116話「手伝いたい支援スライム」
明里さんの問いへ、俺は小鉢と支援スライムを順番に見る。
「少し待ってください。調べてみます」
小鉢の中に入っているのは、鶏肉と根菜の柔らか煮だった。
調味料は薄く、食材も小さく切られている。
料理と、近付いてきた支援スライムへ『解析鑑定』を発動させた。
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『鶏肉と根菜の柔らか煮』
『調理者』
・斉藤明里
『品質:A』
『摂取判定』
・支援スライム:可能
『健康への悪影響』
・なし
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「大丈夫です。この子も食べられます」
「良かったです」
明里さんが、柔らか煮を取り分けた小さな器を石台の端へ置く。
支援スライムはすぐに近付かず、器と明里さんを交互に見上げた。
「ぷるっ」
シズクが、安心させるように身体を伸ばす。
「りるっ」
すると、支援スライムも同じ高さまで身体を伸ばした。
「ぴる?」
ユキが右側へ身体を傾ける。
支援スライムも、ほとんど同じ角度まで右側へ傾いた。
「ぴるっ」
今度は左側。
支援スライムも、遅れないように左側へ傾く。
「ぷるるっ!」
「ぴるるっ!」
「りるるっ!」
三体が楽しそうに伸び縮みする。
明里さんが口元を緩めた。
「仲良くなれそうですね」
支援スライムはようやく器へ近付き、小さな鶏肉を身体の中へ取り込んだ。
ゆっくりと味を確かめたあと、淡い橙色の身体が大きく弾む。
「りるっ!」
美味しかったらしい。
明里さんは、薬草スライムたちと水辺へ戻った九体の支援スライムにも、食べられる量を少しずつ取り分けた。
待っていたシズクとユキも、自分たちの器へ身体を寄せた。
◇
食事の準備を再開した明里さんが、弁当箱を六つ並べていく。
俺、美咲さん、斉藤さん、明里さん、シズク、ユキの順番。
支援スライムは、少し離れた場所からその動きをじっと見ていた。
やがて、石畳の端にある小石を一つ拾い、布の横へ置いた。
もう一つ。
さらにもう一つ。
明里さんが弁当箱を並べた間隔に合わせ、六つの小石をまっすぐに並べていく。
「配膳の真似をしているみたいです」
「支援スライムの『模倣』だと思います」
動きを続ける支援スライムへ、もう一度『解析鑑定』を発動させる。
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『支援スライム』
『特性:模倣』
『現在の模倣対象』
・斉藤明里
『観察中の作業』
・食器の配置
・配膳の順序
『模倣精度』
・初期段階
『現在の感情』
・作業を覚えたい
・斉藤明里の手伝いをしたい
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「明里さんの配膳を覚えて、手伝おうとしています」
「そうなんですね」
明里さんが、小石を並べ終えた支援スライムの前へ、木製のスプーンを六本置く。
「今度は、こちらを弁当箱の横へ並べてもらえますか?」
「りるっ!」
支援スライムが、六つの小石を元の場所へ戻す。
それから、スプーンを一本ずつ身体の上へ載せ、明里さんが並べた弁当箱の横へ運んでいった。
一本目。
二本目。
三本目。
並べる間隔まで、明里さんが弁当箱を置いた時とほとんど同じだった。
六本全てを並べ終えると、支援スライムが期待を込めて明里さんを見上げる。
「とても上手です。助かりました」
「りるるっ!」
弾んだ身体から、強い喜びが伝わってきた。
◇
食事を終えると、支援スライムは明里さんより先に空いた器の前へ移動した。
重ねようと身体を伸ばすが、その前で動きを止める。
まだ、何をどの順番ですればいいのかまでは分からないらしい。
「最初は、この小さな器を集めてもらえますか?」
「りるっ」
明里さんが一つ目の器を持ち上げ、空の箱へ入れる。
支援スライムはその動きを見たあと、残りの器を一つずつ同じ箱へ運び始めた。
全てを運び終える。
箱の前で一度大きく伸びたあと、今度は薬草スライムたちの方へ跳ねていった。
「りるっ!」
乾燥棚の前で、仕事があるか尋ねる。
薬草スライムは棚の上を確かめたあと、ゆっくりと身体を左右へ振った。
「りる……」
支援スライムは、種を分けている区画へ移動する。
そこでも、薬草スライムが空の石皿を見せた。
今は運ぶ種がないらしい。
「りる……」
水路の方へ行っても、水を流す畝は全て開いていた。
枝や枯れ葉も、薬草スライムたちが既に取り除いている。
一つずつ仕事がないと分かるたび、淡い橙色の身体が平たくなっていった。
「今は足りているから、休んでいていいって伝えてるみたいです」
薬草スライムたちが、支援スライムを嫌っているわけではない。
むしろ、仕事を終えた仲間を休ませようとする温かな気遣いが伝わってくる。
だが、目の前の支援スライムが求めているのは、休むことではなかった。
誰かの役に立ちたい。
新しい仕事を覚えたい。
その強い願いが、耳飾りを通じて伝わってきた。
明里さんが支援スライムの前へ歩み寄り、同じ高さまで腰を下ろす。
「あなたは、お仕事をするのが好きなんですね」
「りるっ」
「私は、毎日たくさんの料理を作っています。食材を運んだり、器を並べたり、終わったあとに片付けたり。覚えてほしい仕事が、たくさんあります」
支援スライムの身体が、少しずつ元の形へ戻っていく。
「私たちの仕事を、手伝ってくれると嬉しいです」
「りる……!」
淡い橙色の身体が、先ほどまでとは比べものにならないほど大きく伸びた。
弾むような喜びが、俺と美咲さんへ一度に伝わってくる。
「りるるっ!」
支援スライムが、明里さんの周囲を何度も跳ねる。
そのまま斉藤さんの前へ移動し、今度は保護箱を見上げた。
「これを押さえておいてくれるか?」
「りるっ!」
斉藤さんが精霊草の葉片を入れた保護ケースへ、さらに緩衝材を重ねる。
支援スライムは、箱が動かないように身体の一部を伸ばし、両側からそっと支えた。
「そう、そのままでいい。助かるよ」
「りるるっ!」
明里さんに声を掛けられた時と同じ喜びが、支援スライムから強く伝わってきた。
明里さんだけではない。
斉藤さんの仕事も、同じように手伝いたいらしい。
◇
『予定時刻まで、残り十五分です』
通信機から、髙橋さんの声が届く。
『本日の調査は、予定していた内容を十分に記録できました。余裕を持って退出準備を始めてください』
「分かりました」
使った器を片付け、受け取った薬草と精霊草の葉片を保護する。
支援スライムは、明里さんの動きを見ながら器を重ね、斉藤さんが開いた保護箱の横で緩衝材を支え続けた。
初めて行う作業にもかかわらず、二人の動きを見て、自分で次に必要なことを考え始めている。
「この子、仕事を覚えるのが早いですね」
「ああ。正確に同じ動きを繰り返すだけじゃない。俺たちの手順そのものを覚えようとしてる」
斉藤さんが明里さんへ答える。
二人の間を往復する支援スライムからは、忙しく働けることへの満足が伝わってきた。
片付けを終え、薬草スライムたちに見送られながら希少区域の入口へ向かう。
水辺で休んでいた九体の支援スライムも、池から上がって見送りに来ていた。
「ぽるっ」
「りるっ」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
薬草スライムたちと九体の支援スライムが、順番に身体を伸ばす。
その中で、俺たちを手伝った一体だけは明里さんの足元を離れなかった。
「また来ますから、その時も手伝ってくださいね」
「りる……」
支援スライムは返事をしたあとも、入口と明里さんを交互に見た。
そのまま、斉藤さんの隣へゆっくりと移動する。
伝わってくる感情は、どんどん強くなっていた。
「もしかして、私たちと一緒に来たいのですか?」
明里さんが尋ねる。
支援スライムは、二人の間へ移動した。
「りるっ!」
迷いのない返事だった。
その小さな身体から伝わってきたのは、新しい仕事をしたいという気持ちだけではない。
明里さんと斉藤さん。
二人のそばで、二人の力になりたい。
支援スライムは、そう強く願っていた。




