123話「支援と回復の結晶」
翌日。
俺たちは、探索者協会本部の従魔検査室を再び訪れていた。
検査台の上には、第十一層から第十三層で集めた素材が並んでいる。
支援結晶の欠片が七個。
回復結晶の欠片が七個。
二つの精霊の結晶核。
その前では、ユキが純白の身体を何度も伸ばしていた。
「ぴるるっ!」
「昨日から、ずっと気にしてたもんな」
「ぴるっ!」
ユキの頭上にある結晶冠が、明るく光る。
一晩休んだ事で、ユキの魔力も完全に回復していた。
「ぷるっ!」
シズクもユキの隣へ並び、検査台の上を覗き込んでいる。
四枚の羽を小さく動かしながら、自分のことのように楽しみにしていた。
「まずは、結晶を復元できるか確認しましょう」
豹堂先生が測定器を操作する。
検査台の周囲にある装置が動き、十四個の欠片と二つの結晶核へ順番に光を当てた。
「欠片には欠損が見られますが、内部の魔力構造は安定しています。二つの精霊の結晶核にも、汚染や異常な魔力反応はありません」
「一緒にしても危険はありませんか?」
「現時点で危険な反応は確認されていません。ただし、完成した結晶が同じ状態になるとは限りません。復元後に、もう一度検査します」
髙橋さんも、少し離れた場所でタブレット端末へ記録を残している。
「一城さんの解析鑑定では、復元可能と表示されたのですね?」
「はい。同じ種類の欠片七個と、精霊の結晶核一個が必要だと表示されました」
俺は、検査台へ解析鑑定を発動した。
◇____________________
『結晶復元:支援結晶』
『必要素材』
・支援結晶の欠片:7/7
・精霊の結晶核:1/1
『復元方法』
・精霊の結晶核を中心へ配置
・七個の欠片を結晶核へ接触
・外部からの魔力供給:不要
『成功率』
・100%
____________________◇
「精霊の結晶核を中心へ置き、七個の欠片を触れさせれば復元できます。外から魔力を流す必要はありません」
「それなら、魔力同士が自然に結び付くのだと思います」
豹堂先生が、透明な検査容器を用意した。
「一城さん。解析結果を確認しながら、素材を配置していただけますか?」
「分かりました」
手袋を着け、最初の精霊の結晶核を容器の中心へ置く。
無色透明だった結晶核の内部で、小さな光が揺れた。
その周囲へ、白い光を宿した支援結晶の欠片を一個ずつ並べていく。
「ぴる……」
「ぷる……」
ユキとシズクが、容器の両側から覗き込んでいる。
「最後の一個を置くぞ」
七個目の欠片を、精霊の結晶核へ触れさせた。
直後、全ての欠片が白く輝いた。
「ぴるっ!」
「ぷるっ!」
七個の欠片が、中心の結晶核へ引き寄せられていく。
欠けた部分同士が繋がり、ゆっくりと一つの結晶を形作った。
境目から白い光が溢れ、細い線となって結晶の内部へ沈んでいく。
やがて光が収まる。
容器の中心には、白く澄んだ結晶が残されていた。
表面に、欠片を繋ぎ合わせた跡はない。
解析鑑定の表示が変わる。
◇____________________
『結晶復元:成功』
『名称』
・支援結晶
『効果』
・適合者へ支援技能を付与
『適合候補』
・ユキ
『状態』
・安定
____________________◇
「支援結晶の復元に成功しました」
「こちらでも確認できました」
豹堂先生が測定器へ表示された数値を確かめる。
「続けて、回復結晶を復元しましょう」
二つ目の検査容器へ、残っている精霊の結晶核を置く。
今度は、淡い緑色の光を宿した回復結晶の欠片を周囲へ並べた。
七個目を結晶核へ触れさせる。
緑色の光が検査容器の中へ広がった。
七個の欠片が中心へ集まり、一つの結晶へ変わっていく。
支援結晶と同じように、欠けていた痕跡は残らなかった。
光が収まると、淡い緑色の結晶が容器の中心へ浮かんでいた。
◇____________________
『結晶復元:成功』
『名称』
・回復結晶
『効果』
・適合者へ回復技能を付与
『適合候補』
・ユキ
『状態』
・安定
____________________◇
「二つとも、無事に復元できましたね」
美咲さんが、白と緑の結晶を見比べる。
「はい。ですが、ユキさんが使用できるか、改めて確認します」
豹堂先生が二つの検査容器を、測定装置の中央へ移動させた。
白い光と緑色の光が、順番に結晶へ当たる。
測定装置には、それぞれ異なる魔力の波形が表示された。
「支援結晶と回復結晶の魔力構造は安定しています。毒性、汚染、異常な精神干渉もありません」
「ユキの従魔核とは適合していますか?」
「はい。二つとも適合反応があります」
豹堂先生が、ユキへ視線を向ける。
「ただし、同時に使用するのではなく、一つずつ取り込んでもらいます。一つ目を使用したあと、従魔核に異常がないことを確認してから、二つ目へ進みます」
「分かりました」
俺は検査台の前へ移動した。
「ユキ。最初は支援結晶だ」
「ぴるっ」
「さあ、行っておいで」
「ぴるるっ!」
ユキが迷いなく身体を伸ばす。
「それでは、初めますね」
豹堂先生が復元した支援結晶を固定台座から外し、ユキの正面へと置く。
「ぴるっ!」
ユキが、白い支援結晶の前まで跳ねていった。
一度だけ俺を見上げてから、身体の先端を結晶へ触れさせる。
白い結晶が、ユキの身体の中へ沈んだ。
結晶冠が強く輝く。
白い光が従魔核を中心に広がり、ユキの身体へ新しい魔力経路を作っていく。
二枚の白銀鎧と純白の魔法盾も光へ反応したが、ユキは動かさなかった。
新しい力を確かめることへ集中している。
「ぴる……!」
白い光が一度だけ大きく膨らみ、従魔核へ吸収された。
◇____________________
『支援結晶の使用を確認』
『対象』
・ユキ
『新規技能』
・支援魔法
『現在効果』
・パーティメンバーの能力値を一割上昇
『効果時間』
・十分間
『技能強化』
・魔石結晶による強化が可能
・能力値上昇効果:最大五割
『状態』
・良好
____________________◇
「支援魔法を習得しました」
表示された内容を、髙橋さんが記録する。
「パーティメンバー全員の能力値を、一割上昇させられる魔法ですか?」
「はい。解析鑑定では、そう表示されています。効果時間は十分間です」
「一割でも、複数人へ同時に作用するなら大きな効果ですね」
美咲さんの言うとおりだ。
俺と美咲さんだけでなく、シズクにも効果が及ぶ。
戦闘中に使えれば、パーティ全体の力を大きく引き上げられる。
だが、効果が大きいからこそ、必要な魔力量も少なくはないはずだ。
「従魔核と魔力経路に異常はありません」
豹堂先生が測定結果を確認する。
「少し時間を置きます。ユキさん、気分が悪いところはありませんか?」
「ぴるっ!」
ユキが元気よく返事をする。
「ぷるるっ!」
シズクがユキへ近付き、祝うように身体を押し付けた。
ユキも嬉しそうに押し返す。
しばらく待っても、測定値に変化はなかった。
「二つ目へ進んでも問題ありません」
「ユキ。次は回復結晶だ」
「ぴるっ」
「傷付いた相手を治す魔法を覚えられる。これも使いたいか?」
「ぴるるっ!」
返事を聞き、豹堂先生が回復結晶もユキの側へと置いた。
ユキが淡い緑色の回復結晶へ触れる。
結晶が柔らかな身体の中へ沈んだ。
「ぴる……」
今度は、淡い緑色の光が従魔核を包む。
白い支援魔法とは違い、暖かな光だった。
ユキの身体を一周した光が、新しく作られた魔力経路へゆっくりと流れ込んでいく。
最後に結晶冠が緑色へ輝き、光が収まった。
◇____________________
『回復結晶の使用を確認』
『対象』
・ユキ
『新規技能』
・回復魔法
『現在効果』
・初級回復
・通常の回復薬と同等の割合で対象を回復
『技能強化』
・魔石結晶による強化が可能
・中級回復
・上級回復
『状態』
・良好
____________________◇
「回復魔法も習得しました」
「ぴるっ!」
ユキが嬉しそうに跳ねる。
頭上の結晶冠が、白と緑の光を交互に放った。
二枚の白銀鎧もユキの周囲を回り、純白の魔法盾が高く浮かび上がる。
「ぷるっ! ぷるるっ!」
「ぴるるっ!」
シズクも四枚の羽で飛び上がり、ユキの周囲を一周した。
「二つとも覚えられてよかったな」
「ぴるっ!」
「現在の回復量は、普通の回復薬と同じなのですね」
美咲さんが表示を確認する。
「魔石結晶による強化が進めば、中級回復と上級回復まで成長できるみたいだ」
支援魔法も、現在は能力値を一割上げる効果だ。
魔石結晶による強化を重ねれば、最終的には五割まで上昇させられる。
だが、強くなった効果を使うためには、それだけ多くの魔力が必要になる可能性もある。
「ユキさんの基礎魔力量は、魔石結晶によって倍加しています」
豹堂先生が、現在の魔力量を表示した。
「それでも、現在のシズクさんほど多くはありません。シズクさんは複数の魔石結晶を使用し、進化も経験しています」
「ぷるっ」
「ぴる……」
ユキがシズクを見る。
シズクは四枚の羽を動かし、ユキの前でゆっくりと一周した。
「比べて焦る必要はありませんよ」
豹堂先生が、穏やかな声で続ける。
「ユキさんには、白銀鎧二枚と純白の魔法盾もあります。三つの防具を動かしながら支援魔法や回復魔法を使えば、魔力消費は急激に増える可能性があります」
「やはり、すぐに迷宮で使わせるのは危険ですね」
「はい。まずは地上で、一つずつ練習してください」
ユキが、覚えたばかりの魔法を確かめるように伸び縮みする。
「ぴるっ!」
白い光が、ユキの身体から僅かに漏れた。
「ユキ」
「ぴる?」
「覚えたばかりの魔法は、迷宮ではまだ使っちゃ駄目だからな?」
「ぴる……?」
ユキの身体が、少しだけ傾く。
「使うなって言っているわけじゃない。自分で魔力を制御できるようになるまでは、迷宮では使わないでほしいんだ」
俺は、ユキの前へしゃがんだ。
「三つの防具を動かしながら魔法を使って、魔力が無くなったらユキ自身が危険になる。誰かを助けようとして、ユキが倒れたら困る」
「ぴる……」
「シズクも、魔法を覚えてすぐに自由に使えたわけじゃない。地上で何度も練習して、どれだけ魔力を使うのか覚えたんだ」
「ぷるっ!」
シズクが大きく身体を伸ばす。
「ぷるるっ!」
任せてほしいと伝えるように、四枚の羽を広げた。
ユキもシズクを見上げる。
「明日から、シズクにも手伝ってもらって練習しよう。支援魔法と回復魔法を自分で止められるようになったら、迷宮でも使っていい」
「ぴる……」
「それまでは、俺が使っていいと言うまで我慢できるか?」
「ぴるっ!」
ユキが、今度は迷いなく返事をした。
「約束だぞ」
「ぴるるっ!」
ユキが俺の腕へ飛び付き、柔らかな身体を押し付ける。
「ぷるっ!」
シズクも反対側の腕へ飛び付いた。
「ふふ、シズクもユキも明日の訓練を楽しみにしているみたいですね」
「ああ。ユキより、シズクの方が張り切ってるように見えるな」
「ぷるるっ!」
「ぴるるっ!」
二体が競うように身体を伸ばす。
ユキは新しく二つの魔法を覚えた。
だが、新しい力を得ることと、その力を安全に使えることは同じではない。
まずは、自分の魔力を知ること。
そして、必要な時に必要な分だけ使えるようになること。
明日から、ユキの新しい魔法訓練が始まる。




