ほわわぁぁ〜!
小さめなシャベルカーに渋々と乗り込んだ大崎さんがエンジンを掛けた。その瞬間に、なにやら周囲の気圧が一気に下がった感じがした。
あれ?
なんかこれ、こないだの工事現場の隣の塾の自習室で太田悠君がキリキリしていた時の空気に似てる?
とは言え、あれは窓を閉め切った教室だったのに比べ、こちらはオープンスペースなのだ。
気圧を下げるのに必要な力は全然違うだろう。
まあ、霊障だから現実の実験とかで気圧を下げようとするのとは仕組みが違うんだと思うけど。
もしかしたら、犠牲になって悪霊化した村人の中に風系魔術師の適性持ちが紛れていたのかも。
それで過酷な労働環境で酷使されている時に不満が噴き出して、監督役な人間達を脅かして目を付けられる結果に繋がり……最終的には村が見せしめに選ばれることになったとか?
もしくは、生存本能的に反撃の為に潜在能力が覚醒したのかもだが。その場合は、中途半端な反撃は却って生存にマイナス効果だったようだね。
ちゃんとした術師だったら刀を振り回す武士なんて余程の数が居るんじゃない限り目じゃないと思うが、今の一般人が日常生活で退魔師へ弟子入りする機会がないのと同じで、ただの田舎の農民が退魔師として知識を教わるのも難しかったんだろう。
生きている時は大したことが無かった能力でも、死んでから悪霊化して他の霊の怨みや苦しみを吸収して力が増えていそうだしね。
普通の人間(多分)の悪霊でも、それなりに危険なレベルになれるのだ。
魔力持ちの死霊だったら、悪霊化した際にかなり危険度が上がっても不思議は無い。
もしくはこれまでに遭遇した危険な悪霊も、実は生前は魔術師の適性持ちだったか。
今まで私が個人的に触れた悪霊には退魔師として働いていた記憶を持っていた霊はいなかったけど、適性持ちでも覚醒していなかったり、魔力が少なかったりだったら退魔師にならないだろうからね。
魔力を封じられた適性持ちが悪霊になった場合もパワフルになるのかも、ちょっと興味がある。
残念ながら、調べようがないけど。
そんな事を考えている間に、シャベルカーの上に悪霊の存在が突然凝縮するような感じで現れた。
風の適性が強いと、死霊になった時に魂を風に溶け込ませられるのかな?
マジで何も無いところから現れた感じだった。
でもまあ、遠距離からダウンバーストで重機を壊すことは出来なくて、良かった。
壊されたら絶対にクレームがこっちに来たと思う。
『ここは我らの血と命を代償として贖われた地!
遊ぶための場所にするなど、許さん!!』
悪霊の怨念が響き渡り、大崎さんもびっくりしたように重機の中で顔を上げたのが見えた。
「悪いけど、ストップ!」
急いで結界で悪霊を捕らえる。
「碧、お願い!」
「任せて!」
碧が早口で清めの祝詞を唱え始める。
『許さん、許さんぞ!!』
まあ、確かに村人を使い捨てにするような酷い労働環境で治水工事を行った場所をレジャーに使うのって許し難いかもだけど、それを言うなら畑や田んぼにするのだって許さないって暴れたから慰霊碑に鎮めて封じ込められたんでしょう?
第一、既に何十年も冬のレジャー施設になっていたしね。
寝てたのを起こされたから、余計に機嫌が悪いのは分かるけど。
でも、諦めて下さいな。
結界から出ようと暴れる悪霊の力を抑え込み、うっかり重機や周囲に被害を齎さないように頑張っていたら、やっと碧の祝詞が終わった。
パン!と碧が柏手を打つのと共に、一気に結界が悪霊ごと光に包まれる感じで清められた。
うわぁ〜。
私の結界ごと清められたせいか、思わずほわ〜とベッドに身を沈めたような気持ち良さに足がふらついたら、碧が支えてくれた。
「大丈夫?!」
「いやぁ、清めの祝詞って側にいるだけでも清々しくて気持ちが良いとは思っていたけど、結界を直接清められるとなんかこう……とびっきり美味しいケーキを食べた喜びと、疲れた時に温泉に浸かる開放感とが混ざったような感覚で……。
これをカプセルに詰めて売り出せたら、バカ売れしそう」
麻薬なんて目じゃない陶酔感を楽しめると思う。
麻薬を実際に試したことはないけどさ。
でも一応、前世では麻薬に嵌った人の記憶を読んだ事はあるから、擬似的には経験したことがあるんだよ?
「何を言ってるのよ。
取り敢えず、あれで終わりだと思っていいのかな?」
碧が苦笑しながら私から手を離して聞いてきた。
「多分?
他の重機とかも少し動かして作業してもらって何か追加で出て来ないか、一応確認しようか。
二度とここに歩いて登ってきたくない」
「確かに!」




