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111話「雷光スライムの試練」


 生配信で最後の模擬戦を行ってから、二日後。

 俺たちは、第十五層の中央にある白金色の祭壇へ戻ってきた。


 円形に並ぶ白い石柱。

 床には、王冠を載せたスライムの紋章から、雷を模した線が放射状に伸びている。

 祭壇の中央で待っていたのは、一ヶ月前に出会った雷光スライムだった。


 白金色の身体を、青白い雷が絶え間なく走っている。

 俺たちが石柱の内側へ入ると、小さな身体から放たれる雷が一瞬だけ強くなった。


「ぷる……!」


 美咲さんの肩にいるシズクが、興味を抑え切れないように身体を伸ばす。


 シズクから強く伝わってくる。

 自分の魔法が通じるのか、早く試したい! そんな強い意欲だ。


「ぴるっ」


 ユキも、左右の白銀鎧と純白の魔法盾を身体の近くへ引き寄せる。

 祭壇の外側には、火焔スライムも来ていた。


 炎を小さく揺らしながら、俺たちと雷光スライムを交互に見ている。


『映像と音声を確認しました』


 通信機から、髙橋さんの声が聞こえる。

 髙橋さんと護衛職員は、いつものように、第十四層から第十五層へ続く転移門の前で待機していた。

 二機のドローン型探索レコーダーだけが祭壇まで同行し、石柱の外側から俺たちを撮影している。


『全員の体調と装備に問題はありませんか?』

「はい。昨日一日休み、探索者ストアでも点検を受けました」


「シズクとユキも問題ありません」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 雷光スライムへ『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『第15層・階層守護個体』


 『雷光(ライトニング)スライム』


 『危険度:A+』

 『属性:雷・光』


 『現在の戦力評価』

 ・佐伯美咲:一級探索者相当・達成

 ・一城陸斗:上級探索者相当・達成

 ・シズク:利用資格あり

 ・ユキ:利用資格あり


 『推奨戦力達成状況』

 ・2/2


 『試練参加者の状態』

 ・体力:良好

 ・魔力:良好

 ・装備:異常なし


 『現在の挑戦』

 ・挑戦可能

 ・攻略推奨


 『補足』

 ・雷光スライムの討伐は不要

 ・力量を認められた時点で試練達成


 ____________________◇



「推奨戦力を満たしています」

『一城さんも、上級探索者相当と判定されたのですね』

「はい。美咲さんは、一級探索者相当まで上がっています」


 正式な階級は、俺が中級探索者、美咲さんが上級探索者のままだが、そこは反映されないようなので安心した。

 一か月の訓練によって、迷宮が、雷光スライムが求める実力には到達できたようだ。


『挑戦するのですね?』

「はい」


 白銀短剣を静かに抜く。

 美咲さんも軽盾と黄金短剣を構えた。


「雷光スライム。俺たちは、試練を受けたい」


 雷光スライムが、その場で一度だけ跳ねる。

 青白い雷が床の紋章を走り、周囲の石柱へ流れ込んだ。

 石柱の間へ半透明の障壁が広がり、祭壇全体が外側から切り離される。



 ◇____________________


 『雷光スライムの試練』


 『参加者』

 ・一城陸斗

 ・佐伯美咲

 ・シズク

 ・ユキ


 『評価項目』

 ・戦闘能力

 ・連携能力

 ・防御能力

 ・判断能力

 ・継戦能力

 ・スライム系従魔との信頼関係


 『試練開始』


 ____________________◇



 表示が消えるより早く、雷光スライムの姿が白く輝いた。


「正面から来ます!」


 美咲さんが軽盾を斜めに構える。

 白金色の姿が消え、青白い直線だけが祭壇へ残った。

 直後、軽盾へ強い衝撃が加わる。


「っ……!」


 美咲さんの羽靴が石床を滑る。

 それでも盾を正面から押し返さず、雷光スライムの勢いを右へ流していた。


「シズク、右へ風を!」

「ぷるっ!」


 シズクが横向きの風を放つ。

 空中へ弾かれた雷光スライムの軌道が僅かに変わった。

 着地する位置を見るより先に、身体の縮み方と雷の流れを追う。


「次は、左後ろ!」


 探索靴へ魔力を流し、振り返りながら踏み込んだ。

 姿を現した雷光スライムへ、白銀短剣を振るう。

 刃は白金色の身体へ届かず、周囲を覆う雷の膜へ弾かれた。


 腕へ痺れが走る。


「陸斗さん!」

「大丈夫! 外側の雷へ触れただけだ!」


 雷光スライムが、再び視界から消える。

 以前なら、解析結果が表示されるまで動けなかった。

 今は、石床を走る雷と、直前に向けられた意識から次の位置を予測する。


「美咲さん! 右!」

「はいっ!」


 美咲さんが軽盾を返す。

 雷光スライムの体当たりが盾の縁へ触れ、上空へ逸らされた。


 さりなほどではない。

 そう感じるほどに、俺たちは雷光スライムの動きに対応できていた。



 ◇



 雷光スライムが祭壇の中央へ着地する。

 小さな身体の周囲に、六つの雷球が作り出された。


「全員を狙っています!」


 六つの雷球が、異なる方向から一斉に放たれる。


「ぴるっ!」


 ユキの白銀鎧が左右へ広がった。


 一枚が俺の前へ。

 もう一枚が美咲さんとシズクの前へ移動する。

 正面から迫る雷球には、純白の魔法盾を向けた。


 雷球が白い盾へ触れる。

 青白い光が大きく弾け、その一部が飛んできた軌道へ返された。

 だが、全ては反射できない。



 ◇____________________


 『純白の魔法盾』


 『反射:部分成功』

 『許容量超過』


 『未反射魔力』

 ・盾の表面へ拡散中


 ____________________◇



「シズク、盾の前へ土壁を!」

「ぷるっ!」


 石床から、厚い土壁が斜めに立ち上がる。

 純白の魔法盾を回り込んだ雷が土壁へ流れ、床へ逃がされた。


 残る雷球を、二枚の白銀鎧が斜めに受け流す。

 美咲さんも軽盾で一発を逸らし、最後の一発だけが上空を通り過ぎた。


「ぴる……!」


 ユキから、強い疲労が伝わってくる。


「全部を反射しなくていい! 強い雷は角度を変えるだけでいいんだ!」


「ぴるっ!」


 ユキが純白の魔法盾を傾ける。

 次に放たれた雷球は正面へ返さず、土壁のある方向へ受け流された。


「今の使い方なら、魔力消費を抑えられます!」


 美咲さんの言葉へ、ユキが大きく身体を伸ばす。



 ◇



 雷光スライムが、今度は美咲さんへ意識を向けた。

 身体を深く沈める。


「美咲さん気をつけて! 狙われてる!」

「はい! こちらでも確認しています!」


 美咲さんが正面へ出る。

 その瞬間、雷光スライムから向けられていた意識が変わった。


 俺の感が囁く。

 美咲さんではない……狙われているのは、後方のシズクだ!


「違う! シズクへ来る!」


 解析表示は、まだ美咲さんへの突進を示している。

 だが、俺は自分の勘を頼りに、シズクの前へ踏み込んだ。

 雷光スライムが進路を変え、青白い線となって迫る。


「ぴるっ!」


 ユキの白銀鎧が、俺とシズクの前へ割り込む。

 同時に、美咲さんも羽靴で戻ってきた。

 軽盾と白銀鎧を重ね、雷光スライムの体当たりを受け止める。


 衝撃によって二人の身体が後方へ押された。

 それでも、隊列は崩れない。


「ぷるっ!」


 守られたシズクが、風と氷の魔力を同時に作り出す。


ぷるるるーっ(氷嵐)!」


 細かな氷を含む風が、雷光スライムの周囲を包んだ。

 雷そのものを止めることはできない。

 だが、舞い上がった氷の粒へ青白い光が移り、移動した軌跡が今までよりも長く残る。


「見える……!」


 雷光スライムが高速で移動するたび、氷嵐(アイスストーム)の中へ青白い線が描かれていく。


「シズク、そのまま維持して!」

「ぷるるっ!」


 俺は解析表示ではなく、残された光と雷光スライムの動きを見る。


 右の石柱。

 祭壇中央。

 美咲さんの背後。

 移動する順番が、少しずつ分かってきた。



 ◇



 雷光スライムが、美咲さんの正面へ姿を現す。

 白金色の身体を守る雷の膜が、先ほどよりも厚い。


 攻撃を誘っている。

 その一方で、祭壇の上空には細い雷の槍が作られていた。

 落下先はユキだ。



 ◇____________________


 『雷光スライム』


 『現在の行動』

 ・正面防御:展開

 ・攻撃機会:提示

 ・遅延雷撃:発動待機

 ・遅延雷撃の対象:ユキ


 ____________________◇



「ユキに攻撃が集中する!」


 美咲さんも気付いたのか、雷光スライムから離れ、ユキの元へ跳躍する。

 俺とシズクも同時にユキのもとへ集まった。


「ぴる……?」

「今度は、俺たちがユキを守る番だ」


 美咲さんが軽盾を上へ向ける。

 シズクが土壁を重ね、その下へユキを入れた。


 俺も白銀短剣を収め、美咲さんの背後から軽盾を支える。

 上空から、雷の槍が落ちた。


 轟音と共に土壁が砕け、軽盾へ青白い雷が広がる。


「くっ……!」


 美咲さんの膝が僅かに沈む。

 純白の魔法盾が内側から軽盾へ重なり、広がった雷の一部を上空へ返した。


 二枚の白銀鎧も左右から雷を受け流す。

 最後まで、ユキの身体へ雷が届くことはなかった。


 雷撃が収まる。

 祭壇の中央にいる雷光スライムから、強い満足が伝わってきた。


「今の判断で、よかったみたいです」

「はい。良かった」

「ぴるるっ!」


 守られたユキが、俺たちへ身体を順番に押し付ける。

 だが、試練はまだ終わっていない。


 雷光スライムが身体を沈めた。



 ◇



「美咲さん! 一発くらいは、有効打を与えたい!」

「はい!」

「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 シズクが氷嵐を広げ直す。

 雷光スライムが、青白い線となって走る。


 一度目は、美咲さんの正面。

 二度目は、俺の背後。

 三度目は、祭壇の外周からシズクの頭上へ跳ぶ。


 そのたびに氷の粒が青白く輝き、雷光スライムの通った軌跡を残していく。


 ただ速いだけではない。

 方向を変える直前、小さな身体の片側へ雷が集中していた。

 次に曲がる方向とは、反対側だ。


「美咲さん、追わずに中央へ!」

「分かりました!」


 美咲さんが軽盾を構え、祭壇中央で足を止める。

 俺も反対側へ回り込んだ。


 雷光スライムが四度目の加速へ入る。

 右側へ雷が集まった。


「次は左へ曲がる! 王冠の紋章へ来ます!」

「ぴるっ!」


 ユキの白銀鎧が、俺と美咲さんの外側へ一枚ずつ移動する。

 雷光スライムが通り過ぎた直後、軌跡から二本の雷が放たれた。


 白銀鎧が雷を受け流し、俺たちの進路を守る。

 正面へ残った純白の魔法盾は、シズクを覆っていた。


「シズク、上から風を!」

「ぷるっ!」


 氷嵐の流れが変わり、王冠の紋章へ向かって強い風が吹き下ろす。

 雷光スライムの軌道が、僅かに地面へ近付いた。


 予測した場所へ、雷光色の身体が現れる。

 美咲さんが正面から踏み込み、俺は反対側から距離を詰めた。

 探索靴へ魔力を流し、白銀短剣を突き出す。


 雷の膜へ刃が触れた。


「美咲さん!」

「はい!」


 反対側から、黄金短剣が届く。


「『腐食』!」

「『粉砕』!」


 黒銀色と黄金色の光が重なった。



 ◇____________________


 『金銀共鳴:発動』


 『雷光外装』

 ・腐食:有効

 ・粉砕:有効

 ・一部破壊


 『有効打:成立』


 ____________________◇



 雷光スライムを覆っていた雷の膜が弾ける。

 白金色の身体と、内部にある魔核が僅かに見えた。


 俺と美咲さんは、それ以上短剣を押し込まない。

 同時に刃を引き、後方へ跳んだ。


 雷光スライムの身体から、強い雷が広がる。


「ぴるるっ!」


 ユキの三つの防具が正面へ重なる。

 シズクが土壁を作り、美咲さんが軽盾を構えた。


 俺も二人の後ろで踏み止まる。

 青白い雷が祭壇全体へ広がり、やがて静かに消えていった。


 誰も倒れていない。

 隊列も崩れていなかった。

 雷光スライムは、雷の消えた祭壇中央で俺たちを見ている。


 しばらくして、小さな身体が一度だけ跳ねた。



 ◇____________________


 『雷光スライムの試練』


 『試練結果』

 ・戦闘能力:承認

 ・連携能力:承認

 ・防御能力:承認

 ・判断能力:承認

 ・継戦能力:承認

 ・スライム系従魔との信頼関係:承認


 『総合評価』

 ・試練達成


 ____________________◇



「試練を突破した……」


 全身から力が抜けそうになる。

 それでも、白銀短剣を落とさずに鞘へ収めた。

 美咲さんも黄金短剣を下ろし、シズクを抱き上げる。


「ぷるるっ!」

「よく頑張ったね、シズク」


「ぴるっ!」

「ユキも、全員を守ってくれてありがとうな」

「ぴるるっ!」


『皆さん、怪我はありませんか?』

「大きな怪我はありません。装備にも、すぐに使えなくなるほどの損傷はないと思います」

『承知しました。試練達成も、こちらの映像で確認しています』


 石柱の外側では、火焔スライムが炎を大きく揺らしていた。

 周囲へ集まっていたスライムたちからも、喜びと安堵が伝わってくる。


 雷光スライムが祭壇の奥へ身体を向ける。

 青白い雷が床を走り、封じられていた石造りの門へ流れ込んだ。

 門の内側へ、白い光が満ちていく。



 ◇____________________


 『第15層』


 『階層守護試練:達成』

 『第15層踏破:確認』


 『解放』

 ・第16層への転移門

 ・第15層への協会調査隊進入

 ・スライム系従魔の同行制限解除


 『一般探索者』

 ・安全調査完了まで進入不可


 ____________________◇



 続いて、第十六層から先の情報が表示される。



 ◇____________________


 『第16層~第19層』


 『区域分類』

 ・大階層区域


 『確認された環境区域』

 ・大平原・大草原区域

 ・湿原密林区域(河川を含む)

 ・砂漠区域

 ・大峡谷区域


 『安全区域(セーフティエリア)

 ・設置場所:大平原・大草原区域内の一部

 ・区域内:安置

 ・区域範囲外:安全保証なし


 『転移設備』

 ・区域転移門:複数

 ・中央転移門:一基


 『初回到達地点』

 ・第16層

 ・大平原・大草原区域

 ・安全区域内


 『詳細な区域境界及び転移先』

 ・未取得


 ____________________◇



「第十六層から第十九層は、四つの環境がつながった大階層区域みたいです」


『四階層が、一つの巨大な区域になっているのですか?』

「その可能性があります。ただ、階層の境界と転移門の行き先までは表示されていません」


 最初に到着するのは、大平原と大草原が広がる区域。

 その一部にだけ、安全区域(セーフティエリア)が設けられていると表示されている。


『本日は、第十六層へ入らないでください』


 髙橋さんが、すぐに告げる。


『大階層区域の構造と安全区域の範囲を確認し、先行調査計画を作成する必要があります』


「分かりました。今日は戻ります」


 白く輝く転移門の向こうには、まだ何も見えない。

 俺たちは門へ近付かず、祭壇を離れようとする。


 その時だった。


「ぷる?」


 シズクが、祭壇へ続く通路を振り返る。

 暗い通路の奥から、淡い青色の光が近付いてきていた。


 深い青色の身体。

 内部では、星屑のような結晶がいくつも輝いている。


「魔石スライム……?」


 小さな青い身体が、俺たちへ向かって跳ねてきた。

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