117話「メグと斉藤夫妻の共同従魔契約」
支援スライムから伝わってくる願いは、はっきりしていた。
明里さんと斉藤さん。
二人のそばで、二人の仕事を手伝いたい。
そんな思いが強く伝わってくる。
俺はその小さな身体へ『解析鑑定』を発動させた。
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『支援スライム』
『現在の希望』
・スライム達の薬草庭園からの移住
・斉藤明里との従魔契約
・斉藤涼介の作業補助
『従魔契約意思』
・あり
『契約判定』
・通常従魔契約:保留
『特殊契約候補』
・夫婦共同従魔契約
『契約者候補』
・斉藤明里
・斉藤涼介
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「この子には、従魔契約の意思があります」
「私と、ですか?」
「はい。ただ、斉藤さんとの繋がりも望んでいるみたいです」
明里さんが、隣に立つ斉藤さんを見上げる。
支援スライムも、二人を順番に見るように身体の向きを変えた。
「りるっ」
「そうか。明里だけじゃなく、俺の仕事も手伝いたいんだな」
「りるるっ!」
斉藤さんが腰を下ろし、淡い橙色の身体へ手を差し出す。
支援スライムは手のひらへ身体を寄せたあと、明里さんの手にも触れた。
「俺は、この子と一緒に働きたい。明里は?」
「私もです。お願いしたい仕事が、たくさんありますよっ」
「りるっ!」
三人の意思に呼応するように、新しい表示が現れた。
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『夫婦共同従魔契約』
『主契約者候補』
・斉藤明里
『共同契約者候補』
・斉藤涼介
『契約従魔候補』
・支援スライム
『成立条件』
・従魔本人の同意:確認
・主契約者の同意:確認
・共同契約者の同意:確認
・契約者間の婚姻関係:確認
『契約状態』
・個体名未登録
・契約開始待機
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「二人と一緒に契約できるみたいです。明里さんが主契約者、斉藤さんが共同契約者として登録されます」
「そんな契約もあるのですね」
美咲さんが、表示を読み上げる俺の隣で驚いた声を漏らす。
「契約する前に、この子の名前を決める必要があるみたいです」
「名前……」
明里さんが、自分と斉藤さんの手へ交互に触れている支援スライムを見つめる。
誰かの役に立つことを喜び、新しい仕事を覚えようとする子。
薬草庭園で出会った、新しい仲間。
少し考えたあと、明里さんが柔らかく笑った。
「誰かを支えて、たくさんの恵みを届ける子だから……メグちゃんはどうかな?」
「りる……?」
支援スライムが、明里さんの手のひらへ身体を押し付ける。
もう一度、名前を言って欲しいのか、大きく伸びた。
「メグちゃん」
「りるるっ!」
明里さんの言葉に大きな喜びが返ってくる。
名前を気に入ったようだ。
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『個体名登録』
『個体名』
・メグ
『名付け親』
・斉藤明里
『名付け』
・受諾
『夫婦共同従魔契約』
・契約可能
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俺は、魔法鞄へ入れていた予備の『従魔契約証』を取り出し、平らな石畳の上へ置いた。
契約証へ『解析鑑定』を発動させる。
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『従魔契約証』
『品質:B』
『状態:未登録』
『契約方式』
・夫婦共同従魔契約
『契約対象』
・主契約者:斉藤明里
・共同契約者:斉藤涼介
・契約従魔:メグ
『契約条件』
・三者の契約意思:確認
・三者が同時に従魔契約証へ触れる
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「こちらの従魔契約証へ、三人で同時に触れてください」
「メグちゃん。私たちと一緒に来て、お仕事を手伝ってくれますか?」
「りるっ!」
明里さんが、従魔契約証の右側に指を触れた。
「俺からも頼む。調合や薬草の仕事も、一緒に覚えていこう」
「りるるっ!」
斉藤さんも、反対側に指を触れた。
メグが二人を順番に見たあと、従魔契約証の中央へ身体を載せる。
その瞬間、従魔契約証から淡い橙色の光が広がった。
メグの内部にある従魔核と、二人の指先から三本の細い光が伸びる。
三本の光は従魔契約証の中央で重なり、表面へ三人の名前を刻んだ。
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『夫婦共同従魔契約』
『主契約者』
・斉藤明里
『共同契約者』
・斉藤涼介
『契約従魔』
・メグ
『契約状態』
・成立
・良好
『従魔契約証』
・契約記録:完了
・協会登録:未登録
『庭園外への移動』
・可能
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「無事、契約が成立しました」
契約内容の記録された従魔契約証を拾い上げ、明里さんへ渡す。
メグが喜びを表すように、明里さんの手に身体を密着させた。
「メグが、すごく喜んでいるような気がします」
明里さんが、嬉しそうにメグを見つめる。
「ああ。俺も、何となくだけど分かるよ」
斉藤さんも、メグを撫でて優しい表情を浮かべている。
「りるっ!」
メグが二人の元へ向かって跳ねる。
明里さんと斉藤さんが両側から手を出し、淡い橙色の身体を一緒に受け止めた。
「ぷるるっ!」
「ぴるるっ!」
シズクが二人の頭上を飛び、ユキが足元で嬉しそうに弾む。
その周囲へ、薬草スライムたちと九体の支援スライムが集まってきた。
「ぽるっ!」
「ぽるっ!」
「りるっ!」
「りるるっ!」
淡い緑色と淡い橙色の身体が、メグを囲むように並ぶ。
一体ずつメグへ身体を触れさせ、新しい門出を祝うように大きく伸びた。
メグから伝わってくるのは、別れの寂しさだけではない。
仲間たちが背中を押してくれる喜びと、新しい場所で働ける期待が強く混ざっていた。
「また来ますからね、庭園のスライムさんともまた会えますよっ」
「りるっ!」
明里さんが声を掛けると、メグが仲間たちへもう一度身体を伸ばした。
◇
夫婦共同従魔契約によって、メグは庭園外へ移動できるようになった。
メグは明里さんの腕から一度地面へ降りる。
それから、片付けの時に運んでいた小さな空の容器を身体の上へ載せた。
「それも持ってきてくれるのですか?」
「りるっ」
新しい家族の一員になっても、すぐに仕事を始めたいらしい。
斉藤さんが小さく笑い、メグの身体から容器を取り上げた。
「帰り道は長いからそれは俺が持つよ。メグは明里と一緒にいてくれな」
「りるっ!」
斎藤さんの声を聞き、メグが明里さんの腕へ嬉しそうに飛び込んだ。
そのまま入口の淡い緑色の揺らぎを抜ける。
外側で待っていた髙橋さんが、明里さんの腕にいるメグへ目を向けた。
「庭園の支援スライムですね」
「はい。私たちと一緒に来たいと望んでくれたので、夫婦で共同従魔契約を結びました。名前はメグちゃんです」
「りるっ!」
明里さんの紹介に合わせ、メグが元気よく身体を伸ばす。
続けて、契約内容の記録された従魔契約証を髙橋さんへ見せた。
「ええ、確認していました。従魔契約証と二機の探索レコーダーから、契約の成立も拝見しております」
髙橋さんが、従魔契約証の内容とメグの状態を順番に確かめる。
「詳細は地上で確認しますね。本日はこのまま帰還し、明日、従魔登録と適性検査を行いましょう」
「分かりました」
メグが明里さんの腕の中から、斉藤さんへ身体を伸ばす。
斉藤さんがその小さな身体へ手を添えると、満足そうに丸くなった。
仕事を探し続けていた支援スライムは、メグという名前と、二人を支える新しい役目を手に入れた。




