35話「第五層に現れる白銀城」
第四層の階層守護個体を倒した翌日。
探索者協会による映像確認が終わり、遺跡騎士の攻略動画を投稿できることになった。
題名は、
『【第四層攻略】加速する遺跡騎士___四つの制御刻印』
動画では、遺跡騎士が攻撃を学習することや、四つの制御刻印を破壊する順番を解説している。
公開から数時間で、コメント欄には多くの反応が寄せられた。
『遺跡騎士が速くなるの、攻撃を学習してたからなのか!』
『右肩、左膝、盾の裏、兜。覚えた』
『順番を間違えると全部復活するの怖すぎる』
『今まで盾と鎧を力任せに壊してたんだけど……』
『リンさんの攻略情報、装備の修理費まで減らしてくれるの助かる』
『ミサキさんの二刀流……じゃなくて、途中で持ち手を変える判断がすごい』
『また普通の鑑定では分からなそうな情報を出してる』
『リンさんのスキル、絶対にただの鑑定じゃないよね?』
俺のスキルを疑うコメントは、以前より増えている。
それでも、固定コメントにスキルの詳細は非公開と書いているため、無理に聞き出そうとする人は少なかった。
協会からは、遺跡騎士の攻略情報と映像提供に対して、五万円の情報提供料も支払われた。
最近、お金がポンポン入ってくるので少し怖い。
◇
「第五層は、第一層と同じでスライム種しか出現しません」
探索者ストアで装備を確認しながら、美咲さんが説明してくれる。
「初心者ダンジョンには、スライム種しか出ない階層が三つあるんです」
「三つですか?」
「第一層、第五層、そして最下層の第十層です」
初心者ダンジョンが全十層で構成されていることは知っている。
だが、最下層もスライム種だけの階層だとは知らなかった。
「第一層は、ほとんどが普通のスライムです。第五層から種類が増えて、第十層にはさらに危険なスライムが出現します」
「第五層にいるのは?」
「普通のスライム、レッドスライム、ポイズンスライム、スチールスライムの四種類です」
「第十層は?」
「その四種類に加えて、アシッドスライムとクリスタルスライムが出現します。特にアシッドスライムは装備まで溶かすので、今の一城さんは絶対に近付かないでください」
「まだ第十層へ行く予定はありませんよ」
「先に言っておかないと、一城さんは珍しいものを見つけたら近付いてしまいそうなので」
「否定できないのが困りますね」
美咲さんが小さく笑う。
店主さんは、俺が持っている解毒薬の使用期限を確認した。
「第五層でも毒への備えは必要だ。ポイズンスライムの毒液は、第二層の個体より強くなってる場合がある」
「同じ種類でも、階層によって強さが違うんですか?」
「ああ。深い階層にいる個体ほど、身体に蓄えてる魔力が多い。同じポイズンスライムだと思って油断するなよ」
「分かりました」
解毒薬と回復薬。
耐毒手袋。
予備の武器。
装備の確認を終える。
カウンターの上では、シズクが美咲さんの腕へ身体を巻き付けていた。
「シズクは今日もお留守番ですよ」
「ぷる……」
「第五層には、シズクより強いスライムがたくさんいるからね」
シズクは自分もスライムだと主張するように、少しだけ身体を大きく見せた。
「可愛いけど、駄目です」
美咲さんが指先で身体を押すと、シズクは元の丸い形へ戻った。
「帰ってきたら、風弾の練習をしようね」
シズクはしばらく動かなかったが、やがて諦めたように美咲さんの腕から離れた。
俺はシズクへ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『契約者との信頼を十分に深める:形成中』
『補足』
・契約者の判断を受け入れ、安全な場所で帰還を待つことを学習中
____________________◇
美咲さんと離れることを嫌がってはいる。
それでも、無理について来ようとはしなくなった。
少しずつだが、信頼は深まっているらしい。
「行ってくるね、シズク」
美咲さんが従魔登録証の青いバンドを優しく撫でる。
シズクが小さく跳ねた。
俺たちは店主さんとシズクに見送られ、第五層へ向かった。
◇
第三層と第四層の階層守護個体は、すでに他の探索者によって討伐されていた。
開放中の通路を使い、第五層まで進む。
俺がライセンスカードを読み取り機へかざし、続けて美咲さんもカードをかざす。
正式なパーティー情報が確認され、転移門が緑色に光った。
「いよいよ五層ですね」
「第五層の道は覚えています。私が先頭を歩きますね」
「お願いします」
転移門を抜ける。
目の前に広がったのは、第一層とよく似た洞窟だった。
しかし、通路の幅も天井の高さも、第一層より遥かに大きい。
岩壁には赤、紫、銀灰色の鉱石が埋め込まれ、それぞれが淡い光を放っている。
足元には浅い水路が流れ、遠くから何かが跳ねる音が聞こえていた。
「動画はどうしますか?」
「今日は安全記録だけにします。まずは探索へ集中したいので」
「分かりました」
ボディレコーダーを起動し、俺たちは第五層の奥へ進んだ。
最初に現れたのは、三体の普通のスライムだった。
第一層の個体より僅かに大きい。
こちらに気付くと、三方向へ分かれて近付いてくる。
「第五層のスライムは、第一層より魔力が多いです。でも、基本的な動きは変わりません」
美咲さんが剣を抜く。
俺は三体へ順番に『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『スライム』
『従魔適性:なし』
____________________◇
三体とも従魔にはできない。
「従魔適性はありません」
「もうシズクがいますけど、やっぱり確認してしまいますね」
「美咲さんの夢でしたからね」
「それに、適性がある子を見つけたら、襲ってくる前に保護できますから」
美咲さんは三体の動きを少し観察する。
全てが敵意を示し、一斉に飛び掛かってきた。
彼女は最初の一体を剣で切り裂き、身体を回転させながら二体目を仕留める。
三体目は俺へ向かってきた。
動きを見極め、鋼短剣を突き出す。
刃が魔核へ届き、スライムが粒子となって消えた。
「第一層のスライムより、少し硬かったです」
「それでも、落ち着いて倒せていますよ」
「美咲さんが二体を引き受けてくれましたから」
「役割分担です」
ドロップした素材を回収し、さらに奥へ進む。
◇
通路の角から、赤い光が近付いてきた。
現れたのは、炎のように揺れる赤い身体を持つスライムだった。
「レッドスライムです」
「第一層では、階層守護個体でしたよね?」
「はい。第五層では通常の魔物として出現します」
俺はレッドスライムへ意識を向ける。
◇____________________
『火スライム』
『危険度:D』
『属性:火』
『性格:好戦的』
『攻撃』
・火球
・高熱体当たり
『弱点』
・水属性
・火球を放った直後、体温が一時的に低下
____________________◇
「火球を放った直後に、身体の温度が下がります!」
「その時なら近付けますね!」
レッドスライムの身体が膨らむ。
美咲さんが横へ走り始める。
放たれた火球が岩壁へ衝突し、赤い火の粉を散らした。
火球を放った直後、レッドスライムの輝きが弱くなる。
美咲さんは一気に距離を詰め、剣で魔核を切り裂いた。
「以前より簡単に倒せました」
「第一層で戦った時より、美咲さんも強くなっているんですか?」
「もちろんです。探索を続けて、何も成長しないわけではありませんから」
五年間も探索を続けてきた美咲さんにとって、第五層の魔物は苦戦する相手ではないらしい。
さらに進んだところで、鈍い金属音が聞こえた。
通路の先に、銀灰色の丸い物体が転がっている。
「鉱石……ではありませんね」
「スチールスライムです」
美咲さんの声が少しだけ低くなる。
銀灰色の球体が動き、こちらへ正面を向けた。
表面は金属のように硬く、周囲の魔石灯を鈍く反射している。
「物理防御が高いんですよね?」
「はい。剣で倒す場合は、同じ場所へ何度も攻撃して鋼化を崩す必要があります。打撃武器や魔法があれば、もう少し楽に倒せます」
俺はスチールスライムを解析する。
◇____________________
『鋼鉄スライム』
『危険度:D+』
『性格:鈍重、警戒心が強い』
『攻撃』
・重量体当たり
・跳躍落下
『特性』
・鋼化
・物理攻撃を大幅に軽減
『隠し弱点』
・跳躍直前、身体下部の鋼化が解除される
・鋼化解除時間:約二秒
____________________◇
「跳ぶ直前だけ、身体の下側が柔らかくなります」
「そんな弱点があったんですか?」
「鋼化を解除しないと、身体を大きく縮められないみたいです」
「その二秒を狙えばいいんですね」
美咲さんが剣を構え、スチールスライムへ近付く。
スチールスライムは、その場から動かない。
美咲さんが剣で表面を叩くと、硬い金属音が響いた。
傷はほとんど付いていない。
「硬いですね」
「来ます!」
スチールスライムの身体が、ゆっくり沈み込む。
地面と接している部分だけ、金属の光沢が消えた。
「今です!」
美咲さんは真正面から近付かず、スチールスライムの側面へ滑り込む。
跳び上がる直前、柔らかくなった身体下部へ剣を突き込んだ。
刃先が内部の魔核へ届く。
スチールスライムは僅かに浮き上がったところで動きを止め、灰色の粒子となって消えた。
「一撃で倒せました」
「タイミングを外したら、押し潰されていました」
「それでも、次からは安全に倒せます」
地面には、魔核と鋼色の欠片が残されていた。
俺は鋼色の欠片へ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『鋼殻片』
『品質:B』
『希少度:C』
『用途:武器、防具、耐衝撃魔導具の材料』
『推定買取価格:8,500円』
____________________◇
「鋼殻片です。一つ八千五百円」
「スチールスライムは倒しにくい分、素材の価値も高いんです」
「第五層なら、通常探索だけでも収入が増えそうですね」
「その分、装備の修理や消耗品にもお金が掛かりますけどね」
鋼殻片を素材鞄へしまう。
俺たちは第五層の地図を確認し、別の通路へ向かった。
◇
探索を始めて二時間ほどが経った。
通常のスライム。
レッドスライム。
ポイズンスライム。
スチールスライム。
四種類全ての戦い方を確認できた。
「初日としては十分ですね」
「そろそろ戻りましょうか」
美咲さんの提案に頷き、来た道へ戻ろうとする。
その時だった。
行き止まりの岩壁が、僅かに白く輝いて見えた。
「……あれ?」
目を擦り、もう一度見る。
岩壁に埋め込まれた銀灰色の鉱石とは違う。
空気そのものが、白銀色に揺らいでいる。
「一城さん?」
「美咲さんには、あの壁が光って見えますか?」
「いいえ。普通の岩壁に見えます」
第一層で、黄金郷を見つけた時と同じだ。
俺は白銀色に揺らぐ場所へ、『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『希少区域』
『名称:スライムの白銀城』
『出現階層:第五層』
『出現まで:13日と6時間42分17秒』
____________________◇
「スライムの……白銀城」
表示された名称を読み上げる。
「希少区域ですか?」
「はい。出現するまで、あと十三日ほどあります」
「黄金郷とは違う場所なんですね」
「名前から考えると、スライムに関係する区域だと思います」
一層に出現したのら黄金色の草原が広がる、『スライムの黄金郷』。
今度は、『スライムの白銀城』。
どんな場所なのか、どんなスライムが待っているのか。
今の段階では、まだ分からない。
「協会へ報告しましょう」
「はい。出現時刻まで分かっているなら、調査の準備もできます」
「十三日あれば、俺たちも装備を整えられますね」
美咲さんが少し考え、口を開く。
「それまでに、シズクも少し成長できるでしょうか」
「無理に進化を急がせることはできません。でも、魔法の練習と信頼を深める時間にはできます」
「そうですね。シズク自身の速度で頑張ってもらいましょう」
出現まで、十三日。
その時間が何を意味するのかは分からない。
それでも、次の希少区域へ挑むための準備期間を与えられたように感じた。
俺たちは白銀色の揺らぎが現れる予定の場所を地図へ記録し、探索者協会へ報告するため、第五層を後にした。
読んでいただきありがとうございます。
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