40話「スライムの白銀城」
希少区域が出現する日。
俺たちは、第五層の行き止まりでその時を待っていた。
通路の入口には、調査課の高橋さんと二名の戦闘職員が待機している。
「希少区域へ入ったあとは、こちらから連絡できない可能性があります」
高橋さんが、俺たちの装備を確認する。
「無理だと判断した場合は、すぐに帰還石を使用してください」
「分かりました」
「シズクも、本当に連れていくのですね?」
「はい」
美咲さんの隣で、シズクが元気よく跳ねる。
「一度離れた場所へ置いていくことも考えました。でも、入口を開く条件や、内部で必要になる条件にシズクが関わる可能性もあります」
「第三層と第五層の隠し部屋を考えれば、あり得ますね」
俺は希少区域へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『希少区域』
『名称:スライムの白銀城』
『出現まで:1分12秒』
『入場可能対象』
・発見者
・発見者と登録されたパーティーメンバー
・パーティーメンバーの登録従魔
『滞在可能時間:三時間』
『帰還石:使用可能』
____________________◇
「シズクも入れます。帰還石も使用可能です」
「それなら、少し安心ですね」
「ぷるっ!」
胸元のボディレコーダーを視線を落とす。
美咲さんも、自分のレコーダーが正常に動いていることを確認した。
残り時間が十秒を切る。
目の前の岩壁は、見た目には何も変わっていない。
だが、数字がゼロになった瞬間、壁の一部が水面のように揺らぎ始めた。
「現れました」
「私には、まだ普通の壁に見えます」
「こちらから入ります。離れないでください」
俺が揺らぎへ手を触れる。
指先が壁の中へ沈むと同時に、銀色の光が波紋のように広がった。
「今なら見えます」
「行きましょう」
俺と美咲さんが並び、その間にシズクが入る。
「お気を付けて」
高橋さんの声を背に、俺たちは銀色の揺らぎへ足を踏み入れた。
◇
足の裏へ、滑らかな石の感触が戻ってくる。
目の前に広がっていたのは、巨大な城の中庭だった。
白銀色の城壁。
細く高い塔。
空には淡い光を放つ大きな月が浮かび、地上へ青白い光を注いでいる。
城壁や石畳には鏡のような光沢があり、俺たちの姿を薄く映していた。
「ここが、スライムの白銀城……」
「黄金郷とは、雰囲気が全然違いますね」
美咲さんが城を見上げる。
録画を始めているため、ここからは互いを活動名で呼ぶ。
「リンさん。残り時間は分かりますか?」
「二時間五十八分です。時間が切れると、強制的に外へ戻されます」
「それまでに探索を終えましょう」
正面には、城内へ続く巨大な門がある。
門の表面には、三体のスライムを模した紋章が刻まれていた。
そのうち、光っている物は一つもない。
「閉じていますね」
「条件を確認してみます」
◇____________________
『白銀城・外門』
『状態:封印中』
『開放条件』
・外門守護個体を三体討伐する
『討伐数:0/3』
____________________◇
「門を開くには、守護個体を三体倒す必要があります」
「守護個体は、どこにいるんでしょうか?」
「ぷる……」
シズクが身体を低くし、城壁の上を見上げた。
体内の光の輪が、微かに回転している。
「シズク?」
「何かの魔力を感じているみたいです」
次の瞬間。
城壁の上から、銀色の塊が落下した。
「離れてください!」
俺たちは左右へ分かれる。
銀色の塊は石畳へ着地すると、柔らかく形を変えた。
現れたのは、鏡のように輝くスライムだった。
身体へ周囲の景色が映り込み、輪郭が掴みにくい。
「これが、白銀スライム……」
「綺麗……」
「ミサキさん、見惚れている場合じゃありません」
「わ、分かっています!」
美咲さんが剣を抜く。
俺も鋼短剣へ手を掛けながら、白銀スライムを解析した。
◇____________________
『白銀スライム』
『希少個体』
『役割:外門守護個体』
『性格:警戒心が強い』
『危険度:C』
『特性』
・鏡像投影
・鏡面膜
・高速滑走
『攻撃』
・体当たり
・銀弾
・分裂突進
『ドロップ品』
・白銀魔核(100%)
・白銀魔石(5%)
・銀光液(1%)
・守りの結晶飴(0.5%)
____________________◇
「危険度Cです! 鏡像を作る能力があります!」
「来ます!」
白銀スライムの身体が、強く輝いた。
城壁へ反射した光が集まり、スライムの姿を作り出す。
一体だったはずの白銀スライムが、三体へ増えた。
「どれが本物ですか?」
「見た目だけでは分かりません!」
三体の白銀スライムが、別々の方向へ滑り始める。
石畳の上を滑る動きは速く、ほとんど音も聞こえない。
「ぷるっ!」
シズクが右側の一体へ身体を向けた。
「シズクには分かるみたいです!」
「魔力感知ですね!」
美咲さんが、シズクの示した個体へ駆け出す。
白銀スライムが身体を沈ませ、銀色の粒を放った。
「銀弾です!」
硬化した銀色の粒が、美咲さんへ飛んでいく。
美咲さんは小盾で顔を守りながら、横へ踏み込んだ。
銀弾が盾へ当たり、甲高い音を響かせる。
「本体を狙います!」
美咲さんの剣が、白銀スライムへ振り下ろされる。
だが、刃は鏡のような表面を滑り、横へ逸らされた。
「剣が滑る……!」
白銀スライムが身体を変形させ、美咲さんへ体当たりを放つ。
美咲さんは盾で受け止めたが、勢いを殺し切れずに後退した。
「ミサキさん!」
「大丈夫です!」
俺は『鏡面膜』へ意識を集中させる。
◇____________________
『鏡面膜』
『効果』
・光を利用して鏡像を投影
・物理攻撃を滑らせ、軌道を逸らす
『解除条件』
・一定以上の風圧を表面へ受ける
『解除時間:3秒』
____________________◇
「風です! シズクの風弾で、鏡面膜を解除できます!」
「シズク、お願い!」
「ぷるっ!」
シズクが身体を伸ばし、魔力を集める。
白銀スライムも危険を感じたのか、シズクへ向かって滑り出した。
「させるか!」
俺はスライムの羽靴で石畳を蹴った。
身体が軽く押し出され、白銀スライムとシズクの間へ入る。
鋼短剣を振るうが、刃は銀色の表面を滑った。
それでも、狙いを俺へ向けることはできた。
白銀スライムが体当たりを放つ。
横へ跳んで回避する。
着地の衝撃は羽靴に吸収され、すぐに次の動きへ移ることができた。
「シズク、今です!」
「ぷるるっ!」
風弾が白銀スライムへ命中する。
圧縮された風が銀色の表面を走り、鏡のような光沢を崩していく。
同時に、周囲を走っていた二体の鏡像が消えた。
「鏡面膜が解けました!」
美咲さんが踏み込む。
白銀スライムが逃げようとしたが、先ほどまでの滑るような速度はない。
剣が柔らかくなった身体へ沈み込み、内部の魔核を貫いた。
白銀スライムは銀色の粒子となり、その場から消える。
「倒せました……」
美咲さんが息を整える。
「シズク、助かったよ」
「ぷるっ!」
シズクが嬉しそうに跳ねる。
足元には、銀色に輝く魔核が残されていた。
拾い上げ、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『白銀魔核』
『品質:A』
『希少度:A』
『推定買取価格:15,000円』
____________________◇
「一個、一万五千円です」
「外門を開けるには、あと二体倒す必要がありますね」
白銀魔核を素材鞄へしまう。
その瞬間、門へ刻まれていた三つの紋章のうち、一つへ銀色の光が灯った。
◇____________________
『外門守護個体討伐数:1/3』
____________________◇
「一体目は終わりました」
「残り二体です」
美咲さんが剣を構え直す。
シズクの魔力も、まだ二回分残っている。
「次も同じ方法で……」
そう言いかけた時だった。
中庭の左右に立つ二本の塔から、銀色の光が放たれた。
光が石畳へ集まり、それぞれ一体ずつ白銀スライムの姿へ変わっていく。
「同時に二体……」
「今度は、鏡像ではありません」
二体の白銀スライムが身体を輝かせる。
それぞれが鏡像を二体ずつ作り出し、中庭に六体の銀色の姿が現れた。
シズクが魔力を探ろうとする。
だが、六体は一斉に別方向へ滑り始めた。
「リンさん、来ます!」
「まず本体を見つけます!」
白銀城の外門を開くための、本当の戦いが始まった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




