106話「黄金郷の三つの秘宝」
雷光スライムの試練を見送ってから、三日後。
装備の点検を終えた俺たちは、第一層にある『スライムの黄金郷』を訪れていた。
視界に映る、黄金色の草原。
風に揺れる草の間を、丸い黄金色の身体が跳ねている。
探索者になった初日と、景色は殆ど変わっていない。
ただし、鉄ナイフ一本で足を踏み入れたあの時とは違い、今は美咲さんとシズク、ユキが一緒にいる。
頭上では、クラン用と調査課用のドローン型探索レコーダーが、黄金郷の様子を記録していた。
髙橋さんと護衛職員は、希少区域へ続く入口の近くで待機している。
『映像と音声を確認しました』
通信機から髙橋さんの声が聞こえる。
『前回の調査記録と比較するため、個体数と地形を優先して記録してください』
「分かりました」
俺たちが草原へ進むと、近くにいた黄金スライムが身体を震わせた。
ATスライムの耳飾りから、強い警戒と恐怖が伝わってくる。
「陸斗さんから離れていきますね」
「怖がってるみたいだ。追わずに、このまま進もう」
「ぷるっ」
「ぴるっ」
シズクとユキも、逃げていく黄金スライムを追わなかった。
一体へ意識を向け、『解析鑑定』を発動させる。
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『黄金スライム』
・希少個体
・性格:臆病
・危険度:E
『ドロップ品』
・金魔核:100%
・金魔石:5%
・力の結晶飴:0.5%
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最初に来た時は、今日を生きる金さえ足りなかった。
逃げようとした黄金スライムを倒し、金魔核を持ち帰ったことも覚えている。
だが、今は個体数を調べるために来ている。
俺は黄金スライムが隠れた草むらから視線を外し、調査端末へ確認した数を記録した。
◇
黄金郷へ入ってから、二十分ほど経った頃。
草原の中央にある巨大な黄金樹へ近付くと、周囲の草が一斉に外側へ倒れた。
「来ます!」
美咲さんが軽盾を構える。
黄金樹の根元から、大きな黄金色の身体が跳び出した。
頭頂部には、王冠のように固まった三つの突起。
俺たちを見ると、身体を弾ませながら真っ直ぐ近付いてくる。
耳飾りから伝わるのは、恐怖ではない。
強い戦意だった。
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『黄金王スライム』
・区域守護個体
・性格:好戦的
・危険度:C
『ドロップ品』
・王金魔核:100%
・王金魔石:20%
・力の結晶飴:0.5%
・スライムの腕輪:5%
『補足』
・スライムの腕輪:所持済み
・現在の抽選対象から除外
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「黄金王スライムです。戦うつもりみたいです」
『交戦を確認しました。周囲の個体にも注意してください』
黄金王スライムが身体を大きく潰す。
「右へ跳びます!」
美咲さんが一歩前へ出た。
弾かれた黄金王スライムが、低い軌道で美咲さんへ迫る。
軽盾を斜めに構え、正面から受け止めず、軌道を横へ逸らした。
黄金色の身体が地面を擦り、草を巻き上げる。
「ぷるっ!」
美咲さんの肩から、シズクが風弾を放った。
黄金王スライムの周囲へ浮かんでいた光の粒が吹き散らされ、身体の動きが僅かに鈍る。
「ぴるっ!」
ユキの白銀鎧が左右へ分かれ、逃げ道を塞いだ。
黄金王スライムは装甲の間を抜けようと身体を細く変形させる。
だが、身体の中央にあった魔核だけは、少し遅れて移動していた。
「美咲さん、左側!」
「はい!」
美咲さんが黄金短剣を振り、右側から進路を狭める。
俺は反対側へ踏み込み、白銀短剣の『加速』を発動させた。
黄金王スライムが進路を変えた瞬間、露出した魔核へ刃を突き立てる。
硬い音が響き、魔核へ亀裂が入った。
美咲さんの黄金短剣が、反対側から同じ亀裂へ届く。
魔核が砕け、黄金王スライムの身体が金色の粒子となって崩れていった。
「怪我はない?」
「はい」
「ぷるっ!」
「ぴるっ!」
周囲へ新しい敵意はない。
残されていた王金魔核と王金魔石を回収する。
力の結晶飴は落ちなかった。
それでも、初回より短い時間で区域守護個体を倒せたことは、俺たちが強くなった証拠だった。
◇
黄金王スライムを倒したあとも、調査を続ける。
黄金スライムたちは遠くから俺たちを見ていたが、近付こうとはしない。
巨大な黄金樹の周囲を記録していると、クラン用の探索レコーダーが高度を上げた。
手元の端末へ、上空から撮影した映像が映る。
「根の形……」
太い根が、黄金樹を中心に何本も伸びている。
自然に広がったように見えたが、上から見ると、王冠を載せたスライムの紋章を形作っていた。
「陸斗さん。右側の根だけ、色が違いませんか?」
「本当だ」
美咲さんが示した場所へ近付き、『解析鑑定』を発動させる。
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『黄金樹の封印』
『状態』
・封印中
『解除機構』
・四属性受容点:4か所
・中央反射点:1か所
『必要属性』
・風
・火
・氷
・土
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「シズクの四属性が必要みたいだ」
「ぷるっ!」
根元を調べると、緑、赤、青、茶色の小さな窪みが見つかった。
シズクが最初の窪みへ風を送り込む。
続けて、小さな火球、氷の粒、石弾を残る窪みへ触れさせた。
四つの根へ、それぞれ異なる色の光が走る。
光は黄金樹の根元で一つになり、細い光線となって斜め上へ伸びた。
「中央反射点……あの紋章か」
光線の先に、王冠を載せたスライムの紋章がある。
だが、そのままでは角度が合わない。
「ユキ。白銀鎧で、光を紋章へ返せる?」
「ぴるっ!」
一枚の白銀鎧が、光線の途中へ移動する。
半透明な装甲がゆっくりと角度を変え、受け止めた光を紋章へ反射した。
王冠の部分へ光が重なった瞬間、黄金樹の根元から重い音が響く。
絡み合っていた根が左右へ分かれ、地下へ続く階段が現れた。
『隠し通路の出現を確認しました』
髙橋さんの声にも驚きが混ざっている。
「周囲を確認してから、中へ入ります」
◇
階段の先には、黄金色の石で造られた小さな部屋があった。
中央に置かれているのは、一つの大きな宝箱。
二機の探索レコーダーが、宝箱と周囲の壁を撮影する。
罠がないことを確認し、蓋へ手を掛けた。
「開けます」
重い蓋を持ち上げる。
内側は三つに仕切られていた。
一つ目は、掌に載るほどの黄金色の林檎。
二つ目は、細かなスライムの紋様が刻まれた黄金冠。
三つ目は、薄い花弁まで純金で作られた黄金花だった。
「綺麗ですね……」
美咲さんが、小さく息を漏らす。
「ぴる……!」
ユキは黄金花から目を離せない。
俺が少し右へ動かすと、ユキの身体も同じ方向へ傾いた。
「ユキは、この花が気に入ったみたいだね」
「ぴるるっ!」
「ぷるっ」
シズクも美咲さんの肩から身体を伸ばし、黄金色の林檎を覗き込む。
三つの秘宝へ、順番に『解析鑑定』を発動させた。
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『黄金林檎』
『希少度:S+』
『分類:秘宝』
『推定買取価格:算出不能』
『効果』
・所持しているだけで発動
・魔物のドロップ品の獲得倍率を大きく上昇
・希少なドロップ品の発生を確定させる効果はない
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『黄金冠』
『希少度:S』
『分類:秘宝』
『推定買取価格:280,000,000円』
『魔法効果』
・運気上昇
・装備者へ作用
『補足』
・純金製
・鑑賞用の秘宝としても高い価値を持つ
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『黄金花』
『希少度:S』
『分類:秘宝』
『推定買取価格:56,000,000円』
『魔法効果』
・運気上昇
・設置場所の周辺へ作用
『補足』
・純金製
・鑑賞用の秘宝としても高い価値を持つ
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「二億八千万円……」
金額を読み上げると、通信機の向こうが一瞬だけ静かになった。
『黄金冠の価格で間違いありませんか?』
「はい。黄金花も五千六百万円と表示されています」
『承知しました。所有権は皆さんにありますが、地上へ戻ったあと、保管方法について相談しましょう』
「分かりました」
三つの秘宝を、それぞれ専用の保護箱へ収める。
黄金花が見えなくなると、ユキが少しだけ身体を縮めた。
「売ると決めたわけじゃないよ。地上へ戻ったら、また見せてあげるから」
「ぴるっ!」
ユキが元気よく身体を伸ばす。
探索者になった初日、俺はこの黄金郷で、明日を生きるための金魔核を探していた。
あれから、まだ長い時間が過ぎたわけではない。
それでも今は、美咲さん、シズク、ユキと一緒に、自分たちの力で隠された宝物庫を見つけることができた。
黄金林檎。
黄金冠。
そして、ユキが気に入った黄金花。
俺たちは三つの秘宝と再調査の記録を持ち、黄金樹の地下から地上へ戻った。




