118話「メグの適性検査」
メグが斉藤夫妻と夫婦共同従魔契約を結んだ翌日。
俺たちは、探索者協会本部の従魔登録検査室を訪れていた。
検査台の上には、淡い橙色の身体をしたメグ。
その両側に明里さんと斉藤さんが立っている。
俺と美咲さんは、支援スライムに関する記録を残すため、シズクとユキを連れて検査へ立ち会っていた。
「りるっ!」
初めて来る場所でも、メグから不安はほとんど感じない。
これから新しい仕事を覚えられると分かっているのか、検査職員が道具を準備する様子を興味深そうに見つめている。
「最初に、従魔登録を行います」
明里さんが、昨日使った『従魔契約証』を検査職員へ渡す。
登録装置へ契約証を置くと、記録されていた淡い橙色の光が表面へ浮かび上がった。
装置が、従魔契約証へ記録された三人の魔力と、メグの従魔核を照合していく。
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『従魔登録』
『個体名』
・メグ
『種族』
・支援スライム
『契約方式』
・夫婦共同従魔契約
『主契約者』
・斉藤明里
『共同契約者』
・斉藤涼介
『契約状態』
・良好
『従魔契約証』
・登録済み
__________________◇
「夫婦共同従魔契約での登録が完了しました」
「ありがとうございます」
登録済みとなった従魔契約証が、明里さんへ返される。
これで、メグは探索者協会にも斉藤夫妻の従魔として正式に認められた。
メグにも従魔登録章が装着された。
シズクとユキとお揃いである。
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
「りるっ!」
お揃いだと分かるのか、三匹とも嬉しそうに身体を伸ばした。
◇
続いて、医務課の豹堂綾乃先生による衛生検査が始まった。
「メグさん。少しだけ光を当てますね」
「りるっ」
透明な測定器が検査台を覆い、淡い白色の光がメグの身体を上から下へ通り抜ける。
「ぷるっ」
「ぴるっ」
近くで見守るシズクとユキが、応援するように身体を伸ばした。
メグも二体を真似て大きく伸びる。
豹堂先生が、測定器に表示された数値を確認した。
◇__________________
『衛生検査』
『対象』
・メグ
『体表清浄度』
・正常
『検査結果』
・病原性反応:なし
・毒性反応:なし
・身体組織の分離:なし
『調理施設衛生基準』
・適合
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「衛生面に問題はありません。次に、調理作業と生産支援能力の適性検査へ移ります」
「りるるっ!」
メグが嬉しそうに跳ねた。
◇
隣の検査調理室には、二つの調理台と同じ食材が用意されていた。
作る料理は、鶏肉と根菜の柔らか煮。
メグが薬草庭園で初めて食べ、明里さんの手伝いをしたいと思うきっかけになった料理だ。
「最初に私が一人分を作ります。メグちゃんは、よく見ていてくださいね」
「りるっ!」
明里さんが鶏肉と根菜を切り、鍋へ入れていく。
沸騰する直前に火を弱め、灰汁を取り、調味料を加える。
メグは調理台の端から、一度も目を逸らさなかった。
「同じ料理を作れるかな?」
「りるっ!」
メグが身体の一部を二本、細く伸ばす。
一方の先で包丁の柄を包み、もう一方で食材を押さえた。
刃へ身体を近付けず、明里さんと同じ大きさへ鶏肉と根菜を切っていく。
鶏肉を切り終えると、包丁とまな板、食材へ触れていた身体の先まで洗ってから根菜へ移った。
鍋へ食材を入れる順番も、火を弱める時機も正しい。
調味料を量り終えたところで、メグが一度動きを止めた。
「りるっ」
小皿へ取った煮汁へ身体の先を僅かに触れさせ、味を確かめる。
そのあと、調味料ではなく出汁を少しだけ加え、煮込む時間を長くした。
「私の手順を、そのまま繰り返したわけではないんですね」
「材料の状態を見て、自分で調整したみたいです」
完成した柔らか煮へ『解析鑑定』を発動させる。
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『鶏肉と根菜の柔らか煮』
『調理者』
・メグ
『品質:A』
『安全性』
・問題なし
『調理判定』
・模倣した調理手順:正常
・火器及び刃物の使用:正常
・味の独自調整:成功
『調理強化』
・発動中
・発動技能:技能透写
・透写元:斉藤明里
・摂取者の体力と魔力の自然回復を促進
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「技能透写……?」
料理へ表示された見慣れない技能名へ意識を向ける。
続いてメグ自身へ『解析鑑定』を発動させ、保有する能力を詳しく確認した。
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『個体名:メグ』
『種族』
・支援スライム
『特性』
・模倣
『模倣』
・観察した作業手順を再現
・材料の状態に応じた調整が可能
『技能』
・技能透写
『技能透写』
・主契約者が使用したスキルの効果を読み取り、自身の魔力で再現
・透写対象は主契約者の保有スキルのみ
・共同契約者及び第三者の保有スキルは透写不可
『現在の透写スキル』
・斉藤明里の『調理強化』
『透写状態』
・安定
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「メグには、作業手順を覚える『模倣』の特性と、スキルの効果を再現する『技能透写』があります」
「『模倣』と『技能透写』。もしかして、メグちゃんは私の『調理強化』を再現することができるんですか?」
「はい。『模倣』では、スキルの効果まで再現できませんが、『調理強化』が発動しているのは、『技能透写』で明里さんのスキルを透写しているからです」
「すごいわ、メグちゃん!」
「りるるっ?」
メグは明里さんに褒められ、嬉しそうにしているが、なんで褒められたのかはよく分かっていないみたいだ。
俺は、もう少し調べるため、解析表示をさらに確認する。
「ただし、透写できるのは、主契約者である明里さんのスキルだけみたいです。共同契約者の斉藤さんや、ほかの人のスキルは対象になりません」
「俺が教える作業手順は、『模倣』で覚えられるってことか?」
「はい。ただ、専門知識は別に覚える必要があるみたいです」
「りるっ!」
メグが、三人の言葉へ答えるように身体を伸ばした。
検査職員が一口食べ、続いて明里さんと斉藤さんも味を確かめる。
「私の料理より、少し優しい味ですね」
「ああ。根菜の甘みも、しっかり出てる。メグが自分で作った味だな」
「りるるっ!」
褒められたメグの身体が、大きく膨らんだ。
「味と品質、安全性に問題はありません。『模倣』による調理手順と、『技能透写』による調理強化の発動も正常です」
検査職員が、端末へ結果を登録する。
「メグさんの調理従事を許可します」
「良かったですね、メグちゃん」
「りるっ!」
◇
最後は、斉藤さんの調合補助と薬草処理に関する検査だった。
「メグ。まずは俺の手元を見ててくれ」
「りるっ」
斉藤さんが、検査用に用意された薬花草を選別する。
傷んだ部分を取り除き、細かく刻み、石鉢へ入れた。
メグは石鉢が動かないように身体で支え、斉藤さんの合図に合わせて薬液を量る。
混ぜる速さを一定に保ち、温度が上がり過ぎると火から石鉢を離した。
「そのままでいい。助かるよ」
「りるるっ!」
調合補助に問題はない。
だが、検査職員が見た目の似た二種類の乾燥薬草を並べると、メグの動きが止まった。
「回復薬に使う方を選べますか?」
「りる……」
メグは二種類の薬草を交互に見たあと、どちらにも触れず、斉藤さんを見上げた。
「分からないなら、勝手に選ばなくていい。それで正解だ」
斉藤さんが、メグの身体へ手を添える。
「薬草の種類と薬効は、これから俺と薬草スライムたちに教わればいい」
「りるっ!」
俺もメグへ『解析鑑定』を発動させた。
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『メグ・生産支援適性』
『調合補助』
・適性あり
・計量、攪拌、温度管理:可能
『薬草処理』
・指示された洗浄、乾燥、切り分け:可能
・薬草の種類判別:知識不足
・薬効判別:知識不足
『模倣による習得』
・作業手順:可能
・専門知識:習得には継続学習が必要
『推奨指導者』
・斉藤涼介
・薬草スライムたち
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「動作は覚えられても、薬草の知識まで同時に得られるわけではないみたいです」
「それで十分だ。知識は、これから一緒に覚えていけばいい」
「りるっ!」
メグが迷いなく身体を伸ばした。
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『従魔登録・適性検査』
『個体名』
・メグ
『検査結果』
・従魔登録:承認
・衛生検査:合格
・調理従事許可:承認
・模倣:正常
・技能透写:正常
・調理強化:正常
・調合補助:承認
・薬草処理:指導者の指示下で承認
『承認された作業』
・調理作業
・調合補助
・指導者の指示下での薬草処理
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「これで、明日からメグさんも調理場と調合室で働けます」
「メグちゃん。まずは、私と一緒にお昼の料理を作りましょうね」
「りるっ!」
「薬草の勉強も、少しずつ始めような」
「りるるっ!」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも、メグの合格を祝うように身体を伸ばす。
薬草庭園で仕事を探していたメグには、探索者食堂の調理場と協会指定の調合室という、二つの新しい働き場所ができた。




