109話「秘宝の保管とシリーズ装備の譲渡」
『スライム達の古戦場』を再調査した翌日。
俺たちは、探索者協会本部にある従魔装備検査室を訪れていた。
「ぴるっ!」
検査台の上では、ユキが左右に白銀鎧を浮かべている。
正面には、昨日、純白スライムの長老から託された『純白の魔法盾』。
三枚の装備が、ユキの動きに合わせて滑らかに移動していた。
「それでは、反射試験を始めます」
検査職員が、透明な防護壁の外から小型の試験魔導具を操作する。
魔導具の先端へ、淡い青色の光が集まった。
「ユキ。昨日と同じように、盾で受けてみよう」
「ぴるっ!」
低い威力へ調整された魔力弾が放たれる。
ユキが身体を伸ばすと、純白の魔法盾が正面へ移動した。
魔力弾が盾へ触れた瞬間、青い光が弾ける。
反射された魔力弾は飛んできた軌道を戻り、試験魔導具の前に展開された受圧障壁へぶつかった。
壁際の測定器へ、反射した魔力の数値が表示される。
「反射率、正常です。ユキさんの魔力消費も、想定範囲内に収まっています」
「白銀鎧との干渉はありませんか?」
美咲さんの問いへ、検査職員が測定結果を確認する。
「ありません。白銀鎧は側面浮遊装備、純白の魔法盾は正面浮遊装備として認識されています。同時に使用しても、互いの移動を妨げない構造です」
「ぴるるっ!」
安全だと分かったユキが、その場で嬉しそうに一回転する。
純白の魔法盾と二枚の白銀鎧も、一定の間隔を保ったままユキの周囲を回った。
検査結果が、正式な従魔装備記録へ登録される。
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『従魔装備・安全検査』
『装備名称』
・純白の魔法盾
『登録使用者』
・ユキ
『登録所有者』
・一城陸斗
『検査結果』
・魔法攻撃軽減:正常
・反射:正常
・防御対象追従:正常
・白銀鎧との併用:問題なし
『使用許可』
・承認
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「これで、正式に探索へ持ち込めます」
検査職員から登録証を受け取る。
「ありがとうございます」
近くで検査を見守っていた髙橋さんが、携帯端末へ記録を保存した。
「純白の魔法盾については、純白スライムの長老からユキさんへ直接譲渡された様子が、二機の探索レコーダーにも残されているため、もちろん所有権も『蒼雪の宝珠』所有となります」
「良かった。所有権も、俺たちに認められるんですね」
「はい。『希少区域特別調査・採取契約』では、希少区域内で正当な手順によって入手した従魔専用装備は、発見者側へ帰属します」
髙橋さんが、純白の魔法盾へ視線を向ける。
「何より、あの装備は純白スライムの長老さんがユキさんへ託した物です。探索者協会が所有権を主張する理由はありません」
「ぴるっ!」
自分の盾だと分かったのか、ユキが純白の魔法盾へ身体を寄せる。
「大切に使おうな」
「ぴるるっ!」
◇
検査を終えたあと、調査課の確認室へ移動した。
机の上には、黄金郷と白銀城で発見した六つの秘宝が並んでいる。
『黄金林檎』『黄金冠』『黄金花』。
『白銀王の銀笛』『白銀の結界剣』『白銀の雫』。
どれも専用の保護箱へ収められ、側面には仮の管理番号が付けられていた。
保管方法を決めるため、黄金林檎も一時的に魔法鞄から取り出していた。
「改めて、六点の所有権について確認します」
髙橋さんが、タブレット端末の画面を俺たちへ向ける。
「今回の秘宝は『希少区域特別調査・採取契約』に基づき、全てクラン『蒼雪の宝珠』側へ帰属します」
「協会へ預けた場合も、所有権は変わらないんですよね?」
「はい。探索者協会は保管と警備を担当するだけです。所有者の許可なく、移動、展示、研究へ使用することもありません」
髙橋さんが、秘宝ごとの保管案を表示した。
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『希少区域発見品・保管案』
『クラン共有資産』
・黄金林檎
希少度:S+
推定買取価格:算出不能
保管先:クラン専用保管庫
・白銀王の銀笛
希少度:S
推定買取価格:130,000,000円
保管先:クラン専用保管庫
『一城陸斗・個人所有』
・黄金冠
推定買取価格:280,000,000円
保管先:探索者協会・特別保管庫
・黄金花
推定買取価格:56,000,000円
保管先:探索者専用住居・装備保管庫
『佐伯美咲・個人所有』
・白銀の結界剣
推定買取価格:500,000,000円
保管先:探索者協会・特別保管庫
・白銀の雫
推定買取価格:45,000,000円
保管先:探索者専用住居・装備保管庫
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「黄金林檎と白銀王の銀笛は、今後の探索で使う可能性があります」
髙橋さんが、二つの保護箱を示す。
「クラン専用保管庫であれば、登録メンバーが手続きを行うことで持ち出せます。使用記録も残るため、共有資産の管理にも適しています」
「黄金冠と白銀の結界剣は、協会の特別保管庫ですか」
「どちらも推定買取価格が一億円を超えています。現在使用する予定がないのであれば、特別保管庫への寄託を推奨します」
黄金冠は二億八千万円。
白銀の結界剣は五億円。
自宅の装備保管庫にも強力な防護術式はある。
それでも、今すぐ使わない高額品を部屋へ置いておく必要はない。
「この保管案でお願いします」
「私も異存はありません」
美咲さんが頷く。
「ただ、黄金花と白銀の雫は、本当に自宅で保管しても大丈夫でしょうか?」
黄金花は五千六百万円。
白銀の雫も四千五百万円の価値がある。
「探索者専用マンションの装備保管庫であれば、問題ありません」
髙橋さんが答える。
「建物全体の警備に加え、各部屋の保管庫にも耐衝撃、防火、魔力遮断、登録者認証の術式が組み込まれています。上級探索者や一級探索者が、同等以上の装備や素材を自宅で保管している例もあります」
「ランカーなら、そのくらい普通だよ〜」
確認室の入口から、聞き慣れた声が届いた。
「星川さん?」
「お疲れさま〜」
さりなが、高性能のドローン型探索レコーダーを片手に入ってくる。
防護術式の組み込まれた機体には、僅かな傷も付いていなかった。
「第十二層の追加調査から戻られたのですか?」
「うん。レコーダーを返しに来たら、楽しそうな話が聞こえたから〜」
さりなが、机の上にある保護箱を覗き込む。
「ウチも、七億円の『星涙石』を特別保管庫へ預けてるよ〜」
「七億円……」
「この『星煌剣』は十三億円だけど、こっちは探索で使うから持ち歩いてるし」
「星川さんの所有物を、一般的な基準にしないでください」
髙橋さんが、少しだけ眉を下げる。
「えっと、星川さん、ランカーなら普通と言っていましたが……俺はランカーじゃないです」
「私もそうですね」
「そだっけ? でも、まあ、そのうちなるんじゃない?」
さりなが楽しそうに笑う。
俺と美咲さんは、揃って返事に困ってしまった。
「秘宝を部屋へ飾りたいなら、専用の展示保管庫もあるよ〜」
「装備保管庫とは違うんですか?」
「耐衝撃魔法ガラスで作られてて、結界も付いてるの。居間に置けば、いつでも見られるよ〜」
「価格は、安い物でも三千万円ほどです」
髙橋さんが付け加える。
「……今は、装備保管庫で十分だと思います」
「そ、そうですね。私もそう思います」
「ぷる……」
「ぴる……」
シズクとユキから、僅かな落胆が伝わってくる。
シズクが見つめているのは、保護箱の中で銀色の光を巡らせる白銀の雫。
ユキは、薄い花弁まで黄金色に輝く黄金花から目を離せずにいた。
「見たい時は、保管庫から出してあげるから」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
二人が、すぐに元気を取り戻す。
「いつか本当に飾りたくなったら、ウチが高級魔法具店へ連れてってあげるよ〜」
「その時は、お願いします」
流石に三千万円の家具を即決はできない。
ユキやシズクの様子を見ると買ってやりたくなるが、もう少し資産が増えてからにしようと思った。
希少区域は十五層にも出現すると表示があったし、他の階層にも出現する可能性もある。
そうなれば秘宝が増えていくことも考え、いずれ購入することも視野に入れるべきだろう。
ユキとシズクも喜ばせてやりたいしな。
「このあとは、装備の確認?」
「はい。俺が使っていたスライムシリーズを、美咲さんへ譲る予定です」
「じゃあ、ウチも見ていっていい?」
「もちろんです」
◇
秘宝の保管手続きを終えたあと、俺たちは探索者ストアの装備確認室へ移動した。
店主にも立ち会ってもらい、机の上へ俺が身に着けていた装備を並べる。
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『スライムの指輪』
『スライムの腕輪』
『スライムの首飾り』
『ATスライムの耳飾り』
『スライムの羽靴』
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「美咲さん。この五つを使ってもらえる?」
「私が、ですか?」
「うん。雷光スライムとの試練では、美咲さんが正面を支えることになる。それに、完全装備効果はシズクにも発動するから」
「ですが、陸斗さんとユキの能力上昇が解除されてしまいます」
「俺はDFスライムの耳飾りを使うよ。ユキには白銀鎧と純白の魔法盾もある」
全く影響がないわけではない。
基本スライムシリーズの完全装備効果を失えば、俺とユキに発動していた能力値二十パーセント上昇も解除される。
だが、装備を分けたままでは、俺も美咲さんも新しい派生系列を揃えられない。
「これからは、美咲さんが基本系列とAT系列。俺はDF系列を集めていく方がいいと思う」
「……分かりました。お借りします」
「貸すんじゃなくて、譲るよ」
「本当に、頂いてもいいんですか?」
「もちろん。クラン全体が強くなるための装備だからな」
美咲さんが、机の上に並ぶ装備を見つめる。
少し迷ったあと、丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。大切に使います」
「話が決まったなら、先に所有者登録を変更するぞ」
店主が、机の横へ置かれた登録魔導具を操作する。
俺と美咲さんが探索者証を触れさせると、五つの装備に記録されていた所有者情報が順番に変更された。
美咲さんは、これまで使用していた警戒用の耳飾りと探索靴を外す。
「その耳飾りは、手放さずに予備へ回した方がいい」
店主が警戒用の耳飾りを確認する。
「敵意のない罠や、魔導具の異常までATスライムの耳飾りで感知できるとは限らねえからな」
「分かったよお父さん。予備装備として保管します」
美咲さんが、五つのスライムシリーズを順番に身に着ける。
指輪と腕輪が、手首の大きさに合わせて僅かに形を変えた。
首飾りの中央では、蒼いスライム型の宝石が淡く輝いている。
ATスライムの耳飾りには、炎を纏う赤橙色のスライムが揺れていた。
最後に羽靴へ足を入れると、装備全体から光が広がる。
光の一部が、美咲さんの肩にいるシズクへ流れ込んだ。
「ぷるっ……!」
シズクの身体が僅かに浮き、嬉しそうに一回転する。
美咲さんが驚いたように、肩へ視線を向けた。
「シズクが喜んでいるのが、分かります」
「ぷるるっ!」
「今までも仕草から分かっていましたが、耳飾りを通じて直接感じると、少し不思議ですね」
美咲さんとシズクへ『解析鑑定』を発動させる。
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『基本スライムシリーズ』
『装備者』
・佐伯美咲
『契約従魔』
・シズク
『装備数:5/5』
『完全装備効果:発動』
『効果』
・装備者の能力値:20%上昇
・契約従魔の能力値:20%上昇
『派生装備』
・ATスライムの耳飾り:1/5
『個別効果』
・攻撃力:5%上昇
・スライムの感情を感知
・周囲にいる魔物の敵意を感知
『ATスライムシリーズ・完全装備効果』
・未発動
・契約従魔の火炎魔法30%上昇:適用外
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「美咲さんとシズクへ、基本系列の完全装備効果が発動しました」
「能力値が二十パーセント上昇しているんですね」
「うん。AT系列として揃っているのは耳飾りだけだから、火炎魔法の上昇効果はまだ発動していないけどね」
「ぷるっ!」
「残りのAT装備も、これから少しずつ探そう」
「ぷるるっ!」
続いて、俺は保管用の小箱からDFスライムの耳飾りを取り出す。
左右一対の耳飾りには、白銀色のスライムを模した宝石と、盾のような半透明の装飾が付いていた。
装備すると、白銀色の光が身体へ薄く広がる。
周囲にいるシズクとユキの感情が伝わってくる。
◇____________________
『DFスライムシリーズ』
『装備者』
・一城陸斗
『装備数:1/5』
『完全装備効果:未発動』
『個別効果』
・防御力:5%上昇
・スライムの感情を感知
・周囲にいる魔物の敵意を感知
____________________◇
「ぴる?」
ユキが、俺の足元で身体を傾ける。
「基本系列の効果はなくなったけど、DFシリーズも少しずつ集めていこうな」
「ぴるっ!」
左右の白銀鎧と純白の魔法盾が、返事に合わせて小さく動く。
「羽靴の代わりは、こいつでどうだ」
店主が持ってきたのは、黒色の魔法靴だった。
靴底と踵へ、跳躍補助の術式が組み込まれている。
「羽靴みてえに常に身体を軽くする効果はねえ。その代わり、踏み込む瞬間へ魔力を流せば、短距離の加速と跳躍を補助してくれる」
「短剣で近付く時にも使えそうですね」
「使えるが、最初は出力を下げろ。踏み込みの感覚が変わるからな」
「分かりました」
新しい魔法靴を購入し、俺の身体に合わせて術式を調整してもらう。
◇
装備確認室に併設された訓練場で、全員の動きを確かめる。
最初に、美咲さんが床を蹴った。
羽靴によって軽くなった身体が、一気に訓練用の標的へ近付く。
以前よりも鋭い踏み込み。
振るわれた黄金短剣が、標的の直前で正確に止められた。
「身体が軽過ぎませんか?」
「少し力を入れただけで、予想以上に前へ進みます。慣れるまでは、動きを抑えた方がよさそうです」
「ぷるっ!」
シズクが、小さな石弾を作り出す。
だが、普段と同じつもりで集めた魔力は、拳ほどの大きさまで膨らんでいた。
「ぷる……?」
「シズクも、威力の調整から練習しようね」
「ぷるっ!」
美咲さんが優しく声を掛けると、石弾が少しずつ小さくなっていく。
俺も新しい探索靴へ魔力を流した。
靴底の術式が働き、身体が前へ押し出される。
「っ……!」
想定していた位置より一歩先まで進んだ。
慌てて体勢を立て直し、床へ足を着く。
「最初から飛ばすなと言っただろ」
「すみません。思っていたより強く押されました」
「足に馴染むまでは、反復練習だな」
「はい」
装備によって、俺たちの能力は確実に上がっている。
だが、強くなった身体を制御できなければ、連携を乱す原因になる。
火焔スライムとの試練でも、俺たちは一度隊列を崩されたあと、立て直せないまま敗北した。
「装備を替えただけで、雷光スライムの試練を受けるのは危険ですね」
「うん。今の動きに慣れて、四人の連携も作り直す必要があると思う」
訓練場の壁際では、ここまで一緒に来たさりなが、あくびをしながら俺たちを見ていた。
「星川さん」
「ん〜? なに〜?」
「一つ、お願いがあります」
さりなが壁から背中を離す。
「俺たち四人の、模擬戦相手になっていただけませんか?」
「ウチが?」
「はい。雷光スライムへ再挑戦する前に、自分たちより強い相手と戦う経験を積みたいんです」
「私からもお願いします」
美咲さんが頭を下げる。
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
シズクとユキも、揃って身体を伸ばした。
さりなは、俺たちを順番に見る。
「ちょっとだけ相手するんじゃ、たぶん足りないよ〜?」
「どのくらい必要でしょうか?」
「装備に慣れて、四人の動きを作り直すなら……一か月かな」
「一か月……」
「その間も迷宮へ潜って、実戦感覚は落とさない方がいいね〜。ウチが空いてる日は、朝から夜まで付き合ってあげる」
ランキング一位の探索者を相手にした、一か月の集中訓練。
簡単な時間にはならない。
それでも、雷光スライムへ挑むには、今の俺たちだけでは気付けない弱点を見つけてもらう必要がある。
「お願いします」
「はい。よろしくお願いします」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
「決まりだね〜。じゃあ、明日から始めよっか」
さりなが、楽しそうに笑った。
雷光スライムの試練へ再び挑むため。
俺たちは翌日から、ランキング一位の探索者による一か月の訓練を受けることになった。




