11話「希少区域の同行者」
隠し通路を発見してから三日後。
探索者協会の調査課から、正式な連絡が届いた。
指定された時間に応接室へ向かうと、高橋さんが数枚の資料を用意して待っていた。
「お待ちしておりました、一城さん」
「調査が終わったんですか?」
「はい。まずは、先日発見された隠し通路についてご報告します」
勧められた椅子へ腰を下ろす。
高橋さんは、机の上に置かれたタブレットをこちらへ向けた。
画面には、調査員が岩壁の窪みへ触れる映像が映っている。
低い音と共に壁が動き、その奥から隠し通路が現れた。
「一城さんからご提供いただいた情報を基に、現地調査を行いました。隠し通路と石室は、現在も存在しています」
「俺以外の人でも開けられたんですね」
「開放条件さえ分かっていれば可能でした。ただ、壁の窪みは周囲とほとんど見分けが付きません。偶然発見するのは難しいでしょう」
石室の宝箱は空のままだった。
一度回収された宝箱の中身が復活するかは、今後も定期的に調査するらしい。
「過去の構造図にも、この通路は記載されていませんでした。そのため、未確認構造の新規発見として正式に認定されます」
「本当に、誰も知らなかった場所なんですね」
「はい。初心者ダンジョンが一般開放されてから、何年も見つかっていなかったことになります」
高橋さんは、次の資料を表示した。
「スライムの指輪についても、所有権は一城さんにあると正式に確認されました。協会から返還を求めることはありません」
「ありがとうございます」
右手の人差し指には、スライムの指輪を着けている。
敏捷性が僅かに上がるだけだが、装着してからはスライムの攻撃を以前より余裕を持って避けられるようになった。
「続いて、情報提供料についてです」
タブレットの画面が切り替わる。
◇____________________
『情報提供料』
未確認区域・初回映像 100,000円
未確認構造・開放条件 30,000円
合計 130,000円
____________________◇
「十三万円……」
思わず金額を読み上げる。
「未確認区域については、現時点では暫定認定となります。それでも映像の信頼性と、金魔核などの取得物が確認されているため、初回情報料の支払いが承認されました」
「暫定認定なんですか?」
「残念ながら、協会職員が直接内部を確認できていませんから」
俺が撮影した映像は、加工されていない。
希少区域で入手した素材も実在している。
だが、協会の人間が実際に『スライムの黄金郷』へ入ったわけではない。
「情報提供料は、登録口座へ本日中に振り込まれます」
「ありがとうございます」
「お礼を申し上げるのはこちらです。一城さんの発見によって、既存ダンジョンの調査方法そのものを見直す必要が出てきました」
第一層は、すでに調査し尽くされた場所だと思われていた。
だが、そこから希少区域と隠し通路が立て続けに見つかった。
まだ発見されていない場所が、他にも存在する可能性がある。
「そこで一城さんへ、もう一つお願いがあります」
「お願いですか?」
「次に希少区域が出現する際、調査課の職員を同行させていただけないでしょうか」
予想していなかった申し出だった。
「他の人も中へ入れるんでしょうか?」
「現時点では分かりません。それを確認するための調査です」
最初に希少区域を見つけた時、別の探索者には入口の揺らぎが見えていなかった。
だが、隠し通路のように、開放条件を満たせば他の人も入れる可能性はある。
「次に現れる時間は分かりますか?」
「今朝確認した時は、出現まで六時間ほどでした」
「それでしたら、本日中に調査できますね」
高橋さんは手元の端末を操作する。
「調査員だけで未知の区域へ入るのは危険です。そのため、戦闘経験のある探索者にも護衛を依頼します」
「俺を含めて三人ですか?」
「その予定ですが、何人まで入れるかも分かっていません」
俺は少し考えてから頷いた。
「まず、入口をもう一度『解析鑑定』で調べてみます。同行条件も表示されるかもしれません」
「お願いできますか?」
「はい」
高橋さんと共に、初心者ダンジョンの第一層へ向かうことになった。
◇
高橋さんは普段のスーツではなく、調査用の防護服へ着替えていた。
腰には護身用の短剣と、小型の魔導具が取り付けられている。
「高橋さんもダンジョンへ入るんですね」
「調査課へ配属される前は、現地調査員をしていました。戦闘は専門外ですが、第一層の通常個体なら対応できます」
警備職員へ調査申請を提出し、二人で第一層へ入る。
希少区域が現れる行き止まりへ到着した。
岩壁には、まだ揺らぎがない。
俺は『解析鑑定』を発動する。
◇____________________
『希少区域』
『名称:スライムの黄金郷』
『現在の状態:未出現』
『出現まで:2時間51分26秒』
『入場可能人数:最大三名』
『同行条件:発見者へ接触した状態で入口を通過』
____________________◇
「入場条件が表示されました」
「本当ですか?」
解析結果は俺にしか見えないため、内容を高橋さんへ伝える。
「最大三名。同行者は、発見者へ触れた状態で入口を通る必要があるそうです」
「発見者というのは、一城さんでしょうね」
「多分、そうだと思います」
「これで同行できる可能性が高くなりました」
高橋さんが端末へ条件を入力する。
「護衛を含めて、ちょうど三名ですね」
「護衛の方は、もう決まっているんですか?」
「まもなく到着する予定です。協会の調査へ何度も協力している探索者なので、信用面にも問題ありません」
その時、背後の通路から足音が聞こえてきた。
「高橋さーん! お待たせしました!」
聞き覚えのある明るい声。
振り返ると、焦茶色の探索者ベルトを身に着けた女性が走ってくる。
後ろで束ねられた栗色の髪。
腰には、レッドスライムから手に入れた短剣。
「美咲さん……?」
「あれ? 一城さん?」
佐伯美咲さんは、俺と高橋さんを交互に見て首を傾げた。
「どうして一城さんがここに?」
「一城さんが、今回の未確認区域を発見した方です」
高橋さんが説明する。
美咲さんは一瞬だけ固まり、次の瞬間、大きく目を見開いた。
「一城さんが、あの黄金色の草原を見つけたんですか!?」
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