32話「第四層と古代階層図」
第三層の階層守護個体を討伐した翌日。
俺たちは協会の確認を受け、風鎧蜥蜴との戦闘動画を投稿していた。
動画の題名は、
『【第三層攻略】風鎧蜥蜴の風障壁を解除する方法』
協会に確認された情報であることも、説明欄へ記載している。
投稿から半日ほどで、再生回数は四万回を超えていた。
『螺旋風砲の直後に風嚢が露出してたのか!』
『何度も倒してるけど、障壁の魔力が切れるまで殴ってたわ』
『攻略時間が半分以下になりそう』
『風嚢のドロップを諦めれば、安全に倒せるってことか』
『ミサキさんの動きが普通に上手い』
『探索歴一か月のリンさん、どうして五年探索してるミサキさんも知らない弱点が分かるんだ?』
『そろそろリンさんの鑑定スキルが気になってきた』
「やっぱり、一城さんのスキルについて尋ねる人が増えてきましたね」
探索者ストアの休憩スペースで、美咲さんがコメント欄を眺めている。
「未発見の情報を何度も出していますからね」
「何か返信しますか?」
「詳しいスキルについては非公開とだけ書いておきましょう」
俺たちは相談し、固定コメントを追加した。
『攻略情報は探索者協会の確認を受けています。安全上の理由により、リン個人のスキルに関する詳細は非公開とさせていただきます』
「これで大丈夫でしょうか?」
「はい。無理に誤魔化すより、非公開と伝えた方がいいと思います」
「そうですね」
嘘を重ねれば、いつか内容に矛盾が生じるかもしれない。
スキルの詳細は明かさない。
ただし、発見した情報については協会の確認を受ける。
今後も、その方針で動画投稿を続けることにした。
◇
「第四層は遺跡型だ。足元だけじゃなく、壁や天井にも気を付けろよ」
店主さんが俺の探索者ベルトを確認しながら言う。
「魔物以外にも危険があるんですか?」
「ああ。侵入者を感知して矢や槍を放つ魔導罠が残ってる。昔より解除された場所は増えたが、ダンジョンだからな。時間が経つと復活する罠もある」
「第四層で怪我をする初心者は、罠が原因のことも多いんです」
美咲さんが補足する。
「私が先頭を歩きますが、一城さんも気になる場所があったら、すぐに教えてください」
「分かりました」
俺は店主さんから、遺跡探索用の携帯灯と印付け用の魔導チョークを購入した。
魔導チョークで描いた印は一日ほど消えず、暗い場所では淡く光るらしい。
「地図だけに頼ると、似たような建物で迷いますからね」
美咲さんが魔導チョークを探索者ベルトへしまう。
「以前来た時も使ったんですか?」
「はい。第四層へ慣れるまでは、何度も助けられました」
美咲さんのキャリーポーチから、シズクが顔を出す。
今日も一緒に行くつもりらしい。
「シズクはお留守番ですよ」
「ぷるっ」
「第四層はまだ危ないからね」
美咲さんが抱き上げようとするが、シズクはポーチの奥へ引っ込んだ。
「嫌だと言ってるみたいですね」
「そんな……」
美咲さんが困った表情になる。
店主さんは苦笑しながら、従魔用の栄養ゼリーを一つ取り出した。
「シズク。こっちに来たら、これをやるぞ」
シズクがポーチから顔を出す。
「現金ですね」
「食いしん坊さんだから……」
店主さんがゼリーを左右へ動かすと、シズクの身体も同じ方向へ揺れる。
やがて誘惑に負け、美咲さんのポーチから店主さんの手へ飛び移った。
「シズク。帰ってきたら魔法の練習をしようね」
美咲さんが指先を差し出す。
シズクはその指へ何度か触れると、店主さんの肩へ上った。
「気を付けて行ってこい」
「お願いします」
「シズクも、お父さんの言うことを聞くんだよ」
美咲さんは名残惜しそうにシズクを撫で、俺と一緒にストアを後にした。
◇
第三層の階層守護個体は、すでに別のパーティーによって倒されていた。
開放されている通路を通り、第四層へ下りる。
境界を越えると、空気が一変した。
目の前に広がるのは、青白い魔石灯に照らされた古い街並み。
石造りの建物が左右へ並び、その間を幅の広い街路が走っている。
建物の壁には蔦が絡まり、窓や扉の大半は崩れていた。
天井は高く、暗闇の中へ消えている。
「何度見ても、ダンジョンの中とは思えませんね」
「昔の街が、そのまま取り込まれたみたいです」
「実際に使われていた街なんでしょうか?」
「まだ分かっていません。ダンジョンが過去の街を再現しているという説もありますし、異世界に存在した街だという説もあります」
美咲さんは慣れた様子で、街路の右側を歩き始める。
「道の中央は避けるんですか?」
「はい。中央には魔導罠が多いんです。壁際にもありますが、こちらの方が見つけやすいので」
「なるほど」
俺はボディレコーダーの録画を開始した。
「こんにちは。リンです」
「探索者のミサキです」
「今回は、初心者ダンジョン第四層を探索します」
「第四層は遺跡型の階層です。魔物だけでなく、遺跡に残された罠にも注意して進みます」
「それでは、行ってきます」
短い挨拶を済ませ、探索を始める。
美咲さんの経験を頼りにしながら、俺も『解析鑑定』で周囲を確認していく。
第四層には、調べられる物が多かった。
崩れた建物。
壁へ刻まれた文字。
錆びた魔導具。
大半はすでに機能を失っているが、時々まだ魔力が残っている物もあった。
「リンさん。前方に魔物がいます」
美咲さんが足を止め、声を潜める。
街路の先に、人の形をした石像が立っていた。
全身を石の鎧で覆い、両手には長い槍を持っている。
ただの石像にしか見えない。
しかし、その胸元には赤い光が灯っていた。
「石像兵です。一定の距離まで近付くと動き出します」
「普段は、どうやって倒すんですか?」
「最初に脚の関節を壊します。動けなくなったところで、胸元の魔石を何度も攻撃するのが一般的です」
俺は石像兵へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『石像兵』
『魔導構造体』
『危険度:C』
『性格:侵入者を自動的に排除』
『攻撃』
・石槍
・突進
・打撃
『ドロップ品』
・良質な魔核(100%)
・石甲片(30%)
・古代魔導歯車(3%)
『弱点』
・両脚の関節
・背面、首の付け根にある制御刻印
『注意』
・胸部の赤い魔石は囮
・胸部を破壊しても活動停止しない
____________________◇
「胸の魔石は囮みたいです」
「えっ?」
「本当の弱点は、首の後ろにある制御刻印です」
「胸を破壊すれば動きが鈍くなるので、ずっと弱点だと思ってました」
「制御刻印を攻撃できれば、一撃で停止させられるかもしれません」
「試してみましょう」
美咲さんが剣を抜く。
石像兵へ近付くと、胸元の赤い魔石が強く光った。
全身から石の破片を落としながら、ゆっくりと動き始める。
石像兵が槍を構えた。
「来ます!」
鋭い突きが放たれる。
美咲さんは身体を横へずらし、石槍を避けた。
そのまま懐へ入り、脚の関節へ剣を振るう。
硬い石へ刃が食い込み、右脚の一部を砕いた。
石像兵が体勢を崩す。
「背中へ回ります!」
美咲さんは倒れかけた石像兵の側面を抜け、その背後へ移動した。
「首の付け根です! 小さな四角い刻印があります!」
「見つけました!」
美咲さんが剣を突き出す。
切っ先が首の付け根へ刻まれた紋様を貫いた。
青白い光が走り、石像兵の動きが止まる。
振り上げていた槍を落とし、膝から崩れ落ちた。
石の身体が粒子となって消えていく。
「本当に一撃で停止しました」
「胸の魔石を壊すより、装備の消耗も少なそうですね」
「石像兵は数が多いので、この弱点は助かります」
地面へ落ちた良質な魔核を拾い上げる。
今回は、他の素材は出なかった。
「今まで知られていなかったんでしょうか?」
「少なくとも、私は聞いたことがありません。攻略情報にも、脚と胸を狙うように書かれていました」
「あとで協会へ報告しましょう」
「はい。動画も、協会の確認を受けてから投稿しましょう」
映像には制御刻印を攻撃する瞬間も残っている。
第四層へ挑む探索者にとって、役立つ情報になるだろう。
◇
石像兵を倒し、さらに街路を進む。
美咲さんが先頭を歩き、俺は少し後ろから周囲を調べる。
交差路へ差し掛かったところで、足元に違和感を覚えた。
「止まってください」
「罠ですか?」
美咲さんがすぐに足を止める。
俺は目の前の石畳へ『解析鑑定』を発動させた。
◇____________________
『魔導槍罠』
『状態:作動可能』
『作動条件』
・中央の石板へ15キログラム以上の荷重
『攻撃範囲』
・前方3メートル
・左右の壁から石槍を射出
『解除方法』
・右側の壁、下から3番目の石を押す
____________________◇
「中央の石板を踏むと、左右の壁から槍が出ます」
「罠があることは知っていましたが、解除方法までは分かりませんでした」
美咲さんが右側の壁へ近付く。
「下から三番目の石ですね?」
「はい。ただ、押す前に安全性を確認します」
改めて解除部分へ意識を向ける。
◇____________________
『解除操作時の危険:なし』
____________________◇
「大丈夫です。押してください」
美咲さんが石を押し込む。
壁の内部から、何かが噛み合うような音が響いた。
罠の表示が変化する。
◇____________________
『魔導槍罠』
『状態:解除済み』
『再起動まで:23時間59分』
____________________◇
「解除できました」
「これなら、あとから通る探索者も一日は安全ですね」
「罠が復活する前に、協会へ場所を報告しておきましょう」
俺たちは地図へ罠の位置を書き加え、街路を渡った。
◇
それから一時間ほど探索を続けた。
石像兵をさらに二体倒し、壁に生えていた魔力苔を採取する。
美咲さんの案内があるため、迷うことはなかった。
それでも『解析鑑定』を維持しながら歩いていると、これまで使っていた道から少し外れた場所で反応があった。
「この壁……」
崩れた建物の脇。
壁面には、太陽と月、風、水を表す四つの紋章が刻まれている。
「美咲さん。この紋章に見覚えはありますか?」
「あります。でも、調べても何も起きなかったので、ただの装飾だと思っていました」
俺が『解析鑑定』を発動させると、新たな情報が表示された。
◇____________________
『古代管理室・封鎖扉』
『状態:閉鎖中』
『開放条件』
・四つの紋章へ正しい順番で触れる
『順番』
一、水
二、風
三、月
四、太陽
____________________◇
「ここにも隠し部屋があります」
「第四層にも……」
「水、風、月、太陽の順に触れれば開くみたいです」
「間違えた場合は?」
「確認します」
紋章と扉全体へ意識を集中させる。
◇____________________
『誤った順番で触れた場合』
・操作状態が初期化
・攻撃性の罠は作動しない
____________________◇
「間違えても、最初に戻るだけです」
「それなら試してみましょう」
美咲さんが順番に紋章へ触れる。
水。
風。
月。
太陽。
最後の紋章へ触れた瞬間、四つ全てが青白く輝いた。
壁の一部が低い音を立て、ゆっくりと奥へ沈んでいく。
その先に、狭い通路が現れた。
「本当に開きましたね」
「中の安全を確認します」
入口へ『解析鑑定』を発動させる。
◇____________________
『古代管理室』
『状態:安全』
『魔物:なし』
『作動中の罠:なし』
____________________◇
「安全です」
「入りましょう」
通路の奥には、小さな石造りの部屋があった。
壁一面へ複雑な線が刻まれ、部屋の中央には大きな石板が設置されている。
石板へ近付く。
表面には第四層とよく似た街路が描かれていた。
「地図でしょうか?」
「でも、光っていませんね」
俺は石板を調べる。
◇____________________
『古代階層図』
『状態:停止中』
『用途:第四層の構造を表示する』
『起動条件』
・中央の窪みへ、品質B以上の魔核を一つ設置
『起動時間』
・60分
____________________◇
「品質B以上の魔核を使えば、起動できるみたいです」
「先ほど石像兵から手に入れた良質な魔核があります」
「一つ使ってもいいですか?」
「もちろんです。パーティーで手に入れた素材ですから」
素材鞄から良質な魔核を一つ取り出す。
石板中央の窪みへ載せると、魔核がゆっくり沈み込んだ。
壁や床を青白い光が走る。
停止していた石板へ、第四層の地図が鮮明に浮かび上がった。
「すごい……」
現在地。
街路。
石像兵の巡回地点。
作動中の罠。
そして、これまでの地図には記載されていなかった細い通路まで表示されている。
「この通路を使えば、階層守護部屋までかなり短縮できます」
美咲さんが地図の一部を指差す。
「今まで使っていた道の半分くらいです」
「隠された通路みたいですね」
地図の奥には、他より大きな赤い光が浮かんでいる。
そこへ意識を向ける。
◇____________________
『第四層・階層守護部屋』
『守護個体』
『遺跡騎士』
『現在の状態:活動中』
____________________◇
「第四層の階層守護個体まで表示されています」
「遺跡騎士ですね。私も以前、パーティーで討伐しました」
「第三層の風鎧蜥蜴より強いですか?」
「はい。剣と盾を使うので、動きも人間に近いんです。それに、攻撃を受けるほど動きが速くなる特性があります」
「厄介そうですね」
「ですが、一城さんなら別の攻略方法を見つけられるかもしれません」
俺たちは起動した階層図をボディレコーダーへ記録し、地図へ新しい道を書き写していく。
第四層で見つけた、古代管理室。
石像兵の本当の弱点。
魔導罠の解除方法。
探索を始めて一日目だというのに、多くの未確認情報を発見していた。
まずは協会へ報告する。
そのあと、階層図が示した近道を使い、遺跡騎士へ挑む。
第五層は、もうすぐそこまで近付いていた。
読んでいただきありがとうございます。
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