39話「スライムの羽靴」
シズクの進化から数日。
第一層から第三層での訓練を終えた俺たちは、シズクを連れて第五層へ向かっていた。
指示に従った回避や帰還は問題なく、風弾も安定して使えるようになっている。
今日は、シズクにとって初めての第五層探索だ。
「無理に戦わせる必要はありません。最初は、俺たちの補助だけで十分です」
「はい!」
「ぷるっ!」
美咲さんの隣を進むシズクが、元気よく跳ねる。
第五層へ到着し、ボディレコーダーを確認する。
白銀城が出現するまで、まだ数日ある。
それまでに、第五層での連携を確認しておく予定だった。
◇
通路を進んでいると、前方に淡い緑色の身体が現れた。
毒スライムだ。
身体の中に浮かぶ黒い斑点が、中央へ集まっていく。
「毒液が来ます!」
ポイズンスライムから、紫色の液体が放たれる。
「シズク!」
「ぷるっ!」
美咲さんの指示と同時に、シズクの体内で光の輪が回転した。
小さな風の球体が作り出され、正面へ放たれる。
風弾が毒液へ命中する。
紫色の液体は空中で弾け、俺たちから外れた岩壁へ飛び散った。
「成功です!」
美咲さんが一気に距離を詰める。
毒液を放った直後のポイズンスライムは動けない。
剣が魔核を切り裂き、緑色の身体が粒子となって消えていく。
「シズク、ちゃんと毒液を止められたね!」
「ぷるるっ!」
シズクが得意げに身体を膨らませる。
「風弾なら、毒液へ直接触れずに軌道を変えられます。ポイズンスライムとは相性が良さそうですね」
「あと二回使えますが、残しておきましょう」
「はい」
落ちた魔核を回収し、再び通路を進む。
次に現れたのは、鈍い灰色の身体を持つ鋼鉄スライムだった。
硬化した身体を震わせながら、こちらへ近付いてくる。
「シズクは下がっていてね」
「ぷるっ」
美咲さんが剣を抜く。
スチールスライムが身体を大きく沈ませた。
「跳びます!」
硬い身体が、勢いよく宙へ上がる。
その瞬間、身体の下側だけが柔らかなスライム状へ戻った。
「下側です!」
「はいっ!」
美咲さんが踏み込み、剣を下から振り上げる。
刃が柔らかな部分へ入り、内部の魔核を切り裂いた。
スチールスライムは灰色の粒子となって消え、良質な魔核と小さな金属片を残した。
「鋼鉄片ですね」
金属片を拾い上げ、必要な情報だけを確認する。
◇____________________
『鋼鉄片』
『品質:B』
『用途:武器、防具、魔導具の補強材』
『推定買取価格:4,000円』
____________________◇
「四千円です」
「第五層まで来ると、通常素材の値段も上がりますね」
「希少区域に入れなくても、十分な収入になりそうです」
鋼鉄片を素材鞄へしまう。
その後も、シズクには回避と待機を中心に指示を出した。
戦闘へ参加するのは、魔法が有効な場面だけ。
美咲さんも心配しながらではあるが、必要以上に抱き上げることはなくなっていた。
◇
しばらく進むと、シズクが突然足を止めた。
「ぷる?」
通路脇の壁へ近付き、身体を伸ばしている。
「何か気になるの?」
「ぷるっ」
美咲さんが壁を調べる。
見た目は、周囲と変わらない岩壁だった。
ただ、表面へ薄く二つの模様が刻まれている。
一つは、丸いスライムに似た紋章。
もう一つは、人間の手のひらに似た紋章だ。
「この模様、前に来た時もあったような……」
「知っているんですか?」
「いえ。ただの傷だと思っていました」
俺は二つの紋章へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『第五層・隠し宝物庫』
『状態:封印中』
『開放条件』
・スライム種の従魔が、円形紋へ触れる
・契約者が、手形紋へ触れる
・二つの紋章へ同時に接触する
『内部状態:安全』
____________________◇
「隠し宝物庫です」
「この壁の奥に?」
「はい。ただし、開けるにはスライム種の従魔と、その契約者が必要です」
「それなら……」
美咲さんがシズクを見る。
「シズクと私なら開けられるんですね」
「そうなります」
ペットにできるスライム自体、滅多に見つからない。
その従魔と契約者が偶然ここを訪れ、二つの紋章へ同時に触れる。
今まで発見されなかったのも不思議ではなかった。
「試してみましょう」
美咲さんが手形の紋章へ右手を当てる。
「シズクは、こっちに触って」
「ぷるっ」
シズクが身体を伸ばし、円形の紋章へ触れた。
二つの紋章が同時に青く輝く。
◇____________________
『開放条件達成』
____________________◇
岩壁へ一本の亀裂が走る。
低い音を響かせながら壁が左右へ分かれ、その奥から小さな石室が現れた。
「本当に開きましたね」
「内部に危険はありません。入りましょう」
美咲さんが先頭に立ち、俺とシズクも石室へ入る。
部屋の中央には、青い金属で作られた宝箱が置かれていた。
壁や床に罠らしい物はない。
宝箱へも『解析鑑定』を向ける。
◇____________________
『青金属の宝箱』
『状態:安全』
『所有者:開放条件達成者』
____________________◇
「開けても大丈夫です」
「今回は一城さんが開けてください」
「俺でいいんですか?」
「宝箱や隠し部屋を見つけたのは、一城さんですから」
「最初に壁へ気付いたのはシズクですけどね」
「ぷるっ!」
シズクが宝箱の前で跳ねる。
「それでは、三人で開けましょうか」
俺と美咲さんが宝箱の蓋へ手を掛ける。
シズクも、身体を伸ばして蓋の端へ触れた。
「せーの」
ゆっくりと蓋を持ち上げる。
中に入っていたのは、一足の靴だった。
青銀色の短いブーツ。
足首の左右には、半透明の小さな羽を思わせる装飾が付いている。
「綺麗な靴ですね」
「スライムの意匠もあります」
靴底には、丸いスライムの紋章が刻まれていた。
俺はブーツを取り出し、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『スライムの羽靴』
『品質:A』
『希少度:A』
『推定買取価格:180,000円』
『売却:非推奨』
『効果』
・装備者の跳躍力を上昇させる
・着地時の衝撃を大幅に軽減する
・装備者の足へ自動調整される
『シリーズ装備:3/5』
____________________◇
「スライムシリーズです」
「やっぱり!」
美咲さんが、嬉しそうに靴を覗き込む。
「これで、指輪と腕輪に続いて三つ目ですね」
「残り二つです」
「もちろん、売りませんよね?」
「売却非推奨と表示されています。それに、ここまで集めたら全て揃えたいです」
「私も賛成です」
シズクが、羽の装飾へ興味を示している。
身体を伸ばして触れると、半透明の羽が微かに光った。
「シズクがいなければ、ここへは入れませんでした」
「ぷるるっ!」
「これは、三人で見つけた装備ですね」
俺は現在履いている探索用の靴を脱ぎ、スライムの羽靴へ足を入れた。
最初は少し大きかったが、青い光と共に形が縮み、俺の足へぴたりと合う。
「少し動いてみます」
その場で軽く跳ぶ。
「うわっ」
予想していたよりも身体が高く浮き、慌てて足を動かす。
だが、着地した時の衝撃はほとんどなかった。
「大丈夫ですか?」
「はい。少し驚いただけです」
「かなり高く跳んでいましたよ」
「慣れるまでは加減が必要そうですね」
シズクも真似するように、その場で大きく跳ねた。
「ぷるっ!」
「シズクも負けていませんね」
「競争しちゃ駄目だからね」
美咲さんに止められ、シズクが大人しく身体を縮めた。
◇
隠し宝物庫を出た俺たちは、第五層の帰路を進んでいた。
通路の先に、一体のスチールスライムが現れる。
「一城さん。羽靴のまま試してみますか?」
「危険だと思ったら、援護をお願いします」
「分かりました」
俺は鋼短剣を抜き、スチールスライムへ近付く。
硬い身体が大きく沈む。
次の瞬間、スチールスライムが俺へ向かって跳び上がった。
「今だ!」
横へ踏み込む。
スライムの羽靴が淡く輝き、身体が軽く押し出された。
今までよりも遠くまで移動したが、体勢は崩れない。
スチールスライムが目の前を通り過ぎる。
俺は地面を蹴り、柔らかくなった身体の下へ鋼短剣を突き出した。
刃先が魔核へ届く。
着地と同時に、スチールスライムは灰色の粒子となって消えた。
「一人で倒せましたね!」
「羽靴のおかげです」
「ぷるっ!」
シズクも自分のことのように喜んでいる。
装備が増えたことで、俺の動き方にも新しい選択肢が生まれた。
スライムシリーズは、これで三つ。
残りは二つ。
そして数日後には、希少区域『スライムの白銀城』が出現する。
白銀城にも、スライムシリーズの装備が眠っているかもしれない。
俺たちは隠し宝物庫の映像を協会へ報告するため、第五層をあとにした。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




