147話「反射筒と白銀の反射鎧」
美咲さんが二つの新装備を受け取ってから、数日が過ぎた。
その日、優莉さんに呼ばれ、俺たちはクラン専用工房を訪れていた。
作業台の上には、銀白色の筒が一本置かれている。
「シズクちゃん、触れてみてください」
「ぷる……?」
シズクが身体を伸ばして筒へ触れると、中央の虹晶石が七色に輝いた。
銀白色の筒が、ふわりと浮かび上がる。
「ぷるっ!?」
驚いたシズクが飛び退いた。
筒も宙を滑り、シズクの斜め上で止まる。
シズクが美咲さんの肩へ移ると、筒も同じ距離を保って付いてきた。
シズクは四枚の翼を広げ、工房の中をゆっくり飛び始める。
シズクが右へ弧を描けば、筒もその後を追う。シズクが天井近くまで舞い上がると、筒もぴたりと高度を合わせた。
「ぷるるっ!」
シズクの魔力が強く脈打つ。
筒は傍らを離れ、作業台の周囲をひと回りすると、再びシズクの斜め上へ戻った。
「すごい。もう動かせるんですね」
美咲さんの言葉に、シズクが得意そうに身体を伸ばす。
「これが、シズクちゃんの反射筒です」
◇
工房の試験室へ移ると、髙橋さんが低出力の魔力弾を発射した。
「ぷるっ!」
シズクの横から『反射筒』が飛び出す。
だが、僅かに遅い。
青い魔力弾は筒口の横を抜け、奥の防護壁で弾けた。
「ぷる……」
二発目が放たれる。
今度は『反射筒』が先に射線へ入った。
青い光が筒口へ吸い込まれ、虹晶石の周囲を巡り始める。
続けて、三発目が放たれた。
「ぷるるっ!」
筒口から青い魔力弾が撃ち返された。
二つの光が正面からぶつかり、細かな粒となって消える。
その横を、シズクの火球が駆け抜けた。
赤い炎が標的の中央で弾ける。
「ぷるっ!」
火の粉の中を抜け、『反射筒』がシズクの斜め上へ戻ってくる。
「頼もしいね、シズク」
「ぷるるっ!」
美咲さんに褒められ、シズクは嬉しそうにその肩へ飛び乗った。
◇
それから数日後、同じ試験室の作業台に二枚の白銀鎧が並んでいた。
形は以前と変わらない。ただ、装甲面には薄く加工された反射鱗が重ねられている。
「ぴる……!」
ユキが二枚の鎧へ順番に身体を寄せると、白い魔力が流れ込んだ。
白銀鎧が同時に浮かび、ユキの左右へ並ぶ。
「『白銀の反射鎧』です」
「ぴるっ!」
髙橋さんが試験装置を起動させると、左右の発射口が交互に光った。
まず、左から魔力弾が迫る。
一枚の反射鎧が斜めに滑り込み、青い光を天井へ逸らした。
間を置かず、右から二発目が飛んでくる。
今度は『純白の魔法盾』が受け止め、青い光を防護壁へ弾き返した。
二枚の反射鎧と一枚の魔法盾が、ユキの周囲を滑らかに入れ替わる。
「ぴるるっ!」
その隣では、シズクの『反射筒』も宙を旋回していた。
俺は髙橋さんへ向き直った。
「髙橋さん。今度は、俺たちも動きながら試したいです」
髙橋さんが試験装置を止め、俺を見る。
「さりなさんと姫乃さんに、模擬戦をお願いできませんか?」
「私からもお願いします」
美咲さんが続けた。
「承知しました。お二人へ確認します」
◇
模擬戦当日。
協会本部の訓練場で、さりなさんが『星皇剣』を抜いた。
隣では、姫乃さんが炎を纏った両拳を打ち合わせている。
「リンくんが後ろの標的に触れたら、そっちの勝ち。先にウチらがリンくんへ一発入れたら、こっちの勝ちね〜」
「はい。よろしくお願いします」
俺たちの身体を、敗北判定用の防護膜が包む。
俺は右手に『白銀短剣』、左手に『幻魔短剣』を握った。
美咲さんは右手に『黄金短剣』、左手に『断魔短剣』を構えた。
左前腕には、『王蠍の反射殻盾』の小さな手甲盾が装着されている。
美咲さんが魔力を流すと、手甲盾の縁から淡い光が伸びた。
光は左腕の前へ大きく広がり、透き通った盾面を作る。
左手の短剣を握ったまま、美咲さんが左腕を動かす。盾面も一緒に角度を変えた。
「始めるよ〜」
開始の光と同時に、さりなさんが星色の魔力弾を放った。
狙いは、美咲さん。
美咲さんが左腕を上げる。
星色の魔力弾が盾面へぶつかった。
魔力弾は幾筋に分かれ、盾面に沿って四方へ散る。散った光は、空中で霧散した。
散った光の向こうから、姫乃さんが踏み込んでくる。
「参りますわ!」
炎の拳が盾面へ叩き込まれた。
美咲さんは左腕を傾けた。
拳が盾面を滑り、脇へ逸れる。
衝撃に押され、美咲さんの足が一歩下がった。それでも、体勢は崩れない。
左手の『断魔短剣』が、拳を包む炎へ触れた。
赤い炎が大きく波打つ。
右手の『黄金短剣』が、姫乃さんの肩口を薙ぐ。
姫乃さんが身を反らし、一歩下がった。
俺は、二人の右側を抜けようと踏み出した。
姫乃さんが、反対の拳を返す。
美咲さんはその拳も盾面で受け流し、一歩後ろへ下がった。
広がった盾面が、俺の進路を横切る。
俺が進路を変えようとした時、右から星色の軌跡が迫る。
「ぴるっ!」
ユキの反射鎧が割り込む。
『星皇剣』が装甲面を滑り、軌道を変えながらも俺へ迫った。
「リンくん、もらったよ〜」
振り向きざまに『白銀短剣』で受けた。
『星皇剣』が短剣の外側を滑り、その切っ先が俺の胸元で止まった。
防護膜が赤く染まる。
◇________________
『一城陸斗』
・敗北判定
『模擬戦結果』
・目標未達成
________________◇
「ここまで〜」
開始位置から、半分も進めていなかった。
◇
「陸斗さん。左腕大丈夫ですか?」
美咲さんが俺の側へ来る。
「はい。大丈夫です、問題ないよ」
左手の指を動かして見せると、美咲さんは頗いた。
「すみません。私が中央で姫乃さんと戦ったせいで、陸斗さんの進路を塞いでしまいました」
「新しい盾は前より広いからね〜。中央で構えたら、リンくんの通る場所まで塞いじゃうよ〜」
さりなさんが『星皇剣』を鞘へ収める。
「次は、姫乃さんの攻撃を右へ流してください。開いた中央を、俺とユキで抜けます」
「ぴるっ!」
ユキが俺の隣で大きく身体を伸ばした。
「はい。今度は、右へ流します」
◇
二回目の開始を告げる光が灯った。
姫乃さんが、中央を塞ぐように踏み込んでくる。
「こちらです!」
美咲さんが姫乃さんの左側から、盾面を差し入れた。
炎の拳が盾の上を滑る。
美咲さんは拳を右へ流し、そのまま姫乃さんの正面へ踏み込んだ。
美咲さんが二本の短剣で攻め立て、姫乃さんを中央から右へ追いやる。
標的までの道が開いた。
「こっちは任せてください!」
「はい!」
開いた中央へ走る。
前方で、さりなさんが二つの星色の魔力弾を放った。
「ぴるるっ!」
ユキの反射鎧が一発目を天井へ逸らす。
二発目は『反射筒』が飲み込み、虹晶石に星色の光を宿した。
魔力弾を取り込んだ『反射筒』はそのまま右へ飛び、姫乃さんの背後へ回り込んでいく。
魔力弾の向こうから、さりなさんが現れる。
「『残像』!」
横へ跳んだ俺の姿が、その場に残った。
『星皇剣』が残像を斬る。
すぐに刃が返り、今度は俺を追った。
そこへユキの『白銀の反射鎧』がぶつかる。
鎧は弾き飛ばされた。それでも、『星皇剣』は俺の脇を抜けた。
足は止めない。
「シズク!」
「ぷるるっ!」
美咲さんの声に応え、シズクが姫乃さんの正面へ火球を放った。
姫乃さんが身を引く。
その背後で、『反射筒』の筒口が星色に輝いた。
「背後からも来ますの!?」
星色の魔力弾が背後から迫る。姫乃さんはさらに右へ跳び、俺の進路から外れた。
背後から、さりなさんの足音が迫る。
俺は振り返らず、『幻魔短剣』を標的へ突き出した。
切っ先が、標的の中央へ触れる。
直後、背中の防護膜が赤く染まった。
◇________________
『訓練標的への有効打』
・確認
『一城陸斗への有効打』
・確認
『判定順』
一、訓練標的への有効打
二、一城陸斗への有効打
『模擬戦結果』
・一城陸斗側、目標達成
________________◇
「……届いた」
「ほんとに、ぎりぎりだったね〜」
さりなさんが『星皇剣』を下ろした。
「はい。でも、届きました」
標的から『幻魔短剣』を引き、鞘へ戻す。
「美咲さんが姫乃さんを止めてくれたから、届きました」
「はい!」
「ぴるるっ!」
ユキが美咲さんへ飛び付く。
シズクもその肩へ降り、『反射筒』が斜め上へ戻った。
観察室の扉が開き、優莉さんと髙橋さんが入ってくる。
美咲さんが盾へ流していた魔力を止めた。
大きな盾面が光の粒となって消え、左前腕の手甲盾だけが残る。
「美咲さんの助けになりそうですか?」
優莉さんが、シズクとユキへ尋ねた。
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
二体の返事に、優莉さんが微笑む。
「ほな、使った四点は一度預からせてください。強い衝撃を受けた箇所は、中まで点検します」
「お願いします」
美咲さんが二本の短剣を鞘へ戻し、左前腕の手甲盾を外した。
シズクとユキも、新しい装備を優莉さんの前へ移動させる。
俺は標的の中央に残った細い傷を見つめた。
その向こうに、白い霧と天狐竜の額で輝く魔石が重なる。
次は、あの光へ刃を届かせる。




