14話「黄金王の素材は60万円」
ゴールデンキングスライムが消えた草原に、三つのドロップ品が残されている。
王冠の形をした大きな黄金色の結晶。
拳ほどの大きさをした魔核。
そして、スライムの腕輪。
希少区域の残り時間は、二分を切っていた。
「急いで回収しましょう」
高橋さんが専用の採取ケースを取り出す。
俺は王冠型の結晶へ『解析鑑定』を発動した。
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『王金魔石』
『品質:S』
『希少度:S』
『用途:大型魔導設備の高出力動力源』
『推定買取価格:500,000円』
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「五十万円……」
金魔石でも五万円だった。
その十倍の価値がある。
「こちらは王金魔石です。推定買取価格は五十万円と表示されています」
「王金魔石……他のダンジョンで数例だけ確認されている希少素材です」
高橋さんが慎重な手つきで採取ケースへ収める。
「危険度C以上の黄金系個体から、極めて低い確率で得られると聞いています」
「ドロップ率は二十%と表示されていました」
「それでも五分の一です。入手できたのは幸運でしたね」
続いて、拳ほどの魔核を鑑定する。
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『王金魔核』
『品質:S』
『希少度:A』
『用途:高性能魔導具の中核素材』
『推定買取価格:100,000円』
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「こちらは王金魔核。推定買取価格は十万円です」
「二つで六十万円ですか……」
美咲さんが驚いたように目を見開く。
「私、今までで一番高いドロップ品かもしれません」
「美咲さんが倒したようなものですから」
「一城さんが倒し方を見つけて、外膜まで切り開いたんですよ。一人だったら、私は攻撃を通せませんでした」
高橋さんが王金魔核も回収する。
「分配については、協会へ戻ってから正式に決めましょう。スライムの腕輪は一城さんが保管してください」
「分かりました」
腕輪を素材鞄へ入れたところで、周囲の景色が揺らぎ始めた。
「残り十秒です!」
空と草原の輪郭が、陽炎のように崩れていく。
「二人とも、私の近くへ!」
高橋さんの指示に従い、一か所へ集まる。
残り時間がゼロになった瞬間、視界が白い光に包まれた。
◇
足の裏へ、硬い石の感触が戻ってくる。
目を開くと、三人とも元の行き止まりへ立っていた。
「全員、戻れましたね」
高橋さんが人数と装備を確認する。
採取ケースの中には、王金魔核と王金魔石が残されている。
俺の素材鞄に入れたスライムの腕輪も消えていなかった。
「一城さん、腕を見せてください」
「腕ですか?」
「ゴールデンキングスライムへ近付いた時、外膜が当たっていましたよね」
美咲さんに言われ、左腕を見る。
服の袖が破れ、皮膚が赤くなっていた。
「少し擦っただけです」
「少しじゃありません。念のため診療所へ行きますよ」
「でも……」
「行きますよ?」
「……はい」
笑顔なのに、断れない圧力があった。
高橋さんも美咲さんへ同意し、俺たちは地上へ戻ることになった。
◇
協会内の診療所で検査を受けた結果、左腕は軽い打撲と擦り傷だけだった。
治療を終え、三人で調査課の応接室へ移動する。
高橋さんは記録端末を大型モニターへ接続した。
「まず、今回の調査結果を確認します」
モニターへ黄金色の草原が映し出される。
「希少区域『スライムの黄金郷』の実在を、協会職員である私が直接確認しました。映像、測定結果、取得素材にも問題はありません」
これによって、暫定認定だった希少区域が正式に未確認区域として認定される。
「ただし、三名で入場した場合、危険度Cの区域守護個体が出現しました」
「出現条件は、三名での入場と表示されていました」
「二名の場合に何が起きるかは、まだ分かりませんね」
高橋さんは端末へ情報を入力する。
「安全性が確認されるまで、複数人での入場には協会の許可を必要とします。一城さんお一人で入場する場合も、事前に調査課へご連絡ください」
「分かりました」
自由に入れなくなることへ、少し残念な気持ちはある。
だが、ゴールデンキングスライムの危険性を考えれば当然の措置だ。
次に、王金魔核と王金魔石の査定結果が表示された。
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『素材査定』
王金魔核 100,000円
王金魔石 500,000円
合計 600,000円
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「査定額は、一城さんの解析結果と一致しました」
高橋さんは俺と美咲さんへ視線を向ける。
「今回は協会の調査依頼ですが、お二人は民間探索者として参加しています。取得素材は協会が優先買取し、売却額をお二人で均等に分配します」
「一人、三十万円ですか?」
「はい。佐伯さんには、別途護衛依頼の報酬も支払われます」
美咲さんが俺へ顔を向ける。
「私は均等で構いません。一城さんがいなかったら、素材どころか倒すこともできませんでした」
「でも、実際に核を破壊したのは美咲さんです」
「それを言ったら、私だけでも倒せなかったですよ。二人で倒したんですから、半分ずつにしましょう」
迷いのない言葉だった。
「……分かりました。ありがとうございます」
「こちらこそです」
続いて、素材鞄からスライムの腕輪を取り出す。
「こちらは特殊取得条件に、一城さんが装備しているスライムの指輪が必要でした」
高橋さんが記録を確認する。
「佐伯さんから異議がなければ、一城さんの取得物として処理します」
「もちろんありません」
美咲さんが即答した。
「一城さんが直接攻撃したから出たんですよね?」
「解析結果では、そうなっています」
「なら、一城さんの物です」
高橋さんも頷き、端末へ所有者を登録する。
「安全検査でも問題は確認されませんでした。装備して構いません」
「ありがとうございます」
左手首へ、スライムの腕輪を装着する。
青い石が淡く光り、身体の表面を薄い力が包むような感覚があった。
耐久力が僅かに上がった影響だろう。
右手の指輪と左手の腕輪。
これで、シリーズ装備は二つになった。
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『スライムシリーズ』
『取得数:2/5』
『個別効果』
・敏捷性を僅かに上昇
・耐久力を僅かに上昇
『シリーズ効果:未解放』
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「残り三つ……」
どこにあるのかは分からない。
だが、指輪を持っていたことで腕輪の取得条件を満たせた。
次の装備にも、同じような隠し条件が存在する可能性がある。
「最後に、正式認定に伴う追加情報料です」
高橋さんの言葉と共に、モニターの表示が切り替わった。
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『追加情報提供料』
希少区域・正式認定 150,000円
区域守護個体・討伐情報 50,000円
合計 200,000円
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「さらに二十万円……」
「素材の分配金と合わせ、一城さんへ本日支払われる金額は五十万円です」
「五十万円……」
会社員だった頃の手取り月収を、二倍以上も上回っている。
それを、わずか数時間の調査で得てしまった。
もちろん、美咲さんと高橋さんがいなければ帰ってこられなかった可能性もある。
簡単に稼いだ金だとは思わない。
「今後も、希少区域の調査へ協力していただけますか?」
「はい。俺自身も、あの場所についてもっと知りたいです」
高橋さんへ答えると、美咲さんが明るく笑った。
「護衛が必要な時は、私にも声を掛けてくださいね」
「お願いしてもいいんですか?」
「もちろんです。次は一城さんに無茶をさせません」
「気を付けます……」
「本当ですか?」
「多分」
「そこは断言してください」
三人で顔を見合わせ、自然と笑いがこぼれた。
生活費を得るために始めたダンジョン探索。
だが今では、俺の中に別の気持ちが芽生えていた。
誰も知らない場所を見つけたい。
隠された条件を解き明かしたい。
そして、残る三つのシリーズ装備を集めたい。
俺は初めて、探索者という仕事を続けていきたいと思っていた。
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