労力は大切にしましょう
「到着です!」
大崎さんがふうっと大きく息を吐いて伸びをしながら言った。
どうやら彼にとっても2時間のハイキングは疲れるらしい。
だったらさっさと林道の整備なり泥沼化した道の埋め立て(?)なり、すればいいだろうに。
予算や人のやりくりが難しいんかな?
こないだの塾の横の工事現場の現場監督が言っていたが、最近は気温がある程度以上になると作業を中止するし、そうじゃなくても定期的に水飲みやらクールダウンやらの時間を取らなきゃいけないせいで、夏場になると1日にできる作業量が気温に反比例して激減するらしい。
出来る限り最初の計画段階でその遅れも計算に入れているが、予定は未定な世界であり、人手不足が問題になっている業界で皆が出来る限り人員を確保しようと動いているせいで、変な予定変更があった現場の対応力が落ちてるんだろうねぇ。
なんとも切ない。
少なくとも、ここの除霊が上手くいけばこの現場での想定外な遅延は解消されると期待しよう。
と言うか、絶対にここをまた歩いてくるのは断固拒否だ。何がなんでもきっちり除霊して、悪霊なんて最低でも一年ぐらいは何をやろうと顔を出せないぐらいにきっちり清めまくっておきたい。
違う悪霊が他の場所から出てきたのに、『前の除霊に漏れがあったようです』なんてイチャモンをつけられてまた2時間山登りするのは絶対に嫌だ。
と言う事で、まずは慰霊碑だったと思われる壊した岩があったところへ。
「砕いて撤去した岩はそこしか無かったんですか?」
あちこち掘ったり削ったりしているみたいで土埃と泥が凄いことになっている現場を歩きながら尋ねる。
そう言えば、一昨日の朝に雨が降ったよね〜。
私らは家の中にいたし、聖域は白龍さまに雨避け結界を張ってもらったからあまり雨の実感が無かったけど、ここら辺はそれで大分と濡れたっぽい。
これだけ暑いんだからさっさと乾きそうなもんだけど、何故か土埃が酷いのに、所々にボコっと掘られた箇所に今でも水が溜まったままになっている。
土が粘土質なのかね?
まあ、家の中でも霊障でじっとりしてカビっぽくなることもあるから、霊障被害が出てる場所では雨が降ったら中々乾かないのも不思議はないのかもだけど。
「重機を動かしていた人間が言うには、岩を砕いた瞬間に『許さない!!』と言う声と共にとんでもない寒気がしたらしいです。
気のせいだと思って岩をそのまま退けようとしたら重機が故障し、何が起きたのか確認しようと運転席から降りたら何十回も降りた段差で足を滑らせて酷い捻挫をして歩けなくなってしまいました。
しかも、病院に行く為に麓へリフトで帰ろうとしたら突風でケーブルが大きく揺れて振り落とされて右腕を骨折する始末でしたし」
大崎さんが慰霊碑と思われる岩を砕いた作業員の不幸の連続に関して明かしてくれる。
確かにそれだけ不幸が続くとなると、その岩が怪しいね。
と言う事で、大きく三つに割れた岩を手で触れる。
『騙したな!』
『死にたくない……』
『痛い、苦しい!』
『子供だけでも……』
いくつもの霊の苦しみと怨みが聞こえてくる。
どうやら、元からいた領主が戦に負けてここら辺一帯が別の土地から来た侍のモノになった時、治水工事の為に近くの村が根こそぎ人を動員された様だ。だが、安全管理なんて最初から考えていない、荒っぽい無茶苦茶な工事でどんどん人が死んだ上に、最後には過酷な労働環境で倒れる人間が続出した際に伝染病だと言って特に寝込んだ人間が多かった村の住民が全員斬り殺されたらしい。
どうもいつまで経っても終わらない工事に、人柱代わりに命を捧げさせればいいと見せしめの意味も兼ねて村を一つ使い捨てることにしたらしい。
だが幾ら他の人夫たちが震え上がって死ぬ気で頑張ろうと、自然の猛威は農民たちの必死の努力だけで何とかなるものではない。そこに殺された霊たちの祟りまで加わったせいであっと言う間にそれまで進んでいた成果までが豪雨と嵐に洗い流され、管理側の人間までバタバタ死んだ事で、慌てて殺された村出身の者たちがよく集まって故郷の村の方向を見ていた高台に慰霊碑を建てて、高名な僧に霊を鎮めるよう頼んだ場所だったらしい。
このスキーゲレンデがある小山の山頂近くとは言え、周囲の山から更に流れ込んでくる水の流れを管理しようと治水工事を頑張ろうとした考えは分からないことはないけど、それで労力として周辺の村から無理やり動員してきた子供まで使い潰した上に最後に村の人間全部を殺すなんて、頭がおかしい。
土地を戦で勝ち取ったって、そこを耕す農民がいなけりゃ収入はゼロなんだよ?
何か気に入らない、反抗的な人間が居るとでも思われたのかね?
とは言え。
この慰霊碑の残骸に残っている霊だけでヘリコプターも動かせないほどの霊障を起こすとも思えないんだが。
あとは、どこに隠れているんだろうね?




