33話「加速する遺跡騎士」
第四層の探索を終えた俺たちは、そのまま探索者協会の調査課を訪れていた。
「石像兵の真の停止方法に、魔導槍罠の解除方法。それから、第四層全体を表示する古代階層図ですか」
高橋さんが、タブレットへ送った映像を確認する。
「一度の探索で、よくこれだけ見つけましたね」
「第四層は、調べられそうな物が多かったので……」
「それでも、これまで長い間発見されなかった情報ばかりです」
高橋さんは、石像兵との戦闘映像を再生した。
美咲さんが石像兵の脚の関節を破壊し、背後へ回る。
そのまま首の付け根にある制御刻印を剣で貫くと、石像兵は一撃で活動を停止した。
「これまでの攻略情報では、胸部の赤い魔石を破壊する方法が推奨されていました」
「美咲さんも、そう教わったみたいです」
「実際、胸部を破壊すれば石像兵の動きは鈍くなります。誰も、それが本当の弱点を隠すための囮だとは考えなかったのでしょう」
続いて、魔導槍罠を解除した場面が再生される。
「こちらの罠は、協会でも存在を把握していました。ただし、解除方法は未確認でした」
「右側の壁にある石を押せば、一日ほど停止します」
「映像でも確認できますね。現地には注意表示を設置し、探索者へ解除方法を公開します」
最後に、古代管理室の映像へ切り替わった。
四つの紋章へ正しい順番で触れ、隠し扉を開く。
良質な魔核を一つ消費して階層図を起動すると、第四層の構造が石板へ浮かび上がった。
「この管理室については、第四層の記録にありません」
「美咲さんも、扉の紋章は見たことがあったそうです」
「はい。でも、ただの装飾だと思っていました」
美咲さんが答える。
「水、風、月、太陽という順番には、何か意味があるのでしょうか?」
「現時点では分かりません。古代文字や当時の暦に関係している可能性がありますので、専門の調査員へ映像を回します」
高橋さんは、階層図へ表示されていた細い通路を拡大する。
「この近道も、協会で安全性を確認します。階層守護部屋までの移動時間を半分近く短縮できるなら、大きな発見です」
「すぐに使うのはやめた方がいいですか?」
「調査が終わるまでお待ちください。明日中には確認できると思います」
「分かりました」
高橋さんが端末を操作する。
「今回の情報提供料は、合計十二万円となります」
「十二万円……」
「石像兵の停止方法、罠の解除方法、古代管理室と階層図。どれも探索者の安全や攻略効率に関わる情報です」
「ありがとうございます」
「パーティー口座へ振り込ませていただきます」
このところは、素材の売却額よりも、階層守護個体を含む魔物の攻略情報や、未知の場所を記録した映像に付く報酬の方が大きくなることさえある。
店主さんから「映像は資産になる」と教えられた時は、ここまでの価値を持つとは思っていなかった。
今回提示された報酬額を前にして、俺はその言葉の意味を改めて実感した。
「動画についてですが、石像兵の停止方法は公開して構いません。魔導槍罠については、注意表示を設置してからお願いします」
「古代管理室は?」
「こちらは、もう少しお待ちください。探索者が一斉に押し寄せれば、混乱が起きる可能性があります」
「分かりました」
俺たちは高橋さんへ礼を伝え、調査課をあとにした。
◇
その日の夜。
協会から公開許可を得た石像兵の攻略動画を投稿した。
『【第四層攻略】石像兵の胸の魔石は"本当の弱点"ではありませんでした』
少し目を引く題名にしたこともあり、投稿直後から再生回数が伸びていく。
『胸の魔石が囮って本当かよ!』
『今まで必死に胸を殴ってたんだけど……』
『首の後ろに制御刻印なんてあったのか』
『装備の消耗が全然違いそう』
『第四層を探索している現役だけど、これは本当に助かる』
『風鎧蜥蜴に続いて、また未確認の弱点を発見してる』
『リンの鑑定、普通の鑑定じゃなくない?』
『スキル非公開って固定コメントに書いてある。詮索するのはやめよう』
『でも気になるものは気になる』
公開から一時間ほどで、チャンネル登録者数が一万人を超えた。
「一万人……」
初めて投稿した動画を見てくれたのは三十五人。
登録してくれたのは、僅か七人だった。
その数字が、今では一万人を超えている。
嬉しい。
だが、それ以上に背筋が伸びる思いだった。
俺が公開した情報を信じ、実際の探索で試す人もいる。
これからは、ただ見つけた物を紹介するだけではいけない。公開する情報の正確さにも、責任を持たなければならない。
だからこそ、協会へ報告し、安全性を確認してもらってから動画にする。
今まで以上に気を付けようと考えていると、スマートフォンの画面へ新しいコメントが表示された。
『第四層で石像兵に苦戦しています。今までは胸の魔石ばかり狙っていました。次の探索では首の刻印を狙ってみます。詳しい情報を公開してくれて、ありがとうございます!』
「……こちらこそ、ありがとう」
誰にも聞こえないと分かっていながら、思わず呟いた。
◇
二日後。
探索者協会から、古代階層図に表示されていた近道の安全確認が終わったと連絡があった。
近道に作動中の罠や魔物はおらず、利用しても問題ないらしい。
俺と美咲さんは装備を整え、再び第四層へ向かうことにした。
「今日は、遺跡騎士へ挑戦ですね」
「はい。やはり、第三層の階層守護個体より強いんですよね?」
「危険度はC+です。私が以前戦った時は、四人パーティーでした」
探索者ストアで、美咲さんが装備を確認する。
「二人で挑んでも大丈夫でしょうか?」
「以前戦った時から、私も経験を積んでいます。倒せると断言はできませんが、一城さんが解析を終えるまでなら、一人でも抑えられると思います」
「解析で安全な攻略方法が見つからなかったら、無理はしないでください」
「はい。その場合は守りに徹して、離脱する機会を作ります」
美咲さんは剣を鞘から少し抜き、刃に異常がないことを確認する。
「遺跡騎士は剣と盾を使います。最初はそれほど速くありませんが、攻撃を受けるほど動きが速くなるんです」
「攻撃を受けるほど?」
「理由は分かっていません。長期戦になるほど不利なので、盾を壊してから一気に倒すのが一般的です」
店主さんも、棚から取り出した回復薬を美咲さんへ渡す。
「念のため、持っていけ」
「ありがとう、お父さん」
「兄ちゃんは無理に近付くなよ。遺跡騎士は指示を出している奴を狙うこともある」
「分かりました」
カウンターの上では、シズクが俺たちの話を聞いていた。
「シズクは、今日もお留守番ですよ」
「ぷる……」
以前より聞き分けるようになったのか、ポーチへ隠れることはなかった。
その代わり、美咲さんの手首へ身体を巻き付ける。
「大丈夫。必ず帰ってくるからね」
美咲さんが優しく撫でると、シズクはゆっくり腕から離れた。
その様子を見て、『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『契約者との信頼を十分に深める:形成中』
『補足』
・契約者の帰還を信じ、待つことを学習中
____________________◇
美咲さんと離れて待つことも、信頼を深めることへ繋がっているらしい。
「行ってくるね、シズク」
シズクが小さく跳ねる。
俺たちは店主さんとシズクに見送られ、第四層へ向かった。
◇
古代階層図に表示されていた近道は、崩れた建物の裏側にあった。
協会が設置した目印を頼りに壁の一部を押すと、地下へ続く階段が現れる。
通路内に魔物の姿はなく、罠も解除されていた。
「本当に短いですね」
二十分ほど歩くと、階層守護部屋の近くへ出た。
「以前は、ここまで一時間近く掛かりました」
「探索者の負担も減りそうですね」
「はい。帰り道にも使えますから、かなり助かると思います」
通路の先に、巨大な両開きの扉が見える。
扉の表面には、剣と盾を構えた騎士の姿が刻まれていた。
◇____________________
『第四層・階層守護部屋』
『守護個体:活動中』
『挑戦可能人数:六名』
____________________◇
「この扉も、以前来た時と変わっていません」
「遺跡騎士は、一体だけですか?」
「はい。ただし、動きが速くなる前に倒せないと危険です」
「まずは俺が解析します。通常の攻略方法より安全な方法が見つかるかもしれません」
「お願いします」
俺はボディレコーダーを起動する。
美咲さんが剣を抜き、左腕へ小型の盾を装着した。
「準備はいいですか?」
「はい」
扉の横にある魔石へ触れる。
重い音を響かせながら、両開きの扉がゆっくりと開いていく。
守護部屋は、古い謁見室のような場所だった。
赤い絨毯が真っ直ぐ奥へ伸び、その両側には崩れた石像が並んでいる。
部屋の最奥。
石造りの椅子へ、黒い全身鎧を身に着けた騎士が腰掛けていた。
右手には長剣。
左手には、全身を隠せるほど大きな盾。
兜の奥には人の顔がなく、青白い光だけが灯っている。
俺たちが室内へ入ると、背後の扉が閉じた。
遺跡騎士が立ち上がる。
鎧同士が擦れ、硬い音が部屋へ響いた。
俺はすぐに『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『遺跡騎士』
『階層守護個体』
『分類:魔導構造体』
『危険度:C+』
『装備』
・遺跡騎士の長剣
・遺跡騎士の大盾
・古代魔導鎧
『攻撃』
・斬撃
・連続斬り
・盾撃
・突進
『ドロップ品』
・良質な魔核(100%)
・古代魔導鉄(40%)
・遺跡騎士の盾(5%)
・遺跡騎士の剣(3%)
『特性』
・戦闘学習
・行動加速
____________________◇
「戦闘学習……」
「来ます!」
遺跡騎士が絨毯を蹴る。
大きな盾を前へ構え、美咲さんへ向かって突進した。
美咲さんは正面から受けず、横へ回り込む。
すれ違いざまに、遺跡騎士の背中へ剣を振り下ろした。
金属音が響き、黒い鎧へ浅い傷が刻まれる。
遺跡騎士はすぐに反転し、長剣を横薙ぎに振るった。
美咲さんが小盾で受け流す。
「まだ、動きは遅いです!」
遺跡騎士が再び剣を振るう。
一度目よりも、僅かに速い。
美咲さんもそれを理解しているのか、深追いせず距離を取った。
俺は『戦闘学習』へ意識を集中させる。
◇____________________
『戦闘学習』
『効果』
・受けた攻撃を記録
・同一の攻撃に対する予測精度と防御力が上昇
・戦闘時間に応じて行動速度が上昇
『現在の学習対象』
・佐伯美咲の剣技
『注意』
・同じ攻撃を繰り返すほど、学習速度が上昇
____________________◇
「同じ攻撃を繰り返さないでください! 美咲さんの剣技を覚えています!」
「分かりました!」
美咲さんが剣の構えを変える。
先ほどは右から斬り付けた。
今度は身体を低くし、遺跡騎士の脚を狙う。
だが、遺跡騎士は大盾を下げ、その攻撃も防いだ。
さらに動きが速くなる。
「これが、以前苦戦した原因……」
美咲さんが後方へ跳ぶ。
遺跡騎士が盾を構え、そのまま追撃する。
俺は鎧の内部へ意識を集中させた。
胸部、兜、四肢。
どこにも、通常の魔導構造体にあるはずの制御核が見当たらない。
「核がない……?」
さらに深く解析する。
その瞬間、遺跡騎士の全身に四つの光が浮かび上がった。
右肩。
左膝。
盾の裏側。
そして兜。
四つの光は一瞬だけ、決まった順番で明滅する。
◇____________________
『制御刻印:四か所』
『真の活動停止条件』
・四つの制御刻印を、起動順に破壊する
『注意』
・順番を誤った場合、破壊された刻印が全て再生
・行動速度が一段階上昇
____________________◇
「弱点が四つ……」
しかも、破壊する順番を間違えれば、遺跡騎士はさらに速くなる。
俺は先ほど刻印が光った順番を思い返す。
右肩、左膝、盾の裏側、最後に兜。
「美咲さん! 倒し方が分かりました!」
だが、その時には遺跡騎士の剣が、すでに美咲さんへ迫っていた。
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