20話「初めてのコラボ動画」
「お父さん、リンさんの正体を知ってたの!?」
探索者ストアに、美咲さんの声が響き渡った。
試作型魔導検索眼鏡の実地検証を終えた翌日。
俺たちは撮影した映像を編集するため、店主のいる探索者ストアへ集まっていた。
そこで美咲さんが、店主も俺の正体を知っていることに気付いたのだ。
「まあ、知ってたな」
「いつから?」
「最初の動画を編集した時からだ」
「最初からじゃない!」
「そりゃそうだ。俺が編集を教えたんだからな」
店主は悪びれる様子もなく笑っている。
「だったら、どうして教えてくれなかったの?」
「本人が隠していることを、勝手に喋るわけにいかねぇだろ」
「それは……そうだけど」
美咲さんは納得しきれない様子で頬を膨らませる。
「おかげで私、本人に本人の動画をおすすめしちゃったんだよ?」
「面白かったぞ」
「お父さん!」
「ははは!」
店主の豪快な笑い声が響く。
「すみません。俺が黙っていたから……」
「一城さんは謝らなくていいんです」
美咲さんが俺へ振り返る。
「身元を隠して動画を投稿するのは、探索者なら普通ですから。それに、お父さんの言うとおり、本人の許可なく教える方が問題です」
「分かってるじゃねぇか」
「それでも、少しくらい教えてくれてもよかったのに」
「どっちなんだよ」
親子のやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「それより、編集を始めましょう」
俺はスマートフォンを取り出し、昨日撮影した映像を開いた。
撮影時間は一時間二十分ほど。
そのすべてを公開するわけではない。
何も起きていない移動時間や、他の探索者が映り込んだ場面は削除する必要がある。
「まずは、使えそうな場面を選びましょう」
美咲さんが俺の隣へ座る。
店主もカウンターの内側から画面を覗き込んだ。
「最初の挨拶は、そのまま使えそうだな」
「本名も言っていませんね」
「撮影前に練習しましたから!」
美咲さんが得意そうに胸を張る。
動画内で俺の本名は出ていない。
美咲さんも活動名の『探索者ミサキ』を名乗り、姓や個人情報は口にしていなかった。
「一城さんの声は、あとで変えるんですよね?」
「はい。いつも使っている音声変換を掛けます」
「私の声はそのままで大丈夫です」
「顔も映っていますけど、問題ありませんか?」
「普段から顔を出して活動しているので大丈夫です」
美咲さんは二年ほど前から探索動画を投稿している。
登録者数を聞いてみると、一万八千人を超えているらしい。
「一万八千人……」
「最近は更新を休みがちなので、あまり増えていませんけどね」
「十分すごいと思います」
「でも、上位の探索者は数十万人ですよ?」
「俺は七十二人ですよ」
「これから増やせばいいんです!」
美咲さんが笑顔で答える。
「それに今回の動画は、多くの人に見てもらえると思います」
「そうでしょうか?」
「試作型の魔導具なんて、滅多に見られません。それに東都魔導機器の公式アカウントからも紹介してもらえるんですよね?」
「水城さんは、審査を通れば紹介すると言っていました」
「なら、大丈夫です!」
美咲さんには確信があるようだ。
俺は期待し過ぎないようにしながら、編集作業を進めることにした。
◇
薬花草を検索する場面。
スライムの魔核を検索する場面。
鉄鉱石を採掘し、重量表示について意見を述べた場面。
どれも試作型魔導検索眼鏡の特徴が分かりやすく映っている。
「検索結果は、あとから画面へ重ねられるんですよね?」
「はい。眼鏡からスマートフォンへ転送された記録があります」
検索結果を映像へ重ねる。
これで視聴者にも、俺が見ていた表示が伝わる。
「薬花草の一致率は九十七パーセント。用途と参考価格も表示されています……っと」
文字だけでは分かりにくい部分へ、簡単な字幕を追加する。
「一城さん、説明が丁寧ですね」
「会社で、鑑定記録書を作っていたからかもしれません」
「ああ、確かに報告書みたいで分かりやすいです」
「動画としては、堅すぎませんか?」
「そこは私が騒いでいるので大丈夫です!」
映像の中では、美咲さんが検索結果へ驚いたり、鉄鉱石を持ち上げたりしている。
確かに一人で撮った動画より、全体が明るく見えた。
「次は、痺れ草の場面ですね」
薬花草に似た植物を発見し、眼鏡が二つの候補を表示した場面だ。
映像の中で、俺は解析鑑定を使って痺れ草だと断定している。
だが、能力の詳細を公開するつもりはない。
「ここは、俺が『痺れ草です』と言った部分を切りましょう」
「その方がいいですね」
美咲さんも真剣な表情で頷く。
「眼鏡が警告を出したところまでは残して、その後は『協会へ持ち帰り、正式な鑑定を受けました』と字幕を入れるのはどうでしょう?」
「それなら嘘にもなりません」
実際に採取した痺れ草は、探索者協会へ提出している。
協会の鑑定でも、痺れ草であることが確認された。
「結果だけを追加しましょう」
◇____________________
『協会で鑑定した結果、痺れ草と判明』
『茎の汁に弱い麻痺毒が含まれています』
『検索結果の一致率が低い場合は、その場で触れないようにしましょう』
____________________◇
「これなら、眼鏡の便利さと、どこまで検索できるかの境界線が伝わりますね」
「良いと思います!」
美咲さんが頷く。
「商品を褒めるだけの動画より、危険な部分も伝えた方が信用できますから」
「水城さんも、使いにくいところは正直に話していいと言っていました」
「そこは、しっかりした会社ですね」
映像の最後には、試作品であることと、正式な鑑定の代わりにはならないことを表示する。
さらに、東都魔導機器から試作品の貸与と検証協力費を受け取っていることも明記した。
「企業から依頼を受けた動画なら、それも隠しちゃ駄目ですよ」
「はい。店主さんからも言われました」
動画の説明欄にも、企業協力であることを記載する。
良い部分だけを話すよう求められていないことも付け加えた。
「これで完成でしょうか?」
「待ってください。タイトルがまだです!」
美咲さんがスマートフォンを操作する。
「こんなのはどうですか?」
◇____________________
『【企業協力】試作型魔導検索眼鏡を初心者ダンジョンで使ってみた!【探索者ミサキさんと初コラボ】』
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「少し長くないですか?」
「動画のタイトルは、これくらいでいいんです」
「そういうものなんですね」
「何の動画か一目で分かることが大切です!」
タイトルは美咲さんの案を使うことにした。
完成した動画を東都魔導機器と探索者協会へ送り、公開して問題がないか確認してもらう。
返事が来たのは、一時間ほど経った頃だった。
◇____________________
『映像内に未公開情報および個人情報が含まれていないことを確認しました』
『公開していただいて問題ございません』
『東都魔導機器公式アカウントでも、公開後にご紹介させていただきます』
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「審査も通りましたね!」
「はい」
「それじゃあ、投稿しましょう!」
美咲さんに促され、俺は投稿ボタンへ指を近付ける。
初めて動画を投稿した時より緊張する。
今回は俺一人の動画ではない。
美咲さんも、企業も関わっている。
「失敗したらどうしましょう」
「投稿前の確認は終わっています。あとは見てもらうだけですよ」
「そうですね……」
小さく息を吸い、投稿ボタンを押した。
画面へ『投稿が完了しました』という文字が表示される。
「私の方でも紹介しますね」
美咲さんも自分の動画投稿ページを開き、短い紹介映像と一緒に俺の動画への案内を投稿した。
さらに、東都魔導機器の公式アカウントからも動画が紹介される。
「これで完了です!」
「何だか、一気に色々なところへ広がりましたね」
「反応が楽しみです!」
俺たちはしばらく店主と話したあと、探索者ストアを出た。
◇
その日の夜。
夕食とシャワーを済ませ、ベッドへ腰掛ける。
投稿した動画がどうなったのか気になり、スマートフォンを開いた。
「……え?」
表示された数字を見て、思わず声が漏れた。
◇____________________
再生回数:12,841回
登録者数:1,376人
コメント:289件
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「一万回……?」
まだ投稿してから半日も経っていない。
最初の動画は数日かけて六百回ほどだった。
それが今回は、既に一万回を超えている。
登録者も七十二人から、一千人以上へ増えていた。
何度画面を更新しても、数字は少しずつ増えていく。
「美咲さんと企業さんの影響か……」
東都魔導機器の公式アカウントから、多くの人が動画を見に来たらしい。
探索者ミサキの紹介から来たというコメントも多かった。
俺は緊張しながら、コメント欄を開く。
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『試作型の魔導具なんて初めて見ました!』
『素材の名前と相場が表示されるの便利すぎる』
『一致率が低い時にちゃんと触らなかったのが好印象』
『痺れ草怖い。薬花草だと思って触るところだった』
『リンさんの説明が丁寧で分かりやすい』
『ミサキさんとの組み合わせ、落ち着いていて好き』
『戦闘はミサキ、素材はリンで役割分担できそう』
『リンさん、やっぱり声が可愛い』
『ミサキさん、リンさんの性別を知ってるのかな?』
『次も二人で探索してほしい!』
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「また声のことを言われてる……」
音声変換は以前と同じ設定を使った。
身元を隠すには役立っているが、性別についての疑問はさらに増えているようだ。
その中に、美咲さんからのコメントがあった。
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探索者ミサキ
『コラボありがとうございました! リンさんの正体については秘密です! 次の探索も楽しみにしています!』
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「秘密って言われると、余計に気になるんじゃ……」
案の定、そのコメントには大量の返信が付いていた。
俺は苦笑しながら、動画の管理画面へ戻る。
すると、見慣れない通知が表示された。
◇____________________
『チャンネル登録者数が一千人を突破しました』
『収益化申請の条件を満たしました』
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「収益化……」
店主が最初に話していたことを思い出す。
動画が多くの人に見られるようになれば、広告収入を得られる。
そのための条件を、今回の動画で達成したらしい。
もちろん、すぐに大金が入るわけではない。
動画を継続して投稿し、見てもらわなければ収入にはならない。
それでも、探索以外の方法で稼ぐ道が少しずつ形になってきた。
スマートフォンへ新しいメッセージが届く。
美咲さんからだった。
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『登録者一千人突破、おめでとうございます!』
『次は一緒に、第二層へ行ってみませんか?』
『第一層とは違う素材もありますし、動画にもなると思います!』
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「第二層……」
今まで探索してきたのは、初心者ダンジョンの第一層だけだった。
戦闘系スキルを持たない生産職が、単独で入れるのも第一層までだ。
第二層以降へ進むには、戦闘職の探索者に同行してもらう必要がある。
これまでは頼める相手がいなかったため、第二層へ行くことは考えていなかった。
未知の魔物や地形がある場所へ、一人で挑むこともできない。
だが、今は違う。
美咲さんが同行を申し出てくれている。
自分の『解析鑑定』が普通ではないと分かった今、第一層以外で何が見えるのか確かめてみたい気持ちもあった。
俺は少し考えたあと、返信を打ち込む。
◇____________________
『ありがとうございます』
『ぜひ、第二層のことを教えてください』
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送信すると、すぐに美咲さんから、喜んでいるスライムの画像が返ってきた。
「第二層か……」
第一層だけでも、希少区域や隠し通路が見つかった。
なら、その先には何が待っているのだろう。
俺は期待と少しの不安を抱きながら、第二層について調べ始めた。
読んでいただきありがとうございます。
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