155話「大峡谷の飛竜王」
砂嵐帝蠍の素材を魔法鞄へ収納したあと、俺たちは砂丘の上で身体を休めていた。
戦闘中に巻き上げられた砂はほとんど収まり、遠くには第十九層へ続く区域転移門が見えている。額の核石を破壊してから一気に攻め切ったため、長時間戦い続けたような疲労は残っていなかった。
『皆さん、体調に問題はありませんか?』
近くへ降りてきた探索用ドローンから、髙橋さんの声が聞こえた。
「大丈夫です。少し休めば、そのまま動けます」
「私も余力は十分にあります」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも揃って元気な声を返す。
髙橋さんは俺たちの様子を確認すると、少し間を置いてから尋ねてきた。
『どうしますか? 帰還されますか? 今の実力でしたら、第十九層攻略も視野に入れてよいかと私は思いますが』
「俺は構いません。美咲さんはどうします?」
「回復薬もそのままありますし、余力も全然あります。小休憩を挟んだあと、第十九層へ行きましょうか?」
「そうしましょう」
「ぷるっ!」
「ぴるるっ!」
シズクもユキも乗り気なようだ。
『分かりました。それでは三十分間の休憩後、装備と体調を再確認してから区域転移門へ向かってください』
俺たちは砂丘へ腰を下ろし、水分と軽い食事を取ることにした。
◇
三十分後。
装備と体調に問題がないことを確認した俺たちは、砂漠の奥に出現した区域転移門の前へ立っていた。
門の左右では、半透明の魔法力場が水膜のように揺らいでいる。その向こうには赤褐色の岩壁が連なって見えるものの、第十九層へ入るには、解放されたこの門を通るしかない。
「行きましょうか」
「はい」
区域転移門へ足を踏み入れると、白い光が視界を覆った。
足元の感触が砂から硬い岩へ変わり、直後、乾いた強風が全身へ吹き付ける。
目の前に広がっていたのは、赤褐色の大地がどこまでも深く裂けた巨大な峡谷だった。
切り立った岩壁が幾重にも連なり、その間を細い岩棚や天然の石橋がつないでいる。谷底は薄暗い靄に覆われ、覗き込んでも地面を見ることはできなかった。
「上から見ていた時も広いと思いましたけど、実際に入ると全然違いますね」
美咲さんが風に乱された髪を押さえながら、峡谷の奥を見渡す。
「向こうの岩壁まで、かなり距離がありますね。普通に移動したら大変そうです」
「でも、今なら行けるかもしれませんよ」
近くにある岩棚へ目を向ける。
直線距離で十メートル以上。以前なら、飛び移ろうと考えることすらなかった距離だ。
足元を確かめてから腰を落とし、一気に岩盤を蹴った。
靴底の下で小石が弾け、身体が強い風の中へ飛び出す。予想していたよりも高く上がり、岩棚の上を越えそうになったため、空中で身体を捻って勢いを殺した。
着地と同時に岩盤が僅かに軋む。
「……危なかった」
「陸斗さん、もう少し加減してください」
呆れたように言いながらも、美咲さんは楽しそうに笑っていた。
助走をつけて岩場を蹴ると、盾を背負ったまま軽々と谷を越え、俺の隣へ着地する。
「美咲さんも十分飛び過ぎですよ」
「陸斗さんを見て、少し弱めたんですけどね」
「それで俺とほとんど変わらないじゃないですか」
「ふふっ」
少し離れた岩棚では、シズクが四枚の翼を広げている。その身体の下には風の膜が作られ、ユキが柔らかな風に包まれながら浮かんでいた。
「ぷるるっ!」
「ぴるぅっ!」
シズクが峡谷の上を飛び、ユキをこちらまで運んでくる。
着地したユキは嬉しそうに跳ねたものの、すぐにシズクを見上げ、もう一度飛びたいと訴えるように身体を傾けた。
「遊びに来たんじゃないからね?」
「ぴるっ!」
「ぷるっ!」
返事だけは揃っている。
岩棚の間隔が狭い場所では俺がユキを抱え、距離のある場所ではシズクの風で運んでもらう。跳躍できる俺たちとは移動方法が異なるものの、これなら大きく遅れることはなさそうだった。
『現在の跳躍距離であれば、予定していた経路を大幅に短縮できます。ただし、着地地点の強度までは外見から判断できません。崩落には十分注意してください』
「分かりました。次から着地する前に、シズクにも確認してもらいます」
「ぷるっ!」
俺はユキを抱き上げ、次の岩棚へ目を向けた。
「ユキ、しっかり掴まってろよ」
「ぴるるっ!」
ユキが腕の中で平たくなり、身体の一部を俺の胸元へ巻き付ける。
岩場を蹴り、向かいの岩棚へ跳ぶ。
以前なら慎重に進まなければならなかった大峡谷を、俺たちは岩棚から岩棚へ飛び移りながら進んでいった。
◇
第十九層へ入ってから三十分ほど経った頃、頭上を飛んでいた探索用ドローンが急に停止した。
『上空に複数の反応があります。数は六体です』
髙橋さんの声を聞き、岩棚の上で足を止める。
「ユキ」
「ぴるっ!」
腕の中にいたユキがシズクの作った風へ飛び移り、そのまま二人で上空へ離れていく。
シズクが風でユキを支えている間に、俺は左右の短剣を抜き、美咲さんも王蠍の反射殻盾を展開した。
峡谷の上から、翼を打つ重い音が聞こえてくる。
岩壁の向こうから現れたのは、赤褐色の鱗と大きな翼を持つ飛竜の群れだった。長い尾を揺らしながら旋回し、俺たちのいる岩棚を囲むように高度を下げてくる。
「ぴるるっ!」
ユキの結晶冠が白く輝いた。
広がった光が俺と美咲さん、シズクの身体へ重なり、全身の奥から新しい力が湧き上がってくる。
「ユキちゃん、ありがとうね」
「ぴるっ!」
直後、一体の飛竜が翼を畳み、岩棚へ向かって急降下した。
前へ突き出された鉤爪を見た美咲さんは、盾で待ち受けるのではなく、自分から飛竜へ向かって走り出す。
岩棚の端を強く蹴り、空中へ跳び上がった。
飛竜が慌てて翼を開こうとしたが、もう遅い。
「はぁっ!」
回転を加えた右脚が、飛竜の顎へ叩き込まれた。
ドンッ!
鈍い衝撃音とともに飛竜の首が大きく跳ね上がり、その巨体が空中で一回転する。
美咲さんは飛竜の身体を足場にして岩棚へ戻ったが、蹴り飛ばされた飛竜は岩壁へ激突し、そのまま光の粒子へ変わっていった。
「……一撃で倒せました」
着地した美咲さんが、自分の右脚へ目を向ける。
「ぴるるっ!」
「ありがとう、ユキ。すごく動きやすいよ」
ユキが得意そうに身体を揺らした直後、二体の飛竜が左右から迫った。
「ぷるっ!」
シズクの周囲へ火球、氷槍、風弾、石弾が浮かび、その外側には複数の反射筒が展開される。
「ぷるるるっー!」
四つの魔法が一斉に放たれた。
飛竜は翼を傾けて正面からの攻撃を避けたものの、魔法はそのまま上下の反射筒へ飛び込み、それぞれ別の方向へ軌道を変える。
上から火球が迫り、下から氷槍が突き上がる。
さらに風弾と石弾が左右から襲いかかり、二体の飛竜から逃げ道を奪った。
火球が片方の翼へ直撃し、飛行姿勢が崩れる。続けて氷槍が反対側の翼を貫き、その巨体を岩壁へ叩き付けた。
もう一体は身を翻して石弾をかわしたが、その先には別の反射筒を通った風弾が待ち受けている。
風弾が腹部へ直撃したところへ、ユキの白銀鎧が上から叩き付けられた。
飛竜は岩棚へ墜落し、光の粒子へ変わっていく。
「ぷるるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキが喜び合っている間に、残る三体の飛竜が俺へ向かってきた。
一体目が頭上を通過しながら、長い尾を振り抜く。
俺は二本の短剣を鞘へ戻し、迫ってきた尾へ両手を伸ばした。
鱗に覆われた太い尾を掴んだ瞬間、腕を強く引かれ、靴底が岩棚の上を滑っていく。
飛竜は翼を羽ばたかせ、そのまま俺を谷へ引きずり込もうとした。
「っ……この!」
右脚を踏み込み、岩盤を強く蹴る。
腰を落として飛竜の力を受け止めると、岩棚の端へ向かっていた身体が止まった。
飛竜が驚いたように振り返る。
俺は掴んだ尾を離さず、両腕へ力を込めた。
「うぉぉっ!」
腰を捻り、飛竜の巨体を横へ振る。
翼が強い風を起こし、周囲の岩壁へ小石が激しくぶつかった。
一歩踏み替え、その勢いを殺さないまま身体を回転させる。飛竜の巨体は大きな円を描き、こちらへ迫っていた二体目の正面へ振り抜かれた。
二体の飛竜が空中で激突する。
「ギャァッ!」
掴んでいた尾から両手を放すと、絡み合った二体はそのまま岩壁へ叩き付けられ、大量の岩片とともに谷へ落ちていった。
途中で二体の身体が光の粒子へ変わり、峡谷の風へ流されていく。
最後の一体が翼を広げ、俺から逃れようと上昇した。
「逃がしません!」
美咲さんが岩壁へ向かって跳ぶ。
突き出していた岩を踏み、さらに上の岩棚へ。そこからもう一度跳び上がると、逃げようとしていた飛竜の背中へ追い付いた。
大きく振り上げた盾が、飛竜の頭部へ叩き付けられる。
飛竜は翼を動かすこともできないまま岩壁へ墜落し、その身体を光の粒子へ変えた。
周囲を飛んでいた六体の飛竜が消え、峡谷に強い風の音だけが残る。
「かなり目立ちましたね」
美咲さんが岩棚から飛び降り、俺の隣へ着地する。
「これだけ暴れれば、第十九層の奥にいる魔物にも気付かれたかもしれません」
『その可能性があります。新しい反応が――』
髙橋さんの言葉が止まる。
直後、峡谷の奥から、岩壁を震わせるほどの咆哮が響いた。
◇
強い風が峡谷を駆け抜け、砕けた小石が岩棚の上を転がっていく。
岩峰の向こうから現れた飛竜は、今まで倒した個体とは比べものにならないほど巨大だった。
翼を広げた姿は峡谷の幅を埋め尽くし、全身を覆う真紅の鱗が陽光を受けて鈍く輝いている。頭部には後ろへ伸びる二本の角があり、その下にある紅玉のような両眼が、俺たちを睨み付けていた。
飛竜王は周囲に残る光の粒子を見回すと、喉の奥から低い唸り声を漏らす。
翼が大きく打ち下ろされた。
暴風が岩棚へ叩き付けられ、身体ごと谷へ押し流そうとする。
「ユキ、盾を!」
「ぴるるっ!」
純白の魔法盾が俺たちの前へ広がった。
風が左右へ分かれ、その陰で俺は『解析鑑定』を発動する。
◇____________________
『第19層・階層守護個体』
『飛竜王』
『危険度:A+』
『特徴』
・飛竜種を統率する上位個体
・高い飛翔能力と身体能力を保有
____________________◇
「飛竜王。危険度A+の守護個体です」
「さっきの飛竜たちを倒したことで、かなり怒っていますね」
「みたいです」
飛竜王が牙を剥き出しにし、再び咆哮する。
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキが俺たちの前へ出た直後、飛竜王は翼を畳み、岩峰の上から急降下した。
真紅の巨体が一気に加速し、前へ突き出された両脚の爪が俺へ迫る。
俺は両脚を開いて腰を落とし、振り下ろされた右脚を両腕で受け止めた。
轟音とともに岩棚が大きく揺れる。
「ぐっ……!」
靴底が岩盤へめり込み、周囲へ何本もの亀裂が走った。
全身へ伝わった衝撃は、砂嵐帝蠍の突進よりも重い。僅かでも気を抜けば、そのまま谷底へ押し込まれそうだった。
飛竜王が翼を広げる。
猛烈な風を受け、俺の身体が少しずつ後ろへ押されていく。
「陸斗さん!」
「大丈夫です!」
両腕へ力を込め、掴んだ脚を押し返す。
飛竜王の高度が僅かに上がった。
俺の力へ気付いた飛竜王が、もう片方の脚を振り上げる。
「ぴるっ!」
二枚の白銀鎧が左右から飛び、振り下ろされる爪へ激突した。
飛竜王の身体が傾く。
俺は掴んでいた脚を離し、岩棚を蹴って真紅の巨体へ跳び付いた。
首元の鱗へ左手を掛け、引いた右腕を勢いよく振り抜く。
拳が飛竜王の頬へ叩き込まれ、頭部が横へ弾かれた。
「ギャァァッ!」
飛竜王が首を振り、二本の角を俺へ叩き付けようとする。
身体を低くしてかわし、そのまま背中へ回ろうとしたところで、長い尾が横から迫った。
腕を上げて受ける。
重い衝撃で身体が浮き、向かい側の岩棚まで弾き飛ばされた。
「っ……!」
空中で体勢を整え、両脚から岩壁へ着地する。衝撃で岩が崩れたものの、そこを足場にもう一度跳び、飛竜王へ向かって飛び出した。
俺と飛竜王が空中でぶつかる。
飛竜王は牙で噛み付こうとし、俺はその首を両腕で押さえ込む。互いの力がぶつかり合い、どちらも譲らないまま近くの岩壁へ激突した。
岩壁の表面が砕け、大量の土煙が上がる。
飛竜王の首を押さえたまま、崩れる岩棚へ降りる。
翼を広げて浮かび上がろうとした飛竜王の背後へ回り、太い尾を両手で掴んだ。
飛竜王が激しく翼を羽ばたかせる。
身体が前へ引かれ、両足が岩棚の上を滑った。
先ほどの飛竜とは違う。力を込めても飛竜王の動きは止まらず、岩棚の端が少しずつ近付いてくる。
「うぉぉぉっ!」
右足を岩盤へ叩き込み、強引に身体を止める。
飛竜王もさらに翼を羽ばたかせ、俺を岩棚ごと引き剥がそうとした。足元の亀裂が広がり、岩棚の一部が谷底へ崩れ落ちる。
それでも尾を離さず、腰を落として両腕を引いた。
飛竜王の巨体が僅かに横へ動く。
もう一歩踏み込み、全身を捻りながら尾を振り抜いた。
均衡を崩した飛竜王が岩壁へ向かって流れ、真紅の巨体を激しく打ち付ける。
ズドォンッ!
周囲の岩が崩れ、飛竜王の姿が土煙へ消えた。
息を整える間もなく、土煙の中で真紅の翼が動く。
飛竜王が瓦礫を吹き飛ばし、怒り狂った声で咆哮した。
片方の翼から血が流れているが、まだ戦意は失っていない。
飛竜王が壊れかけた岩棚を蹴り、翼を広げたまま俺へ突っ込んでくる。
俺も正面から走った。
突き出された頭部を両腕で受け止めると、飛竜王の牙が顔のすぐ横で噛み合う。
俺の足元で岩が砕けた。
飛竜王の爪も岩棚へ食い込み、真紅の巨体が俺を押し潰そうと前へ出る。
「ぐっ……!」
押し返す。
飛竜王も力を緩めない。
俺が前へ出れば、飛竜王が翼を打ち下ろして押し戻す。飛竜王が力を増せば、俺も足元の岩を踏み砕きながら踏み止まった。
力はほとんど互角だった。
「ぷるるっ!」
シズクが四属性の魔法を放つ。
飛竜王は片方の翼を広げ、火球と氷槍を受け止めた。風弾と石弾が反射筒を通って背後へ回り込むが、長い尾がそれらをまとめて薙ぎ払う。
「ぴるっ!」
二枚の白銀鎧が飛竜王の翼へ激突した。
身体が僅かに揺れた隙に、俺は飛竜王の首を下へ押し込む。
飛竜王の顎が岩棚へ叩き付けられた。
しかし、倒し切れない。
飛竜王が首を持ち上げ、俺の身体ごと岩棚から浮かせようとする。
「陸斗さん、そのまま押さえてください!」
美咲さんの声が上から聞こえた。
視線を向けると、美咲さんは岩壁から突き出した岩を蹴り、飛竜王よりも高い場所へ跳び上がっていた。
一つ目の岩棚へ着地すると、止まることなくさらに上へ。二つ目、三つ目と岩棚を蹴り、飛竜王の遥か頭上へ達する。
「シズク!」
「ぷるっ!」
シズクの風が下から吹き上がり、美咲さんの身体をさらに高く押し上げた。
美咲さんが空中で身体を反転させる。
右脚を上へ伸ばし、飛竜王の頭部を真っ直ぐ見下ろした。
「陸斗さん、離れてください!」
「はい!」
飛竜王の首から両腕を放し、横へ跳ぶ。
自由になった飛竜王が顔を上げる。
その視線の先から、美咲さんが一気に落下してきた。
「はぁぁぁぁっ!」
全身の力を乗せた踵が、飛竜王の頭部へ叩き込まれる。
ドゴォンッ!
飛竜王の顎が岩棚へ激突し、赤褐色の岩盤が円形に陥没した。
衝撃はそこで止まらない。
岩棚を貫き、飛竜王の巨体ごと一段下へ落とす。下の岩棚も耐え切れずに砕け、真紅の巨体がさらに深く沈んだ。
大量の岩と土煙が谷へ崩れ落ちる。
美咲さんは飛竜王の背中を蹴って離れ、シズクの風に支えられながら俺のいる岩棚へ着地した。
「倒せましたか?」
土煙の向こうへ目を凝らす。
砕けた岩棚の間で、飛竜王が僅かに頭を動かした。もう一度立ち上がろうと翼を広げるが、その身体へ力は戻らない。
真紅の巨体が淡い光に包まれ、次の瞬間、無数の光の粒子へ変わっていった。
『……飛竜王の討伐を確認しました』
探索用ドローンから聞こえた髙橋さんの声には、珍しく戸惑いが混じっていた。
「倒せましたね」
「はい。最後の蹴り、すごかったですよ」
「陸斗さんが押さえてくれたからです。それに、飛竜王を岩壁へ叩き付けた陸斗さんも、かなりすごかったです」
「ぷるるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキだけは大喜びで俺たちの周りを飛び回っている。
やがて飛竜王の光が消え、その跡へ二つの素材が落ちた。
一つは、剣のように細長く、外側へ鋭い刃を備えた翼の骨。もう一つは、内側に赤い光を宿した竜核石だった。
「二つですね」
「確認します」
近付いて『解析鑑定』を発動する。
◇____________________
『竜翼の剣骨』
『希少度:A+』
『推定買取価格:3,200,000円』
『竜核石』
『希少度:A+』
『推定買取価格:5,500,000円』
____________________◇
「竜翼の剣骨と竜核石。どちらも希少度A+です」
「二つだけでも、かなり高額ですね」
「合計で八百七十万円ですからね」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキが、並んで二つの素材を覗き込む。
「素材を回収したいから、ユキにシズク、少し離れててな」
「ぴるっ!」
「ぷるっ!」
二人が素直に離れたところで、竜翼の剣骨と竜核石を魔法鞄へ収納した。
直後、峡谷の奥で白い光が立ち上る。
崩れた岩棚の向こうに、石造りの区域転移門が姿を現した。
『第二十層へ続く転移門が出現したようですね。ですが、本日の探索はここまでにしてください』
「もちろんです。さすがに第二十層まで行くつもりはありません」
「今日は二階層も攻略しましたからね」
『それと、今回の映像ですが……かなり大きな反響を呼ぶと思います』
髙橋さんの声を聞き、俺は美咲さんと顔を見合わせた。
「そんなにですか?」
『はい。映像を確認した調査課の職員も、言葉を失っています』
「飛竜を投げたからじゃないですか?」
美咲さんが笑いながら、俺の両手へ目を向ける。
「掴めそうだったので、つい……」
「飛竜王まで掴んでいましたよね?」
「美咲さんも、飛竜王を岩棚ごと蹴り落としてましたよ」
「それは陸斗さんが押さえてくれたからです」
「ぷるっ!」
「ぴるるっ!」
どちらも同じだと言いたげに、シズクとユキが声を上げる。
「分かったよ。二人もすごかったからね」
「ぷるるっ!」
「ぴるるっ!」
嬉しそうに返事をする二人を見て、美咲さんが笑う。
俺はユキを抱き上げ、美咲さんたちと一緒に帰還経路へ向き直った。
砂嵐帝蠍に続き、飛竜王まで倒した。
一日のうちに二つの階層を攻略した実感は、まだあまりなかった。
それでも、腕の中で元気に跳ねるユキと、俺たちの周囲を飛ぶシズクを見ていると、誰一人欠けることなくここまで来られたことだけは、はっきりと感じられた。




