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42話「守りの結晶飴」


 十二体の白銀スライムが、一斉に身体を沈めた。


「来ます!」


 美咲さんが俺の前へ出て、剣を構える。

 次の瞬間、白銀スライムたちが四方から飛び掛かってきた。


「右から三体です!」

「はい!」


 美咲さんが剣を横薙ぎに振るう。

 刃が最初の一体を通り抜けた。

 白銀スライムの姿が銀色の光となって弾ける。

 手応えはなかった。


「鏡像です!」


 続く二体目も、美咲さんの剣へ触れた瞬間に消えた。


 だが、三体目だけは違った。

 剣と白銀色の身体がぶつかり、硬い音が回廊へ響く。


「これが本体です!」


 美咲さんが剣を押し込もうとする。

 白銀スライムは身体を大きく変形させ、刃を受け流した。

 そのまま床を滑り、別の鏡像と交差する。


 次の瞬間には、再び十二体へ戻っていた。


「本体が入れ替わりました!」

「一度消した鏡像も戻っています!」


 左右の鏡が淡く光り、倒したはずの鏡像を作り出している。


 俺は本体を示す解析表示を追う。

 だが、十二体が互いに交差するたび、表示も激しく移動した。


「一城さん、下がってください!」


 美咲さんの声に従い、後方へ跳ぶ。

 直前まで立っていた場所を、白銀スライムが通り過ぎた。


 さらに背後から、別の個体が迫る。

 鋼短剣を振るうと、白銀スライムは抵抗なく消えた。


「こっちは鏡像か……!」


 鏡像に攻撃力があるのかは分からない。

 確かめるために、わざと攻撃を受けるわけにもいかなかった。

 シズクが美咲さんの肩から周囲を見回している。


「ぷるっ!」

「シズク、魔法はまだ駄目だよ!」


 美咲さんが横へ跳ぶ。

 白銀スライムが、その足元を通り過ぎた。

 壁の鏡へ光が走り、消された鏡像が再び作り出される。

 鏡像を倒し続けても終わらない。


「本体だけを止める方法があるはずだ……」


 俺は『銀鏡の守衛』へ意識を集中させた。



 ◇____________________


 『銀鏡の守衛』


 『本体:1体』

 『鏡像:11体』

 『鏡像再生成時間:2秒』


 『鏡像生成条件』

 ・本体の姿が左右いずれかの鏡へ映っている


 『鏡像生成不可領域』

 ・部屋中央の黒銀床


 ____________________◇



「中央……」


 部屋の床を確認する。

 一面に白銀色の石が敷き詰められているが、中央だけ色が違う。


 鏡の光を反射しない、黒銀色の正方形。

 人が二人立てるほどの広さしかない。


「あの黒い床へ本体を誘い込めば、鏡像を作れなくなります」

「でも、どうやって本体だけを誘導するんですか?」

「本体が狙っている相手を調べます」


 十二体が再び動き出す。

 美咲さんが俺を庇いながら、鏡像を剣で消していく。

 その間に、攻撃対象へ意識を向けた。



 ◇____________________


 『現在の攻撃対象:一城陸斗』


 『選定理由』

 ・本体の位置を最も多く看破しているため


 ____________________◇



「狙われているのは俺みたいです」

「では、私が一城さんを守りながら中央へ」

「それでは、美咲さんまで狙われます。俺一人で黒い床へ行きます」

「危険です!」

「白銀スライムの位置は見えています。羽靴もあります」

「ですが……」


 美咲さんが言いかけたところへ、三体の白銀スライムが迫る。

 彼女は二体を切り払い、残る一体を盾で弾いた。


 どれも鏡像だった。

 再び左右の鏡が輝く。

 時間を掛けるほど、こちらが不利になる。


「本体が黒い床へ入ったら教えます。その瞬間を狙ってください」

「……絶対に無理はしないでください」

「はい」


 俺は黒銀床へ向かって駆け出した。

 白銀スライムたちが、すぐに進路を変える。

 十二体全てがこちらへ向かってきた。


「一城さん! 右です!」


 美咲さんの声に合わせて羽靴で床を蹴る。

 鏡像の頭上を跳び越え、黒銀床へ着地した。


 振り返る。

 銀色の群れが迫ってくる。


 解析表示を追い、本体の位置だけを見続けた。


「まだ……」


 最初の鏡像が黒銀床へ入る。

 変化はない。


 二体目。

 三体目。


 触れようとした鏡像を鋼短剣で切り払う。


 銀色の光が視界を覆った。

 その向こうから、本体が飛び出してくる。


「今です!」


 白銀スライムが黒銀床へ入った瞬間、十一体の鏡像が一斉に消えた。


 左右の鏡が光る。

 だが、新しい鏡像は生まれない。


「見つけました!」


 美咲さんが黒銀床へ踏み込む。

 白銀スライムが俺へ飛び掛かる直前、その剣が銀色の身体を切り裂いた。


 体内の魔核が露出する。

 美咲さんが身体を回転させ、二撃目を放つ。


 剣先が魔核を正確に貫いた。

 白銀スライムの身体へ亀裂が走る。

 左右の鏡も同時に砕け、銀色の粒子となって消えていった。


「倒しました!」


 回廊へ静けさが戻る。


「一城さん、怪我は?」

「ありません。美咲さんが間に合ってくれましたから」

「もう少し遅かったら、体当たりを受けていましたよ」

「次からは、もう少し余裕のある方法を探します」

「本当にお願いします」


 美咲さんは安堵したように息を吐く。

 シズクも肩から飛び下り、俺の足へ身体を押し付けてきた。


「心配させてごめんな?」

「ぷるっ」


 シズクの身体を撫でていると、消えた白銀スライムの足元で何かが輝いた。


「ドロップ品が二つあります」


 一つは、これまでにも手に入れた白銀魔核。

 もう一つは、小さな飴だった。


 半透明の銀色で、中心に盾のような模様が浮かんでいる。


「飴……もしかして……」


 形は、黄金郷で手に入れた『力の結晶飴』によく似ていた。

 俺は銀色の飴へ『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『守りの結晶飴』


 『品質:S』

 『希少度:EX』

 『推定買取価格:算出不能』

 『売却:非推奨』


 『効果』

 ・使用者の基礎耐久力を僅かに上昇させる


 『ドロップ率:0.5%』


 ____________________◇



「やっぱり、結晶飴だ……!」

「力の結晶飴と似た物ですか?」

「はい。こちらは基礎耐久力を上げる効果があります」

「また0.5%を引いたんですか?」

「そうみたいです」


 自分でも信じられない。

 黄金郷に続き、白銀城でも極めて低い確率の結晶飴を手に入れてしまった。


「今、食べます?」

「いえ。身体にどんな変化が起きるか分かりません。希少区域を出てからにします」

「分かりました」


 守りの結晶飴を小型ケースへ入れ、素材鞄の奥へしまった。

 その直後、正面に並んでいた5つの扉のうち、中央の扉から鏡像だけが消える。



 ◇____________________


 『銀鏡回廊・第2室』


 『守衛討伐:完了』

 『正規経路:開放』


 『銀鏡回廊突破:2/3』


 ____________________◇



「次で最後ですね」

「残り時間は?」

「二時間と四分です」


 中央の扉を開ける。

 その先にあったのは、円形の小部屋だった。


 壁には三枚の鏡が埋め込まれ、床には大きさの異なる三つの銀環が描かれている。

 正面の扉には鍵穴も取っ手も見当たらなかった。


「今度は何をすればいいのでしょうか」

「調べてみます」


 床の銀環へ『解析鑑定』を向ける。



 ◇____________________


 『銀鏡回廊・最終室』


 『通過条件』

 ・侵入者全員が異なる銀環へ同時に接触する


 『登録侵入者:3名』

 ・一城陸斗

 ・佐伯美咲

 ・シズク


 ____________________◇



「三つの銀環へ、俺たち全員が同時に触れば扉が開く仕組みみたいです」

「三つの銀環……ということはシズクもでしょうか?」

「はい。シズクも、一人として数えられています」

「この子も正式な仲間ですからね」


 美咲さんが嬉しそうにシズクを抱き上げる。

 床の銀環は、それぞれ大きさが違っていた。


 人が立てる大きな物が2つ。

 残る一つは、シズクの身体と同じくらいの大きさだった。


「侵入した人数だけでなく、身体の大きさまで認識しているみたいですね」

「それなら、シズクはこの小さな銀環だねっ」

「ぷるっ」


 俺と美咲さんが、大きな銀環へそれぞれ立つ。

 美咲さんが小さな銀環へシズクを下ろした。


「シズク。そこから動かないでね?」

「ぷるっ!」


 三人が銀環へ収まった瞬間、床から光が立ち上った。


 正面の扉へ三本の光が集まる。

 扉が音もなく消え、その先に上へ続く階段が現れた。



 ◇____________________


 『銀鏡回廊』


 『突破:3/3』

 『中央塔正門:開放』


 ____________________◇



「無事に抜けられましたね」

「はい。先へ進む前に、少し休みましょう」


 回廊を抜けた先は、白銀城の中央広間だった。


 魔物の姿はない。

 壁際に腰を下ろし、水分と携帯食を取る。


 美咲さんはシズクへ、魔力を含んだ従魔用ゼリーを与えた。


「ゆっくり食べるんだよ」

「ぷるっ」


 シズクがゼリーを体内へ取り込み、少しずつ溶かしていく。

 すぐに魔力が全回復するわけではない。


 それでも、先ほどより身体の光は戻っていた。


「この先に、白銀城の区域守護個体がいるのでしょうか」

「中央塔の最上部だと思います」


 広間の奥には、白銀色の大階段が続いている。

 その両側へ、巨大な壁画が描かれていた。


 左側には、黄金色の草原と、王冠のような模様を持つ黄金スライム。

 右側には、白銀城と、その中央に鎮座する巨大な白銀スライム。


「黄金郷と白銀城……」

「2つの希少区域が描かれていますね」


 壁画へ意識を向ける。



 ◇____________________


 『白金双王の壁画』


 『記録内容』

 ・黄金郷を守護する黄金王

 ・白銀城を守護する白銀王

 ・2体の王は異なる地で、同族を守護していた


 『未解読部分:あり』


 ____________________◇



「黄金王スライムと、白銀王スライムは対になる存在みたいです」

「兄弟のようなものでしょうか?」

「そこまでは分かりません。ただ、互いを向いて描かれています」


 黄金王スライムと対峙した時は美咲さんと調査課の高橋さんも同行していた。

 あの時は、高橋さんが用意した結界の魔道具と、美咲さんの機動力のおかげで倒せたが、今回は大丈夫だろうか?

 いや、あの時と違い、俺も足手まといにならない程度には動けるようになっている。

 美咲さんとの連携も深まり、シズクだっている……大丈夫だろう。


 壁画を確認したあと、俺たちは大階段を上り始めた。

 最上部へ到着すると、巨大な銀色の扉が待っていた。


 扉の中央には、白銀色の王冠を模した紋章が刻まれている。



 ◇____________________


 『白銀王の間』


 『区域守護個体:活動中』

 『残り時間:1時間38分21秒』


 『挑戦可能人数:3名』


 ____________________◇


「シズクも挑戦人数に含まれています」

「魔力は完全には戻っていません。風弾は、多くても一回にしましょう」

「ぷるっ」


 シズクが真剣な様子で身体を伸ばす。

 美咲さんが剣を抜いた。


「一城さん。準備はいいですか?」

「はい。まずは攻撃方法と弱点を調べます」


 扉の中央にある王冠へ触れる。

 重い音と共に、銀色の扉が左右へ開いていった。

 その先に広がっていたのは、無数の鏡で囲まれた円形の部屋だった。


 中央には、巨大な白銀スライムが鎮座している。


 高さは2メートルを超えていた。

 鏡のような身体の周囲へ、王冠を形作るように六枚の銀色の結晶板が浮かんでいる。


 俺たちが室内へ入ると、白銀スライムの身体に一本の光が走った。

 閉じていた瞳のような模様が開く。


 俺はすぐに『解析鑑定』を発動させた。



 ◇____________________


 『白銀王(シルバーキング)スライム』


 『区域守護個体』

 『危険度:C+』


 『特性』

 ・鏡面支配

 ・反射障壁

 ・白銀分裂

 ・高速変形


 『ドロップ品』

 ・白銀王の魔核(100%)

 ・白銀王の魔石(50%)

 ・白銀王の鏡片(10%)

 ・スライムの首飾り(5%)


 ____________________◇



「スライムの首飾り……」


 俺が持っているスライムシリーズと同じ名前だ。

 これを手に入れれば、シリーズ装備は4/5になる。


 だが、ドロップ率は5%。


 何より、目の前の相手を倒せなければ意味がない。

 白銀王スライムの周囲を浮かんでいた六枚の結晶板が、ゆっくりと広がった。

 部屋中の鏡へ、白銀王スライムの姿が映る。


 次の瞬間。

 六体の白銀王スライムが、鏡の中から同時に姿を現した。

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