34話「四つの制御刻印」
「美咲さん!」
遺跡騎士の長剣が、美咲さんへ振り下ろされる。
美咲さんは小型盾を斜めに構え、剣の軌道を逸らした。
金属同士が激しくぶつかり、火花が散る。
「っ……!」
完全には受け流せず、美咲さんの身体が後方へ押される。
遺跡騎士が踏み込み、二撃目を放とうとした。
だが、美咲さんはその場へ留まらない。
盾を構えたまま後方へ跳び、長剣の間合いから逃れる。
「大丈夫ですか!?」
「はい! 攻撃が速くなっていますけど、まだ対応できます!」
遺跡騎士は美咲さんを追わず、長剣と大盾を構え直した。
次の攻撃を警戒しているらしい。
「倒し方が分かったんですよね?」
「四つの制御刻印を、決められた順番で破壊する必要があります!」
「場所は?」
「右肩、左膝、盾の裏側、最後に兜です!」
「順番を間違えると?」
「刻印が全て再生して、動きがさらに速くなります!」
「絶対に間違えられませんね……」
美咲さんが剣を構える。
同じ攻撃を繰り返せば、遺跡騎士に学習されてしまう。
さらに、四つの刻印を決められた順番で破壊しなければならない。
通常の方法で盾を壊し、鎧を削り切るよりも短時間で倒せる可能性はある。
しかし、一つでも順番を間違えれば、状況は一気に悪化する。
「まずは右肩ですね」
「はい!」
美咲さんが先に動いた。
遺跡騎士へ真っ直ぐ接近する。
先ほどまでの美咲さんは、相手の攻撃を待ってから反撃していた。
今度は自分から剣を振り上げ、兜へ向かって斬り付ける。
遺跡騎士が大盾で剣を受け止めた。
美咲さんは力を込めず、すぐに剣を引く。
攻撃ではなく、盾を上げさせるための牽制だったらしい。
大盾を持ち上げたことで、遺跡騎士の右肩が露出する。
「そこです!」
美咲さんが身体を回転させ、反対側から剣を振るった。
刃が右肩へ刻まれた小さな紋様を捉える。
青白い光が弾けた。
◇____________________
『第一制御刻印:破壊』
『残り制御刻印:三』
____________________◇
「成功です!」
「次は左膝ですね!」
遺跡騎士の兜の奥で、青白い光が強くなる。
右肩の刻印を破壊されたことで、俺たちを明確な脅威と判断したのかもしれない。
大盾を前へ構え、美咲さんへ突進する。
先ほどより速い。
美咲さんは正面から受けず、遺跡騎士の右側へ回避した。
左膝が一瞬だけ見える。
剣を振ろうとした美咲さんへ、遺跡騎士が長剣を薙ぎ払う。
「っ!」
美咲さんは攻撃を中断し、身体を反らした。
長剣の切っ先が、胸元の防具を僅かに掠める。
「美咲さん!」
「大丈夫です! 今の動きも覚えられてます!」
遺跡騎士は美咲さんの回避方向まで予測し始めている。
同じ避け方は通用しない。
美咲さんは剣を右手から左手へ持ち替えた。
「左手でも使えるんですか?」
「右手ほど上手くはありませんけど!」
再び遺跡騎士が突進する。
美咲さんは今度も右へ避けるように身体を傾けた。
遺跡騎士の盾が、逃げ道を塞ぐために右へ動く。
だが、それは美咲さんのフェイントだった。
地面を蹴り、予測とは反対の左側へ回り込む。
「今度こそ!」
左手に持った剣を、遺跡騎士の左膝へ突き立てた。
制御刻印が砕け、青い光が散る。
◇____________________
『第二制御刻印:破壊』
『残り制御刻印:二』
____________________◇
「二つ目です!」
「次は盾の裏側……どうやって狙えばいいですか!?」
遺跡騎士が美咲さんから距離を取る。
大盾の裏側にある刻印は、正面からでは見えない。
背後へ回り込んでも、遺跡騎士が盾の向きを変えれば攻撃できないだろう。
俺は大盾へ『解析鑑定』を集中させた。
◇____________________
『遺跡騎士の大盾』
『制御刻印:盾の裏側中央』
『刻印露出条件』
・盾突進が障害物へ衝突した場合、姿勢制御のため約2秒間、盾を身体から離す
『注意』
・同じ回避方法は予測される可能性が高い
____________________◇
「盾の突進を、石像か壁へぶつけてください!」
「その隙に裏側を狙うんですね!」
「はい。ただ、さっきと同じ避け方はできません!」
「分かりました!」
美咲さんが部屋の側面へ移動する。
その背後には、半壊した石像が立っていた。
遺跡騎士が美咲さんへ身体を向ける。
大盾を正面に構え、再び突進を開始した。
美咲さんは石像の前から動かない。
遺跡騎士との距離が一気に縮まる。
「美咲さん!」
「まだです!」
五メートル。
三メートル。
あと一歩で盾が届くところまで引き付け、美咲さんはその場で地面へ伏せた。
遺跡騎士の大盾が、美咲さんの頭上を通過する。
勢いを止められず、背後の石像へ激突した。
轟音と共に石像が砕ける。
遺跡騎士が体勢を立て直すため、大盾を身体から離した。
「今です!」
地面へ伏せていた美咲さんが、遺跡騎士の足元から立ち上がる。
盾の裏側に浮かぶ制御刻印へ、剣を突き出した。
三つ目の青い光が砕け散る。
◇____________________
『第三制御刻印:破壊』
『残り制御刻印:一』
____________________◇
大盾へ亀裂が走る。
遺跡騎士が腕を振ると、盾は床へ落ち、粒子となって消えていった。
「残りは兜です!」
だが、三つの制御刻印を失った遺跡騎士は、停止しなかった。
兜の奥にある光が赤く染まる。
全身の鎧から、強い魔力が放たれた。
◇____________________
『遺跡騎士』
『緊急戦闘状態へ移行』
『行動速度:大幅上昇』
____________________◇
「美咲さん、速くなります!」
俺が言い終わるより早く、遺跡騎士が動いた。
姿が消えたように見えるほどの速さで、美咲さんとの距離を詰める。
長剣が振り下ろされる。
美咲さんは盾で受け止めたが、衝撃で膝をついた。
「くっ……!」
遺跡騎士が長剣を引き、横薙ぎへ繋げる。
美咲さんは床を転がって攻撃を避ける。
さらに突き。
斬り上げ。
振り下ろし。
遺跡騎士は休むことなく、連続攻撃を放つ。
美咲さんは防御と回避に追われ、兜へ攻撃する隙がない。
「このままでは……」
俺は遺跡騎士の動きを解析する。
速い。
だが、無作為に剣を振っているわけではない。
長剣を振り下ろしたあと、横薙ぎ。
横薙ぎから突き。
突きから斬り上げ。
これまで美咲さんから学習した剣技を、一定の順番で組み合わせている。
◇____________________
『緊急戦闘連携』
一、振り下ろし
二、横薙ぎ
三、突き
四、斬り上げ
五、回転斬り
『隙』
・五撃目の回転斬り終了後、姿勢制御に約1秒を必要とする
____________________◇
「五回目の攻撃後に隙ができます!」
「分かりました!」
遺跡騎士が長剣を振り下ろす。
「一!」
美咲さんが横へ避ける。
続けて横薙ぎ。
「二!」
小型盾で軌道を逸らす。
三撃目の突き。
「三!」
剣の側面で受け流す。
四撃目の斬り上げ。
「四!」
美咲さんが後方へ跳ぶ。
遺跡騎士が身体を回転させた。
五撃目。
長剣による回転斬りが、美咲さんの胸元へ迫る。
美咲さんは地面を蹴り、遺跡騎士の頭上へ跳んだ。
回転斬りが空を切る。
「今です!」
遺跡騎士が姿勢を崩す。
美咲さんは落下する勢いを乗せ、兜へ剣を振り下ろした。
「これで……最後です!」
刃が兜の制御刻印を切り裂いた。
四つ目の青い光が砕け散る。
◇____________________
『第四制御刻印:破壊』
『全制御刻印の停止を確認』
____________________◇
遺跡騎士の動きが止まった。
長剣が床へ落ちる。
黒い鎧の胸部が左右へ開き、内部から青白い魔核が露出した。
「美咲さん!」
「はい!」
美咲さんが剣を突き出す。
切っ先が魔核を貫いた。
遺跡騎士の全身から光が溢れる。
黒い鎧が粒子へ変わり、謁見室の中へ散っていった。
「討伐……完了です」
美咲さんが息を吐き、その場へ座り込む。
俺は急いで駆け寄った。
「怪我はありませんか?」
「防具を少し掠めただけです。それより、一城さんは?」
「俺は入口から動いていないので大丈夫です」
「良かった……」
美咲さんは乱れた呼吸を整える。
「以前戦った時より短時間でした。でも、最後の速さは今までで一番でした」
「制御刻印を壊した影響でしょうか」
「それでも、攻撃の順番が分からなかったら危なかったと思います」
美咲さんが俺へ笑顔を向ける。
「今回も、二人で倒せましたね」
「はい」
遺跡騎士が消えた場所へ、ドロップ品が残されている。
良質な魔核と、黒銀色の金属片が二つ。
◇____________________
『良質な魔核』
『品質:A』
『用途:魔力伝導素材』
『推定買取価格:3,000円』
_____________________
『古代魔導鉄』
『品質:A』
『希少度:C』
『用途:魔導武器、魔導防具、魔導構造体の材料』
『推定買取価格:18,000円』
____________________◇
「古代魔導鉄が二つです」
「盾や剣は出ませんでしたね」
「それでも、十分な収穫です」
素材を回収すると、謁見室の奥から低い音が響いた。
石造りの壁が左右へ分かれ、その先に下へ続く階段が現れる。
◇____________________
『第四層・階層守護個体討伐』
『第五層への通路が開放されました』
____________________◇
「第五層ですね」
「はい。少しだけ確認していきますか?」
「お願いします」
俺たちは階段を下りる。
境界を越えた先に広がっていたのは、第一層とよく似た洞窟だった。
だが、通路は第一層より遥かに広い。
壁には赤や紫、銀灰色の鉱石が埋め込まれ、それぞれが淡い光を放っている。
「第五層は、第一層と同じでスライム種しか出現しません」
「スライムだけなんですか?」
「はい。ただし、種類が増えています」
通路の奥で、複数の丸い身体が跳ねる。
青色。
赤色。
毒々しい紫色。
そして、鈍い鋼色。
「通常のスライム、レッドスライム、ポイズンスライム。それから、スチールスライムです」
「全て同じ場所に出現するんですね」
「はい。特にスチールスライムは、物理攻撃が通りにくいので注意が必要です」
鈍い鋼色のスライムが、重そうな身体を揺らす。
今日は遺跡騎士との戦闘を終えたばかりだ。
これ以上進むのは危険だろう。
「探索は次回にしましょう」
「そうですね。シズクも待っていますから」
俺たちは第五層の景色だけを確認し、来た道を引き返す。
次の探索場所は、複数のスライム種が生息する第五層。
俺の知らないスライムの能力や素材が、そこには待っていた。
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