13話「黄金王スライム」
巨大な黄金色の身体が、頭上を覆い隠す。
「防壁、展開!」
高橋さんが腰の魔導具を操作した。
半透明の青い壁が、俺たちの前へ広がる。
直後、ゴールデンキングスライムが地面へ落下した。
「うわっ!」
激しい衝撃が草原全体を揺らす。
青い防壁に亀裂が走り、俺たちの身体が後ろへ弾き飛ばされた。
地面を転がりながらも、何とか鉄ナイフを離さずに済んだ。
「一城さん、大丈夫ですか!?」
「はい!」
力の結晶飴とスライムの指輪のおかげか、以前より身体が動く。
すぐに立ち上がり、高橋さんの状態を確認する。
「私は問題ありません。ただし、防壁の残り使用回数は二回です」
三度目の攻撃は防げない。
ゴールデンキングスライムが、その巨体をゆっくりと起こす。
身体の表面が波打ち、無数の黄金色の雫が浮かび上がった。
「また攻撃が来ます!」
雫が弾丸のように放たれた。
美咲さんが俺たちの前へ出る。
スライムの短剣を振るい、迫ってくる雫を弾き落とした。
全ては防ぎ切れない。
高橋さんが二度目の防壁を展開し、残った雫を受け止める。
「これで、あと一回です」
「長期戦は無理ですね」
美咲さんがゴールデンキングスライムへ駆け出した。
黄金色の弾丸を左右へ躱し、巨体の側面へ回り込む。
「はぁっ!」
スライムの短剣が黄金色の身体を斬り裂いた。
だが、刃は表面へ僅かに食い込んだだけだった。
「硬い……!」
ゴールデンキングスライムが身体を大きく振る。
美咲さんは後ろへ跳び、迫る巨体を寸前で躱した。
普通のゴールデンスライムとは、耐久力も攻撃力もまるで違う。
「何か、倒す方法があるはずだ」
俺はゴールデンキングスライムの動きへ意識を集中させる。
名称やドロップ率だけでは足りない。
あの身体が攻撃を弾く理由。
倒すための条件。
それを知りたいと強く意識し、『解析鑑定』を発動した。
◇____________________
『黄金王スライム』
『防御特性:外膜による衝撃分散』
『通常攻撃への耐性:高』
『核の位置:身体中央部』
『核露出条件:跳躍攻撃失敗時』
『補足:硬質物との衝突により、外膜が一時的に硬直』
____________________◇
「跳躍攻撃を失敗させれば、核が露出する……!」
周囲を見回す。
少し離れた場所に、ゴールデンスライムを追い込むために使っていた巨大な岩がある。
「あの岩へぶつけられれば!」
俺の声に、美咲さんが反応する。
「何か分かったんですか?」
「跳躍攻撃の直後だけ、身体の中心にある核が露出します! あの岩へ誘導してください!」
「分かりました!」
美咲さんは迷わず巨大な岩へ向かって走る。
ゴールデンキングスライムの正面へ立ち、短剣を構えた。
「こっちよ!」
黄金色の雫を飛ばしながら、ゴールデンキングスライムが美咲さんを追う。
俺と高橋さんは、攻撃に巻き込まれないよう反対側へ移動した。
希少区域の残り時間を確認する。
◇____________________
『残り時間:7分18秒』
____________________◇
「あと七分……」
時間切れになれば、自動的に区域の外へ戻される。
それまで逃げ続ける方法もある。
だが、高橋さんの防壁は残り一回。
美咲さんが攻撃を受ければ、無事では済まない。
ゴールデンキングスライムが身体を縮ませた。
「来ます!」
美咲さんが巨大な岩を背にして構える。
黄金色の身体が勢いよく跳び上がった。
落下する直前、美咲さんが横へ跳ぶ。
目標を失ったゴールデンキングスライムは、勢いを止められない。
巨大な身体が、岩へ正面から衝突した。
鈍い音が草原へ響く。
「今です!」
衝突したゴールデンキングスライムの身体が、不自然に硬直していた。
黄金色の外膜が薄くなり、中心部にある赤みを帯びた核が透けて見える。
美咲さんが駆け出す。
その時、俺はドロップ品にあった『スライムの腕輪』を強く意識した。
指輪と同じシリーズ装備なら、何か条件が存在するかもしれない。
新しい解析結果が表示される。
◇____________________
『スライムの腕輪』
『基本ドロップ率:5%』
『特殊取得条件』
・スライムシリーズ装備者が戦闘へ参加
・区域守護個体へ直接攻撃を一度以上行う
『条件達成時ドロップ率:100%』
____________________◇
「俺が攻撃すれば、必ず出る……?」
右手には、スライムの指輪を装着している。
だが、ゴールデンキングスライムへ攻撃するには、危険な距離まで近付かなければならない。
「一城さん、離れていてください!」
美咲さんが叫ぶ。
このまま美咲さんが核を破壊すれば、俺たちは助かる。
腕輪のためだけに危険を冒すべきではない。
それでも、解析結果にはもう一つ気になる点があった。
核はまだ、完全には露出していない。
外膜の一部が、美咲さんの進路を塞いでいる。
「美咲さん! 右側の外膜を開きます!」
「えっ?」
俺は鉄ナイフを握り、ゴールデンキングスライムへ向かって走った。
力の結晶飴で上がった筋力。
スライムの指輪で上がった敏捷性。
どちらも僅かな効果だが、以前より身体は確実に動いている。
黄金色の外膜へ鉄ナイフを突き刺す。
「くっ……!」
硬い手応え。
それでも両手で柄を握り、外側へ向かって切り開く。
外膜の隙間が大きくなり、身体中央の核が露出した。
「今です!」
「任せて!」
美咲さんのスライムの短剣が、露出した核へ突き刺さった。
ゴールデンキングスライムの巨体が大きく震える。
「一城さん、離れて!」
美咲さんに腕を引かれ、二人で後ろへ跳ぶ。
次の瞬間、黄金色の身体が激しく膨張した。
「最後の防壁を使います!」
高橋さんが魔導具を起動する。
青い防壁が展開された直後、ゴールデンキングスライムの身体が弾けた。
黄金色の衝撃が防壁へ叩き付けられる。
亀裂が広がり、青い壁が砕け散った。
俺たちは再び地面へ投げ出される。
「今度こそ……どうだ?」
顔を上げる。
ゴールデンキングスライムの身体が、内側から細かな粒子へ変わっていく。
黄金色の光が風に乗り、空へ昇っていった。
「倒した……」
美咲さんが、その場へ座り込む。
高橋さんも大きく息を吐き、停止した防壁魔導具を下ろした。
「一城さん、無茶しすぎです」
「すみません……」
「でも、助かりました。外膜を開いてもらわなかったら、核まで届かなかったです」
俺も力が抜け、その場へ膝をついた。
草原には、三つの物が残されている。
王冠のような形をした大きな金色の結晶。
拳ほどの黄金色の魔核。
そして、青い石がはめ込まれた銀色の腕輪。
「腕輪が……出た」
特殊取得条件を満たした。
俺は腕輪を拾い上げ、『解析鑑定』を発動する。
◇____________________
『スライムの腕輪』
『品質:A』
『希少度:A』
『推定買取価格:60,000円』
『装備効果:耐久力を僅かに上昇』
『装着安全性:問題なし』
『シリーズ装備:2/5』
『シリーズ効果:未解放』
____________________◇
「二つ目……」
指輪と腕輪。
残るシリーズ装備は、あと三つ。
希少区域の残り時間は二分を切っていた。
それでも、腕輪を握る俺の胸には、恐怖よりも次の発見への期待が広がっていた。
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