131話「『鉄打ち』の真価」
『鉄打ち』へ意識を集中させると、半透明の白い文字がさらに増えていく。
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『詳細効果』
・打撃を重ねるほど、対象素材に含まれる不純物を除去する
・対象素材の内部にある魔力経路を整える
・製作へ掛けた時間に応じて、完成品の品質を上昇させる
『製作適性』
・希少素材の加工
・一点物の製作
『制限』
・効果の発揮には、長時間の鍛造が必要
・大量生産には不向き
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優莉さんが言っていたとおり、『鉄打ち』は一本を完成させるまでに長い時間が掛かる。
だが、その時間は無駄になっているわけではなかった。
鉄を打つたびに不純物を除き、素材の中にある魔力の通り道を整える。
さらに、時間を掛けるほど完成品の品質が上がっていく。
「優莉さん。『鉄打ち』は、普通の『鍛冶師』より劣っている技能ではありません」
「……本当ですか?」
「はい。大量生産には向いていませんが、希少素材や一点物を作ることに適した技能です」
俺にしか見えない解析結果を、一つずつ説明する。
「打撃を重ねるほど、素材の不純物が除かれます。それに、素材内部の魔力経路も整えられるようです」
「魔力経路まで……?」
優莉さんが、自分の両手を見つめる。
「でも、私が普通の鉄を打っても、少し品質が良うなるだけでした」
「量産する鉄製品なら、掛けた時間に見合わないこともあると思います」
安価な品を大量に作る仕事なら、短時間で十本を完成させられる『鍛冶師』の方が向いている。
だが、同じ素材を十本分も用意できない希少素材なら、話は変わる。
「一つしかない素材から、できるだけ良い物を作る。そのための技能なんだと思います」
優莉さんはすぐには答えなかった。
長い間、価値がないと言われ続けてきたのだ。
解析結果を聞いただけで、全てを信じることは難しいだろう。
「実際に、確かめてみますか?」
「確かめる……?」
「同じ鉄材を使い、打撃を重ねる途中で何度か解析します。本当に表示どおり変化するのか、一緒に確認しましょう」
女性職員が、優莉さんへ視線を向ける。
「今すぐ決める必要はありません。ご両親と相談してからでも大丈夫ですよ」
その日の夕方、優莉さんは京都から駆け付けた両親と再会した。
両親は、優莉さんの技能を調べたことを責めなかった。
本人が望むのなら、試作にも立ち会いたいと話してくれた。
優莉さんがもう一度鉄を打つと決めたのは、その二日後だった。
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店主である吾郎さんへ事情を話すと、取引のある工房から、一日だけ安全な作業場を借りてくれた。
「俺は鍛冶師じゃねえ。だが、探索者へ売る装備なら何本も見てきた。出来上がった品を見るくらいはできる」
「ありがとうございます、吾郎さん」
試作に使うのは、吾郎さんが用意した迷宮産の鉄材だった。
同じ塊から切り分けられた物も比較用に残してある。
炉の前へ立った優莉さんは、灰色の作業着の袖を捲る。
その手は僅かに震えていた。
「無理はしなくていいんですよ」
美咲さんが声を掛ける。
「はい。でも、打ってみたいです。私の技能が何をしてたんか、自分で確かめたいんです」
優莉さんは鉄材を炉へ入れた。
十分に熱したあと、赤く染まった鉄材を金床へ載せる。
振り下ろされた金槌が、甲高い音を響かせた。
一度。
二度。
三度。
急いで形を作るのではなく、熱と色を確かめながら、同じ場所へ丁寧に打撃を重ねていく。
俺は作業の妨げにならない位置から、鉄材へ『解析鑑定』を使用した。
最初は内部へ散っていた細かな不純物が、打撃を重ねるたびに減っている。
不規則に分かれていた魔力経路も、少しずつ一つの流れへ整えられていた。
「解析結果が変わりました。不純物が減っています。魔力経路の乱れも、最初より小さくなりました」
「……本当に、私が打ったから?」
「はい。今、この場で変化しています」
優莉さんは目元を拭い、もう一度金槌を握った。
炉へ戻し、熱し、打つ。
同じ工程を何度も繰り返す。
時間は掛かっている。
それでも、金槌が振り下ろされるたび、鉄材の状態は確実に良くなっていた。
◇
数時間後。
金床の上には、試験用の小刀が置かれていた。
華美な装飾はない。
だが、真っ直ぐに整えられた刃には、炉の明かりが歪まず映っている。
完成した小刀へ、『解析鑑定』を発動する。
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『試作鉄小刀』
『技能作用』
・素材内の不純物:大幅に減少
・素材内の魔力経路:均一化
・長時間鍛造による品質上昇:確認
『製作者』
・音無優莉
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「解析でも、三つの効果が全て確認できました」
俺が結果を伝えると、優莉さんの父親が小刀を手に取った。
刃を光へ翳し、背を軽く叩いて響きを確かめる。
「同じ鉄材なのに、鍛え上がりが今までより均一だ。これが、優莉の『鉄打ち』だったんだな」
母親も、傷の残る優莉さんの手を両手で包んだ。
店主さんは比較用に残した鉄材と小刀を見比べ、腕を組む。
「店で同じ品を十本並べるなら、普通の『鍛冶師』へ頼む。だが、探索者の命を預ける一本なら、少しでも良い物を選ぶ」
そして、小刀を見つめたまま続ける。
「希少素材は、同じ物を十本分も用意できねえ。一つの素材から、どこまで良い一本を作れるかが大事だ。『鉄打ち』を必要とする仕事は、間違いなくある」
優莉さんが、完成した小刀を胸元へ抱く。
「私、役に立たへんわけやなかったんですね」
「はい。作る物に合った場所を、見つけられていなかっただけです」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
少し離れた場所から見守っていたシズクとユキも、揃って返事をする。
優莉さんの表情が、僅かに緩んだ。
「まだ、怖いです。鉄を打ってた時に言われたことも、すぐには忘れられへんと思います」
それでも、両手に抱いた小刀からは目を逸らさなかった。
「でも、もう一度打ってみたいです。今度は急かされるためやなく、私が作りたい一本を、時間を掛けて作ってみたいです」
一本へ時間を掛けることは、優莉さんの欠点ではない。
それこそが、『鉄打ち』の価値を引き出すために必要な時間だった。




