ!」
俺たちは部屋の端にある銀色の柱へ駆け込む。
直後、六枚の円盤が床を削りながら通過した。
柱へ衝突する直前、白銀王スライムたちが軌道を変える。
互いに交差しながら部屋を旋回していく。
「このままでは、狙いを付けられません! 何か、結晶板が止まる攻撃はありませんか!」
美咲さんの言葉に白銀王スライムの攻撃情報を確認する。
槍。
回転斬撃。
高速突進。
そして、白銀光線。
「あります。白銀光線を放つ前に、六枚の結晶板が一か所へ集まります!」
「その時なら、反射させられますか?」
「角度が分かれば可能だと思います」
白銀光線がどのような攻撃なのかは分からない。
それでも、結晶板が揃う機会は他にない。
「次に光線の構えへ入るまで耐えましょう!」
「分かりました!」
美咲さんが前へ出る。
俺とシズクは銀色の柱を背にし、白銀王スライムたちの動きを追った。
回転を止めた分身体が、次々と槍を放つ。
美咲さんは正面から受けず、盾と剣を使って軌道を逸らしていく。
防ぎ切れなかった一本が、彼女の肩を掠めた。
「美咲さん!」
「かすり傷です! 止まらないでください!」
赤い血が革防具へ滲んでいる。
それでも、美咲さんの動きは鈍らなかった。
白銀王スライムの本体が、部屋の中央へ移動する。
五体の分身体も、本体を囲むように並んだ。
「来ます!」
六枚の結晶板が宙へ浮かび、白銀王スライムの正面へ集まっていく。
結晶板同士が向かい合い、光を増幅させ始めた。
俺の視界へ、風弾が反射する経路が表示される。
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『推奨射出位置:右側面』
『推奨射出角度:上方28度』
『予測接触数:6/6』
『成功可能時間:1.6秒』
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「シズク、右へ!」
「ぷるっ!」
シズクが床を跳ね、俺の指示した場所へ移動する。
「上にある、一番右の結晶板を狙うんだ!」
シズクの身体へ残っていた魔力が集まる。
白銀王スライムの結晶板にも、眩い光が満ちていく。
「今だ! シズク!」
「ぷるっ!」
シズクが風弾を放った。
風の球体が右端の結晶板へ命中する。
反射された風弾が、隣の結晶板へ。
二枚目。
三枚目。
風弾は光の筋を描きながら、次々と結晶板へ反射していく。
六枚目へ命中した瞬間、全ての結晶板から光が消えた。
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『反射障壁:停止』
『白銀分裂:解除』
『再起動まで:30秒』
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五体の分身体が、銀色の粒子となって消滅する。
残ったのは、部屋の中央にいる本体だけだ。
「成功です!」
「すごいよ! シズク!」
だが、シズクの身体から力が抜け、その場へ平たく潰れてしまった。
「シズク!?」
「魔力切れのようです」
美咲さんがシズクを抱き上げ、部屋の端へ移動させる。
「少しだけ待っていてね。すぐに終わらせるから」
「ぷる……」
弱々しいながらも、シズクが返事をする。
「美咲さん、障壁が戻るまで三十秒です!」
「その間に倒します!」
白銀王スライムが大きく震えた。
六枚の結晶板が動かなくなったことで、身体の形を維持できなくなったように揺れている。
だが、戦意は失っていない。
巨大な身体を圧縮し、人間ほどの大きさまで縮んだ。
身体の密度が増し、白銀色の表面がさらに硬く輝く。
「小さくなった……」
「来ます!」
白銀王スライムが床を蹴る。
先ほどまでとは比べものにならない速度だった。
美咲さんが盾を構える。
白銀王スライムの突進が盾へ直撃し、彼女の身体が大きく後方へ押された。
「重い……!」
床を踏み締め、どうにか突進を受け止めている。
俺は白銀王スライムの身体へ意識を集中させた。
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『高速変形・圧縮形態』
『防御力:上昇』
『移動速度:上昇』
『弱点』
・攻撃直前、進行方向へ魔核が移動
・反対側の外殻強度が60%低下
『反射障壁再起動まで:21秒』
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「攻撃する瞬間、魔核が前へ移動します! その時だけ、背後の外殻が薄くなります!」
「一城さん、背後を狙えますか?」
「やります!」
美咲さんが白銀王スライムを押し返す。
俺は鋼短剣を握り、相手の背後へ回り込んだ。
白銀王スライムがその場で反転する。
狙いが俺へ変わった。
「一城さん!」
「大丈夫です!」
羽靴へ力を込める。
白銀王スライムが身体を沈めた。
飛び掛かる直前、体内の魔核が俺のいる方向へ移動する。
「今だ!」
地面を蹴り、白銀王スライムの頭上を跳び越えた。
足元を白銀色の身体が通過する。
空中で身体を捻り、薄くなった背後の外殻へ鋼短剣を突き立てた。
甲高い音が響く。
刃先が外殻を貫いたが、魔核までは届かない。
「まだだ……!」
短剣を横へ動かし、亀裂を広げる。
白銀王スライムが急停止した。
身体から伸びた銀の触手が俺の脇腹へ直撃する。
「ぐっ……!」
衝撃で身体が飛ばされた。
床へ叩き付けられる直前、羽靴が着地の衝撃を軽減する。
痛みはある。
それでも、すぐに身体を起こすことができた。
「一城さん!」
「大丈夫です! 外殻は壊しました!」
亀裂の奥から、白銀色の魔核が見えている。
美咲さんが駆ける。
白銀王スライムが外殻を再生しようと身体を震わせた。
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『反射障壁再起動まで:3秒』
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「間に合って!」
美咲さんが白銀王スライムの背後へ踏み込む。
剣を両手で握り、俺が作った亀裂へ突き立てた。
刃が魔核を貫く。
白銀王スライムの身体が大きく膨らんだ。
止まっていた六枚の結晶板へ、再び光が灯り始める。
だが、障壁が戻るよりも早く、魔核へ亀裂が広がった。
巨大な白銀色の身体が、無数の粒子となって崩れていく。
六枚の結晶板も砕け、銀色の光となって部屋へ舞い上がった。
「倒した……」
美咲さんが剣を床へ突き、息を整える。
「一城さん、怪我を見せてください!」
「脇腹を打っただけです。それより、シズクを」
「シズクは魔力切れです。休ませれば大丈夫です」
美咲さんが俺の脇腹を確認する。
防具の上から触れられると痛みはあるが、骨に異常があるような感覚はなかった。
「念のため、回復薬を使います」
「その傷なら、美咲さんも使ってください」
「分かりました」
互いの傷を治療してから、シズクのもとへ向かう。
「シズク。終わったよ」
「ぷる……」
美咲さんの声に応えるように、シズクが僅かに身体を伸ばした。
「シズクの風弾がなければ、勝てなかった。ありがとうな?」
俺が撫でると、シズクは満足したように身体を揺らした。
部屋の中央では、白銀王スライムが消えた場所に三つのドロップ品が残されていた。
大きな白銀王の魔核。
白銀色の魔石。
そして、銀色の首飾り。
「首飾りが出ています……」
「ドロップ率は5%でしたよね?」
「はい。本当に手に入るとは思いませんでした」
首飾りを拾い上げる。
銀色の細い鎖に、透明なスライム型の宝石が取り付けられていた。
俺は『解析鑑定』を発動させる。
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『スライムの首飾り』
『品質:S』
『希少度:A』
『推定買取価格:420,000円』
『売却:非推奨』
『効果』
・装備者の魔力耐性を僅かに上昇させる
・スライム種との魔力親和性を高める
『シリーズ装備:4/5』
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「これで、五つあるシリーズ装備のうち四つが揃いました」
「あと一つですね」
「ぷるっ」
首飾りの宝石が気になるのか、シズクが身体を伸ばす。
美咲さんが抱いたまま近付けると、シズクは宝石へそっと触れた。
触れられた首飾りが、淡い青色の光を放つ。
「シズクに反応しています」
「スライム種との魔力親和性を高める効果があるみたいです」
「一城さんが装備したら、シズクとも今まで以上に意思を通わせられるのでしょうか?」
「可能性はあります」
今は俺に従魔はいない。
それでも、いつかスライムと契約することがあれば、この首飾りは大きな助けになるかもしれない。
首飾りを大切に小型ケースへ収める。
直後、白銀王の間へ穏やかな鐘の音が響いた。
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『希少区域:スライムの白銀城』
『区域守護個体:討伐完了』
『攻略状態:達成』
『残り時間:1時間12分47秒』
『帰還門:開放』
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部屋の奥に、白銀色の光で作られた帰還門が現れる。
「まだ時間はありますが、戻りましょう」
「そうですね。シズクも一城さんも休ませないと」
「美咲さんも怪我をしていますよ」
「私は回復薬を使いましたから大丈夫です」
「俺も同じです」
「では、全員休憩が必要ということですね」
ドロップ品を回収し、帰還門の前へ立つ。
振り返ると、王の間にあった鏡は全て光を失っていた。
俺たちは白銀色の揺らぎへ足を踏み入れる。
身体が僅かに浮く。
次に足の裏へ硬い感触が戻った時には、初心者ダンジョン第五層の通路へ戻っていた。
「帰ってきましたね」
「ぷる……」
美咲さんの腕の中で、シズクが安心したように身体を丸める。
素材鞄の中には、守りの結晶飴。
小型ケースには、四つ目となるスライムシリーズの首飾り。
残る装備は、あと一つ。
それがどこにあるのかは分からない。
だが、初心者ダンジョンのさらに先に、答えが待っているような気がした。
読んでいただきありがとうございます。
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