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107話「鏡の奥の銀の秘宝」


 『スライムの黄金郷』を再調査してから、二日後。

 今度は、第五層に出現した『スライムの白銀城』を訪れていた。


 白銀色の城壁。

 等間隔に並ぶ細長い塔。

 曇りのない壁面へ周囲の景色が映り込み、城全体が巨大な鏡のように輝いている。


 髙橋さんと護衛職員は、前回と同じく希少区域の入口付近で待機していた。


『城の形状は、前回の記録と一致しています』

「これから外門へ向かいます」


 レコーダーから聞こえた高橋さんの声に返事を返し、白銀城へと歩を進める。

 門の前には、三体の白銀スライムが並んでいた。


 ATスライムの耳飾りから伝わるのは、強い警戒心。

 俺たちが足を止めても、その感情が和らぐことはない。


「戦闘は避けられなさそうですね」


 美咲さんが軽盾を構える。

 白銀スライムの身体が鏡のように輝き、それぞれの左右へ同じ姿が現れた。



 ◇____________________


 『白銀(シルバー)スライム』


 『希少個体』

 『役割:外門守護個体』

 『性格:警戒心が強い』

 『危険度:C』


 『特性』

 ・鏡像投影

 ・鏡面膜

 ・高速滑走


 『攻撃』

 ・体当たり

 ・銀弾

 ・分裂突進


 『ドロップ品』

 ・白銀魔核:100%

 ・白銀魔石:5%

 ・銀光液:1%

 ・守りの結晶飴:0.5%


 ____________________◇



「鏡像を含めて、九体に見えます。本体の魔力だけを追います」

「分かりました」


「ぷるっ!」

「ぴるっ!」


 三方向から、白銀スライムが地面を滑ってくる。


「正面は鏡像です!」


 美咲さんが軽盾を振るうと、白銀スライムの姿が光となって散った。


 直後、右側の本体が身体を細く伸ばす。

 放たれた銀弾を、ユキの白銀鎧が斜めに受け流した。


「ぴるっ!」


 銀弾が石畳へ当たり、白い欠片を散らす。


「シズク、鏡像へ風を広げて!」

「ぷるるっ!」


 シズクを中心に風が広がった。

 実体のない鏡像だけが次々と崩れ、三体の本体が露わになる。


 美咲さんが一体の進路へ入り、軽盾で地面へ押さえ込む。

 そのまま黄金短剣を突き込み、一つ目の魔核を砕いた。


 残る二体のうち、一体をシズクの石弾が弾き飛ばす。

 俺は露出した魔核へ白銀短剣を突き立てた。


 最後の一体が美咲さんの背後から跳ぶ。

 だが、ユキの白銀鎧に進路を遮られ、僅かに動きを止めた。


 振り返った美咲さんの黄金短剣が、三つ目の魔核へ届く。

 全ての魔核が砕けると、閉ざされていた外門がゆっくりと開いた。

 残されたのは、三つの白銀魔核だけだった。


 守りの結晶飴は出ていない。

 それでも、調査で必要なのは都合のよい結果ではなく、実際に何が起きたかという記録だ。



 ◇



 白銀城の中へ入る。

 磨き上げられた床へ、俺たちの姿と二機の探索レコーダーが映っていた。


 城内に白銀スライムの姿はない。

 代わりに、最奥の広間へ近付いた時、壁と床に映っていた俺たちの姿が一斉に歪んだ。


「何か来ます!」


 広間の中央から、大きな白銀色の身体が現れる。

 表面には、城内の柱や俺たちの姿が映っていた。



 ◇____________________


 『白銀王(シルバーキング)スライム』


 『区域守護個体』

 『危険度:C+』


 『特性』

 ・鏡面支配

 ・反射障壁

 ・白銀分裂

 ・高速変形


 『ドロップ品』

 ・白銀王の魔核:100%

 ・白銀王の魔石:50%

 ・白銀王の鏡片:10%

 ・スライムの首飾り:5%


 『補足』

 ・スライムの首飾り:所持済み

 ・現在の抽選対象から除外


 ____________________◇



 白銀王スライムの周囲へ、六つの分身体が現れる。


「ぷるっ!」


 シズクが放った風弾が、一体へ向かう。

 だが、分身体の前へ薄い障壁が生まれ、風弾をそのまま弾き返した。


「反射されます!」


 美咲さんがシズクを抱えたまま横へ跳ぶ。

 風弾が通り過ぎ、背後の柱へぶつかった。


「直接狙わなくていい! 床を凍らせて!」

「ぷるっ!」


 青白い冷気が、白銀王スライムの周囲へ広がる。

 鏡のようだった床が白く凍り付き、分身体の足元へ霜が付いた。

 本体だけが、凍る直前に大きく跳ねる。


「上にいる個体が本体だ!」


 ユキの白銀鎧が二枚に分かれ、着地点を左右から狭めた。

 白銀王スライムは空中で身体を伸ばし、美咲さんへ向かって落下する。


 美咲さんは軽盾を傾け、落下の勢いを横へ流した。

 白銀王スライムが凍った床へ着地する。


 動きが止まった一瞬に、俺は左から白銀短剣を突き出した。

 反対側では、美咲さんが黄金短剣を構えている。

 二本の短剣が異なる角度から反射障壁へ触れた。


「『腐食』!」

「『粉砕』!」


 黒銀色と黄金色の光が重なり、透明な障壁へ亀裂が走る。

 砕けた隙間から、白銀王スライムの魔核が見えた。


「ぴるっ!」


 ユキの白銀鎧が背後を塞ぐ。

 白銀王スライムが逃れるより早く、俺と美咲さんの短剣が魔核へ届いた。

 魔核が砕け、大きな身体と六つの分身体が同時に銀色の粒子へ変わる。

 床には、白銀王の魔核と白銀王の魔石が残されていた。



 ◇



 俺たちは広間を分担して調べる。

 左右の壁には、同じ大きさの鏡が六枚ずつ並んでいた。

 どの鏡にも、向かい側の柱が映っている。


「……この鏡だけ、おかしい」


 広間の右奥にある鏡。

 現実では、先端の欠けた柱は入口から見て左側にある。


 普通の鏡なら、映った柱は右側に見えるはずだった。

 だが、その一枚だけは、現実と同じ左側に映っている。


「反射ではなく、別の場所を映しているんでしょうか?」

「調べてみます」


 鏡へ『解析鑑定』を発動させた。



 ◇____________________


 『白銀城・隠し鏡扉』


 『状態:封印中』


 『解除機構』

 ・可動鏡:3枚

 ・光導線:接続待ち

 ・最終反射点:王冠を載せたスライムの紋章


 ____________________◇



 床に刻まれた白銀色の線を辿り、三枚の鏡を順番に動かす。

 天井の魔石灯から落ちた光が、一枚目から二枚目へ反射した。

 だが、三枚目から紋章までの間には二度、光の向きを変える必要がある。


「ユキ。白銀鎧を一枚ずつ、この位置へ動かしてくれる?」

「ぴるっ!」


 二枚の白銀鎧が離れ、光の通り道へ浮かぶ。


 一枚目が光を横へ。

 二枚目が、その光を鏡の上に刻まれた紋章へ返す。


 王冠の中心が輝いた。

 異なる景色を映していた鏡が音もなく奥へ沈み、白銀色の通路が現れる。


「開きました」

『隠し通路を確認しました。内部を記録したあと、今回の調査を終了してください』


「分かりました」


 通路の先に、小さな宝物庫があった。

 中央の宝箱を開けると、白銀色の光が室内へ広がる。


 中に収められていたのは三つ。

 騎士の兜を被ったスライムが刻まれた銀笛。

 半透明の刀身と、翼のような鍔を持つ白銀の剣。

 そして、宙へ浮かぶ雫形の結晶だった。


「ぷる……!」


 シズクが、美咲さんの肩から白銀の雫へ身体を伸ばす。

 雫の内側を銀色の光がゆっくりと巡る。


 シズクが近付くと、周囲へ薄い銀色の膜が広がった。

 三つの品へ『解析鑑定』を発動させる。



 ◇____________________


 『白銀王の銀笛』


 『希少度:S』

 『分類:秘宝(アーティファクト)

 『推定買取価格:130,000,000円』


 『効果』

 ・装備不要

 ・登録された味方のスライム従魔へ作用

 ・体力と魔力を回復

 ・士気を向上

 ・全能力値:5%上昇


 ____________________


 『白銀の結界剣』


 『希少度:S』

 『分類:秘宝(アーティファクト)

 『推定買取価格:500,000,000円』


 『魔法効果』

 ・魔法結界

 ・魔力を流すことで、広範囲へ強固な結界を展開


 ____________________


 『白銀の雫(シルバードロップ)


 『希少度:S』

 『分類:秘宝(アーティファクト)

 『推定買取価格:45,000,000円』


 『魔法効果』

 ・魔法結界

 ・設置場所の周囲へ小規模な結界を常時展開


 ____________________◇



「銀笛は一億三千万円。結界剣が五億円。白銀の雫は四千五百万円です」

『五億円……。その場では性能を試さず、保護箱へ収めてください』

「はい」


 白銀騎士の銀笛は、クランで共有する。

 結界剣と白銀の雫は、美咲さんが所有することになった。


「本当に、私が頂いてもいいのでしょうか?」

「黄金冠と黄金花は、俺が受け取ることになったからね。それに、結界を使うなら美咲さんが一番合ってると思う」


「……分かりました。大切に保管します」


「ぷるるっ!」

「シズクも気に入ったみたいですね」

「ぷるっ!」


「地上へ戻ったら、またゆっくり見ようね」

「ぷるるっ!」


 鏡像を操る白銀スライムと、白銀王スライム。

 そして、鏡の奥に隠されていた三つの秘宝。


 俺たちは白銀城の調査記録と新たな秘宝を持ち、希少区域の入口へ引き返した。

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