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117話「メグと斉藤夫妻の共同従魔契約」


 支援スライムから伝わってくる願いは、はっきりしていた。


 明里さんと斉藤さん。

 二人のそばで、二人の仕事を手伝いたい。

 そんな思いが強く伝わってくる。


 俺はその小さな身体へ『解析鑑定』を発動させた。



 ◇__________________


 『支援(サポート)スライム』


 『現在の希望』

 ・スライム達の薬草庭園からの移住

 ・斉藤明里との従魔契約

 ・斉藤涼介の作業補助


 『従魔契約意思』

 ・あり


 『契約判定』

 ・通常従魔契約:保留


 『特殊契約候補』

 ・夫婦共同従魔契約


 『契約者候補』

 ・斉藤明里

 ・斉藤涼介


 __________________◇



「この子には、従魔契約の意思があります」

「私と、ですか?」

「はい。ただ、斉藤さんとの繋がりも望んでいるみたいです」


 明里さんが、隣に立つ斉藤さんを見上げる。

 支援スライムも、二人を順番に見るように身体の向きを変えた。


「りるっ」

「そうか。明里だけじゃなく、俺の仕事も手伝いたいんだな」

「りるるっ!」


 斉藤さんが腰を下ろし、淡い橙色の身体へ手を差し出す。

 支援スライムは手のひらへ身体を寄せたあと、明里さんの手にも触れた。


「俺は、この子と一緒に働きたい。明里は?」

「私もです。お願いしたい仕事が、たくさんありますよっ」

「りるっ!」


 三人の意思に呼応するように、新しい表示が現れた。



 ◇__________________


 『夫婦共同従魔契約』


 『主契約者候補』

 ・斉藤明里


 『共同契約者候補』

 ・斉藤涼介


 『契約従魔候補』

 ・支援スライム


 『成立条件』

 ・従魔本人の同意:確認

 ・主契約者の同意:確認

 ・共同契約者の同意:確認

 ・契約者間の婚姻関係:確認


 『契約状態』

 ・個体名未登録

 ・契約開始待機


 __________________◇



「二人と一緒に契約できるみたいです。明里さんが主契約者、斉藤さんが共同契約者として登録されます」

「そんな契約もあるのですね」


 美咲さんが、表示を読み上げる俺の隣で驚いた声を漏らす。


「契約する前に、この子の名前を決める必要があるみたいです」

「名前……」


 明里さんが、自分と斉藤さんの手へ交互に触れている支援スライムを見つめる。


 誰かの役に立つことを喜び、新しい仕事を覚えようとする子。

 薬草庭園で出会った、新しい仲間。


 少し考えたあと、明里さんが柔らかく笑った。


「誰かを支えて、たくさんの恵みを届ける子だから……メグちゃんはどうかな?」

「りる……?」


 支援スライムが、明里さんの手のひらへ身体を押し付ける。

 もう一度、名前を言って欲しいのか、大きく伸びた。


「メグちゃん」

「りるるっ!」


 明里さんの言葉に大きな喜びが返ってくる。

 名前を気に入ったようだ。



 ◇__________________


 『個体名登録』


 『個体名』

 ・メグ


 『名付け親』

 ・斉藤明里


 『名付け』

 ・受諾


 『夫婦共同従魔契約』

 ・契約可能


 __________________◇



 俺は、魔法鞄へ入れていた予備の『従魔契約証』を取り出し、平らな石畳の上へ置いた。

 契約証へ『解析鑑定』を発動させる。



 ◇__________________


 『従魔契約証』

 『品質:B』

 『状態:未登録』


 『契約方式』

 ・夫婦共同従魔契約


 『契約対象』

 ・主契約者:斉藤明里

 ・共同契約者:斉藤涼介

 ・契約従魔:メグ


 『契約条件』

 ・三者の契約意思:確認

 ・三者が同時に従魔契約証へ触れる


 __________________◇



「こちらの従魔契約証へ、三人で同時に触れてください」


「メグちゃん。私たちと一緒に来て、お仕事を手伝ってくれますか?」

「りるっ!」


 明里さんが、従魔契約証の右側に指を触れた。


「俺からも頼む。調合や薬草の仕事も、一緒に覚えていこう」

「りるるっ!」


 斉藤さんも、反対側に指を触れた。

 メグが二人を順番に見たあと、従魔契約証の中央へ身体を載せる。

 その瞬間、従魔契約証から淡い橙色の光が広がった。


 メグの内部にある従魔核と、二人の指先から三本の細い光が伸びる。

 三本の光は従魔契約証の中央で重なり、表面へ三人の名前を刻んだ。



 ◇__________________


 『夫婦共同従魔契約』


 『主契約者』

 ・斉藤明里


 『共同契約者』

 ・斉藤涼介


 『契約従魔』

 ・メグ


 『契約状態』

 ・成立

 ・良好


 『従魔契約証』

 ・契約記録:完了

 ・協会登録:未登録


 『庭園外への移動』

 ・可能


 __________________◇



「無事、契約が成立しました」


 契約内容の記録された従魔契約証を拾い上げ、明里さんへ渡す。

 メグが喜びを表すように、明里さんの手に身体を密着させた。


「メグが、すごく喜んでいるような気がします」


 明里さんが、嬉しそうにメグを見つめる。


「ああ。俺も、何となくだけど分かるよ」


 斉藤さんも、メグを撫でて優しい表情を浮かべている。


「りるっ!」


 メグが二人の元へ向かって跳ねる。

 明里さんと斉藤さんが両側から手を出し、淡い橙色の身体を一緒に受け止めた。


「ぷるるっ!」

「ぴるるっ!」


 シズクが二人の頭上を飛び、ユキが足元で嬉しそうに弾む。

 その周囲へ、薬草スライムたちと九体の支援スライムが集まってきた。


「ぽるっ!」

「ぽるっ!」

「りるっ!」

「りるるっ!」


 淡い緑色と淡い橙色の身体が、メグを囲むように並ぶ。

 一体ずつメグへ身体を触れさせ、新しい門出を祝うように大きく伸びた。


 メグから伝わってくるのは、別れの寂しさだけではない。

 仲間たちが背中を押してくれる喜びと、新しい場所で働ける期待が強く混ざっていた。


「また来ますからね、庭園のスライムさんともまた会えますよっ」

「りるっ!」


 明里さんが声を掛けると、メグが仲間たちへもう一度身体を伸ばした。



 ◇



 夫婦共同従魔契約によって、メグは庭園外へ移動できるようになった。

 メグは明里さんの腕から一度地面へ降りる。

 それから、片付けの時に運んでいた小さな空の容器を身体の上へ載せた。


「それも持ってきてくれるのですか?」

「りるっ」


 新しい家族の一員になっても、すぐに仕事を始めたいらしい。

 斉藤さんが小さく笑い、メグの身体から容器を取り上げた。


「帰り道は長いからそれは俺が持つよ。メグは明里と一緒にいてくれな」

「りるっ!」


 斎藤さんの声を聞き、メグが明里さんの腕へ嬉しそうに飛び込んだ。

 そのまま入口の淡い緑色の揺らぎを抜ける。


 外側で待っていた髙橋さんが、明里さんの腕にいるメグへ目を向けた。


「庭園の支援スライムですね」

「はい。私たちと一緒に来たいと望んでくれたので、夫婦で共同従魔契約を結びました。名前はメグちゃんです」

「りるっ!」


 明里さんの紹介に合わせ、メグが元気よく身体を伸ばす。

 続けて、契約内容の記録された従魔契約証を髙橋さんへ見せた。


「ええ、確認していました。従魔契約証と二機の探索レコーダーから、契約の成立も拝見しております」


 髙橋さんが、従魔契約証の内容とメグの状態を順番に確かめる。


「詳細は地上で確認しますね。本日はこのまま帰還し、明日、従魔登録と適性検査を行いましょう」

「分かりました」


 メグが明里さんの腕の中から、斉藤さんへ身体を伸ばす。

 斉藤さんがその小さな身体へ手を添えると、満足そうに丸くなった。

 仕事を探し続けていた支援スライムは、メグという名前と、二人を支える新しい役目を手に入れた。

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