↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
131/160

131話「『鉄打ち』の真価」


 『鉄打ち』へ意識を集中させると、半透明の白い文字がさらに増えていく。



 ◇____________________


 『詳細効果』

 ・打撃を重ねるほど、対象素材に含まれる不純物を除去する

 ・対象素材の内部にある魔力経路を整える

 ・製作へ掛けた時間に応じて、完成品の品質を上昇させる


 『製作適性』

 ・希少素材の加工

 ・一点物の製作


 『制限』

 ・効果の発揮には、長時間の鍛造が必要

 ・大量生産には不向き


 ____________________◇



 表示された内容を、最初から読み直す。


 優莉さんが言っていたとおり、『鉄打ち』は一本を完成させるまでに長い時間が掛かる。

 だが、その時間は無駄になっているわけではなかった。


 鉄を打つたびに不純物を除き、素材の中にある魔力の通り道を整える。

 さらに、時間を掛けるほど完成品の品質が上がっていく。


「優莉さん。『鉄打ち』は、普通の『鍛冶師』より劣っている技能ではありません」

「……本当ですか?」

「はい。大量生産には向いていませんが、希少素材や一点物を作ることに適した技能です」


 俺にしか見えない解析結果を、一つずつ説明する。


「打撃を重ねるほど、素材の不純物が除かれます。それに、素材内部の魔力経路も整えられるようです」

「魔力経路まで……?」


 優莉さんが、自分の両手を見つめる。


「でも、私が普通の鉄を打っても、少し品質が良うなるだけでした」

「量産する鉄製品なら、掛けた時間に見合わないこともあると思います」


 安価な品を大量に作る仕事なら、短時間で十本を完成させられる『鍛冶師』の方が向いている。

 だが、同じ素材を十本分も用意できない希少素材なら、話は変わる。


「一つしかない素材から、できるだけ良い物を作る。そのための技能なんだと思います」


 優莉さんはすぐには答えなかった。

 長い間、価値がないと言われ続けてきたのだ。

 解析結果を聞いただけで、全てを信じることは難しいだろう。


「実際に、確かめてみますか?」

「確かめる……?」

「同じ鉄材を使い、打撃を重ねる途中で何度か解析します。本当に表示どおり変化するのか、一緒に確認しましょう」


 女性職員が、優莉さんへ視線を向ける。


「今すぐ決める必要はありません。ご両親と相談してからでも大丈夫ですよ」


 その日の夕方、優莉さんは京都から駆け付けた両親と再会した。

 両親は、優莉さんの技能を調べたことを責めなかった。

 本人が望むのなら、試作にも立ち会いたいと話してくれた。


 優莉さんがもう一度鉄を打つと決めたのは、その二日後だった。



 ◇



 店主である吾郎さんへ事情を話すと、取引のある工房から、一日だけ安全な作業場を借りてくれた。


「俺は鍛冶師じゃねえ。だが、探索者へ売る装備なら何本も見てきた。出来上がった品を見るくらいはできる」

「ありがとうございます、吾郎さん」


 試作に使うのは、吾郎さんが用意した迷宮産の鉄材だった。

 同じ塊から切り分けられた物も比較用に残してある。


 炉の前へ立った優莉さんは、灰色の作業着の袖を捲る。

 その手は僅かに震えていた。


「無理はしなくていいんですよ」


 美咲さんが声を掛ける。


「はい。でも、打ってみたいです。私の技能が何をしてたんか、自分で確かめたいんです」


 優莉さんは鉄材を炉へ入れた。

 十分に熱したあと、赤く染まった鉄材を金床へ載せる。


 振り下ろされた金槌が、甲高い音を響かせた。


 一度。

 二度。

 三度。


 急いで形を作るのではなく、熱と色を確かめながら、同じ場所へ丁寧に打撃を重ねていく。


 俺は作業の妨げにならない位置から、鉄材へ『解析鑑定』を使用した。


 最初は内部へ散っていた細かな不純物が、打撃を重ねるたびに減っている。

 不規則に分かれていた魔力経路も、少しずつ一つの流れへ整えられていた。


「解析結果が変わりました。不純物が減っています。魔力経路の乱れも、最初より小さくなりました」

「……本当に、私が打ったから?」

「はい。今、この場で変化しています」


 優莉さんは目元を拭い、もう一度金槌を握った。


 炉へ戻し、熱し、打つ。

 同じ工程を何度も繰り返す。


 時間は掛かっている。

 それでも、金槌が振り下ろされるたび、鉄材の状態は確実に良くなっていた。



 ◇



 数時間後。


 金床の上には、試験用の小刀が置かれていた。

 華美な装飾はない。

 だが、真っ直ぐに整えられた刃には、炉の明かりが歪まず映っている。


 完成した小刀へ、『解析鑑定』を発動する。



 ◇____________________


 『試作鉄小刀』


 『技能作用』

 ・素材内の不純物:大幅に減少

 ・素材内の魔力経路:均一化

 ・長時間鍛造による品質上昇:確認


 『製作者』

 ・音無優莉


 ____________________◇



「解析でも、三つの効果が全て確認できました」


 俺が結果を伝えると、優莉さんの父親が小刀を手に取った。

 刃を光へ翳し、背を軽く叩いて響きを確かめる。


「同じ鉄材なのに、鍛え上がりが今までより均一だ。これが、優莉の『鉄打ち』だったんだな」


 母親も、傷の残る優莉さんの手を両手で包んだ。

 店主さんは比較用に残した鉄材と小刀を見比べ、腕を組む。


「店で同じ品を十本並べるなら、普通の『鍛冶師』へ頼む。だが、探索者の命を預ける一本なら、少しでも良い物を選ぶ」


 そして、小刀を見つめたまま続ける。


「希少素材は、同じ物を十本分も用意できねえ。一つの素材から、どこまで良い一本を作れるかが大事だ。『鉄打ち』を必要とする仕事は、間違いなくある」


 優莉さんが、完成した小刀を胸元へ抱く。


「私、役に立たへんわけやなかったんですね」

「はい。作る物に合った場所を、見つけられていなかっただけです」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 少し離れた場所から見守っていたシズクとユキも、揃って返事をする。

 優莉さんの表情が、僅かに緩んだ。


「まだ、怖いです。鉄を打ってた時に言われたことも、すぐには忘れられへんと思います」


 それでも、両手に抱いた小刀からは目を逸らさなかった。


「でも、もう一度打ってみたいです。今度は急かされるためやなく、私が作りたい一本を、時間を掛けて作ってみたいです」


 一本へ時間を掛けることは、優莉さんの欠点ではない。

 それこそが、『鉄打ち』の価値を引き出すために必要な時間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。